133・必殺技
それではこの状況をどう打破するか。
とりあえず正面からぶっ飛ばそうと思います。
「突っ込むぞ」
「お願いします」
シルバちゃんの号令と共に自分は駆け出し、宙を、屋根を、そして――
「邪魔!」
『ごぁ!?』
道中にいる魔獣を足蹴にしてスピードを上げる。
今は一刻でも早くあそこに行く。それだけを考えて。
と、そのときである。
もう目前と迫ったところで、ある魔獣が人々を囲む輪から飛び出し、彼らに襲い掛かってきたのだ。
それは大きな蛙のような魔獣……いや、蛙の背中に鎧騎士が乗ってる。あ、騎士が跳んだ。なんだあれ。
……蛙のような魔獣が集団に向かい突進を仕掛け、騎士のような何かが跳び上がり上から槍を構えて強襲をかける。なんと文字に起こすと間抜けに見える状況だろ――待ってごめん。騎士の槍の先に変な魔法陣的な何かが出てる。
これ、危ない奴だ。早く止めなくちゃいけない奴だ。
でもどうする? 下の蛙も蛙で何するかわからんし、放置するって言うのもだし……。
と、そんなことを思っていると耳元で撫でるように、シルバちゃんがささやいてきた。
「先生! 下は私がやります! 先生は上の魔獣を!」
「ん?」
集団まであと一歩、と言ったところでささやかれたその言葉の直後、背中にかかる重さは消え、代わりにどうやったのか走らないが自分を追い抜かして駆け出す小さな吸血鬼の姿が見えた。
あ、あの娘は! いやでもこれは、ええい! しゃーない!
「チィ! お姫様たち! 悪いけど落とすよ!」
「エリザちゃん! しゃがんで!」
自分が集団の中にお姫様たちを落として高く飛び跳ねるのと、シルバちゃんがそう叫ぶのはまったくもって同時だった。
彼女の声に反応してか、へたり込んでいたお姫様は一瞬だけハッと顔を上げたと思うと、シルバちゃんの指示通りに前にかがんで背中を、いや、背に背負ったその大きな大剣をさらけ出す。
シルバちゃんはそれを駆け抜けざまに引き抜き、向かってくる蛙の魔獣に目がけて勢いをそのままにまるで円を描くように身体を回転させながら、大きく剣を振りかぶり――
「雪轍!」
『ギッ!?』
必殺技を叫びながらその白銀に輝く剣を蛙の顔面に叩きつける。自分の背から彼女が離れて約2秒くらいの出来事だ。やっぱりあれ喧嘩売ったらダメな人種だね。
しかしなんやね雪轍って。冬場の道路か?
っと、他人の事チラ見してる暇はないんだよ。こっちはこっちで片さないとね。
『コー……』
飛び跳ねた自分の目の前には思ったよりも大きな騎士の姿がありました。
鎧の隙間から見える中身はお城で出会ったそれと同じくうねうねしてて、とてもまともな生き物には見えやしない。
が、一応呼吸音が聞こえるあたり生きてはいるのかね。
しかし滞空時間長いね君。あれか? 力をためて魔法を撃とうとしていたのか?
ま、なんでもいいけど。
そんなことよりもだ……ここからこれどうしよう。
えっと、考えなしに飛び込んだはいいけどこれは、おなかをこのまま殴ったりでいいのか……あ! やべ体制的に地味にきついというかこれぶつかる!
『フー……』
あ、ちょま! 槍振りかぶらないで!
待って待ってえっと、ええいままよ!
「ほっ!」
『ッ!』
振りかぶった槍が横なぎに払われるその前に、自分は宙を蹴り奴の腹に目がけて下から一撃、ショルダータックルををお見舞いする。
ただ体当たりしただけではないぞ。決して。
で、そのままよろめいた鎧の背後に回り、そして胴体を抱えるように拘束して後ろに重心をかけて頭から真っ逆さまに地面に落ちる。回転もかけておこう。
そうまさにきりもみ回転しながらこいつを頭から地面に……お、シルバちゃんが吹き飛ばした蛙いるじゃん。
落としとこ。
「おっらぁ! 忍者投げじゃぁ!」
腹を見せひっくり帰っている蛙の腹部目がけて自分は叫びながら鎧を落とす。
無論、自分は一緒に刺さらないようにぶつかる直前にとび退いております。
これぞ必殺、F12『忍者投げ』である。
結構好きよ、こういう技。
しかし……シルバちゃんに比べてなんと不格好な叫びなのでしょう。
と言うか忍者投げってお前、シルバちゃんのこと内心笑ってた人間がつける技名がそれですか。
センスがないって悲しいね。
あとなぜ叫んだのか。張り合うつもりはなかったんだけどなぁ。
『何者だ貴様』
『変な奴だな』
『こいつも食べちゃおうか?』
っと、ここ魔獣さんの集団のど真ん中ですか。離脱離脱。
自分は後ろに飛び跳ね距離を取る。さすがに敵さんのど真ん中は心臓に悪いからね。
で、戻ってきたのはみんなの目の前。そうちょうど前衛で頑張っていたみなさんよりちょっと前ですね。
しかしこの場でこういうのもなんだが、あれだな。
今自分、結構格好いい登場のし方したと思うの。
みんながピンチの時に颯爽と現れて空中の敵を倒して……そんで『忍者投げ』と叫ぶ。ダメだ格好悪い。
「……すいません先生。大見えきっておきながら、倒しきることができませんでした」
ん? あぁ、シルバちゃん隣にいたの。
別に大丈夫。さすがに腹に鎧刺さったら動くこともできないべ。
「問題ないさ」
ん? でも自分調子乗って変な技作り出したけど、あれって死んでないよね?
……考えないでおこう。
「お、おねぇぢゃん……おねぇぢゃーん!」
で、お姫様は何をそんな泣いて……って、そらそうか。
魔獣に囲まれてるこの状況ならしゃーないべな。あとは考えてみたらシルバちゃんって攫われてたわけでそう言う意味での涙もあるのだろう。
でも、うん。ごめん。
ちょっと泣き声が、うん。豪快ね。




