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17・怒りの原因

「うぅ……」

 眼が覚める。どれくらいの時間が経ったのだろう。

 外は相変わらずの星空で、近くには数人の近衛隊員と簡易ベッドにお姫様が……。

「せ、先生! 大丈夫ですか!?」

 うぉ!? ビクッとした!

 な、なんだいシルバちゃん! 自分は拳を握ったりなんてしてな……あ、ちょっと足元がふらつく。

「ちょ、ホントに大丈夫ですか!? ちゃんと立てます!?」

「うぅ、だ、いじょうぶ……。でもお腹すいた……」

 いや虚勢ですがね。

 あ、よく見たらゼノアもここにいる。やっほー。

「ご飯ですね! 持ってきます!」

「おい、まて……ったく」

 兄の制止も聞かず、走っていく妹ちゃん。

 しかし持ってくるとは言ったが皆が寝てるこの場所での食事は迷惑極まりないのだろうか。

 ……しかたがないな。

「ゼ、ノア、外、いく。ここ、食事、邪魔なる」

「……大丈夫か? 呂律が回ってないぞ」

 だめかもしれん。が、しゃーないだろう。

 と言おうとしてるうちに彼が自分を……お、おお。

「まったく、あんまり動くなよ」

 おお、おんぶなんて久しぶりだ。いつ以来だろう。

 ……ゼノアの背中、温かいナリィ。

 そうして外に出た自分らは――

「あ! お兄様うごかしたらダメ!」

「あそこで食事してると、皆が起きてくるぞ」

 大きな鍋を持って怒るシルバちゃんをさも自らで気付いたことのような言葉で諭すゼノア。こんにゃろう。いや別に悔しくはないけどな。

 とりあえず彼女と合流するとなるたけ人のいない、この場合襲撃された場所付近へといくことになった。

 そりゃぁあんな燃えた残骸と穴の開いた防壁しかない所に人なんて見張り以外はいないわな。

 そしてそこについた途端自分のグギュルルルルとお腹の虫が暴れだす。

 あ、やばい鍋からの匂いがヤバイ。もう完全お腹が受け入れ態勢はいってるよこれ。ここで食べれませんとか言われたら真面目に発狂しそうなくらい受け入れ態勢万全だよこれ。たぶん取り上げられたら取り上げた奴を食い殺す勢いで奪い返すぜ。

「……いいにおい」

「はい先生、おかわりもあります」

 自分を降ろしほほえましい目で眺めてるゼノアをよそに、シルバちゃんから皿によそったスープを貰おうとしたそのときである。

 自分の耳が『音』を拾ったのは。

 それは先日も聞いたことのある鋭く乾いた風切り音。そうそれは先日戦った時テトラ君が――

「キャッ!」

 反射的にそれを掴む。それは明らかにこちらを狙った一本の『矢』であった。

 危ない危ない、もう少しでシルバちゃんにあたる所だった。人間極限状態になると感覚が研ぎ澄まされると言うのはホントらしいね。

 しかしシルバちゃんよ、驚くのはいいが皿を落とす……いや、まだ鍋があるからいい。

「……チッ」

「え、ちょ」

 とりあえず彼女だけでも確保しようと無理やり掴んで抱え込む。大丈夫、こっちにゃ『影』があるんだし彼女くらいは護れる。問題はない。

 とかやってるうちに他にも複数の矢と、飛んできた方向には複数の人影。

 どうやら森の中からこちらを狙っているようである。ただし、様子見なのか出てくる気配はないようだが。

「敵襲! 全員起きろ!!」

 即座に反応して魔法の防壁的な何かを張ったゼノアが叫ぶ。

 しかしそれは彼の目の前だけで……あ、他の方々もきちんと張ってるね。さす、が――

「いたっ!」

 この時自分は聞いてしまった。あまりに冷酷で悲惨な音を。

 この時自分は見てしまった。あまりに残酷で凄惨な光景を。

「チッ、引いたか……あいつらはなんだ、この数相手に喧嘩を売ってきて……まぁいい、それよりナル――」

「……なにしてくれてんの」

 飛んできた一本の矢がそこにあたり、中身を液体をぶちまける。

「え?」

「なにしてくれちゃってんの?」

 ガンッ! ときてズシャッ! っといって……鍋が、倒れたのだ。

「お、おいナ――」

「あいつらなにしてくれちゃってんのぉぉぉぉ!?」

 おいしそうなスープが、今日初めてのまともな食事が……全てが全てひっくり返る。

 本気の咆哮、心からの憤怒。

 くっそ! 誤算だ! 自分の影は現状だと自分『だけ』しか防御しない! 鍋は防御の範囲外だ!

 チクショウが! 逃がさん! 絶対逃がさん! 剥いて茹でて出汁とって齧ってやる!!

「ちょ、ナルミ! どうした!!」

「あぁ!?」

 ゼノアがうるさい。が、無視してもいいだろう。

 そんな事より奴らだ。どうやらいったん引いたようで今目の前にはいないらしいが……

逃がさんよ。

「F12『蠢く収納影』」

 名称は同じ、だが効果は違う。

 名前を変えると自分の影はむくりとその二次元的な身体を起き上がらせ、そのまま凄い速さで森に消える。

 どこまでも行くぞ。どこまでも追うぞ。自分の影は自分に敵意を表した貴様らをどこまでも『追尾』してやるぞ。

 さて、これであいつらは今はいいだろう。じわじわとなぶり……ん?

「……あ」

 ふと下を見るとそこには小さなメイド服もどきの少女、シルバちゃんが腕に収まっていた。そういやいたね、忘れていたよ。

 しかしこのまま抱えているわけにもいかないのでいったん降ろして……なに君、足怪我してるの?

 かすり傷程度だが、靴下が裂けて線が一本……あ、そうか足が範囲外にでていたのか。

 ごめんね。でも大丈夫? 顔が何か赤いんだが……ふむ。

「失礼」

「え!? あ、まっ!!」

 彼女の傷に口を当てて血を……別にいやらしい目的とかそういうのがあるわけではない。ただ妙な毒的なのがあるのかと危惧しただけだ。よくあるじゃん。まぁ行動は見よう見まねだがね。

 だって顔赤いし、奴らそういう卑劣なことしそうな人の風上にも置けない滅すべき下等な生ゴミ以下の公害撒き散らす廃棄物だし。鍋ひっくり返したし。

 そんな訳でチゥっと吸ってプッと吐く。そんで彼女を地面に置く。

 下手に素人が治療するより、これ以上は『癒し手』様に綺麗に直してもらった方がいいだろう。

「一応毒とか警戒して吸っといたけど、早めにお姫様のとこ行って治して貰って」

「え? あ、はい……」

 いまだ顔が赤い。大丈夫か?

 ……いや、いまここで自分はどうにかする事はできない。生き物に能力は効かないらしいので直したりはできないし、大人しくお姫様に任しておこう。

 もしかしたら単に男耐性ないだけかもわからんし。

 そんな事より、奴らだ。あいつらぜってー潰す。生まれたことを後悔させる。

 たしかに自分は短気な部類の人間だけど、これはキレても仕方がないべ。

 剥いて茹でて出汁とって塩振って齧る。食べ物の恨みをその骨髄まで染みこませてやる。いまならうらみ念法だって使える気がする。

 こ・の・う・ら・み・は・ら・さ・で・お・く・べ・き・か!!

 そもそも奴らが食料を強奪しなければこうならなかったのだ。奴らと奴らの侵入口付近に食料庫を置いといたここの村民が悪いんだ。

 村民は別にしても奴らが諸悪の根源、根絶するべき悪であるのは間違いない。それに考えてみたら奴らのとこに大量の食料があるということになるはずだ。行かざるをえまい。

 自分は立ち上がり森へ向かって足を――

「待て、ナルミどこへいく!?」

 ゼノアに止められた。どこへ行くって、決まっておろう。

「奴らを、潰しに」

「だめだ、呂律が回ってないような奴を一人で行かせるわけにはいかない。そもそもこんなくらい森の中を追うのは無茶だ」

「……場所なら自分の『影』が教えてくれる。それに呂律だっていまなら大丈夫だ」

 そう言って影を指差す。それは森の奥深くまで繋がっており、これを追えば問題ない。

「しかし――」

「自分はな、ゼノア。行かねばならないのだ」

 そう言ってチラリと鍋を見る。あのおいしそうだった黄金色のスープは地に呑まれ、具材のどれもが土に塗れている。

 とても……喰えたものではない。

「彼奴はやってはいけないことをやらかした。自分の何により大切なものを傷つけ壊した! 万死に値する!!」

「はぇ!?」

「……え? ちょ、何よりって――」

「よって彼奴らを根絶やしにする! 剥いて茹でて出汁とって塩振ってボイルして齧る! 特に実行犯は念入りに茹でる!!」

 ちなみに茹でるだなんだ言ってるけどただ考えないで骨髄反射で言ってるだけで意味はない。とりあえずひどい目にあわせてやるって意味で。ホントにやったら死んじゃうし。

「かじ……いや、なぜお前はそこまで――」

「くーどーい!!」

 後から冷静に考えれば、別にくどくはない。

「近衛隊とはそういうものだろう? 『やってはいけない事をやった者は徹底的に』この前ミミリィ隊長がそんな感じなこと言ってたしょや。奴らはそーいうことをやったのだ。よって殲滅する。剥いて茹でて出汁とって塩振ってボイルしてオーブンに入れて齧る」

「ま、待ってください!!」

 そんな叫びと共に今度は妹の方がすがり付いてきた。なんだ、どうしたまだいたのか。さっさと治療しに行けよ。

「そんな、でも、ほら、壊したなんて私、大丈夫ですよ! だから落ち着いてください!!」

 うん、むしろ君が落ち着こうか。主語と述語が抜けてて混乱してんのがよくわかる。恐らく『私はまだ大丈夫だと思います』といいたいのだろう。

 しかしあれだな……君的にはアレでもまだ大丈夫なのか。いまなんかもう茶色い虫が引っ付いてんぞ。

「……別に君がどう思おうが関係ないよ。これは自分の問題だ。自分のために奴らを齧る」

「そう、ですか……」

 ……いやね、うん。何かここで唐突に齧るとか口走ってしまったのはすぐにマズったと気付いたさ。恥ずかしかったさ若干冷静になったさ。

 だからこう、恥ずかしさを紛らわすため自分にべったりくっついて服を掴んでる彼女を強引に引き離してちょっと乱暴に突き放した。

「ともかく、自分は行く。奴らを潰す」

 そう言って再び自分は一歩を踏み――

「わかった、そこまで言うならば俺も行こう。足手まといにはならないはずだ」

 ほう。なるほどゼノアが来るなら百人力だ。

 ここは格好よく『好きにしろ』とでも言いながら歩き出すのが正解なのだろう。

 が、しかしだ。


「……たいちょーが指揮ほっぽってって大丈夫なん?」

「……なぜそこでいつもの調子にもどる」

 ……いや、いつもの調子だろうがなんだろうが一番あなたが考えなきゃならない事だと思うのですがどうでしょうか旦那。




*out side*




 迂闊だった。彼は、ゼノアは己の思慮の甘さに内心で歯噛みする。

 恐らくこの村を先程襲った連中だろう、森の向こうから一本の『矢』が飛んできたのだ。

 これだけの人数が駐在し、警戒を行っているこの村に再び『奴ら』が攻めて来るとは考えていなかった。

 ましてや賊程度が正式な国の軍隊相手に喧嘩を売るなんて想定してはいなかった。

 想定外の出来事。過信と驕り、故の油断。己の未熟さが身に染みる。

 ナルミがとっさに動いてくれなければ今頃妹にその矢が刺さっていた事だろう。そう思うと、ゾッとする。

 ありがたいことにシルバについてはナルミが抱えて護ってくれるようなので彼に任せておけばいい。

 と、それを見ると同時に自身に魔法の防壁を張った途端、森の向こうから複数の矢が明らかに敵意を持って、こちらを狙って飛んでくるのが目に入った。

「敵襲! 全員起きろ!!」

 しかしそう声を張り上げ叫んだ途端、奴らは攻撃をやめて引っ込んでいく。

 まるでこちらの様子を伺うような、そんな印象が見て取れる。

 が、それらを考えるのは後だ。こういう事態になってしまったからにはそれなりに対応を変えなくてはならない。

 とりあえずはいったんたちは後ろに下がり、警戒を強めなければならない。

「チッ、引いたか……あいつらはなんだ、この数相手に喧嘩を売ってきて……まぁいい、それよりナル――」

 ナルミ、ここは危険だから一度下がろう。

 そう言おうとしたゼノアの言葉は、ナルミのの小さく、消え入りそうな呟きによって取り消された。

「……なに……てんの」

「え?」

「なにしてくれちゃってんの?」

 ブツブツと呟くような声はだんだんだんだん大きくなり、そして――

「お、おいナ――」

「あいつらなにしてくれちゃってんのぉぉぉぉ!?」

 咆哮。地を震わすような、恐ろしいまでの大きな叫び。

 思わず体がすくみ上がる。

「ちょ、ナルミ! どうした!!」

「あぁ!?」

 振り向いたその顔はいつものにこやかな笑顔に似たものではあるが、しかしその実どこかが違う。怒りと絶望に染められた、憎しみの篭った顔であった。

 彼は森の方を睨みながらブツブツと何かを呟きだす。すると彼の『影』が浮かび上がり、風に乗った布のようにするすると闇の中に消えていく。

 そして不意に下を、彼の抱えているシルバのほうへ目をやると、ナルミは優しくその脚から靴下を脱がしてやる。

 この時ゼノアは気がついた。彼女の足に一筋のかすり傷があることを。

「失礼」

「え!? あ、まっ!!」

 そしてナルミはその傷に口を当て血を吸うと、そのままプッと吐き出した。そして優しく彼女を降ろしていうのである。

「一応毒とか警戒して吸っといたけど、早めにお姫様のとこ行って治して貰って」

「え? あ、はい……」

 それだけ言って彼は森へ向かって足を進めようとした。が、慌ててゼノアが引き止める。

「待て、ナルミどこへいく!?」

「奴らを、潰しに」

「だめだ、呂律が回ってないような奴を一人で行かせるわけにはいかない。そもそもこんなくらい森の中を追うのは無茶だ」

「……場所なら自分の『影』が教えてくれる。それに呂律だっていまなら大丈夫だ」

「しかし――」

「自分はな、ゼノア。行かねばならないのだ」

 そう言って彼はチラリと、シルバの方に目を向ける。悲しそうな、悔しそうな顔で彼女を見る。

 一瞬ではあるがそんな目を向けられたシルバも、そんなナルミの様子を見たゼノアも共に戸惑い、うろたえる。

 なにかシルバにあったのだろうか、そう二人とも混乱すり最中、次の瞬間にナルミは思いもよらない言葉を発した・

「彼奴はやってはいけないことをやらかした。自分の何により大切なものを傷つけ壊した! 万死に値する!!」

「はぇ!?」

「……え? ちょ、何よりって――」

 つまりシルバが何よりも大切なものだというのか?

 それを確認するまでもなく、彼は怒りと憎しみの篭った声でまくし立てる。

「よって彼奴らを根絶やしにする! 剥いて茹でて出汁とって塩振ってボイルして齧る! 特に実行犯は念入りに茹でる!!」

「かじ……いや、なぜお前はそこまで――」

「くーどーい! 近衛隊とはそういうものだろう? 『やってはいけない事をやった者は徹底的に』この前ミミリィ隊長がそんな感じなこと言ってたしょや。奴らはそーいうことをやったのだ。よって殲滅する。剥いて茹でて出汁とって塩振ってボイルしてオーブンに入れて齧る」

 ゼノアはこの言葉を聞いてただ単にシルバが傷つけられたからここまで怒ってるのではなく、仲間が傷つけられた事を怒っている可能性も考えたが、どちらとも判断がつかないでいた。

「ま、待ってください! そんな、でも、ほら、壊したなんて私、大丈夫ですよ! だから落ち着いてください!!」

「……別に君がどう思おうが関係ないよ。これは自分の問題だ。自分のために奴らを齧る」

「そう、ですか……」

 対してシルバはと言うと、そこまで考えが回っていないのかナルミにしがみついて自身は大丈夫であるとアピールをする。

 が、それでもナルミの意思は固いようで彼女の言葉もむなしくそのまま突き放されてしまった。

 その時の彼の顔は、なんともいえない気持ちを噛み殺したような顔だった。まるで彼女を突き離すのが心底から辛いかのような。

「ともかく、自分は行く。奴らを潰す」

 どうやっても彼の説得はできないようだ。

 恐らくなにをもってしても彼は一人で奴らの後を追うだろう。

「……わかった、そこまで言うならば俺も行こう。足手まといにはならないはずだ」

 ならば、とゼノアは前に出る。

 どんな理由にせよ彼は友で妹を護ってくれた恩人だ。止めることができないのならば、せめて一緒に行って背中くらいは護ってやろう。

 そしてなにより、隙を見てシルバをどう思っているのかを聞いてやろう。

 そんな思いを胸に彼はナルミに歩み寄り、そしてついていくと申し出た。

 するとナルミは一瞬驚いたような顔をした後、先程までの感情はどこへやら、いつもの調子いつもの笑顔で指を指しながら言うのである。


「……たいちょーが指揮ほっぽってって大丈夫なん?」

「……なぜそこでいつもの調子にもどる」

 こいつは、本当よくわからん。

 ゼノアは脱力しながらそう心の中でつぶやくのであった。


もうちょいこういうのがうまくかけるようになりたいね

後話し変わるけどこの前溝に落ちて股を打った

痛くて死にたくなった

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