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18・暗中進行

 現在自分とゼノアの二人パーティーはただ黙々と森の中を進んでいる。たまに木を通りざまに傷つけて目印をつけながら無言で淡々と歩いている。

 なぜゼノアがここにいるかと言うと、結局あの後こいつは無理やり全ての指揮権を副長に渡して自分についてくることになったのだ。

 あ、自分は一応最後まで『隊長がここで消えるのはどうかと思う』だとか『そういう無責任はいけないと思う』と難色を示してはいたよ? だって隊長が抜けるって中々に事でしょう?

 しかし彼曰く『俺も昔少し冒険者のような事をやっていた頃、ああいう賊の類を3つは潰した事がある、だから今の地位にいる事ができるのだ』とか『それにここまで強気で来るのなら多少なりと敵情視察をする必要がある』とかそれっぽい事言って自分の意見を無理やり押し込め結局ついてくることを承諾させた。

 別にそれについてはいいんだけどね。賊の類の3つは潰したとかやたら気になるワードはありますが。

 でもこちらも彼が強いというのはなんとなくわかってるし、自称ではあるが『賊潰しのプロ』っぽいこともいっているし、来てくれることはありがたい。

 いくら自分がチーター的な能力を持ってたとしても、やはりこういう場馴れした人物はいるだけで心強いのだ。

 ……しかし、しかしだ。


 こう、彼が自分の背中を殺気を込めて睨んでる気がするのは気のせいだろうか?


 ……いや、きっと彼は敵に対して怒ってるだけだ。

 きっとシルバちゃん(妹様)の麗しき珠の肌に下郎風情が卑しくも瑕なんてつけたことで抑えられないくらいブチ切れてんだ。

 そうだきっとそうに違いないそう思っておくのが自分の精神衛生上最も安全で最もよろしい。だったら大人しく箱入りにして育てとけ、とかいう気持ちも内に秘めておこう。

 ……でも自分が恨まれる心当たりもないわけではないのよね。

 妹様抱きしめてしまって妹様のおみ足に口をつけてしまって妹様を突き放して尻餅をつかせてしまって……。

 若干妹に狼藉を働いた不届き者を盗賊抹殺にかこつけて一緒に不幸な事故にみまわせてしまおうというものも……いや、さすがにそんな外道はしないだろうきっとしないだろういくら顔が怖いからってしないだろう。

 おねがいだからしないでね?

 ちなみに自分がこう、余計な事を考えながら歩いている理由としましては実は最初ほど怒りが迸っていないからであったりする。

 というのもほら、感情が高ぶってる時にこういう何もないような空間で黙々と単純作業をしているとだんだんと冷静になってくるじゃん。それと同じさ。

 まぁさすがに完全に怒りが冷めてるわけではなく、このままいって食料根こそぎ奪ってやるぜ、ついでに溜め込んだ財宝とかもゲッチューしてやるぜ、とかいったことは考える位には勢いはあるよ?

 ただ、あれだ。別にあの鍋の中身が晩御飯の全てではなかったんじゃないか、とかお湯さえあればまだ一個カップ麺あるんだしお腹は満たされたんではないか、とかそういったことが冷静に考える事ができて欝になってくるのだよ。

 ホント、カップ麺だけでも食ってくりゃよかった。お腹すいて死にそう。

 後ホント怖いからゼノアさん何か喋ってください。右手に大斧左手に鉈装備して背後に立たれると本当怖い。

 背中の汗が尋常じゃないって。

 友達が斧と鉈持って背後についてきてるんだけど質問ある? とかスレ立てしたら……あ、もうへんなこと考えるのやめよ。

 無になれ、無に。何も考えるな。心頭滅却すればこういった疑心暗鬼的恐怖虫くらいは押さえ込めるだろう。

「……ナルミ」

「……」

「ナルミ」

「おう――」

 びっくりして叫びそうになったところで後ろから口を抑えられる。

 な、なんだ!? とうとうここで自分を――

「騒ぐな。ったく、着いたぞ」

「ふが……ふへ?」

 着いた、という言葉に一瞬意味がわからなかったが目前のこのまま真っ直ぐ行ったら飛び出していたであろう場所を目にして理解する。

 そこだけこの暗い森には似つかわしくないような明かりに照らされた一つの小さな洞穴とその横に馬車が三つと馬が複数。そして見張りらしき粗悪な服装をした人物が数人いた。

 どうやら自分が勝手に脳内修羅場を演じているうちにとうとう『賊』のアジトまできてしまったようである。これはいっそう警戒せねば。

 結構大きそうだな……突撃するにしても大きさの把握くらいはしておきたい。

 だがその前にゼノア、離せ。これじゃあ喋る事もなにもできん。

 そうして茂みに隠れながらこそりこそりと自分らは気付かれないようにアジトへ近づく。 

「……おい、本当にこれなんなんだ?」

「わかんねぇよ。さっきからずっとこの調子で俺についてきて気味がわりぃ」

 するとそんな声が聞えてきた。

 あ、はいそうですねやつらもさすがにこう明るいと異様な影に気付きもしますわな。まぁ、放置してもかまわんだろう。

「さて、どうする?」

「え? 突入するよ?」

 ……なに驚いたような顔してるのだゼノアさん。そのためにきたのだろう?

「いやそれは……いや、いい。お前の事だ、どうやっても止まる気はないのだろう? ここまできたんだ、ならばもうついていくさ。ただ殺すのだけはやめてくれよ。一応持って帰って償いをさせる予定だからな」

 なんかよくわからない事言ってるが、とりあえず突入ということで。

 まぁ本当は他にも策を弄せば色々できる事があるんだろうし、小細工とかを使った方がいいのだとは思うが……今の自分の空腹具合にはそういった事を考える余裕がありません。

 今の自分の目的はただ一つ、奴らの食料だけである。

 そんな訳で自分はスコップを、ゼノアは斧と鉈を持ち、合図と共にやつらに――

「ハッ!」

「ぐぁ!?」

「な、何だお前どこから――」

「シッ!」

「ぎゃぁ!!」

「こ、この――」

「遅い!!」

「がっ!?」

 ……計測はしてないけど、体感で2秒くらいかな?

 ゼノアがひとっ跳びでやつらのとこまで躍り出ると、斧の腹で一人の頭をぶん殴り、鉈の背中で二人目の頭をぶん殴り、斧の背中で残りの鳩尾をぶん殴るまで、体感2秒。

 すごい、早業。殆ど音もなく全部峰打ちで倒しちゃった。自分まだ草むらから動いてないよ。

 このお兄さんを敵に回すのだけはやめよう。

「ふぅ。……ん? ナルミも戦ってくれよ」

 いやねそんな苦笑されてもね。君が鮮やか過ぎるんだよ。

「……強いね」

「ナルミほどではないさ」

 何だその謙遜。意味わからん。

「まぁ俺自身、久しぶりの殲滅戦ということで張り切ってる節はあるがな」

「戦闘好きなの?」

「いや、ただこういう腐った奴らが嫌いなだけだ」

 ……これ自分が奴らのためた財宝とか見つけて、出来心でほんの少しでもネコババしたら斬られたりしないよね?

 うん、ネコババしない。大丈夫自分は腐ってないミカン。

 ただ食料に関しては全力で食べに行くからな。お前がなにをしようとゼッテ意頂くからな。

 ……まぁ、こうして自分達は最初の戦闘を終えて洞穴の前へとやってきたのだった。

「いよいよだな」

「……そだね」

 残るはそう、悪の巣窟であるこの洞穴の中のみである。

 自分を苦しめた、食料強奪犯を懲らしめるのみである。

 気分はさながら食べ物を独り占めした大王を懲らしめる星の戦士のそれである。

「行くぞナルミ!」

「ヤー」

 掛け声と共に、自分らは武器を持って駆け出した。

 さぁ! ここからが本当の戦いだ! 待っていろ食料!!


「……あ、そうだこれ終わったらナルミ、話しあるからな。二人っきりでみっちり話そう」

「……ヤー」

 なんでこの直前と言うタイミングでそんな不安を煽るような事を言いますかあなたは。とても不安になるのですが。

 ……本当に消されたり、しないよね?

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