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150・ザコ枠

 紅騎士が突撃するのと入れ替わるように、アニスさんが少しだけ肩で息をしながら戻ってきた。

「すまない。さすがに、、人柱は処理できなかった」

 ……。

「知ってたの」

「話はだいたい分かっている。人柱を破壊する気だろう?」

 ……この短時間のどこでその話を聞いたんだろう。

 そして破壊、破壊、うん。

「なるだけ殺したくはないんだけどね」

「……」

 なんねその意味深な沈黙は。

「ハセガワ様、あなたは、賭けは好きか?」

「え?」

 賭け? ギャンブルのこと?

 麻雀は大好きだよ。

「大好き」

 伊達に幼稚園児の時分から雀牌触っとらんぞ。

 常識的な金額以上を賭けてはやらないがな。

 ……ホントだよ? もう痛い目は見たくない。

 で、それがなにか?

「そうか、なら話は早い」

「なにが?」

「少々、分の悪い賭けをしてはみないか?」

 いやそれだけの情報では乗ることはできんよ。

「具体的には?」

「私の斧で人柱の呪いを喰らう。この斧は、魔を断ち喰らう斧だ。これで人柱に掛けられた呪いを喰らい、魔術を集める力を消し去る。そうすれば、彼らはただの生きた肉塊だ。幸いにして先程のアレで今まで喰らった魔はすべて吐き出した。呪いを喰らうだけの腹は、空いているはずだ」

 言い方はアレだが全然分の悪い賭けじゃないじゃないか。

 いいよいいよ。やろうよやろうよ。

「いいね、それでいこう」

「ただ、言うのは簡単だが、本当にできるかどうかはわからない。いくらこいつでも、魔獣の呪いを喰らいきれるかどうか……正直に言うと、私は恐らく無理ではないかと思っている。それにできたとして、彼らをその後どうするかも考えていない。そしてなにより、人を斬らずに魔のみを喰らうなど……」

 何弱気になっとんね。

「問題ないさ。できなかったとして、失うものはなにもないべ」

 ……まぁ、無いという訳ではないがね。

 具体的には人柱の命よな。

 でも他に手段が思いつかない以上、これでだめなら、諦めるだけだ。

 それは仕方がない事なのだ。

「……」

 だから、そんな顔しないでほしいな。

「結果出る前から泣いちゃダメさ。せっかくの美人さんが台無しよ? それに、君なら大丈夫。自分が信じてるから賭けたんだぜ? 安心せ、責任は自分が持つ。君は、自分が命令したからやっただけだ」

 軽く背中を叩いて鼓舞してやる。

 ……決してボディタッチを狙ったわけではないぞ? ホントだぞ?

「……あなたは」

 あの、えっと、そんな顔でホントこっち見ないで。

 マジで卑猥な気持ちはゼロでしたので。いやホント。

「……わかった。その期待、応えて見せよう」

 え、あ、うん。

「頼んだよ」

「ああ」

 とりあえず痴漢疑惑は晴れた、のかな?

『糞が! なんだこいつ!』

『なんていう強さだ!』

『さっきの女もそうだがこいつらはバケモンか!』

 あ、ごめん紅騎士。君の活躍見てなかった。

 ……ほんとに強かったんだな、お前。

 え? なにこっちチラ見して……って、あ、うん。ちゃんと話は終わったよ。

 ……そんなアピールせんでもわかったから。君は、強い。うん。自分しっかり見てた。

「あんがと。このまま人柱、奪うよ」

 自分の言葉に奴は頷き、そして襲い来る魔獣を一閃でもって切り伏せる。

 ホントのほんとに強かったんだな、お前。

 まぁとりあえずと、目標は目前だ。

「ころ、して……」

「痛いよ……痛いよ……」

 ……聞こえない聞こえない。自分は悪くないしむしろ彼らを救うのだ。

 こんなことに心を乱してはいけない。

 さぁ、迫りくる雑魚は軽く散らして、目標を奪ってさっさと――

『『調子に乗るなー!』』

 あ、精霊さんたちが吹き飛んだ。

 見るとそこには首があらぬ方向に曲がったてり手足がもがれたりして割とえげつないことになってる小鬼魔獣の二人組が肩で息しながら……本当にえげつないな。

『はー……はー……調子に乗るな下級精霊風情が!』

『ぜー……ぜー……人に与する寄生虫風情がよくも!』

 その下級な寄生虫にぼっこぼこにされててよく言うわ。

『よくも僕たちを! こんな屈辱を僕たちによくも!』

『許さないぞ! お前たちに最大の絶望を与えてやる!』

『『このままお前たちの主を欠片も残さず消し飛ばして――』』

「獣が人の言葉を喋るな」

 バッサリと。いきり怒りに燃える二匹の魔獣は、アニスさんと紅騎士の手によって真っ二つに両断された。

 早いよ。そんで強いよ。

 なんか……本格的にザコ枠だったのかな、あれ。

 見てくれあれだが、ああいうのはもうちょい強いイメージがあったのだがなぁ。

「ふん……この程度か」

 そう言って斧を払うアニスさん。その横では紅騎士が剣を振るって血を落とす。

 ……これ自分必要だったかな?


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