139・誇り
前線に赴くと、まぁ、なんだ。さっきとさほど変わってねぇな。
王子様やミミリィ隊長リム副隊長の立ち向かう先で、いろんな魔獣がひしめいている。
走りながら彼らの活躍を見ていると、なんというかさすがと言うか、危なげなく立ち回っているように見受けられる。
「おらぁ!」
お、やるじゃん王子様。四足の魔獣を一撃で両断したぞ。
「リム!」
「はい、よ!」
ミミリィ隊長が掛け声を出すと同時に地面から岩が飛び出て小さな魔獣を宙に打ち上げる。そしてリム副隊長が鉤爪でもって華麗にその首を刈り落とす。
なるほどなるほど。コンビネーションはばっちしだね。
……自分の出る幕あるの? これ。
「くそっ! すまんミミリィ! そっち抜けた!」
と思っていたら王子様が一体魔獣を取り逃がしてしまったらしい。ミミリィ隊長目がけて触手生えた犬みたいな生き物が駆けよっていく。
彼女の周りには誰もいない。リム副隊長は空中だし、王子様は遠い位置で戦っている。
そしてミミリィ隊長本人も反応を示して盾を構えようとするが、たぶんこれ防いだところで触手に絡まれる結果になるんだろうなぁ。
つまりここは自分の出番だね。
「それはだめよ」
『ぎゃん!?』
触手生えた犬のケツを蹴っ飛ばす。すると犬は悲鳴をあげると家を軽く飛び越しどこか遠くへ飛んでいく。放物線が美しいぜ。
……これ感触的に絶対骨盤砕けたよね。ありえないくらいつま先めり込んで何かを砕いた感触があったもん。
うん。女性に触手絡ませようとする方が悪い。そうに違いない。
今は気にするだけ無駄だね。
と言うかあんな生き物どうでもいい。
そんなことより、だ。
「おまた――」
「避けて!」
おん? リム副隊長の声が――
「ぎゃん!?」
「ちょ!?」
あ、頭に何かが……な、なんだこれ。すごい勢いでいきなりなんかが落ちてきたぞ。
痛くはないけどびっくりした。えっと、あ、足元に落ちてる。
「ちょ、これ、あの、リムこら!」
空に向かって怒声をあげるミミリィ隊長をよそに自分はそれを手に取った。これは……ナイフ?
「ごめんねナルミ君! 怪我ない!?」
華麗なフォームで着地したリム副隊長は油断なく敵を見据えつつそう自分に言うのである。
……怪我はないけどもさ。だけど普通頭頂部にナイフ当たったら怪我どころかお陀仏だぜ?
まぁ位置的に自分が蹴とばした魔獣狙っての物だろうけどさ。チクショウ。
さっきとは別の意味で涙出たわ。
「大丈夫、です」
「ははは、さっすが。普通なら突き刺さって死んでるのにナイフの方が弾かれたのを見たときは目を疑ったよ」
……ひどい。
「何にせよ、ミミリィ護ってくれてありがとうね」
「……うっす」
まぁ、事態が事態だしこういうマイナスの少ない誤射は目を瞑ろう。
今回ばかりはさすがに射線に入った自分も悪いと思わなくもないし、もう忘れることとしよう。
そんなわけで、だ。
「まぁ、はい。お待たせしました。自分も前線に参加します」
「ずいぶん早いじゃねぇか。もうちょっとゆっくりしててもよかったんだぜ?」
王子様が自分の背中を叩きながらそう言ってくる。
額に汗にじませながらよう言うわ。
「おいしいとこなくなっちゃうじゃないですか。皆さんこそ充分おいしい思いしたんじゃないですか? 食あたりする前に休んじゃってくださいな」
一歩前に出て、努めておどけながらそう言った。
さすがにね、こう、そろそろ自分だけさぼるというのもアレですしね。
それに……皆さんもう無傷という訳ではないようですし。
ね、ミミリィ隊長。あなたさっきから左腕動いてませんよ? リム副隊長もわき腹に何か刺さった跡が見えてるぜ。
王子様も……こいつは身体に精霊まとい過ぎってわからん。ただ表情はどこか苦しそうだ。
「……真面目な話皆さん下がっててくださいな。ダメージひどいでしょう?」
「いいとこだけ独り占めはさせねぇよ」
「ここでもっと活躍すればお金も貰えますし、引いてるわけにはいきませんよ」
「そろそろ工房を拡大しようと思っていたし、稼げるときに稼がないとね」
……あのねぇ。なんでみんなそう格好よく構えだすのですかね。
「いや、皆さんだから――」
「ナルミ、諦めろ。ここで命賭けねぇで何を護れるんだという話だ。俺たちは誇りに賭けて、命尽きるまで戦うつもりだ」
つまりはこれが彼らの騎士道と。
ざけんな。んなもののためにこれ以上命散らすなタコが。
「誇りで飯が食えるか」
「……近衛騎士が何言ってるんですか? 主を護るという誇りでもって私たちはお給金をもらってるんじゃないですか」
ミミリィ隊長が冷静な声で突っ込みを入れる。
……はい。
「……一回先生には近衛騎士の何たるかを教え込まなければならないようですね」
コワイ。
「あはははは。ナルミ君頑張れ」
「リム、あなたも受けるのよ? あれ、普通なら死んでたんだからね? 味方を殺すな」
「……え?」
流れ弾でリム副隊長が死んだ。ざまぁ。




