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150・ブシャー

 まぁとりあえずこれで近場の魔獣は退治した。あとはこの人柱を持って――

『あいつらを止めろぉ!』

 どれかはわからないが、どこかの魔獣がそう叫んだ。それと同時に大量の魔獣がなりふり構わず襲い来る。

 が、しかしだ。そこはさすがに止めさせてもらうぜ。

「帰れ!」

 それ、薙ぎ払いチョップだ薙ぎ払いチョップ。まだ能力解除しとらんかったんだぜ?

 自分が腕を振るうと何かよくわからん力により魔獣さんたちが吹き飛んだ。

 ……なんだろう、クセになりそう。

「ふふふ、さすがだな」

 ありがとアニスさん。でもほとんど貰い物の力によるものだから褒められてもなんか複雑な――

「さて、しかしこれでは彼女たちの出番がなくなってしまったかもしれないな」

 彼女たち?

 彼女の言葉を聞くと同時に、視線を感じて後ろを見ると……うん。そんな目で見るな精霊軍団。いいじゃないか。

 ま、んなことはどうでもいい。

 それよりもこれをさっさと回収して逃げようぜ。

 と思った直後だ。アニスさんが目の色を変えて斧を握り直したのは。

「さぁ! やるぞ!」

 あ、ここでやるのか。

「喰らい尽くせ『マニティ――」

『『ふざけるな!』』

 二重にかぶさりエコーがかった声が響く。

 それと同時に、紫色の光の弾がアニスさん目がけて――あ、ヤバッ!

「動くな!」

「きゃぁ!?」

 アニスさんにタックルするように、押し倒すように彼女を抱えて転がりながら退避する。

 するとどうだ。さっきまで彼女がいた場所を無数の光弾が通りすぎて……あ、空中で弾けた。

 そうか、魔獣を防いでいた結界はあの位置か。

 まぁ、それはいいや。

「ちょーっと、危なかったわね」

 立ち上がりながら、弾の飛んできた方向に目を向ける。

 そこにはなるほど、なんか先程の小鬼二体が合体して巨大化したような変な魔獣がそこにいた。

 頭が二つある蜘蛛のような魔獣。とでも言えばいいのかな。

 四本の腕と四本の脚で四つん這いになるように、まさしく蜘蛛が這うようにそこに佇みこちらを睨んでいる。

 頭や胴、手足など局部的にみれば人のそれだが、それが複合されるとなればなまじ人の原型を辛うじてとどめているからグロテスクさが際立つな。

『『ふざけるなふざけるなふざけるな! よくも僕たちを! 人風情が! 下等生物風情が! よくも! よくも!』』

 あーあ。だいぶご立腹。

 ……距離が近いな。一旦離れた方がよさそうだ。

「立てる? 怪我はない?」

 自分はそう言いながらアニスさんへと手を差し伸べる。

 すると彼女は、何もアクションを起こすことなく頬を赤らめながら自分を見つめるのだ。

「へ? は、はひ……」

 いや、はひじゃなくて。

「立て」

「あ、は、はい」

 腕を掴んで無理やり立たせる。

 まったくもう……まぁ、やることは豪快だが女の子だしね。あんなのが相手なら怖くなっても無理はないか。

「ちょーっと、厄介なの出てきたよ」

「は、はい! そうですね! あれは、先程の?」

「たぶんね」

「確かに斬ったはずでしたが……」

「たまたまくっついたんじゃない?」

 原理は知らんしどうでもいい。

 だが問題は、至近距離にアレがいるということだ。

『『殺す! 殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロス!』』

 壊れたレコーダーが同じフレーズを再生するように、奴は同じ言葉を繰り返し叫び続ける。

 それと同時に、奴の二つの顔面の前に紫色の光の玉が作り出された。それはものすごい速さで、まるでビデオの早送りをしているかのようなスピードで大きく大きく成長し……あ、これヤバい。直径が自分の2倍はある。

「まっず!」

 とりあえずぶん殴る!

 さっきの鳥みたいにお空向ければ上に飛んでいくだろうし、顎を目がけてアッパーかけたる!

 そんな意気込みと共に自分は駆け出し、拳を握る。

 しかし出だしが遅れたのが悪かったのだろう。自分と魔獣との間には巨大な光の玉がある。もはや視界を覆うほど大きなそれの向こうに、自分が殴り飛ばすべきである敵がいるのだ。

 きっとこの玉は触れば無事ではすまないのだろう。とても危険なものなのだろう。

 ……が、まぁ大丈夫か。自分には魔法は効かないのだ。この光の弾の中へと突っ込んでそのまま反対側にある顔面を叩けばいい。

 それに一応、あれだな。F12『魔法無効化装甲』と。これでいい。

 ただまぁ視界がふさがれるからきちんと殴れるかわからないのが問題だけど、やるしか――

「ナルミ!」

 王子様の叫びと共に、自分の横を何かが追い抜く。

 視界の端を横切るそれは一本の棒であり……いや、これは、槍か?

 ……ああ、そうか。あの魔法を無効化する槍か。

 それが、自分を追い抜き、つまり自分より先に光の玉へと突っ込んで――

『『……へぁ?』』

 その恐ろしい魔法の塊を、一瞬の後に塵と化したのだ。

 そして開けた視界には、意味が分からず呆然と間抜け面を晒す双頭の魔獣。

『ぶべぁ!?』

 あ、槍がついでと言わんばかりに片方の顔面に突き刺さった。と言うか貫いた。えらいコントロールとパワーだな。

 ……血が、脳漿が……知らない知らない自分は何も見ていない。

 ま、まぁ、こんなやつぶっ飛ばすこと決定してたんだしそれを自分がやったか他人がやったかの違いでしかないんだ! うん、そうそう。王子様がやんなかったら自分がやってた。

 そんなわけでじゃあ刺さってない方を。

「ソイヤッ!」

『ごぶぁ!?』

 顎に一撃。再び振るわれたスーパーマンパンチは魔獣の二つあった頭の内一つを分離し弾き飛ばし、そして遠くに飛ばしていった。

 ……まさか飛ぶとは。血がブシャーって。

 ま、まぁいい。そうして魔獣は見事息絶え、ビックンビックン痙攣をおこしながら地に倒れたのであった。

 脳みそが二つ潰れたならさすがにもう復活はしないべ。

「ふぅ……やるじゃん王子様。助かったぜ」

 そんなわけで、一人つぶやきながら自分は槍を引き抜き……引き抜き……頭ついてくるな! 千切れるな!

 まったく、おまえはいらないの。というか見たくないの! ポイですポイ。

 そんなわけで槍を再び手に持って、人柱のところに戻るのだ。


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