28・ギルド
世界共通、悪い事を思慮の浅い所で考えてる奴ってのは大体それとわかる顔をしているものだと自分は思う。
人間だろうと魔族だろうと、大体からして雰囲気でわかるのだ。それは自分の仕えるお姫様も例外ではない。
彼女は昨日の王妃様との会話の後、不敵で素敵などーしようもくしょうもない、前述の『それとわかる顔』をしながらさっさとお部屋に帰っていった。
いたずらをする直前の子供のような、何かを企み期待する表情だ。
無論、そんなお姫様の顔と行動にいやーな予感しかしない自分は問いただした訳ですよ。『言ったいなに考えてるの?』って。
すると返ってきた答えはこうだ。
『秘密』
たった一言。こいつはふざけてるのか、とか思ったが、なんかもうこの時は色々疲れていたため『そうかい』とだけ言ってそれ以上の追求はしなかった。
自分は学んだのさ。この世界、自分の思う通りには転がらないって。
それに奴のやりたいことも大体わかってるしね。あれだろ、自分を『上級騎士』とやらにしたいのだろう。そのためにくだらない事を考えてるんだ。
きっとこいつ自分を北の教会っぽいところ辺りで……あ、いやなんでもない。
ちなみにこれ、自分のためにやってくれてるって言うより、むしろペットをコンクールに出して自慢したいのと同じような心理だと思う。
そして今日の朝のことである。
「あの、先生」
「ん? あぁ、シルバちゃんか」
「その、いつものを……」
もはや日課になってしまった朝のシルバちゃんタイム。
毎朝ある時間になるとシルバちゃんが自分の血液というエネルギーを補給するのだ。馬車で旅をしていたころから続く習慣である。
正直、血はなくなってもかわいい女の子に抱きつかれるという自分にとってはメリットの大きい非常によい習慣である。いいにおいするし。
でもまさかわざわざ自分の部屋にまでやってくるとは思わなかったがね。
……お世辞抜きで美少女が毎朝部屋にやってくる。なんと素晴らしいイベントだろうか。
なおその美少女は自分を食料としてしか見ていないようだがね。
ちなみに最初のころ以外では貧血は発生していない。彼女のそこら辺はきちんとわかってくれてるようだ、
と、こうしていつものように今日もシルバちゃんは自分に噛み付き血を吸った。
そしてそれが終わるといつもなららここで雑談をしたりなんだりするのだが……本日は少しばかり闖入者がやってきた。
「ナルミ! いるか……って、シルバもいたのか」
いきなりお姫様が乱入してきたのだ。ノック位して欲しい。
「んー? あ、仲良くしていた所を邪魔したか?」
「え、あ、いやそんな……はう」
そのニヤニヤ顔をやめんか。シルバちゃん恥ずかしがって真っ赤になってるでしょ。
それに仲良くって言ってもどうせシルバちゃんは自分を食料としてしか見てねーからいいんだよ。
男としてよりも食べ物としての方が魅力あるんだよ。泣けてくるわ。
「何の用っすか?」
「ふむ。それなんだがな」
彼女はそう言うと、すぅっと一枚の封筒を取り出した。
それは丁度はがき一枚分の大きさの、しかしどこか高級そうな感じの漂うものである。
それをひらひらさせながら、彼女はイタズラっぽい笑みを浮べる。
「これ、なんだかわかるか?」
「……さぁ? なんなんですか?」
わかるはずがないだろうに、
しかし彼女がわざわざ自慢しに来るということは、中々凄いものなのだろうと予想はつく。
どっかのダンスパーティーの招待券とか? 嫌でもその程度で――
「お前の冒険者登録証だ」
「……は?」
「あ、そういうことですか」
何か今すっごい変なが出てきた気がするんだけど。
あと何がそういうことなんだいシルバちゃ……いや、それは後でいい。
そんなことよりも、だ。
「お前の冒険者登録証が、この中に入っている」
「え、いや、うん。冒険者登録証って、まずなんなの?」
「冒険者ギルド所属している証明証です。これがあれば役所に寄せられた依頼を受けて、報酬をもらう事ができます」
あ、うん。説明ありがとうシルバちゃん。
でもたぶん恐らくそのギルド云々は自分もよく画面の向こうで使った事のあるそれとほぼ同じだと思うんだ。
ただその依頼を受けるのが役所というのは初耳だがね。
自分が聞きたいのは、そうじゃなくてだ。
「……質問を変えよう。なぜお姫様がその自分が登録手続きをしたおぼえもない登録証を持っているのか、という事を聞きたいんだ」
「もちろん、私が変わりに作ったからだ」
さも当然、と彼女は言う。
おいこらどういうこった。
「なんでお姫様が自分のものを勝手に作ったん?」
もしろくでもない理由なら容赦しねーぞ。
そんな気持ちを込めながら、彼女を睨んで答えを待つ。
しかし彼女は自分の気持ち謎露とも気付かず、いつもの調子でいつものようにいうのである。
「ふむ。まぁ答えは簡単だ、お前に『上級騎士』になってもらいたいからだ」
「上級騎士……」
北の不死……あ、いやなんでもない。
「そう、上級騎士だ。これは昨日母様の言ったとおり『功績』と『人となり』と『忠誠』。これらを示さなくてはならん。近衛隊にいても条件はいずれ満たす事ができるだろう。だがそれではやはり遅いと思うのだ。だからこそお前には近衛隊であると同時に冒険者としてこの国に貢献し忠誠とその人となりを認めさせるのだ」
どうだ、名案だろう。と言いたげな顔である。
が、ちょっとそれがなぜイコールでつながるのかわからない。
「そう、なるかい? ギルドって結局お金貰って問題を解決するんでしょう? なら、結局忠誠とかよりお金で動く人、ってならない? ギルドってそういう組織でないの?」
「そういう考えもありますが、国の依頼を重点的にやれば貢献度としては高くなるので、やはり上級騎士への道は近くなると思いますよ?」
国の依頼、とな?
「国の依頼ってなに?」
「ギルドの依頼には、一般人が出した依頼と国が出した依頼の二種類があるんです。これらの違いは一般のほうは誰でも受注できるのですが、国からの方は厳正な審査の後に国に選ばれた登録証を持つものしか受けられないものなのです。そして依頼とはつまり『困った事がある』から出るのであって、国の困った事を解決する事ができたらそれはやっぱり国に貢献した事になるんですよ」
本人置いてきぼりで一日で終わる厳正な審査……いや、もういい。
まぁいいたいことはわかったぞ、つまり色々国からの依頼をやって信用集めて成り上れ、ってことだな。
もう割と一気に成り上ったとこにいる気がするんだが、ここで満足したらいかんの?
自分、ただの住所不定無職から一気に近衛隊指南役よ? まだ一回も指南したことないけど。
「本当は戦争でもあって活躍すれば一気にそれらの条件を満たす事ができるのだが、嬉しい事にいまは戦争なんて起きていないしな。ちまちまと依頼を受けて国に貢献してくれ」
戦争なんて起きないでいいです。おきたら逃げろ、って誰か言ってた気がする。
しかし……冒険者か。
「なるほどねぇ」
「うむ。という訳でほら、これがそれだ」
そう言って彼女から渡された封筒を開けると、中には一枚の鉄のような金属製のカードが入っていた。
それは名詞より一回り大きいくらいのものであり、表面に魔法陣のようなものとミミズが酔っ払ってのたくってるような文字が彫って……ふむ。
まぁ、読めないがこれがそれなのだろう。
冒険者ギルドか。その単語が出てくるだけで、一気にこの世界があの自称女神がプレイするネットゲーム的世界なんではないかという疑問が脳内によぎってくるね。
そう思いながら自分が登録証をじっと見ていると、横からシルバちゃんに声をかけられる。
「あの、先生」
「ん?」
それに反応して自分が振り向くと、そこには自分と同じ金属製のカードを持ったシルバちゃんがいた。
「わ、私も冒険者登録はしてあるんです」
「へぇ、そうなの。仲間だね」
「は、はい。……で、あの……依頼を受けるとき、私も一緒に連れてってもらえませんか!?」
意を決したようにそう言うと、彼女は両手で登録証を差し出してきた。
……いや、そんな意中の人にラブレター出すような動作で言われても。
今後はペースが遅くなるデス




