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137・灰に

 しかしまぁ人相云々は置いといて、こう美人さんに頼りにされたら頑張らない他あるまいて。

 というかね、あれよ。

 自分もこのくだらない状況をつくり出してくれた魔獣さんたち、もといデビル君とゆかいな仲間たちには今更ながらふつふつとえにも言われぬ感情がだね。

 このフラストレーションはいっそ暴力と言うわかりやすい形で発散するに限るよね。

「シルバ、ナルミ、わかってるな?」

 お姫様の声がする。彼女はまさしく希望と決意に満ちた目で、眼前の敵たちを睨んでいる。

「ナルミ、命令だ。何をやってもいいから、存分に暴れろ。シルバが魔術を展開しきるまで奴らを食い止めろ。何ならシルバの魔術を待たずにすべてを叩き潰してもいい」

「あいよ」

 柄にもなく拳を鳴らしながらそう答える。

 お姫様の許可が下りたんだ。この腹に据えかねた気持ちを、死なない程度に奴らにぶつけてあげま――

「シルバ、予定変更だ。今まではフィーの作成した魔法陣にここにいる全員の魔力を合わせて起動し敵を消し飛ばす予定だったが、お前が入るなら話は早い。シャドが抜けた穴をお前が補え。お前はまずフィーの魔法陣を元に防護壁の強化、その上で最大範囲で浄化の術式を展開し、フィーの魔法陣を利用して奴らをナルミごと消し飛ばせ。初めてじゃないんだ、お前の歌ならできるだろう?」

 お待ちください。

「まって。自分も消されるの?」

「どうせお前は魔術が効かないのだろう? 他の者を巻き込むわけにはいかないから、しんがりとしてシルバが歌い終わるまで奴らを食い止めてくれ。頼めるな?」

 いや、あの……。

「恨むなら恨んでいい。あとでどんな償いでもしよう。だが今この時は、従ってくれないか? ここにいるすべての命の為に」

 ……もう!

「ちくしょう。終わったらご褒美弾んでもらいますからね」

「やってくれるな」

「やりますよこんちくしょう! 君みたいな小さこい子がそこまで背負ってんのに逃げられるわけないでしょうが!」

 いいもんいいもん! どうせ自分は魔法効きませんよーだ!

 あれ? でも自分さっき魔法で拘束された気がするのだが。

 ……F12『死なない再生者』

「あの、先生」

「え?」

 シルバちゃんが心配そうにこちらを見ている。

 ……あぁ、今凄く君が自分をいたわってくれてるのがわかる。君は優しいなぁ。上司はアレだが。

「その、いえ、ううん! 先生!」

 ん? なんかこいつ今決意し始めたぞ。

「はい?」

「私は、歌います。すべてを薙ぎ払い奴らに一切の希望も残さず先生ごと敵を焼き尽くします! だから、お願いです。今だけでいい。私を、護ってください」

 い、一切の希望も残さず焼き尽くされる……。

「……お、女の子護るために身体張るのが男の子の仕事だからね。うん。そ、それにあの、あれだ、君みたいにかわいい女の子に、そんなこと言われたら、うん。あの、はい。君らには傷一つつけないから、存分に、気のむくままに歌ってちょーだい」

 意訳。もう何でもいいから好きな魔法使ってください。

「くくく。まるで本物の勇者か、おとぎ話のナイト様だな」

 ゼノちゃん黙って。もう一回腕もげたいか?

 と言うかどこら辺がナイト様なのかな?

「まぁそういう訳だ。シルバ、存分にかましてやれ」

 お姫様がシルバちゃんに笑いかける。

 するとシルバちゃんはいい笑顔で答えるのだ。

「はい。ご期待に応えられるよう、すべてを灰に還します」

 それ自分含まれとらんよな?

 ……考えないどこ。

「まぁそんなわけでして、はい。自分、行くね」

 バイバイと、手をひらひらさせて彼女らに言う。

 この何とも言えないやるせない気持ちを、自分はあいつらにぶつけなければいけないのだ。

 それにさすがに王子様たちを放置しすぎてる感あるし。まぁ、こっから見た感じだと全然問題なく魔獣の死体を増やして積み上げているように見えるから、大丈夫な気もするけどさぁ。

 あれ? でも魔獣ってものすごく強くて怖いバケモノなんじゃなかったっけ? あんな路傍に転がるRPGの雑魚キャラみたいな勢いで倒せるものなの?

 ……まぁいいや。あいつら主人公みたいなものだし、主人公だからって理由でいいや。

 それじゃあさしずめ自分は何ターンか後にでてきて戦闘を有利にするおたすけNPCか。

 あながち間違っちゃいねぇな。

 まぁそんな訳で、王子様含め皆さんをかっこよく助けに行きますか。


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