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15・飢える旅路

 ガタゴトガタゴトと何かが揺れる音で目が覚める。

 体がだるい、そして重い。

 というか痛い、寝床が固い、あと揺れる。

 何だこれは、自分の人生史において最上級に目覚めが悪いぞ。

「あ、起きた」

 目の前には自分を覗きこむお姫様のご尊顔がありました。彼女はイタズラっぽい顔をしながら自分の鼻を摘んだり――

「おい、やめろ。鼻をつまむな。齧るぞ」

「むぅ……」

 名にむくれてるんだかまったく、何故に真っ先に姫様のお顔を拝見せにゃならんのだ。

 あとスゥ君、君なに人のすね毛いじってんの? リム副隊長もなに興味深そうに一緒に見てんの? バカじゃないの?

 そしてあれだ、ここはどこだ?


 その後、シルバちゃんがものすごい泣きそうな……というか泣きながら説明してくれた事をかい摘まんで要約するとこうなる。

「……詰まるところ、自分は倒れてしまって、出発の時間になっても起きないから、気絶した自分をダイレクトにこの馬車へ押し込んで出発したって訳ね」

「は、い……ごめ。なさい……」

 ちなみに、これだけの情報を引き出すのに既に一時間程の時間を要した。

 やってる間になんか自分がとても悪い事してるような錯覚がしてしかたがなかったよ。

 あ、あと今この馬車にいるのはムー君とテトラ君以外の近衛隊と姫様だけで、二人は外で御者って言うの? なんか見張りも兼ねてお馬さんを操ってるんだとさ、大変だねー。自分にはとてもできない。

 とかそんな事を能天気にやってるうちに一つの大きな問題が発生した。

 それはなんというか、生理現象のようなもので……。自分のお腹から大きな音がしたのである。まるで深淵から這い出る魔物の叫びのような音が、こう、『グギュルルルルル』って感じに。

 それは何かと言うとそう、言わなくてもわかるだろう。

「……おなかすいた」

 腹の虫だよ。

 だって自分朝ごはん食べようとしたところで、朝ごはんとして食べられてしまったんだもの。エネルギー補給する前にエネルギー供給しちゃったんだもん。

 なので朝ごはんは食べそこね、食べられた分のエネルギーを体が求めているのです。

「あぅ、あ……ごめんなさい、ごめんなさい……」

 そしてここでめちゃんこ落ち込むシルバちゃん。

 いや、気持ちはわかるけど落ち込みすぎではなかろうか? ほら自分生きてるし、気にしないの。

 ただその後で笑ってるお姫様はもう少し色々気にしような? 自分の腹の虫がそんなに面白いか。齧るぞ。

 ……じゃなくって

「いや、いいよ、別に。気にしてないし。今度からは気をつけなさい」

 優しくフォローし寛大な、器の広いアピールをする自分。

 あ、いやけして本気でそう思ってやったわけではないよ? ただこのまま落ち込まれまくると自分が罪悪感を感じて精神衛生上非常によくない。

 だから早急に彼女には立ち直ってもらいたいのだ。

 あと自分は一回彼女の首を飛ばしたのでその罪悪感と言うのもある。

 いやほんと、後から後から考えるほどにやりすぎた感が自分の罪悪感を刺激する。後悔は人を駄目にするね。

 そんな事を考えてる間にももう一度腹の虫は雄叫びを上げ我らが姫様を笑いに誘う。

 こいつは、いつかシバいてやろうか。赤面しつつそう考えながら、自分は影はと手を入れる。

 確かあったはずなのだ、学校で放課後にみんなで食べるために……あ、あったあったカップ麺……水ないからパス。そう、こっちよこっち。

 みんな大好き筍チョコ。茸も好きだけどね。

 でも一番好きなのはパイのやつです。あ、次点でコアラね。

 ホントは友達と放課後に啄むつもり、というより意図的に戦争を起こすための起爆剤として使うつもりだったのだが、しかたがない。飢死したくないので、それを開けて貪り喰うことにした。

 そうして箱を袋を開けまして、一つ二つと口に入れてるうちに……どしたん、みんなで凝視して。

 あ、あぁ、そっか。このお菓子が珍しいのか。

 しょうがないなぁ。

「食べてみる?」

「…いえ、せんせ――」

「食べる」

「ええ……」

 ミミリィ隊長、心遣いありがとう。そしてお姫様、少しは遠慮しろ。

 そんなこと考えてると、姫様が袋ごとひったくってった。

 ……まじ遠慮しろや。造反するぞ。

「……あまい」

 そして黙々と食べるな。それ中身案外少ないんだから。

「……独占すんな、そろそろ返せ」

「や」

 ……こいつ

「姫様、僕たちにも少しいただけませんか?」

「…少しだけだぞ」

 ……あれ? リム副隊長、なんで自分でなく姫様に許可求めてんのさ。

 そして乙女二人、縋るような目で見てくれるな。

「……いいよ、二人とも食べな」

 それを合図に二人の少女も筍を一つとって口に運ぶ。

「……おいしい」

「もうダメだぞ、これは私のだ」

 そこまで喜ばれると製造元も本望だろうよ。

 だがそれは自分のだ。返せ。

「返せ」

「や」

「わがまま言わない」

「や」

「齧るぞ」

「シルバに齧られたんだからそっちに齧り返して来い」

 ……駄目だこれ埒があかない。でもだからってお姫様相手に実力行使というのもアレだしなぁ。

「……そんな準備しないでも齧らないから」

「え、あ……すいません」

 とりあえず返してくれる気配が無いので、そこで首を差し出すために襟をまくったシルバちゃんを牽制しつつ仕方がなしに飴を舐めることにした。

 だって他に食べ物がお湯のないカップ麺しかないんだもん。

「……それはなんだ。すこしくれ」

 そしてこいつはその最後の食料すら強奪しようとするのか。

「だめ、自分が餓死する。ただの飴だから気にするな」

 というか少しも何も一つしかねぇよ。

「むぅ、貧弱だぞ、それくらいで餓死とは」

「うるせ」

「セタは酒さえあれば四日は何も食わなくても生きていけたというのに」

「……それは別の意味で問題じゃない?」

 その後の道中では、罪滅ぼしのためかかいがいしく自分の食事の用意をしようとしたシルバちゃんが盛大にずっこけてお昼ご飯が台無しになった事以外は特に問題はなかったよ。

 凄いね、ドジッ娘ってホントにいるんだ。妄想の産物だと思ってた。

 ね、シルバちゃん。近衛隊全員分のお昼が入った鍋をひっくり返すって、中々のファインプレーだと思うよ?


 いやぁ……これは死ぬかもわからんね。




***




 そんなこんなで筍事件から6時間ほどしたところで馬車が止まった。

なんでも、もう少しでとある村に着くからそのために一度きちんと隊列を組みなおすんだとか。

 まるで大名行列のようだ。

 あちなみに、降りた時知ったが馬車は四グループあり、それぞれ近衛隊とお姫様の馬車が一台と、第1と第2大隊の馬車が計2台、そして荷物の馬車が二台である。あと徒歩が多数。

 まんま大名行列のようだ。

 また、姫様の馬車は他より大きく、姫様専用簡易ベッドがあったりする。他は全員寝袋に雑魚寝である。

 さて、そんな訳で雲一つない空もだんだん暗くなり、綺麗な紫色に染まっている中、自分達は規則正しくこの平原を群れをなして進んでいた。

 いやほんと、馬車の窓からのぞく景色は大自然に囲まれて、なんとも清々しい。まるでキャンプをしている気分だ。

 これでお腹さえ満たされてたら最高だ。

 あ、一番星みっけ。この世界でもあるんだ。きれいだなぁ。金平糖みたい。お腹すいたなぁ。

 お、あっちには川が流れてる。夕日が反射してとてもとても美しい。魚とかいるんだろうか? お腹すいたなぁ。

 おー、前方には何か燃えてるのか黒い煙が立ち込めてるぞ。いいね、焼肉とかバーベキューだとか、肉が食いたくなる。煙と言えば作りたてのスモークチーズやベーコンってすっごい美味しいんだよ。お腹すいたなぁ。

 ……あぁ、なんかお腹すきすぎて色々駄目だ。これホント駄目なタイプだ。幻覚見え始めた。

 いくら村があるからってあんなもうもうと黒い煙は――

「……なに? 焦げ臭い。なんだ?」

「うん? どうしたミミー―」

「隊長、緊急事態です」

 そういって慌てた様子で飛び入ってきたのはムー君である。本日はじめて見る顔だ。やっほー。

 で、緊急事態ってなんだろね? 晩御飯が出ないとか?

 ……あ、今考えてみればお昼時にお湯貰えばカップ麺食べれたじゃん! ばっかじゃないの自分!

「どうしたの?」


「村が何者かに襲撃されています!」


 ……はぇ?



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