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143・大丈夫なんだろうか

『では次に人間に挑みたいという者はいませんか? 彼はすでに労せず幾匹もの子供たちを葬った。その実力はここにいる人種族の誰よりも高いものであります。さぁ我こそが人間の首を取るという者はいませんかな!?』

 なんか調子乗ったこと言いだしたぞこいつ。

 と言うかお前、これ完全にターゲット自分一人じゃん。

 やめてよねそういうの。まぁ今はどーせ全部叩き潰すから都合がいいけど、平時にこんなこと言われたら本当迷惑なのよ――

『俺が人間を殺す! あのいけすかねぇ顎野郎はいつか俺が殺そうと思っていたのをこいつは横から奪って行った! 絶対に許さねぇ! 俺があいつを引き裂いて顎野郎より強い事を証明してやる!』

 ……本当迷惑なのよね。

 で、そうして出てきたのは巨大な……顔?

 ……巨大な顔がそこにあった。1メートルは超える大きな石像のような顔と、それを支える小さな胴。

 顔こそでかいが全長はたぶん自分より小さい。

 なにこれすっごいきもい。

 しかもこいつよく見たら足が四本あるしなにこれ。椅子とか机みたいに足四本で立ってそのでかい顔面を支えている。

 さらにいえば腕はあるがすごい短い。肉厚の巨大な剣を左右一振りずつ持っているその腕は、顔面のサイズに比べて非常に短くみえてしまう。

 尋常じゃなくキモイんだけど。

 なにより顔面がキモイね。なんというか、ぶつぶつねばねばしてそう。

 でもなんだろう、どことなく見覚えが……あ、あぁ。あの帝国のお姫さまの部屋の近くにいたあいつのミニチュア版だ。

 あのでっかいのをさらに小さく、醜くしたらあんな感じだ。t

 ……え? ならサイズ的にもあのでっかいのより弱いんでないの?

 と言うか顎野郎って、まさかあのあの魔獣の事?

 ……顔面の大きさで張り合ってたのかな?

『……まぁ、いいでしょう。死んだら笑ってあげますよ』

 鳥の魔獣があきれたように、見下しながらそう言って鼻で笑う。

 やっぱり弱いんじゃないか。

『ぬふー! 来い人間! この俺が引き裂いてやる!』

 やる気満々ですな。

『と、いうことです。次のあなたのお相手はコレになります。愚かで弱いですが、まぁそれでも今までのとは違う純正の魔獣。油断していたらあっという間に肉塊へと変えられてしまいますよ』

 アドバイスどうも。

 でもね鳥さん。行けと? 自分にあれと戦えと? あの涎垂らす顔面石像野郎と?

 ……冗談きついっすよ。

「ヤダキモイ」

 あれを殴るとか、変な汁付きそう。

『なんだ怖気づいたか人間! このおごべぁ!?』

 だから手を触れないで倒すこととしよう。

 そんなわけでエアハンマー。

 寝てろ。

『ぐ、が……なんだ、この、力は』

 あ、まだ生きていた。案外タフ――

「なるほどな! イフリータ! シルフィード!」

 王子様がそう叫ぶと同時、その身体から真っ赤な炎の精霊さんと緑の風の精霊さんが魔獣目がけて飛んでいった。

 そして二人は手を取り合って、奴を中心に逆巻く大きな炎の竜巻を創り出した。

『ぬわぁぁぁぁ! あ、熱い! 俺が! この俺がぁァァぁ!』

 ……知らない知らない自分は何も聞こえないごめんなさいごめんなさい。

 さ、さすがにあの顔面であってもこうやって断末魔を聞かされると精神にクるものが。

 あ、あれもそういえば中身人だったかもしれないのよね……いや、純正の魔獣云々言うてたからもしかしたら違うかも……う、うぅ。どっちにしろ今更ながら罪悪感が……。

 い、いや! ここで止まってはいけない! そう! 今こんな些事で止まってしまっては自分が守らないけない人たちを守れなくなってしまうではないか!

 それはいけないことなのだ! そう! 後悔はあと! こんなことで止まっていては天国のお姫様も悲しんでしまうではないか!

 それに自分はシルバちゃんと約束したんだ! 彼女を守るって!

 女の子とのお約束を破るなんて、やっちゃダメなの!

 そもそも本来はあそこで魔獣にとどめを刺さなければいけないのは自分の仕事だったのだ! しかしそれをこいつは『キモいから触りたくない』なんてふざけた理由で……まったくなってないではないか!

 それを王子様に泥かぶせてやってもらって。ダメダメではないか!

 よし! ここから一丁名誉挽回だ! 悲鳴なんかに惑わされずに気合入れて全部ひき肉に加工していていこ――

「やるねぇ。じゃあ僕の役目はこれかな。闇を切り裂く雷鳴よ、光明の道筋を示し蔓延る異形を打ち砕け! サイガ流奥義!『三ノ太刀・飛雷刃(ひらいじん)』!」

 リム副隊長が自分の後ろで必殺技のような叫びを起こすと、途端横から無数の雷が竜巻に襲い掛かり、あれよあれよと逆巻く炎の竜巻は雷電をまとってさらに凶悪なものとなる。

 ……お、おう?

 ちょっとこれ、この、なんだ。その、なんだ。

 何だこの巨大で凶悪な何かは。

「消し飛ばせ!」

 なにを?

 という疑問を呈する間もなく、王子様の号令の直後竜巻はズズズと動き出し、ゆっくりゆっくり魔獣陣営の方向へ……あー、なるほど。

「生きた魔獣の魔力をそっくりそのまま精霊に取り込ませて使った大型魔術だ。さしもの魔獣とて無事ではないだろう」

「よく考えるよねナルミ君も。こんな奇抜な作戦をポンポンとよく考えつくもんだ」

 ごめん全く身に覚えが。

 というか、え? なんで挽回するまでもなくこんなに勝手に評価上がってるの?

「ふはははは! どうだ見たかお嬢! 俺にだってこのくらいできるぞ!」

 ……で、何一人でこの人はトリップしてるんですかね。

「……そんな残念なものを見る目で見ないであげて。王子様は、シルバにいろいろと、ね?」

 いや、ね? って言われてもね?

「俺にだって、武器を破壊せずに魔獣を斃すことができるんだ!」

 ……。

「何かあったんですか?」

「ははは。あの人戦闘になる度に武器に精霊宿して破壊してるからね。そのたびにお金がね」

 あぁ、なるほど。そういうことか借金王子。

 そういや最初出る前に背負っていたハルバードやら剣やら、装備の大多数がいつの間にか消えてるものな。

 大丈夫なんだろうかこの人。

「ダンジョンから宝物持って帰るのに成功する度に、戦いで功績を残す度に借金増やす人はこの人以外はいないと思うよ」

 ……大丈夫なんだろうかこの人。

「これ、この人にこのまま王位継がせていいんですかね?」

「んー? んふふふふふふふ」

 笑ってごまかされた。


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