20・再出発
朝である。
強面のイケメンとのくんずほぐれずな夜の寝技勝負に勝利した自分は爽やかに、朝日と共に目が覚める。
そしてサクッと朝ごはんの用意をして荷物食料その他諸々ここにあるもの一切合財を影に詰め、皆で食卓を囲みここを出た。
ちなみにこの時賊の方々は量が多いと言う事で一旦放置ということになった。一応影に放り込む事も考えたが、魔族……と表現していいのかは知らんが、とにかく人体が亜空間に耐えられるのかといった問題があり断念した。
……これを期に人体実験とかも少し考えたが、まぁ、自分そこまで外道じゃないし。
そうして総勢六人でやんややんやと森を進み、木を越え薮を抜けた自分達はめでたく最初の村へと戻って来て――
今現在、自分はゼノアと二人で地面に正座させられている。
なぜか、と言うのはいわなくてもわかるだろうが、一応ここに列挙しておこう。
一つ、独断専行。
二つ、職務放棄。
三つ、職権乱用。
四つ、女子誑かし。
以上が今自分たちの目の前で凄い顔して仁王立ちしているお姫様より突きつけられた罪状である。
なんか自分、戦闘が発生するたびお姫様に怒られてる気がするのは気のせいだろうか?
ちなみに職権乱用はゼノアのみの罪状である。曰く指揮権を副長に預けて逃げた事が原因だと。ハハッ、ワロス。
……ただなんで四つ目の罪状も自分に適応されるんでしょうかねお姫様。コレガワカラナイ。
「お前はホントに! ホントにこの! バカ! バカバカ! バカゼノア!!」
だが、この目の前で罵詈雑言を吐き続ける今の彼女にそんな事は言えない。
それに今彼女の怒りは主にゼノアに向いているので、今余計な事言って矛先をこちらに向けるのは賢いやり方ではない。
「……すまない」
しっかし、あのゼノアがここまで小さく見えるとはねぇ。
あとゼノアも結構お姫様にいたく心配されてるのな。真っ先に飛びついて涙目半泣きでビシバシ叩かれながらバカバカと連呼するし。
まるでこのお姫様がツンデレのようではないか。ケッ。
なんだよ、既にナチュラルにフラグ建設してたのかよ。お前はどこのギャルゲー主人公――
「あとナルミ!!」
「はいっ!!」
あ、唐突にきた唐突に矛先がこっち向いてきた。涙目で凄い怒った顔しながらこっち見た。なるほど次は自分が死ぬ番か。
どうしよう今回自分が悪すぎて何も言い訳できる要素がねぇよ。仕方がない、どんなお叱り罵詈雑言も受け付けよう。さぁこい、土下座の用意はできている。
「……ありがと」
「……へ?」
え? いや、待て待て待て。なんだこれ。
ありがとうって、なにが?
「……なんで?」
「え?」
「いや、ありがとうって、なんで? 自分こそゼノア連れまわして怒られるべき立場の存在だと思うんだが」
というか怒られないと不安になるんだが。こういう怒られることで安心するって一体どーいう心理状態なんだろうね?
「……まぁ、シルバを護ってくれたしな」
彼女はそう、気恥ずかしそうに目をそらせながら答えてくれた。ついでに恥ずかしさを隠すためかゼノアの頭を叩きながら。
あー、そうかなるほど。親友を護ってくれたと言うのが大きいのか。
確かにあの時とっさとは言え彼女の盾になる形で護ったからな。自画自賛的だがあの不意打ちで彼女をかすり傷一つで生還させたんだから自分は割とがんばったと思う。
うん、小さな善意が己を助ける。まさに情けは人のためならず。
で、話逸れるが何であの時奴らは自分らに喧嘩を売ったんだろう? 結構戦力差あったよね。
あ、いやこの疑問はまた今度にしよう。
「……これはあいつ自身の問題だし私からはこれ以上何かしたりするつもりはないが」
と、余計な事を考えてる間にお姫様は小さく、ホントに小さく呟いた。
「きちんと正面から向き合ってやってくれ。弄ぶようであれば、私は怒るぞ」
そして睨まれた。
なんだ、なにに正面から向き合うのだ? 主語がわからない。
「……そうだな、ナルミ。俺はお前を信用しているが、もし遊び――ゴバッ!?」
「お、ま、え、は、黙ってろ! 今のお前に何か言う資格はない!!」
……うっわ、痛そう顎蹴られてる超痛そう。
あとあれだね、自分主人公相手にツンデレを免罪符として暴力振るうヒロインって死んだ方がいいと思うくらい、そのまま脳みそ感電して黒コゲになって死ねばいいのにと思うくらい嫌いなんだけどさ。
これは許される暴力だと思う。この隊長は発言が不用意すぎる。
「……お兄さんたちも大変ね」
「まぁ、感謝はするが責任のある立場で勝手に行動をしたならこれは自業自得だろうな」
「……そういう言い方、よくない」
「クー……」
おい聞えてるぞ冒険者ズ。あと周りの兵士さん立ちもだが、好奇の目でこっち見んな。
あと冒険者ズのうち一人が完全熟睡してるけど……いや、何も言うまい。
と言うかお前ら、もうちょっと遠慮してこっちみろや。他の兵士さん達はちらちらといったり来たりしながら遠目からしか見ていないが、お前ら明らかに近くでガン見して――
「……あ、おじさん、待って」
「おじさ……俺かお嬢ちゃん」
「うん。聞きたいこと、ある」
「なんだ? 答えられる事なら答えてやろう」
「あの、怖い方のお兄さん、顔を、隠してる人って、人間って、本当?」
「あー……そうだな、あの人は人間という噂だ」
おい! なにやってんのさ、えっと……名もなきた角生えたおっさん兵士よ。
それって話していいことなの!? あ、いや確かに自分の認識としては『人間』は珍しいだけの種族であると思ってるので、それがばれた事による実害がそんな想像つかないのだがね?
それにしてもそう軽々と言っていいのかよ。
「……本当?」
「ああ、ここだけの話だが俺見たんだよ。あの人の髪と目は――」
「あんまり口が軽いと、長生きできませんよ?」
ザン! と大きな剣が二人の間に地面を抉って突き刺さる。どうやら誰かが力の限りでその特大の剣を振り下ろしたようである。
あまりに唐突で乱暴な行為。彼女らの会話をそんな方法で遮ったのは、メイド服のような格好をした一人の少女。
なんか怖い目をしたシルバちゃんである。
「ね? どう思います?」
顔は笑っているが目は笑っていない。そんな表情をしながら彼女は横の兵士さんに聞きつつ、ブンと振り回したその剣を彼の太い首筋に……おいおいおい。
「『緘口令』と言う言葉の意味理解できますか? その事については他言しないようにと言われていたと思うのですが、どうなのでしょう? 『賊に捕まっていた』というのは、それだけで彼女達が信用できる存在だという証拠になるでしょうか? お話しする必要はあるでしょうか?」
「え、いや……」
「……残念ながら私にはここでアナタを処断する権限は持っていないので後ほど姫様及び隊長に報告を行いしかるべき処罰が下ると思いますので、それまで大人しくしていてください」
そういうだけ言うとシルバちゃんは剣を降ろして彼を逃がす。
おい、なんだ緘口令って自分聞いていないぞ。
も一度言うが、自分の認識としては『人間』は珍しいだけの種族であると思ってるので、それがばれた事による実害がそんなアルとは思わないのだが。
お姫様とのファーストコンタクトも、ただ珍しいものを手に入れたいというようなものが前面に出てたし、多少最初に珍しい種族としてパンダ的な有名人になって後に下火になってくという気がしてならないんだが。
昨日ゼノアが言ってた『話題性』も客寄せパンだとしての話題性だと思うしね。
だから、自分としては実はあんまりデメリットは見当たらないのだ。
なのになんか……凄い大事になっている気がする。
……そしてあちらではシルバちゃんと冒険者ズが見詰め合っててそっちも凄い事になってる。
というかやっぱりシルバちゃんもゼノアの妹だね。あんな冷たい瞳見たことない。
これさ、ゼノアが最初にばらしたって知られたら妹に殺されるんじゃね?
だって真っ先に緘口令破ったのゼノアだもん。本当なにやってんのさ。株が急落してくよ君。
「……アナタたちも、知りたがりは長生きできませんよ」
「……そう」
それだけの会話の後、重たい沈黙が流れていく。
よかった、自分こっちで怒られてて――と思っている間にシルバちゃんが足先をこちらに向けてツカツカと……おい! くんな!!
あんた今怖いんだからこっち巻き込まないでくださいいやほんとマジで冗談抜きで!!
「先生、お怪我はありませんか?」
と、顔を伏せ内心ビクビク冷や汗を流している自分の予想とは裏腹に、優しいいつものシルバちゃんの声が降ってきた。
思わずチラリと顔を上げてみてみると、いつもの可愛らしくあどけない、どこかあざといシルバちゃんがそこにいた。
え、何これどういうこと?
「……大丈夫ですか?」
「え、あ、ハイ大丈夫です」
「よかった……本当に、心配したんですからね!!」
そうぷんぷんという擬音が入りそうな怒り方で怒る彼女は、やっぱりいつものシルバちゃんだった。
おっかしいなぁ、つい敬語でこたえてしまいそうな雰囲気を纏っていた彼女はなんだったんだろう。
「いくらなんでも、勝手過ぎます。もうあんな風に一人で解決しようとしないでください。……でも、ありがとうございます。私、嬉しかったんですからね、あんな風に護ってもらって、気にかけてくれて」
そう言いながらテレテレとするシルバちゃん。なんだこれ。
「あ、うん。はい」
しかし下手なことを言ってしまって『シルバさんモード』を呼び出してしまったら嫌なので、黙っておく。
別に君の事カケラも気にしていなかったとか、頭の中食料の事でいっぱいだったとかは言わない。
「よろしい」
シルバちゃんは満足したのか、イタズラっぽい顔でそれだけ言うと自分の頭をポンポンと撫でて……だからなんだこれ。
全く、全く全然状況が飲み込めないのだがなんだこれ。
まさか自分、フラグ立てたとか言わないよな? 彼女を護った事によるつり橋効果で高感度爆上げとか言わないよな?
さすがに、さすがにいくらシルバちゃんでもそれはないべ。
だって、一回身体張って護ったからフラグが立つって……さすがにチョロすぎでしょ。
そこまで攻略の簡単なキャラクターいまどきゲームでもそういないぞ?
……いや、ほんと、まさか、ねぇ? きっとあれだ、ただ機嫌がいいだけなんだ。うん。
そう思っておこう。
こうして自分達の各々の修羅場は幕を閉じ、村に平和が戻ってきた。
その後自分達はお城からの兵士の到着を待って翌日、冒険者ズとはここで別れて、一路真っ直ぐ王都へ向かって進みだした。
ゼノアがお姫様に一日付きまとわれられてグロッキーだとか、シルバちゃんの挙動がおかしいだとか近衛隊の皆の自分を見る目がおかしいとかそういう些細な違いはあれど、自分達は予定を少し遅れながらもゆっくりゆっくり前に進む。
その道中の青く澄んだ空を見て、自分は一人思うのだ。
……これさ、今回ゼノア王都行ったら責任問題云々で割と洒落にならないことにならないか?
*out side*
「……しかし本当に人間だとはね。お姉さんびっくり」
「ああ。しかも『人間』が本当ならば『勇者』もほぼ確実に本当だろう。まさかこんなところで伝説の一端に触れる事ができるとは……残念ながら彼は私達の事など眼中になかったようだがな」
「それにあのお兄さん、人間さんの言葉から恐らく『灰燼の騎士』であるゼノア・ランドルフに間違いないわね。噂以上のイケメンでお姉さんドキドキしちゃった」
「なにをくだらない事を……」
「あら、でもまんざらでもなかったんじゃない?」
「……ふん」
「それとあのお姫様ってたぶん『癒し手』よね。凄い一団と出会っちゃったわね私達」
「あの大剣の少女も名はわからぬが中々の使い手だ。少々こちらを警戒してるのは残念だが」
「……あの状況で、人間を、抱えてるなら、当然だと、思う。でも、なんにせよ、これは、チャンス」
「そうね、お姉さんもそう思うわ」
「そうだな、となれば後は戻るだけだな」
「ふぁ……ふあ? ここは?」
「あ、目、覚めました?」
「……うん」
「では、早速準備をしましょう」
「ふえ? 行き先決まったの?」
「ええ。このまま真っ直ぐ教会本部に戻りますよ、司教様」
「……うん。でも、おなかすいた。ぽとふ、たべたい」
「……」
「……そもそも、出る前に、もう少し、戦闘力、上げる、必要、あると、思う」
「そうね、囲まれて数で押されたとは言え、これは情けないですまないとお姉さんも思うわ」
「……そうだな」
「……ぽとふ」
司教云々は後々訂正はいるかも
理由? 私がそこらのシステムよくよくわからないからだよ