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146・小虫の類

 でもまぁ何はどうあれとして、被害もなく倒すことができたのだからそれでいいのだ。

 しかもそこそこ強そうな、というか幹部っぽいのをやっつけたんだ。

 これは敵さんもそこそこ動揺を――

『あーあ、死んじゃった』

『調子乗るから』

『バカってやだねー』

『ああはなりたくないよねー』

 してませんね。

 むしろものすごく『娯楽』としてしか見ていない印象。

 彼らにとっては仲間であっても命はとっても軽いのだろうね。

 ……まぁ、あっち陣営の内情の諸々はどうでもいいや。

 しかしなぁ……やり方はなんであれ、結果としたら奴はシルバちゃんの魔法の阻止を失敗したのだ。

 もうちょい焦ったり、なんとかしようとはしないのだろうか。

 ……もしくは、すでに何かしてあるとか。

「……ねぇ、これどう思う王子様」

「そうだな、今でそれなら本格的に鍛えたらお前どれだけ強力になるんだ?」

 そっちじゃねぇよ。

 言葉足らずだったのは認めるがそんなことどうでもいいんだよ。

「そうじゃなくて、彼らがどうにも余裕綽々すぎるのどう思う、って話。シルバちゃんの魔法が完成しつつある現状で、なにかあるんじゃないかと思わない? 自分にゃ見当つかないけど」

「……言われてみたらそうだな」

 おい。お前おい。

「でも気にしなくていいと思うぜ」

 いやいやいや。

「そういう訳にも」

「どうせお嬢の歌は止まらねぇよ。いままであいつがどれだけの敵をあれで叩き潰してきたと思う? 俺たちがお嬢を護りきれば、それで勝利だ」

 ……経験からの裏打ちだろうが、この考えは危険な気がするなぁ。

「むしろ俺が心配してるのは、お嬢の歌に気合が入りすぎていることだ」

 え? なにそれ。

「どゆこと?」

「……いや、たぶんお嬢はここら辺一帯を本気で更地にするというか……破壊しつくすことしか考えていないぜ」

 ……それは、あの、どう、なのでしょう。

「……シルバは見境なくなると怖いですからね。生命のみを対象にして命を吸い取るとか」

「やってたなぁ……」

 待って何なにそれ。

 と、やってるところでだ。自分の鼓膜は魔獣さんたちの方から、こんな声がするのを確かにとらえた。

『しょうがないなぁ。でもほっとくとアレあぶないよね』

『でもあの結界どうにかするのは面倒だよ。人間もいるし』

『それじゃああれ持ってこよ、あれ』

『だね。作っといてよかったよかった』

 二人分の子供っぽい声からなる短い会話。

 そしてそれにつられて声の方へ目を向けると……どれが声出したのかわかんねぇや。

 しかし、誰が声の主こそわからなかったが、かわりに自分の目は魔獣の群れの奥にて運ばれてくる、巨大な何かを目撃した。

 それは全長3メートルはあろうかという棒状の肌色をした……あ?

「……おい、なんだ、ありゃあ。なんなんだあれは!」

「あれは……わからない。悍ましいものであるということしか……」

 王子様とリム副隊長より驚愕の声があがる……いや、と言うよりも理解が追い付かない、と言う状態か。

 自分だってあんなもの、理解したくもないししようとも思わない。

 しかし、魔獣の群れの中においてもはっきり姿が見えるそれは、今まで見たこともないはずなのに、しっかりそれが何であるか、脳みそが理解できてしまう形をしていた。

『ちゃんと立つ?』

『根元をしっかり埋めて、よし』

『あとは烙印をつけて』

『できた、完成!』

 二体の小さな、愛嬌も可愛らしさもない醜い小鬼のような魔獣が一生懸命ソレを埋め込み立てている。

 そして無事達成できたのだろう。奴らはいい汗かいたとでも言いたげな雰囲気で、満足そうな顔をするのだ。

 そんな、不愉快な表情のまま、奴らは得意げに前に出る。よほど自分らに己の言葉を利かせた異様だ。

『人柱、作っておいてよかったね』

『暇つぶしが役に立つとは思わなかったよ』

 ……それは、確かに人である。

 丸太のような大きな棒の先。そこに人が張り付けられているのだ。

 ただ、縛られてるとか、打ち付けられているとかそんな生易しいものではなく……うん。

 いうならあれだね。焼き鳥屋さんで出てくるつくね状態だ。

 丸太の先に、幾人もの人が解けて、結合して、混ざりあい、まるで最初っからそう言う生物であるかのように、一つの団子状になってくっついているのだ。

 老若男女種族種別問わずいくつもの顔が身体が四肢が張り付き、所によっては頭が手足が飛び出している。

 グロテスク。この一言に尽きる。

 しかもたちの悪いことに彼らはまだ生きている。

 手足はうごめき顔は苦痛に歪み、悲痛な声と懇願の悲鳴をあげているのだ。

「もう、ごろじで……」

「いだいよ……いだいよぉ……」

「だず、けでくだざい……」

『もう少しであの子が殺してくれるって』

『やっと死ねるね。嬉しいでしょ』

「やだ、じにだくない……」

「たずけで……いやだぁ……」

『僕たちのおもちゃになれた上に身代わりにもなれるんだから感謝してよね』

『人の割には珍しく役に立つ活躍なんだから、誇りに思っていいよ』

 ……二匹の小鬼が楽しそうに語りかけている。

 状況や会話からして、あの塊がそう言う魔獣、という訳ではなさそうだな。

 だとしたらあれはまさしく人を集めてという事でしょうね。胸糞悪い。

 ……冷静になれ、うん。落ち着くのだ。目頭を押さえて、深呼吸だ。

 だめだ、目頭が、うん。泣くんじゃないぞぉ、男の子だろう。冷静に、冷静に。

 ……あー、うん。意外と、冷静だ。なんというか、一周回った。

 よし! ブチ転がすぞ。

 と言うかもういいや、うん。

 あいつらは人じゃない。人間様のテリトリーに侵入し、害を及ぼす小虫の類だ。

 ティッシュで潰してトイレに流したところで、罪悪感など感じる謂れはない。これはそれとおんなじなのだ。

 覚悟せぇや。


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