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33・帰路

「よし、これくらいでいいでしょう」

「ふぅ。いっぱい取れましたね」

「うん、そだね」

「……」

 芋掘り開始から大体20分か30分。自分たちの目の前には大量の素材と見るも無残な残骸と化した……なんだっけ? なんかがあった。

 いやー、しかし目標のサイズがサイズだっただけにほんと結構な量の素材が取れたね。芋だけで大きな麻袋7袋分あるよ。

 あ、ちなみに麻袋はムー君が持ってきてくれてました。準備がいいね。

 ほかには丸太みたいな根っことか半分砕け散った水晶体とかいろいろなものが転がっている。

 こいつらどうやって持って帰るんだろう?

 あ、いや。それはあとで考えるべき問題だ。

 それより今考えるべき事は――

「しかし思ったより早く終わりましたね」

 シルバちゃんの言葉にムー君が少しだけ反応する。

 うん、気持ちはわかるよ。無視しようと言った手前この話題に触れるのはあまり好ましくないからね。

 でも、まぁ、うん。ここまで来ちゃったらそうも言ってられないべ。

「そりゃあ頭数一つ多くなったからね」

 自分でもわかるくらいにあきれた口調。そして見たくはないが、もうあきらめて視線をずらす。

「……」

 そこにいるのは胸を張って誇らしげに立つ、ところどころが土で汚れた紅色の騎士。

 おいてめぇ威張るな。

 全く、ほんとにやられたよ。ここまでお手伝いされたら無視できないではないか。

 いや、無視してもいかったんだがね? こう、手伝われた手前そう無下にするのも色々とあれだしね。気分の問題と、あとなにより世間体に悪いし。

「……あー、お手伝いどうも。おかげでこちらの作業もとてもスムーズに終わらせることができました。どうもありがとう」

 久しぶりだぜ、ここまで感情の込められないありがとうを言ったのは。

「……」

 奴はあくまで喋らず、ジェスチャーだけで何かを伝える。どうやら『いえいえ』とでも言いたげな動きだ。

 ……意思疎通はかりずれぇ。

 まぁいい、そこら辺はスルーだスルー。

「で、ですが、やはりあなたにはそれなりのお礼をしなければと思うのですよ」

 ピクリと奴は動きを止める。なんだ? 予想外の事態に直面したかのような反応だな。

 そして次の瞬間には背筋を伸ばして剣に手を添え……あ、君の期待に添えるようなお礼は致しません。

「そんな訳でだ。ねぇムー君、その芋って一袋どれくらい価値あるの?」

「あ? あー……詳しくは持ってかないとわかりませんが、一か月遊んで暮らせるくらいにはなるかと」

 どうやらムー君には意図が伝わったようで、実に淡々と都合よくアバウトな答えをよこしてくれる。

 うむ、多少盛ってるとしてもそれくらいの価値があれば十分だろう。

 ただその横で『へー、意外とお金になるんですね』とか言ってるシルバちゃんには、一回物の価値を叩きこんどいた方がいいと思うぞ。何回か討伐してこれなら割と深刻だ。

 まぁそれは今やるべき問題ではないか。

 とりあえず自分は近場にある芋の入った袋を掴むと紅色の前にドンと置く。

「それでは、この芋を一袋プレゼントします。どうもありがとう」

 ……そんな落胆しなくても。高々30分芋を掘っただけで一か月の生活資金が手に入るのだぞ? ボロい仕事やん。喜べ。

 さぁ、義理は果たした。帰ろう。

「よし、帰ろう」

「あ、待ってください。今ギルドに連絡を入れて迎えに来させますので」

 そう言いながらムー君は拳サイズの宝石みたいな石ころを取り出した。

 あー、あれだろきっと。通信用の魔法石とかだろ? うん、よくあるよねそういうアイテム。

 で、なぜにギルドをここに呼ぶの?

「……迎え必要? 来る時も歩いてきたじゃん」

「この素材を運ぶのにさすがに三人だけでは無理がありますよ。それがなければこのまま帰ってもいいんですけどね」

 特定の素材の提出か、ギルドの方で亡骸を確認できれば依頼自体は問題ないのですけどね。と、珍しく少し笑いながらムー君が……いや、そんな『四人目もいるよー』とでも言いたげに動き回るな紅色。帰れ。

 でも確かに、ここにいる面子だけでこれを全部運ぶのはほぼ不可能よね。

 ……でもそのギルドを待ってる間この紅色と一緒にいるのもなぁ。

 よし。

「んじゃあこれらを問題なく持って帰れるのならいいんだな?」

「ええ、まぁそうですけど」

「よっしゃ。んじゃあ、ほいっと」

 F12『蠢く収納影』

 素材は全部影の中。ほんとこれ便利だね。

 絵面は少々あれだが。

「……相変わらずめちゃくちゃですね」

 自分でもそう思う。

 あと後ろ、うるさい。ガチャガチャ言うな紅色。

 そもそもこれはお前と一緒の空気を吸いたくないがための行動なんだ、帰れ。そしたらここで待つこと自体はやぶさかではないんだよ。

 全く……ん?

「……ふぁ、お、おおお」

「こら! 勝手に触らない!」

「ひゃい!」

 なにやってんのシルバちゃん! よくそんな得体のしれないものに手を突っ込もうという気になりますね。

 ほんとにもう、自分だって中どうなってるかわからないんだから変なことやめなさいよ。

「全く、子供じゃないんだから。何がどう危険かわからないものに勝手に触っちゃいけません。気をつけなさいよ」

 自分がそう言って怒ると彼女は顔を俯き……やっべ、また地雷踏んだが?

「……また叱った」

「ん? なんか言った?」

「あ、え、いえ。その、ごめんなさい」

 お、おう。素直でよろしい。

 よかった、地雷は踏んでいないみたいだ。まぁ多少顔が赤いような気がするが、大丈夫だろう。

 とまぁそんな訳で自分らがここに縛られる理由もなくなり、晴れてお家に戻れるという訳だ。

 よし、それでは

「帰ろう」

「そうですね」

「ご飯を食べに行きましょう」

「……」

 こうして自分たち四人は無事クエストを終え街に帰還を……。

 後ろを見るとそこにはムー君、シルバちゃんと並んだ次に芋の入った袋を抱えた紅色が当然のごとくついてきている。

 ……。

「ねぇムー君。あの街って不審者が自由に入れたりする?」

「いえ、少なくとも諸手続きが必要です」

「あいつがそれをすると思う?」

「……俺は強行突破してついてくる可能性の方が高いと思います」

「だーよねー」

 そんな会話をしながら紅色を見る。のんきに芋持って歩きおってからに。顔隠れてんのによく歩けんな。

「……街に入るのに強行突破しなかったとしても、城に入るのに強行突破しそうな気もします」

「あぅ、そこまで考えていなかった」

 そうだね、お城は例外なく一般人立ち入り禁止だからね。

 じゃあこのまま振り切るか? いや、自分だけダッシュで逃げるなら可能だが、ほか二人は無理そうだ。特にシルバちゃん。

 そうなれば彼らについてきて結局居場所がばれてしまう。

 これはもう諦めるしかないのかね?

 ……はぁ。

「……あのさぁ、騎士さんよ」

 足を止め、後ろを振り向き芋を……違う、芋袋持った紅色をみる。

 すると奴も立ち止まり、芋を置いてふんぞり返る。なんだその態度。

「あなたどこまでも自分らについてくる気なの?」

 頷く。肯定ですかそうですか。

「そんじゃああなたの目的が果たされたら、どっかいってくれる?」

 頷く。当然肯定。

「……じゃあ、あなたの目的は自分たちと戦いたいとか、そういうの?」

 首を横に振る。やっぱり肯定……うん?

「違うの?」

 え、じゃあ何がしたいのこいつ。

 そう自分が戸惑ってると紅色はスッとまっすぐ腕を上げ、人差し指を自分に――

「……自分と戦いたい?」

 頷く。なるほど。

 そういうのいらない。

「……じゃあ自分と勝負できれば満足してくれるのね」

 一も二もなく即座に肯定。あーもう面倒くさい。

「……わぁったよ。じゃあ――」

 そう途中まで自分が言ったあたりで雰囲気が変わった。らしい。後から聞いたムー君の証言によればこの時明らかに空気が張り詰めたという。

 そうそれはまるでよく研ぎ澄まされたナイフを首元に云々、とにかく凄い緊張感がこの場に広がったそうだ。

「じゃんけんじゃダメ?」

 そしてそんな空気をぶち壊したのが次に続いたこの言葉。張りつめた空気の寿命は短い。

 いやだって自分そういうバイオレンスなイベント嫌いだし。ねぇ? いっくら人間が強くて頑丈だからとはいえ、自分はただの一般ピーポー。きっとこういう修練積んだ系の人たちとガチンコでやりあったら多分死ねる。

 よってじゃんけん。公平で誰も傷つかない平和的な決闘方法で――

 ドンッ! という音がした。それは固く強く握りしめた左の拳を地面に打ち受けた音である。力の限り、渾身の限り放たれたそれは、地を揺らす程ではないけれど、少なくとも先程消えた緊張感を取り戻すのには足る大きな音だ。

 無論この場合の主語は目の前にいる一人の紅色の騎士に他ならない。

 奴は地を打った姿勢からゆっくりと立ち上がり、少しだけ天を仰ぐとキッと自分に顔を向け、剣を構えて刃をこちらに……あれ? もしかしてこれ――

 怒髪天ってやつですか?


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