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148・無双ゲー

「ナルミ! 俺の花嫁たちを貸してやる! 行ってこい!」

 王子様が叫ぶと同時、周りにいた美女たち、つまり彼の精霊、花嫁さんたちは一斉に魔獣へ向かって飛んでいく。

 ……なかなかに混沌とした光景だ。

「え、あ、はい」

 ……そして自分も言われて反射的に駆け出してしまったが、これはいったいどうすれば。

 そもそも彼女たちが何ができるのかもさっぱりだぜ?

 精霊さんだから強いのだろうとは思うが、いかんせん扱いが。

 というかまだこんなことできる力残ってたんかいあんた。

 そんなことを思ってる間に、あっという間に精霊さんたちが魔獣のもとにたどり着いた。

 そして、そこで彼女らが行ったことは実にシンプルでわかりやすい行動だ。

『ぎゃ!』

『うがっ!』

 あ、これ知ってる。リンチってやつだ。

 みんなして殴る蹴るして、あと魔法みたいなのも至近距離からぶっ放してあの二体の小鬼魔獣を私刑にしてる。中には武器持ってる子まで。

 それだけじゃない。そのほかの近くにいる魔獣さんもぼっこぼこに撃退してる。

 見事な連携で、1対多数になるようにしながら。

 ……ただの数の暴力かよ。

 でもまぁとりあえず有用と言えば有用ではあるね。うん。最初っからやれよ。

 まぁ、とりあえずこれであいつらはなんとかなったわけだし、じゃあこのまま自分は人柱を――

『させん!』

『くたばれ人間!』

 あぁそうだね。あの二体以外にも魔獣はいたね。

 襲い掛かってくる二体の魔獣。いやそれだけではない。

 その後ろにも様々な魔獣がひしめき、そして自分が人柱を回収するのを阻止しようとして動いているのだ。

 いくら精霊さんが多いとはいえ、それでも限界はあるということか。

 考えてみればそうか。というかここは結界の外か。

 ちょうどいいや。このまま薙ぎ払ってしまおう。

 人をこんな風にしていじめる外道にゃ、さすがの時分も加減はせんぞ?

 そんな訳でF12『薙ぎ払いチョップ』

「邪魔を――」

 しないの。

 と言って自分が腕を薙ぎ払おう、と言うか薙ぎ払う為に腕を持ち上げようとしたその瞬間、自分に襲い掛かってきていた魔獣が、なぜか勝手に吹き飛んだ。

 あと同時に自分の視界の中に何かが出てきた。

『ぐぇ!』

『ぎゃあ!』

 それは二人の人の姿。

 一つは夕日のように真っ赤な紅の色をした、美しい白銀の剣を血に染める鎧甲冑の騎士。

 一つは青に近い紫色の髪をなびかせながら、身の丈ほどある巨大な斧を赤く塗らす可愛らしいメイドさん。

 ……なーんでこんなところにいるん。

「間に合ったか!」

「あ、うん。なんでここに」

「助太刀に来た!」

 あ、お、おう。

 助太刀はいいけど、持ち場は大丈夫――

「大した男だよ、あなたは。あなたがほとんどすべての魔獣を引き付けてくれたおかげでだいぶ休むことができた。また、命を救われたな」

 ……ひきつけた記憶がないのだが、ひきつけてたんだろうか?

「それに、姫も、助けてくれた。感謝してもしきれない」

 ……ちょ、それは、あの、やめてくだ、さい。

 ごめん。あの、その……守りきれ、なかったです。

 本当なんというか、うん、その……あとで首括るから、ごめん。

「……さて、しかし主と命、合わせて三度も救っていただいておきながら、このままではあなたの中で私は『か弱い乙女』のような不名誉な印象が残ってしまう」

 君は強いべ。

 自分みたいにふわふわして結局守れなかった人間より、よっぽど。

「だからここでひとつ、いいところを見せたくてな。それも含めて、ここに来た」

 彼女はそう叫び、姿勢を低くし斧を担ぐ。

 そして己を鼓舞するように、敵を威嚇するように、不敵で素敵な笑顔を見せながら雄叫んだ。

「さぁ! 暴れるぞマニティア!」

 その言葉の直後、彼女の斧が怪しく輝く光を放つ。その光の届く範囲の、刃の周りの空気が陽炎のように歪み、少しだけ景色が曲がって見える。

 あ、これきっと奥義的な何かだ。

「……ちょい、下がってなさい。下手こいたら巻き込まれるぜ。あと見せ場をとったらかわいそうでしょ?」

「……」

 明らかに巻き込まれる範囲にいた紅騎士をこっちに戻す。

 すると途端に、まるで待ってましたとでも言いたげに彼女は――

「お心遣い感謝する! 行くぞぉ!」

 業務用のスピーカーを最大まで音量上げたかのような声量で周囲の鼓膜にダメージを与えながら、彼女は斧を振り上げ突撃する。

 そして、身体の前で斧をまるで軽々と、目にもとまらぬ連撃を縦横無尽に振り回しバッタバッタと魔獣を切り裂く。

 なんねアレ、その、なんね。

 魔獣が紙屑のように刻まれ飛んでいくぞ。

「腹は膨れたか? それじゃあ! デザートだ!」

 先程よりも激しく背景を歪める斧を大きくぐるりと振り回し、魔獣を一網打尽と切り伏せる。

 そして最後に、その勢いのまま大きく大きく跳び上がり、敵の群れの中に急降下。

 力の限りと叩きつけられた斧より、白く輝く光の渦が巻きあがり……魔獣を飲み込み、逆巻いていく。さながら光る竜巻だ。

 ……。

「……無双ゲーかよ」

 思わずつぶやき、頭を抱える。

 よくこいつに勝てたな、自分。

 あと人柱のせいで魔法が使えないのではなかったのか? あれか? あれは武器の潜在能力だからとか言うのか?

「?」

 あ、いや、うん。そんな気にしないでいいのよ騎士ちゃん。

「強いなぁって言っただけ」

 自分の言葉に紅騎士は少しだけ頷くと、いまだ多数いる魔獣の群れの方に向き直り剣を構えて……対抗意識燃やさない。

 ……まぁ、いいけどもさ。


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