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145・理性の化身

「……さぁんねん」

 さすがにさせねぇよ。

 F12『真空把』ってね。

 名前こそどこぞの奥義みたいだが、つまりはどんなものでも掴んで止める力でございます。

 ということで自分は投擲された槍を腕を伸ばしてキャッチしたのだ。

 どこから投げられどこに向かうかわかっていたら、さすがにある程度は対応できるしね。

 というか気づけよ。自分、取りやすい位置にあからさまに移動しただろうが。

『……んなっ!?』

 まぁ、投げられる前に止めとけという突っ込みもあるかと思うが、それについてはほら。もし魔獣倒したはいいけど槍が残ってたらまた同じことになるかもしれないじゃん?

 それを自分は危惧していたのですよ。投げ返さないのも同じ理由さ。

 その点これなら武器を奪えてかつ完全に止められる。なかなかいい作戦だと思うよ。

 ……あれ? でもこんなの持ってて自分はいったいどうするつもりなのだろう。

 自分、こんなもの使えないよ? たぶんこの槍に一番近い形の自分が使ったことのある物っていったら、学校の掃除で使う回転箒くらいだよ?

 ……。

「王子様、これあげる」

 トンと槍を地面に刺す。

 ハルバード使えるならこれくらい使えるべ。

「助かる。実はもうまともな武具が少なくなってきていてな」

 ……これ、一応帝国さんの所有物だからね?

 そこんところちゃんと理解して気を付けて扱ってね?

『俺の勝ち』

『ちっ』

 しかし魔獣さんサイド楽しそうだね。

 なんか見てるとむかつくね。

『な、なぜそんな! どうやって!』

 おーおー慌てちゃって。鳥魔獣さんにとってこれはあまりに予想外だったと見える。

「ただ投げられたの掴んだだけさ。何か不思議なことでも?」

『こ、この魔獣の剛腕で投げられたものを掴んだだと!?』

 はっはっは。今度はあっちが面食らってら。

『な、なぜだ! なぜそんなことができる!』

 自称神様のお力です。とは言えねぇな。

「男の子はかわいい女の子守るためならなんだってできるのさ。それに自分はあの子を守るって約束したからね。女の子との約束を守ろうとしたらなおさら強いものなのよ。かっこいいでしょ?」

 微笑みながら適当抜かす。

「それに、君らは手ぇ出しちゃならんものに手ぇ出したんだ」

 まぁ、大安売りの煽りと受け止めてくれたらそれでいいや。先に煽ったのそっちだし。

『くっ! そんな、戯言を!』

 強がり言ってるが君、目が泳いでるぜ。

 よし。調子乗って追撃の煽りだ。

「目が泳いでるよん。で、他に何かあるのかい? 彼女の歌を止める術が」

『うぐっ、く……』

 あ、この反応はもうねぇな。

「じゃあ自分の勝ち。いえい」

 ピースピース。

 ……ところで自分はこうやって時間稼いでるけど、あとどれくらいで彼女の舞台は終わるのだろうか。

『く、この……この!』

 まぁ、いいか。

 自分がやるのはこいつら倒すことだけだ。倒しちゃっても問題ないのだ。

「そんじゃあうちのかわいい子に怪我させようとした落とし前、つけてもらいましょうか」

 具体的には一週間くらい昏睡してもらいます。

『ひ、ひぃ』

 そんな後ずさるなよ。一発トラブル・イン・パラダイス決めるだけだからさ。

 と、自分が前に出ようとしたその瞬間、自分と魔獣との間に入ってくる一人の影が。

「目が泳いでるぜ鳥野郎」

 あ、王子様。

 そこ邪魔なんですが……。

「へっ、こいつが怖いのか?」

 王子様が挑発する。

 割と虎の威を借る狐な気がするが、気にしないでおこう。

『く、この……』

 彼の言葉に対し悔しそうに鳥魔獣が顔を歪める。

 その目は泳ぎながらもどこか憎悪と、怒りが入り混じっているようにも見える。

『……ふ、ふふ、ふふふふふ。それで挑発のつもりですか?』

 が、鳥魔獣は次の瞬間にはそう言って、余裕を見せるかのように嘴を翼でかくしてくすくす笑う。

『ふふふ。あなた方のような人種族は、いえ、たとえ人間と言えど、人という種族は所詮知性も品性も低い、文化的な生き物のそれとは程遠い下等生物。そんな生き物が何を喚き挑発を試みようと家畜が鳴くのと同義。この理性の化身たる私に響くことはありません』

 いやめっちゃ効きそう、というか効いてただったじゃないですか。

 あとそれに、その、ごめん、あの、いかにも上から目線で何か言ってるとこ悪いが、しかも今この状況だとまったくどうでもいいけど、これだけは言わせて。

「でも君全裸じゃん」

『……は?』

 いや、そんな『何言ってるの』みたいな顔されても。

「品性がとか文化的がとか何とか言ってるけど、格好だけなら君割合野性的だぜ? 羽毛生えてるからごまかされ気味だけど、何も着ていないじゃん」

『ぶっ! くかかかか!』

『た、確かに……』

『知性がどうのと講釈垂れながら全裸……ぶふっ!』

 あ、魔獣陣営に大うけした。

 でもお前らの大半も裸族だからな?

『……黙れ』

 うん?

『ニンゲン、きさま……人のくせにこの私を侮辱するかぁ!』

 え、えぇ……と、鳥が吠えよった。

『殺す! この私を侮辱した罪をその身に思い知らせてくれる! 私の手でその愚かな行為の償いをさせてやる! 後悔し泣いて許しを乞いながら絶望の中で死ぬがいい!』

 待って待って待って! 別に挑発したつもりはないから!

「お、おい落ち着け理性の化身! 沸点低いぞ! ほらもっと理性的に、な?」

『ごふっ! 理性の化身……くくく』

『響きまくってる。理性の化身崩壊してる』

 やめて魔獣さんたちこれ以上煽らないで。

『理性の、化身たる、私に、響くことはありません……ぷぷっ』

 草生えるような喋り方で煽るな外野ぁ!

 余計なBGMが響く中、鳥魔獣はその身を大きく膨れ上がらせる。

 つまりは巨大化。よくある戦隊ものの怪人が最後にやるそれのような……ごめん。

 言うほどでかくはならなかったわ。せいぜい二倍くらい。

 いや。それでも大きいけどさ。

『ニンゲンんんんんん! 我が圧倒的な魔力に平伏し命乞いをするがいい! 貴様の血肉でこの地を染めてやろうぞ!』

 眼をぎょろつかせ、嘴の端からは涎を垂らしながら膨張した身体をめいっぱいに誇示して奴は叫ぶ。

 だいぶ口調変わってんな。大丈夫?

 と、自分が割合が冷めた目で奴を見ていると、その鳥の魔獣は大きく嘴を開いてこちらに、いや、シルバちゃんの方を向く。

『まずは手始めにあの小娘を貴様の前で消し炭にしてやろうぞ! 我が力をもってすればあのような結界なぞ絹も同然! 貴様が護ろうとした者たちの断末魔をしかと鼓膜に焼き付けるがいいわ!』

 奴がそう叫び終わると同時、その開いた嘴の中に徐々に徐々に光が収束していき、まばゆく輝く球体を形成していく。

「なかなかヤバいことしてくれるじゃねぇか」

「高濃度の魔力の圧縮体か……さすがに結界にぶつけたくはないね」

「止めるぞ!」

「仰せのままに!」

 王子様が叫び、リム副隊長が吠える。

 とりあえずヤバイのはわかったけど……うん。

 たぶんコレって、ビームとかそこらよね。

 だとするとだ。

『よもやこれを止める術は皆無! すべての命は等しく塵と消えるのだ! 死ねぇ!』

「ウンディ――」

「風斬――」

「上向いてろ」

 F12『蹴り上げ』

『うごっ!?』

 必殺技を放とうとする二人の仲間を押しのけて、鳥魔獣との距離を詰め跳躍と同時に顎を蹴りあげる。

 本当にそれだけの動きであり、蹴り上げられて奴の顔が上を向く以上の効果はそこにはない。

 が、そこはほら、奴は今まさにビームを発射しようとしていたのであってだな。

 その照準がシルバちゃんから何もないお空の彼方に移ったことにより、見事一筋のビームは何も破壊することなく雲の向こうへと――

『うぼぁぁぁぁ!』

 ……飛んでいくかと思いきや、なんとびっくりそのまま鳥魔獣の顔面が爆ぜた。

 え、と、ごめんなんでこうなったか理解が追い付かない……あ、あぁ!

 そうか、口の中にエネルギーを奴は蓄えていたわけで、それを発射直前に閉じさせられたことにより行き場を失くして破裂したのか。

 どこぞの口が付いた木にペットボトル爆弾投げたときと同じような状況か。

 ……まぁどっちにしろ首の骨イッちゃった音したし、彼の結末はあまり変わらないか。

 大の字になり後ろに倒れる顔のない魔獣を見つめながら、自分は心の中で手を合わせる。

 まぁ、人様に手を出そうとしたお前が悪いのだ。恨まないでくれよ。

「……俺、あれを筋力のみで回避するとは思わなかった」

「奇遇ですね。僕もです」

 ……なんね、背後の二人。その何とも言えない力ない声は。

「……じゃあどうするつもりだったんですかね」

「あの魔力体に攻撃を仕掛けて破壊してやろうかと」

「あわよくばそのままコントロールを失ってその場で爆ぜてダメージを与えられるからね」

 結果今と変わらんじゃないか。


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