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24・お叱り

 『ジンクス』とは。それは本来『縁起の悪いこと・習慣』というような意味らしい。

 鼻緒・靴紐が切れる、黒猫が前を通る、弓取式を務めた力士は出世できないなどなどなど。世の中のはさまざまな『ジンクス』が存在する。

 それはどれもこれもがそもそもからして所詮科学的根拠は恐らくなく、まぁ所詮それが起こったとしても気持ち的に『うわ、縁起悪っ』と思う程度の効果しかないと思っていた。

 で、だ。自分はこの『ジンクス』と言う奴に一つ、とあるものを追加しようと思うんだ。

「……で、あなたは一体何なんですか?」

「ですから、第三王女――」

「それはもういい!!」

 自分が戦闘を行うと、次の瞬間には物凄く怒られるというジンクスを、だ。

 思えば、こっちに来てからずっとそうだ。

 猪倒したらゼノアに詰問され、近衛隊と戦ったらお姫様と自称神様に怒られて、人攫い潰したらお姫様になじられて。

 そして今回アホな自称騎士様とバトルしたらキッツイ美人さんに取調室的な所で取調べをされている、と。

 しかも結構上から目線というか、高圧的というか……つーかこの人そもそも話を聞いてくれない。

 正直、もうそろそろストレスがやばいんだけど。この人ぶん殴っていい?

 こんなストレス感じたの、警察に意味不明な言いがかりつけられた時以来だ。

 全く、こういう己が正義と疑わずそれを押し付けてくる奴ってすっごいムカつく。

「……事実なんだからしゃーないやん」

「はぁ!? 今なんていった!?」

「事実なんだって言ってんの。話聞いてる?」

 まぁ、こんなやり取りが1時間程続いている。そろそろ自分も我慢の限界が近いかもね。

 あ、ちなみに現在いる部屋にはフィーさんと自分の二人だけである。

 部屋は机と椅子と天井にランプだけの簡素な感じで、四畳半くらいの大きさだ。

 あとあのバリスとかいう野郎はと言うと、フィーさんの怒りの矛先が自分に向かってしまったのであっさりと解放されてしまった。

 と、いうか逃げた。たぶんフィーさん気付いてない。くそ、忌ま忌ましい。

 そして、もう一つ語らなくてはいけないのは自分の格好についてだね。

 今の自分は合羽と帽子とゴーグルを脱ぎ捨て、いつもの休日スタイルになっている。

 これはフィーさんによる『まず信用しろというならば顔を見せなさい!』という口車に乗ってしまった結果である。

 確かに、と自分は思った。同時にこの黒髪と黒眼を見れば自分は人間であるということがわかってもらえ、そこから近衛隊云々もすぐに決着が付くのだろう……そう考えてた時期もありました。

「この……そもそも何です! 髪をそんな色に染めて! 芝居や小説にかぶれるのもいい加減にしなさい! あなたは魔族の誇りが無いんですか! そもそも髪の色とは――」

 これである。まるで中学校の先生だよ。

 そおそも魔族の誇りなんて欠片もねぇよ。だって自分人間だもの。

  しっかしよく喋るな、喉大丈夫か?

「ちょっと聞いてるの!!」

 んなわけねーだろ。

「聞き流してる。ねぇ帰っていいっすか?」

「……そんなに死にたいですか」

 そういいながら、剣を抜きこちらに向けるフィーさん。頬に当たる刃の感触がとても冷たく心地いい。

 が、だ。

「はっ、やなこった」

 やはり刃物を向けられるのはいい気分はしないのだ。

 そんな訳で自分はその刃先をちょんとでこピンではじいてやる。

 F12『武装解除でこピン』

 次の瞬間、弾き飛ばされカラカラと音を立てて転がる彼女の剣。ざまぁ。

「……あくまで私を馬鹿にする気ですか……余程私に殺されたいようですね!!」

 おーおー青筋立てちゃって。

 うるせーよ、こっちだって堪忍袋がはち切れ寸前だぞ。

「うっせ、バカにするも何もするもなにも元から馬鹿でなかったの? つか、君如きにできんの? 同人誌で真っ先に敵に捕まってそうな顔してさぁ」

「コロス!!」

 いきなり殴り掛かるフィーさんと、全て紙一重で避ける自分。

 受け止めては駄目である、ギリギリを見極め、避けられる事が相手にとっては一番屈辱なのだ。

「この! 避けるな不審者!」

「いや、避けられないような技出そうぜ姉ちゃん」

「うがぁぁぁぁぁ!!」

 ハッ! 笑止!

 この『超反射神経』の前にはそんなスピード温すぎてあくびが出るわ・

 と、そんな事をやってると部屋の扉が開いた。よーするに誰か来た。

「おねーちゃーん、いるー? お土産持って……なにやってんの?」

 ……なんか鎧着たちびっ子がやってきた。誰だお前。



***




「……すいませんでした」

「いや、もういいですって」

 今、自分の前でフィーさんが謝ってくれている。

 理由は簡単、さっき出現した彼女の妹、ノア・リディムちゃんのお陰である。

 なんでも彼女はゼノアの隊のに所属する退院で、自分が最初に彼とであった時も一緒に傷んだとか。だから彼から自分のことを色々聞いてるんだって。

 おい緘口令どこいった。

 まぁそれは置いといて、とりあえずノアちゃんの努力により誤解も解け、自分たちの空気もだいぶよくなった。

 ホント、ありがとうですよ。

 ……己が正義と疑わずそれを押し付けてくる奴が、自らの正義が間違ってたと気づいた時の香って結構見もの……あ、いやなんでもないです。

 そ、そう! こんな辺鄙な取調室まで彼女が来た理由は、バリス『様』にお聞きしたらここにいるって言われたから来たんだって! 今行っても問題ないっていわれたんだって! あいついつかしばいてやる。

 ……しかし、ノアちゃんこのナリで兵隊さんか。人、いや魔族は見た目に寄らないな。

 完全ロリだよこの娘。自分だったらこんな娘軍隊に入れたくないんだが。

 もっとこんな汗臭く血なまぐさいところでなくて他に仕事とかあっただろうに。

「しかし、人間でサムライで勇者で近衛隊ですか……。本当に何者なんですか?」

 侍は出まかせで勇者はわけわかんないけどねぇ~

「う~ん、自分もよくわかんね」

 実際真面目に自分がわからん。

 ほんと、なんなんだろうね。

「本当に黒いですよね……不思議」

「……本当ね、天然で黒い髪がいるなんて。でもこうやって見ると、市販の髪染めはやっぱり質が悪いのかしらね」

「……どうなんでしょうね? その髪染めを見たことないからなんとも」

 そして流れる変な沈黙。やっぱりあれだ、最初の軋轢はそう簡単には埋まらないのか。

 と、そんな空気に耐えかねたのか、流れを変えようとノアちゃんが

「そ、そうだ。お土産の干しポリャの実食べましょう!」

 ポリャの実ってなんだろ。

 そう思っていると、彼女は持ってきた袋から15個程の、葡萄色の干し柿みたいなのを取り出した。

「モムモム……あ、おいしい」

 味はキウイにそっくりだ。おいしいおいしい。

「やっぱりあの地方のお土産と言ったら干しポリャの実だよね、お姉ちゃん」

「ん、そうね。ありがと」

 そう言いながら妹の頭をなでなでする姉。

 仲がよさ気で良きかな良きかな。

 その優しさをもうちょっと取り調べ時に出してくれたらスムーズにお話が進んだと思うんだ。

 それからはまぁ多少ぎこちないながらもある程度和やかになった自分達は、ポリャの実を食べながらお話をしていたのだが……突然バンッ! という音が部屋に響いた。

「よっ、フィー。機嫌治ったか? あ、お前もいるし」

 ドアを蹴り開け、バリス乱入。

 帰れ。

「お、干しポリャじゃん、俺も俺も」

 そう言って無造作に一個掴んで口に運ぶバリス様。

 厚かましいなオイ。

「……そーいやさ、フィーさん。この直情型炎上馬鹿はだれ?」

 変な二つ名は言っていたが、本名はしらんのだ。そもそもその二つ名も覚えてない。

「なぁ、直情型炎上馬鹿ってのはないだろ……いくら俺でも傷つくぞ」

 しらん。それ以上に自分が傷ついた。

「……ナルミさん、一応この方は王子なのでそのような口のききかたはどうかと……」

 ふーん、王子ねぇ。王子……おう…じって、まて。

「マジで?」

「は?」

「いや、本当に?」

「はい、我が国の第二王子バリス・ルル・トゥインバル様です。真に残念ながら」

 たしかに、あの馬鹿エリザ姫とは似た傍若無人さ加減だが……

「……残念ってなんだ残念って。お前らひどすぎるぞ」

「いつもいつも近衛隊を撒いて一般兵の所に乱入して『稽古』して毎回ボロボロにしてる愚か者は何処の誰でしたっけ?」

「む、むぅ……でも! 俺はこいつに負けそうになったぞ! あいつらが弱すぎなんだよ!」

 それなんのいい訳にもなってないよね。もうちょっと考えてから発現しましょう。

 そして自分とノアちゃんは蚊帳の外らしいので、彼らを見ながら干しポリャの実をモシャモシャ食べている。

 あー、バカな男とヒステリー気味の女性のけんかなんて見たくねぇよ。

「もぐもぐ……ノアさんも大変だね、お姉さん」

「……まぁ、普段はいいお姉ちゃんなんですよ」

 そっか、そいつはよかった。

 とか、そうやって自分達が完全に傍観を決め込んでいると時である。

 フィーさんの言葉の後で、そんな空気が一気に変わった。

「彼は人間でサムライで勇者なんですよ!? 勝てる訳無いじゃないですか」

「待て! 勇者、だと?」

 ……え? なんでそこ喰い付くの? 自分が人間だと知ってたんなら、そこも知ってると思ったんだが。

「……つまり、なるほど。なぁハセガワナルミ」

「ハイなんでしょう?」


「お前、俺の近衛――」

「兄様! ナルミは私の近衛です! 勝手に引き抜くな!!」


 その瞬間、ルバちゃんを引き連れた我らがエリザ姫様がドアを蹴破り乱入してきた。


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