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21・お風呂で神様

 緘口令とは。

 情報を他言無用とする命令、平たく言うと情報を漏らしてはいけないと言う命令である。

 そして今回、自分についての情報がその緘口令の対象となったのである。

 なぜか。それを自分がお姫様に聞いたところ、次のような答えが返ってきた。

「人間がいる、という情報を有利に動かすためだ。情報自体はいずればれる事……というかばらすからそこはどうでもいいが、あくまで情報の主導権はこちらで握りたいのだ。なにせ人間なんてもはやオカルトのような存在だ。普通は頭がおかしくなったかと疑われる。だから無用な混乱を避けるためにも、物事をうまく動かすためにも、少しづつ情報を流す方がいいと私とゼノアとゾーン爺で判断した」

 とのこと。

 なるほど、結構考えているのだな。ただあれだ人間がオカルトってどういうこった。

 あ、あとついでにこの話題で久しぶりにゾーンジーさんの存在を思い出したね。今までいないの気付かなかった。

 なんでも、彼自身は護衛でもなんでもないし、なによりお化けが怖いから自分らより早くお城を出て王都に向かったんだと。お化けってお前。

 まぁとにもかくにも自分もとい人間は非常に珍しく、故に扱いはデリケートなんだとか。

 だからお前も人前ではしっかり正体を隠すんだぞ、と偉そうにいわれた。

 そんな訳で自分はしばらくこのコンビニ強盗のようなスタイルを貫かなければならなくなったのだ。


 ……やってられるか!!


 自分がこの格好に対し憤りを覚えたのは、村を出てから3日目くらいの晩であった。

 なぜかってあれだよ、暑いんだよ。普通に。

 春先のような陽気のなか下がTシャツとはいえ雨合羽に帽子にスキーゴーグルつけてごらん。死ぬから、汗が吹き出るから。

 しかも自分は考えてみたらお城を出てから一回もお風呂に入ってない。きっと臭い、そして汚い。

 だってあれだもん。みんなが川とか水の魔法とかで水浴びしてる時に自分は外には出れないし、寝静まってしまったら自分も寝静まっちゃうしで……ねぇ。

 そんな訳で自分は今、猛烈にお風呂を欲しているわけである。

 これは人間及び文化人としての尊厳を守るために必要なものなのだ。

 ……そして何より、何より問題なのがアレだ。

 なぜか毎日自分に上目遣いで擦り寄ってきて血液を求めるランドルフさんの妹さんに『臭い』とか言われたくないからだ。あとたまに寄って来るお兄さんの方にも。

 あ、一応言っとくと別に自分は無償で血液を差し出すほどお人よしではないよ。きちんと契約に基づいて献血を行っている。

 その契約とは、自分が血液を与え、彼らがなにかおいしいものをくれる。

 この場合のおいしいものとは彼らの分のご飯プラス王都に付いてからいいものを食べさせてくれるんだと。いや、今から楽しみだ。

 ん? そんなに吸われて血液の量は大丈夫かって? 大丈夫、問題ない。

 今の自分のこの肉体は、『再生者(リジュネータ)』って名前だから。たまに倒れるだけで済む。エイメンとかは言わない。

 欠点として、回復にエネルギーが必要なのかやたらとお腹がすくというのはある。

 しかしまぁ今なら血液バンクも速攻満杯にできるぜ。O型限定だけど。

 あ、あとそう、なんかゼノアって、お姫様の血も頂いてるらしいよ。もちろん双方同意の上で。

 自分ももう既に3回くらいその光景を見たけど……まぁ、あれだね。

 画的に『天使の血を吸って闇に堕としてる悪魔』としか見えなかった。

 ベッドの上、まだ幼さの残る羽の生えた凛々しい美少女の白い首筋に、悪人面の吸血鬼が不敵な笑みを浮べながらその牙を突き立てる。月をバックにお姫様の黒い羽根がいくつか舞ってるのをに見た時は本格的にこいつラスボスなんではないかと思ったね。

 ただし、近衛隊はそれに関して全く意に返さず横でボードゲームして遊んでたりしてたけどね。

 ……本来の話に戻そう。

 とにかく、自分はかわいい女の子に臭いといわれないために、こう思い立ったのだ。


 そうだ、お風呂に入ろう、と。




***




 そんな訳で自分は本日の野営時、見張りの人以外皆が眠るような時間までがんばって起きていた。お姫様や近衛隊の大半も眠り、殆どが起きていないような時間である。

 全てはお風呂に入るため。この汚くてくッさい身体を清めるためだ。

 そして近衛隊の中で夜の見張りをやってるテトラ君とムー君に適当なことを言って野営地から遠く離れた適当な場所で――

「へぁ……」

 くつろいでいた。肩までどっぷりお風呂に入って。

 いや最初は焦ったね自分も。だって風呂桶ないんだもん。

 幸いな事に川が近くにあったから水浴びはできるけど、お湯に浸かるという事ができないのだ。

 で、それをどう自分が解決したかと言うとだ。能力使ってそこらの石ころを集めて溶かしてドラム缶型にしたのである。

 もっと詳しく言うと『サイコキネシス』で石ころ集めてそのまま同時並行で『熱操作』の能力をさら作って、それを使って溶かして形成して冷やして固めてドラム缶の完成。

 ついでに川から水も『サイコキネシス』と『熱操作』のあわせ技でお湯を作ってドラム缶に入れて完成。

 どうだ、すごいだろ。えっへん。

 あー、にしてもこの世界きて初めてリフレッシュつーかリラックスした瞬間でないかねこれ。

 いきなり堕ちてきて槍向けられて近衛隊と戦ってマナー叩き込まれて飢えて人攫い倒して今に至る。うん、中々に波乱万丈だ。

 そんなすさんだ自分の心を癒してくれるお風呂さん素敵。大好き。

 ビバ・日本人の知恵。

 まったく、こんな時間がいつまでも続けば――

『や、久しぶり』

 いかったのになぁ。

 頭の中で声がする。それは明らかに自分のモノとはかけ離れた高く可愛らしい、今のところ一番自分に対するヘイトを稼いでいる声である。

 なんだ、どこにいる自称・神。

 自分は奴の姿を探して周りをキョロキョロ見回した。

『お、よくわかったね。でも残念、私はそこにいません。君の心に直接話かけてます』

 得意げな声だけが響く。凄く不快だ。この雲ひとつない三日月の星空も霞んで見えるほどに今の自分の心は曇っている。

 でてこい。腹パンしてやるから出て来い。

 念話なんて出鱈目捨ててかかって来いよ。

『やだ』

 チッ。ならなんで出て来た。納得できる答えはあるんだろうな。

『一つ、クエストを与えにね』

 はいダメー、納得できない。帰れ。速やかに巣に帰れ。ハウス。

『で、その内容なんだけど』

 聞けよ。帰れよ。

『うるさい。拒否権はないの。で、クエスト内容は……前回送った瀬田 佐之衛門 惣五郎については聞いてるよね?』

 あぁ、フルネームそんなんなんだ。てか、『ソウゴ』って呼ばれてたからそれが名前かと思ったが、まさか『惣五郎』だったとは。

 で、それが?

『いや、その瀬田が倒した悪い奴のお城をさ、急がなくていいけどブッ壊してくれない?』

 ……理由を聞いても?

『最初、瀬田が奴を倒した時はそーでも無かったんだけど、3000年経ったら霊域化しちゃってさ。しかも悪役の魂の残滓を核にして、結構なモンスターが一体できちゃったんだよ。霊域については、瀬田たちが封印してるから誰も入んないし霊域からモンスターも出れないから大丈夫なんだけどね』

 で?

『そのモンスターの討伐と霊域の浄化を君にして貰いたくてさ。まぁ俗に言う『サブクエスト』ってやつ。報酬はスタンプ15個の大盤振る舞い』

 嫌だよ、誰がいくか。大丈夫ならほっとけばいーやん。つか、自分が勝てる訳ないやん。

『いや、その霊域とモンスターの魔力に当てられて魔物達が活発化するから一概に大丈夫って言えないのよ。それに君には出来るだけのスペック持ってるし、能力もあるでしょ。武器もちゃんとあげるから。かっこいいの』

 スペックなんかねーよ。

 というか、お前が直接やればいいじゃん。こんな素質もクソもない一般人連れてくるよか断然いーしょ。

『私は一応神様だからその世界で直接そーいうのはできないの。それと、実は人間ってあの世界にしかいない貴重な種族なんだよ? にあの世界自体が魔力も無いから、負荷も他の世界より大きいの。いわば魔力って世界から漏れ出た力とか見たいなものだから、それに寄りかかる前提の人と最初から一人で独立する事前提の人とでは違いが出るのは当然よね。まぁそれは人間に限った事ではなくあの世界の動植物全てにいえることだけどね』

 ……まじでか。

 人間ってかあの世界ってそんなすごかったんだ。

『そ。しかも、なんだかんだ言って君はその魂に能力(神様のチカラ)を刻み込んでるから、その精神も徐々に徐々に強化され、必然入れ物たる肉体も強化されます』

 ……これ以上まだ身長伸びろと?

 それにそもそも自分なんかよりもっと柔道部とかの……

『あーもう! グダグダうるさい! とにかく君なの! もう来ちゃったんだからしょうがないしょ! 恨むんなら己の不運を恨みなさい。つーわけで、オーバー』

 それだけ言って、とうとう通信は切れてしまった。

 まるで嵐のような奴だった。

 辺りに響くのは静けさのみ。あぁ、なんと星の輝かしい――

『あ、忘れてた』

 帰れ。さっさと帰れ。

『いいじゃん。別に悪い事ではないんだからさ』

 それ本気で言ってる?

『えっと、まずその目的地の地図でしょ。あと一緒にオマケとしてこの世界の言語の辞書と、お料理の本もあげよう。これはあの世界の材料の代用品は全て網羅してある優れものだよ』

 そうかい。一応礼を言っておこう。あんがとさん。

『それじゃあ、私はこれで。今度こそ本当に、オーバー』

 それだけ言って、とうとう本当に通信は切れてしまった。

 まるで嵐のような奴だった。最後に一撃食らわす辺りも含めてね。

 そして残った自分の辺りに響くのは静けさのみ。あぁ、なんと星の輝かしい事だろう。

 輝く星と煌く月を眺めつつ、自分は一人、呆けた頭で感じるのだ。


 ……ヤバイのぼせた。


 考えてみたらそうだよね、結構1時間くらいいたもんね。

 あー、やっべ、あ、鼻血出てきた。くっそ、自称女神(女子)の声が聞えるからすっぽんぽんであがるの恥ずかしいとか考えるんじゃなかった。割と頭が洒落にならん。

 とりあえず、はやく、あがろ……あぅ!?

 石ドラム缶から出ようとして、足が滑ってひっくり返る。もちろんドラム缶ごとだ。

 背中が痛い土が汚い。川が冷たい。

 ちくしょう。これも全てあの疫病神が悪いんだ。


 あいつ絶対いつか腹パンしてやる。


全てはお盆が悪い。

きっと今週は月曜の分後から更新します。

理想は土曜

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