27・魔王様
目の前に広がる煌びやかな光景。
あー、その、なんだ。自分は今、このお城の中にある、『謁見の間』とかいうお部屋へと来ております。
体育館ほどの広い空間に、シャンデリアからステンドグラスから、下品にならない範囲のそれでいて思いつく限りのまさしく豪華絢爛を体現したようなな装飾を施した広い部屋。
その際奥には所詮玉座と呼ばれるものであろう、二つの大きな椅子があり、お約束のように、入り口から赤い絨毯がそこまで真っ直ぐ進んでいる。
そこに座っているのは二人の人物。片方はもはや見慣れた燃えるような赤髪の、黒い翼を持つ50歳くらいの壮齢の男性。
彼はとてもわかりやすい王冠とその髪と同じくこれまた真っ赤で上質なマントをしており、その服装の一つ一つが品格溢れるものである。恐らく自分のイメージとこの状況から考えるに、彼が噂の魔王様であろう。顔に刻まれたシワが、貫禄を生み出しなかなか渋い顔立ちだ。
対してもう片方は白い翼に色素の薄い桃色掛かった髪をした、いかにもマダムな美しい女性である。彼女は、緑っぽいドレスと大粒の青い宝石が入ったネックレスをを上品に着込んでおり、その佇まいにはただ座っていだけなのにるどこか優雅な者を感じさせる。多分王妃様。
その顔は物静かで気品あふれる顔立ちであり、ある程度と死は重ねたとはいえ元のつくりのよさが伺える。ただなんかこちらを品定めするような眼が嫌だ。
とうとうきましたこの時が。自分が魔王様とはじめてご対面するこの時が。
あ、ちなみに貴族とやらもいっぱいいるよ?
本当にいっぱい、お前ら仕事ないのかよといいたくなるくらいいっぱいこの部屋にひしめき合っている。聞いてた以上に人が居るぞ、なんだよお前ら帰れよ。仕事しろ。
そして入った瞬間どよめくな自分をまじまじ見るなこっち見ながらひそひそするな。
そしてよく見たら魔王様の近くにバリスと……何かもう一人女の子がいる。誰だろう?
……まぁいい。とりあえず今は目の前の事に集中しよう。
あ、ちなみに結局あのあとすったもんだあった結果自分の格好はめでたく詰襟姿となりました。
まぁ別にこれでいいというのなら底まで意固地にならなくてもいいんじゃね? という結論に至ったのが大きな原因ですけどね。
そんな訳で自分とゼノア、そしてお姫様の三人で現在この謁見の間にやって着ているのである。陣形としてはお姫様を先頭にした三角形で、
余談だが、ゼノアが今の自分の格好を見たとき『普段とぼけているのにそれを着ていると凄い凛々しく見えるぞ』とか言ってくれたので叩いておいた。うるせぇどうせ慈愛に満ちた菩薩顔ですよ。
「父様母様、ただいま参りました。」
……で、誰?
この自分の目の前で優雅に佇むおしとやかなお姫様は一体誰?
「おぉ、エリザよ、よく戻った!」
そう言って魔王様は我慢しきれないといった様子でお姫様似に駆け寄ろうとするが王妃様に止められる。
ちなみに貫禄は頬に刺さった王妃様のジャブのおかげで一瞬にして消失した。
「またあなたは私に殴られたいのですか?」
怖いです王妃様。
「いや、でも久しぶりに愛娘に会うのだぞ?このくらいいいではないか」
「場所を考えて下さい。今は正式な場なんですよ?」
王妃様つよし、王様形無し。
でも正式な場で旦那をしばくのも中々どうかと思うのよ自分は。
「うぅ、ではエリザよ、何か報告はあるか?」
「はい、実はこのたび新しく近衛隊へと入れた者がおりまして、こちらです。」
「……その者か?」
魔王様の言葉と共に、ひそひそ声もやみ全員の視線がこちらに集まる。
なんだこれ手汗がヤバイ。心臓破裂する。
「はい、彼は非常に優秀な人物でして、この度新しく近衛隊へと勧誘いたしました。また独自の体術や魔術を操り私の近衛全員を相手取って無傷で完全勝利をいたしましたので、いっそのことただの近衛としてではなく近衛を指導する指南役として雇用いたしました」
まだ一度も指導した事ないけどね。
とか考えてる場合じゃない。危ない危ないボーっとしてた。
「ただいまご紹介に預かりました、此度近衛隊指南役として入隊いたしました長谷川鳴海ともうします。以後、お見知りおきを」
そう言いながらにこりと笑いペコリと一礼。
あってるよね? 多少日本語おかしい気もするが練習どーりやったんだしもんだいないよね。
「ちなみに鳴海は見てわかる通り、『人間』でありまた『勇者』の特性も持っております」
『やはり噂は本当だったか』とか『馬鹿な、ありえん!』とか周りが騒いでいるのを聞いて、満足そうな姫様。
対して自分は、笑顔は崩さずなんか血統書尽きの犬の気持ちがわかった気がし手少し悲しくなってきた。
「なんなら、今すぐに判別器を持ってきて確かめてくださっても結構です」
「……誰か、判別器を持って参れ」
……ちなみにこれも予定調和。予想はできたさ。
そしてこの後の展開は……まぁ、想像つくわよね? 驚かれて警戒されて物凄く注目されたんだよ。
そしてまぁ色々となんかかんかやって、そういや自分は勇者だが、ゼノアとかそこら辺って特性はなんなんだろうなーっと考えながら現実逃避をおこなってると――
「ところで父様。一つお願いがあるのですが。」
「なんだエリザ、言ってみよ」
なんかなー、この王様絶対娘に甘いよなー。
だからこんなんなっちゃったんだな。だから王子様もあんなんなっちゃったんだな。猛この国だめかもわからんね。
「ナルミに上級騎士としての二つ名を与えて欲しいのですが」
……ファッ!?
上級騎士!? なに、なぜに!? 聞いとらんぞ!!
「む、むぅ…。さすがにそれはそうやすやすとは……」
よし、自分も中二患者が付けるような寒い名前は要らない!
「なんの武勲もあげてない者には……のぅ」
そうだそうだがんばれ魔王様!!
「カームルの単独討伐、人攫い集団の壊滅。これらの全てはナルミが主体的に行ったもので、功績としては十分上級騎士の資格はあるかと」
いらんこと言うな!
そもそも人攫いは活躍したのはゼノアさんですぞ!!
「……しかしのぅ……本当に彼がやったのかわからんし」
「うぅ……、父様は私が嘘をついているというのですか…? そんな父様なんて……」
「うっ!?」
あ、必殺『娘の涙』発動。これは父親陥落ですわ。やばいな、これ。
「ま、まてエリザ! 泣くな! わかった! 彼の上級き――」
「いけません」
自分の危機を救ったのは、以外にも王妃様だった。
あ、いや意外でもないか。普通か。
「そんな事をしては他の騎士達に示しがつきません。本来上級騎士とはしかるべき審議の後に決まります。その功績、人となり、忠誠。それらの事から総合的に判断して与えられる照合なのです。例えそのうち『功績』が素晴らしいものであっても、このような場で嘘泣きをしてすぐに与えられるようなものではありません」
物静かそーだけど、けっこー飛ばすよねこの人。さすがあいつらの母親。
そしてこの貴族集団の中で嘘泣きって、この娘も案外肝が据わってるな。
「むぅ……」
エリザ姫ご立腹。だがすぐに何かを思いついたような顔をした。
「……わかりました。では『功績』、『人となり』、『忠誠』を示せばよいのですね」
……あ、なんか企んでるな、こいつ。
ちなみにこの後、今回のお姫様の旅行における総責任者、つまりゼノアによる事細かな報告により、自分がここにいる全員にドン引きされることになるとはこの時全く想像もしていなかった。
え? なにを引かれたかって?
そうだね、『人攫いの武器を食して無効化した』とか言う内容が問題だったんじゃないかな?
何もそこまで細かく報告しなくても、ねぇ?




