147・人柱
「そうか、あれは、人柱……外法か」
ほぉ。リム副隊長はあの塊について何か思い出したようで。
「説明お願いしても?」
「対魔術の為の外法さ。そこにある限り、人柱の命が尽きない限りあらゆる魔術は人柱へと引き寄せられる。普通は人柱にさせられる過程でだいたいが死んじゃうらしいけどね」
つまるところ魔法版避雷針か。
……でもそれってことはつまりだ。
「じゃあシルバちゃんの魔法は?」
「このままだとすべて人柱に集約されるね。人柱は使い物にならなくなるけど、シルバの歌も何度も唱えられるものじゃない」
つまりこのままじゃ計画がとん挫すると。
「なんとかしなきゃいけない訳ですね」
「そうなるね」
そうか……。
「ちなみに、人柱にされた人を――」
「無い。あるかもしれないけど僕はそれを知らない」
……助けられる可能性がないわけではないか。
「だからその考えは今は捨てて。あれが存在するだけで、シルバの歌は意味をなさなくなるんだ」
……。
「あいつらぶん殴るまでに対策考える」
「それはいいけど何もなければ僕が彼らを始末するからね」
……口にしたくないけど。口にしたくないけど!
「……でも、うん。さすがに状況選んでらんないのは理解してます。何か閃きゃ別ですが、そうじゃなかったら、うん……せめて、苦しまんように、うん」
「……覚悟があるなら、大丈夫さ。でも迷っているのなら、僕は君を置いていく」
ははは、手厳しい。
でもまぁさすがに、自分も守らないけない人たちがいるわけで。そんな彼らと見ず知らずの人柱さんたちとを比べたところで、自分の天秤がどちらに傾くかは明白だ。
「いざとなったら、頼みます」
「……わかった」
「案外ナルミならなんとかできるかもしれねぇがな」
そう言って自分は拳を鳴らし、リム副隊長と王子様は獲物を構える。
その様子を見たのか小鬼たちは、とても楽しそうにこちらに語り掛けてくるのである。
『すごいでしょ、この人柱。うまく作れた自信作』
『いっぱいいっぱい人を集めてこねてまとめて作ったんだ』
『普通の命だったら作る段階で死んじゃうんだけど、僕らは優秀だからね』
『死なないように延命してたくさん苦しむことができるようにしてるんだ』
『どんな魔術でもこれがあればへっちゃらなのさ』
『君たちの魔法はもちろん、あの子の歌だって防げるんだ』
『つまり君たちには僕たちを滅ぼす手段がもうないってこと』
『あの子の歌が最後の希望だったのに、残念でした』
『『あはははははははは!』』
心底からイライラさせられる、醜悪な笑い声の二重奏が鼓膜を震わせる。
よほど楽しいのだろう。よほどうれしいのだろう。奴らは喜々として、手を取り合ってその醜い笑顔をこちらに向けるのだ。
『君たちの魔法は完全に役立たずになっちゃったね』
『魔法が使えないからあの子の歌の前に人柱を破壊することもできないよね』
『魔法なしで僕たちに挑んで勝てるわけがないもんね』
『対して僕たちは君たちと違う人柱にひっかからない性質の魔法を使えるからね』
『自由に魔法を使い放題さ』
『勝てると思ったのに残念だったね』
『これが終わったら君たちも全員こうやって人柱にしてあげるからね』
『かわいい悲鳴をたくさんたくさん聞かせてね』
……あの二匹ムカつくなぁ。
やれるもんならやってみろってんだ。
RPGのザコみたいな見た目しくさっておきながら、魔法が使えなくなったくらいでいい気になるなよ。
こちとら最初からんなもん使えもしないんじゃ。
「自分、突っ込みます。あの二匹圧し折って人柱持ってきます。魔法が使えない以上、お二人は下がっていてくださいまし」
そう言って姿勢を低くし駆け出す準備をする。
が、直後王子様に冷静な声でツッコまれるのだ。
「持ってきてどうする」
……。
「助ける」
「アレが存在する限り、魔法は使えねぇんだぞ?」
「……なんとかする」
具体的な方法は……持ってくるまでに考える。
だって、まだ何も試みてないのに見捨てるのは、すごく、なんだ……精神衛生にね、悪いの。心に澱が残ってしまうの。
「なんとかする」
「……信じてるぜ、その言葉」
……王子様のその言葉はうれしいが、なんというかこれもう何とかできませんなんてなったら、うん。
大丈夫。今の自分には自称神様の、自称とはいえ神様の力があるのだ。
彼らを救うことくらい、きっとできる。はず。
「わかった。お前に任せる」
「ヤー」
まぁ何はともあれと、まずはアレを回収することが先決だ。
さぁ、覚悟しろよザコキャラ――
「暴れて来い。援護は俺たちに任せろ」
……魔法が使えないのではないのですかな。
「リム、俺を護れ。俺たちはあいつらを叩き潰す」
しかもこの人リム副隊長を守りに回すという事は、ひとりで自分の援護をするつもりなのか?
と言うかお前も突っ込む気なのか?
さすがにそれはどうにもならん――
「案ずるなナルミ。確かに今俺は魔法は使えんだろう。だがな、俺を誰だと思っている?」
その言葉の直後、彼の姿がぼんやりと揺らいで……いや、なんだ。霞がかかったように、なんだこれ。
と言うか自分たちの周りにも同じように……なんだこれ。
「俺は精霊たちの王である! 我が花嫁たちにとってあの程度の呪術など、縛る鎖となり得はしない!」
その叫びの直後、自分らの周りに様々な女性の姿が現れた。
ロリからお姉さんから、ぺったんからボインから。様々な属性の美女たちがそこにいた。
ある者はドレスをなびかせ宙に浮き、ある者は半裸で地面から生えて、半透明だったり無機質的な材質だったりと様々な美女が自分たちを囲んでいるのである。その数およそ20くらいか。
あ、よく見たら王子様に霞かかってたと思ってたの、あれ半分実体化しかけてた精霊さんたちがくっついてるだけだったのか。
そういやさっきまでもウンディーネさんとかを纏って似たような状態に……おいこら。何お前ら王子様の隣を奪い合ってケンカしとるんじゃ。
「喧嘩するな。安心しろ、すべてが終わればお前ら全員、等しく好きなだけ愛してやる」
……えー。
……。
えー。




