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132・包囲

 そんなこんなをしているうちに、いつの間にやら城壁の近くまでやって来た。

 やったぜ。じつはそろそろ首と腕が疲れてきたんだ。

 これで後は壁を飛び越えて外に出て……うん? 門探した方が早いかな?

 まぁいいや。とりあえずやっとこさこの長い空中散歩もこれで終わりが見えてきた。

 王様がまだ捕まってるとか玉座の人をどうにかしなくてはいけないとか、あと悪魔とやらが出てくるとか問題はまだまだあるが、とりあえずとひと段落――

「……あ、エリザ、ちゃん」

 うん?

「エリザちゃんが、泣いてる……」

 どうしたんよシルバちゃん……と、聞くのは野暮か。

 要はお姫様たちがピンチなんだろう。そしてなぜかはわからんが彼女のアンテナがそれを受信したと。

 まぁったく世話の焼ける。

「……先生! 8時の方向へ!」

「はいよ!」

 近場の屋根を蹴り方向転換。ただ彼女の指示に従って、まっすぐまっすぐ駆けていく。

「お、おい、どうしたいきなり!」

 お姫様の抗議にも似た声が聞こえる、が気にしてはいけない。

 ただ簡潔に状況だけ説明しておこう。納得しようがしまいがそこは関係ない。

「うちのお姫様がピンチなんだと。ここで助けなかったら近衛の名折れよ」

 今いい事言った。

「そういうことです。姫様を護るのが私たち近衛の、なによりお姉ちゃんとしての使命なのです」

 ……いい事言った。

「……なるほどな」

 お、納得していただいたようで。

「グレイ、準備はいいか?」

「いつでも」

「私も戦うわよ!」

 ……うん?

「ハセガワ殿。現地についたら私たちも加勢する。トゥインバルの姫君を共に救おうじゃないか」

 いやいやいや。

「何を行っとるか。君らはおとなしく守られとりなさい」

「見くびるな。グレイは私の従者だ。足手まといにはなるまい。それに私も動けないとて、魔術は使える。ただの荷物で終わるつもりはない」

 ……言いたいことは判るけども。

「それに、お前も私たちを抱えたまま戦う訳にはいかないだろう?」

 まぁ、言いたいことはわかるけども。

 でもだからといって、いや、うーん。

 ……ここで止める明確な理由が思いつかないや。

「……無茶はしたらだめよ?」

「わかってる」

 ほんとかなぁ?

 と言うかお姫様の意気込みは買うが、動けないのはどうしようもないんだからどうやってたたかうんだろう。

 いくら魔法使えても、そこは――

「先生! あれ!」

「おん? ……これは」

 シルバちゃんに呼ばれ、目の前の光景に意識を向ける。

 するとそこには小さな人の集団の後姿。50人くらいだろうか、それだけの数の人が身を寄せ合い、魔獣に囲まれ追い詰められている。

 その周りには光り輝く線とか文字とかが宙に浮いており……たぶん結界的ななにかかな。ようわからんけど。

 そしてそんな彼らを囲い護るように立ち向かっている10数人の見知った人々。

 なるほどね、あそこにお姫様がいるわけか。

 ……あれ? なんであそこに……あ、いやそうだった。真ん中の寄せ合ってる集団を見るとまさしくシルバちゃんがそこにいた。きっとお姫様の変装だろう。まったくもってそっくりだからこそすごく違和感がある。あと翼はどこへしまったのか。

 と言うか彼女は何してるんだろう。なんというか、後姿だけみれば、地面にへたり込んで座っているだけにしか見えない。

 他のメンツとしては……まずは精霊を大量展開している王子様が目に入る。

 そしてその周りにミミリィ隊長とリム副隊長、あとはドワーフのオッサンはじめ数人のメイドと執事を前衛として、後衛に弓を構えたテトラ君と他数人の魔法を使いそうな杖を構えた人たちと言う布陣だ。彼らが人々を護るように陣取っている。

 あ、よく見たらうちの国の人たちだけじゃなくエロガッパオヤジとかその娘さんとそのゆかいな仲間たちもいる。全員集合かな?

 彼らは皆武器を構え一分も気を緩めずに眼前の魔獣を睨み立ち向かっている。その周りに多数の魔獣の死体が転がってるあたり、だいぶ健闘したのだろう。

 だがその顔に浮かぶ疲労の色と、そして大小さまざまな傷や汚れからもどうにも追い詰められてる感は否めないね。

 で、その護られている人々の集団はというと、うん。

 いかにも一般人な方、兵士な方がいるのはいい。

 が、おまえ……それに混じってゼノアとムー君がグロッキーになってへたり込んでるっておまえ……あ、よく見たらフィーさんも剣を杖にして膝ついてるし……やばいんじゃね?

 お姫様はへたり込んでるし、その近くにいるカノンさんが必死に何かを怪我人に行ってる様は見て取れるが……なんだろう、いやな汗が出てきた。

 ……それで、そんな状態のみんなに対して彼らを囲むように大量の魔獣が群れを成しているのが目に見える。

 その数は30、いや40はある大小さまざまな魔獣がひしめき、彼らを前にして群がっている。

 鎧騎士みたいなの、宙に浮くマント羽織った変なの、辺境の部族みたいな恰好した豚みたいな生物から見たこともない何とも言葉にしづらい異形のものまで様々だ。

 しかし奴らのそのほとんどが、まるでこの状況を楽しんでいるかのように笑っているように見える。

 ……恐らく奴らにとっては人なんて下等生物で、狩の対象とくらいしか思ってないんだろうなぁ。

 腹立つなぁ。

 まぁ自分がそう感じてるだけでもしかしたら奴らも真摯に……ねぇな。

 しかしイラついてもこの状況がピンチであることには変わりない。完全に包囲されていることからもどうにものっぴきならない状況だ。


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