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13・反省会

「ほぉー、ミミリィの戦意を喪失させるためにシルバの首を飛ばしたのか。そのためにわざわざ、目の前で」

「……その通りでございます」

「ミミリィが取り乱し隊が乱れるようにするために、シルバの首を刎ねる幻覚を見せたのか」

「……仰るとおりにございます」

「指揮系統を乱れさせようとするその着眼点はさすがだ。いかに素晴らしい集団であろうとそれが乱れれば烏合の衆に他ならない」

「……ありがとうございます」

「が、だからといって幻といって、シルバの首を飛ばす他には何かなかったのか」

 えー、あー、はい。現在ここはなんというか、うん。

 ここは医務室。自分がいるのは床の上。時間としてはあの訳わからん大乱闘が終わってすぐ。あぁ、なんというかお医者さんや看護師さんっぽい人の目が痛い。

 自分は非常に冷たい視線のお姫様によりお説教をされております。議題はそう、先程からの通り『なぜシルバちゃんの首をチョンパしたか』です。

 ちなみに彼女はベッドの上に座り件のシルバちゃんを膝枕しております。頭を撫でながらまるでかわいい妹の寝顔を見るお姉ちゃんのような顔で。愛されてるねシルバちゃん、羨ましいよ。

 ……あ、もちろん自分の方を見るときには冷たいジト目に変わってくるよ。やったぜ。クソが。

「……んなこと言ったってこっちだって燃やされかけたんだってーの」

「ん? 何か言ったか?」

「いえなにも」

 なんだかんだと文句を言いたい所ではあるが、首チョンパは確かにやりすぎ感があったので強く言えない自分がいた。

 あとここで下手に口答えしたら後ろで壁にもたれて恐ろしいを一周回って無表情にこちらを見下すゼノアさんに想像するだに恐ろしい何かをされそうだからです。ミンチとかひき肉とかもみじおろしとか。

 あ、いまさらながらこの医務室は我々エリザ姫さま率いる近衛隊が占拠しております。もちろん病人として。

 そして現在復活しているのはリム副隊長一人である。早いよ。嫌だからといって問題はないけどさ、もしかしたら近衛隊の中でこの人が一番スペック高いんでないか?

「姫様、結局何もなかったんですしそんなに言わなくても――」

「リム、お前の鞄って二重底になってるという話だが、今度その中身をミミリィに見せてみないか?」

「出すぎたマネをして申し訳ありません」

「うむ」

「ちなみにその『話』とやらはどこでお聞きになられたのでしょうか?」

「この前スゥがムーに話してるのを聞いてな。猫族(ワーキャット)が好きだそうだな、おまえ」

「いえそんな、私めは妻一筋ですので。あはははは」

 あ、目が笑ってない。対していつもの二割り増し位にこやかに口角を吊り上げてやがる。

 すげぇぞスゥ君。気絶してる間にもヘイト稼げるとかホント色々崖っぷちで生きてんじゃねぇのか?

 ……あ、あとリム副隊長。後ろ見ない方がいいですよ。何か凄い顔した人妻がいるから。

「……そう。あなた私一筋なら今後もよい仲を続けるために、身の潔癖を示した方がいいと思うわよ、私は」

「……いつから起きてたの?」

「さぁ? で、やっぱりそういう小さな『噂』とかも潰していくべきだと思うのよね。……鞄だっけ? あとでみせてネ?」

「……はい」

 すげぇ、蛇が蛇に睨まれた蛙みたいな顔してる。

 そして自分は『スゥの野郎……』という怨念の篭ったリム副隊長の声からさらにスゥ君がヘイトを稼いだ事に気がついた。

 彼に対する憎しみがインフレ、いやむしろ怨嗟のデフレスパイラル。

 ……いや、無理に難しいこといって的外れなバカを晒すのはやめよう。

 あ、そうだ。忘れてた。

 ちなみに彼ら近衛隊の作戦はざっくり言うと次の通りらしいですよ。

 まずシルバちゃん以外の他の面々が自分を追い詰める。この時点で倒せたら僥倖、駄目なら駄目でテトラ君が『植物を味方につけてる』という情報をこちらに渡す事で植物の沢山ある庭園は不利であると刷り込ませる。

 この時一人ひとり近衛隊が増えるのもミソで、徐々に狭まる包囲網で焦りを煽る効果を求めたとか。

 で、当然こうなったら逃げるか戦うかするわけだが、戦うとしたら庭園は丸のまま木々や植物が視界を遮る内通者となってる上、しかもこの時点で5対1。あまりに不利なためほぼ確実に自分は『逃げる』と彼らは踏んだのだ。しかも草とかに気取られないよう、最初に見せた『瞬間移動』をして。

 そして行くのはもちろん草木のないコロシアムなのだが、ここが一番の大仕掛け。魔力を練り上げ丁寧にコロシアムいっぱいにシルバちゃんが魔法陣を描きだしていたのである。

 さて、そして走ってきたならいざ知らず『瞬間移動』をしてきた自分がそんな変化に気付くはずもなく、見事近衛隊最大攻撃力を持ったシルバちゃんによってコロシアムごと燃やされた訳である。

 つまりは見事に綺麗に嵌められたって訳だ。なんというか、まぁよくここまで彼らの期待通りの動きをしていたもんだ。調子乗って最初に変なことしなきゃよかった。やっぱ手札は隠すに限る。隠しすぎて自爆の危険もあるけどね。

 想定外は自分がそれを乗り切って逆転したって所かな、とはリム副隊長の言。

 あ、そうそう。ちなみにシルバちゃんのあの魔法、魔法陣で範囲広げると同時に生体にはあまり効かないようにしていたんだと。お姫様人形と装備品だけ黒コゲりんにするつもりだったんだと。んなこと知らんがな。あまり効かないってことは多少なり効くってことじゃないか。

 ちなみに余談だがそれにしてもあまりに効果がなかったのでいろいろ試した結果、自分は魔法的ななにがしには効果がない模様。なんでもそもそも魔力がないから魔法を通さないとか。攻撃魔法が効かなければ補助魔法も効果がない。所詮いうなら絶縁体だね。

 あと何気にシルバちゃんが近衛隊の最大攻撃力とか言ってる辺り、自分が真っ先に彼女を潰したのは間違った判断ではなかったと思う。

 そして実験と称してその最大火力を自分にぶっ放させるここの姫様の非情さよ。

「……話を戻すが、まぁ実際何もなかったのは事実でお前がシルバの魔法で恐怖したという気持ちもわかる。が、アレはさすがに肝が冷えたぞ。死ぬかと思った。恐らくゾーン爺がいなければ私とゼノアで乱入していたぞ。そのせいでゾーン爺が腰を痛めた位だ」

 ……ホントすいませんゾーンジーさん。あのご老体でこの二人を止めたあなたの事は心より感謝いたします。

 ただここより自室の方がいいというわがままはいかがなものかと。やっぱりそういうのはきちんと治療した方がいいと思うんだ。

 ……ちなみに彼と目が合ったとき、非常に怯えた表情をされたような気がしたのは気のせいだという事にしておいた。

「そんな訳で今後はそういう過激な事は慎むように! いくら幻でも心臓に悪い! 反省しろ!!」

「……はい。ごめんなさい」

 ちょっと怒ってる顔がかわいいと思ってしまった自分はロリコンなんだろうか?

「ゼノアもなんかいってやれ!!」

 ごめんなさいロリコンじゃないですお姫様は対象外ですからそうエクスキューショナーを召還するのはやめてくださいお願いします!!

 そんな悲痛な心の叫びも空しく、自分の後ろではなにかが動く気配がすした。

 それはゆっくりと自分に近づき、ポンと軽く肩に手を置いて耳元で優しく囁くのだ。

「俺は今回の事に関しては、多少やりすぎではあるがあれはあれでありだったのではないかと思っている。確かに驚きはしたが、結局シルバに傷つく事はなかったのだし、戦術としてもありだと思う」

 お、おぉ。ゼノアさんいい人。冷静。よくわかっている。

「ただそれでもやはり演出過多なところはあるし、こいつの兄としても少し思うところはあるのも事実だ」

 まぁそれが普通よね。だって目の前で妹の首が――


「だからそれを踏まえて今回はそしてしっかりはらをきれ。それで水に流す」


 ……え?

「そうだぞ、しっかりはらをきれ」

 え、ちょ、お姫様もなにを言って、え? えぇ? こら! シルバやんの方ではなくこっち向け!!

「え、腹って、え、ま――」

「ん、んあ、ふぁ!?」

「あたぁ!?」

 目の前で赤い頭がピンクの頭にごっつんこ。シルバちゃんが飛び起きてエリザの頭にあたったのだ。

 二人とも痛そうに頭を……いや! そんな事どうだっていいわ! 勝手にたんこぶ作ってろ!!

 んな事よりも『腹を切れ』って、え、ちょマジで?

「うぅ……いたい。あ! ナルミ! シルバが起きたぞ!!」

「うえ? あ、うん」

「謝れ! そしたら許す!!」

 ……あ、よかった。腹切らなくてもいいんだ。うん、やっぱりさすがに本気じゃないものね。

 謝るだけで切腹から開放されるなら自分はいくらでも謝るよ。

 あー、そう思うと少し余裕が出てきて目の前の二人の涙目がかわいく見えてきた。

「……シルバちゃん。ごめんなさい」

「あぅ……あえ? え? どうかしたんですか?」

「うん、ちょっと……ごめんなさい」

「え、あ、はい。大丈夫です」

 よし、おわった! これで自分は――

「うむ! もう二度とあんなことをしないようしっかりはらをきれ」

 ……あ、駄目だこいつら本気で自分を殺す気だ。

 これもう駄目なんじゃないかな自分。うん……うん。

 ここで逃げてもたぶん結構なお尋ね者になるだろうし、この世界の常識もなく流浪人として生きていける自身がない。そもそもさっきの近衛隊のような相当な手誰が刺客としてくるかもしれないし、しかも黒髪黒眼は目立つときたもんで……あーこれ詰みじゃね?

 そもそもあんな魔法がポコポコ出てくる世界で一人で生きていける自信がないよ。

 そう考えるとここで潔く腹を切った方がいいのかもしれない。世間体にもお尋ね者として有名になって野垂れ死にするよりはまだマシな気がする。

「……ゼノア」

「ん? なんだ?」

「一度は友になった君に、介錯を頼みたい」

「……は?」

「きちんと首を綺麗に落としてくれよ。いくら心臓も刺すとは言え、苦しいらしいから」

 しってる? 切腹って腹を横に切った後心臓から下腹部まで縦にも切るんだぜ。これ豆な。あはははは。

 あぁ、できれば後世に残るような素晴らしい世辞の句を考えたい。

 死にたくねぇよ。けど恥を晒して逃げるのも……いまここで潔く死ぬか苦労してあとで何の覚悟もできないまま惨たらしく死ぬか。

 すこし、考えよ。いまはとりあえずその方向で考えて、で場を設けられるのはも少し後だから―― 

「は? え? ちょ、ま。首って、なんで!?」

 ん? なにを慌ててるゼノア。そちらから言ったのだろうが『腹を切れ』と。

「腹を切るのだろう?」

「だからなんでそうなる!?」

「ちょっと待て! なぜそれで心臓を刺す!?」

 え、何これお姫様まで……意味がわからない。

「……えっと、ちょっとまって、一つ聞くが、腹を切るってどういう意味で使っていたん?」

「「己の行為を深く反省する事」」

 おう、ハモったよ。そしてどうしてそうなった。

「ちなみにナルミはどういう意味で使っていたんだ?」

 ん? 自分? えっと、なんだっけな、確か――

「武士道を貫く名誉ある自死方法」

 だったはず。何かで読んだが詳しくは知らん。

「自死って言う事はつまり……死ぬ?」

「まぁ、お腹掻っ捌いて首を切り落とされたら生きてはいないですよね」

 ……おう、二人とも顔が青いぞ。どうした。さっきの自分も恐らく人の事いえないくらい青かったと思うがな。

「……すまない、はらをきらなくていい。むしろやめてくれ」

「そ、そうだぞ! 何もそこまでお前はしてないじゃないか!!」

 ……いやうん。それでいいならいいけどさぁ。

 ていうかなんで『腹を切る』ってのがそんな意味になったのか凄く気になる。

「……まぁ、それなら切らないけど、何でそんな意味になったの?」

「それは、詳しくは端折るが古くはセタソウゴが悪事に手を染めたとある領主を打ち倒したのちに彼が領主に言ったのが最初とされている」

 へぇ、それが回りまわって変な方向に行ったわけか。どうしてそうなった。

「……ん? そういえばナルミ、おまえ『はらをきる』とは『武士道を貫く名誉ある自死方法』と言ったな」

 うん? それがどうしたお姫さ――

「つまりお前はセタと同じくブシなのか?」

 ……そうくるか。

 おい周りの皆さんもそんな興味津々の顔しないの。腹切りの話題からそんな顔してたけどさ。

「え、えっと――」

「ブシか? ブシなんだな!? だってブシとしての誇りを持ったまま死ぬっていったもんな!?」

 こらテンション上がるなお姫様! もう少し落ち着いて――

「ブシなのですか!?」

 思わぬところから声がする。それは少し向こうのベッドの上、ミミリィ隊長の声である。

 彼女は起き上がれないまでも真剣に、真っ直ぐこちらを見ながら言うのである。

「アナタはブシなのですか!?」

「え、いやね。武士というものは公的にはもうないの。だから自分は武士ではない……」

「違うの、ですか……」

 目に見えて落胆するミミリィ隊長。とお姫様。何か子供のおもちゃを理不尽に取り上げたような悪いことしてしまった気がする。

 ……武士なんて身分証明書発行されるわけでもないし、ちょっと位嘘ついてもバレやしないかな?

 ばれないよね、なにせ『腹を切る』の意味が『反省する』になるくらいだし。

「……公的には武士は存在しない事になってるけど、まぁ、それはあくまで公的なはなしだけです」

「え? つまり……」

 わお、目が輝いた。

「……まぁ、そうですよ。自分は武士です」

 言っちゃった。でもまぁ少しくらいこういう事言ってあげるのも――

「なら、お願いです! 私を弟子にしてください!!」

 ……はえ?

「私は弱い! 『護る』ことはできてもそれだけしかできない! だから強くなりたいんです! お願いします!!」

 いやそんな悲痛に叫ばれてもねぇ。

「え、あ、えっと、ちょっと待ってそれはさすがに――」

「ふむ。いいかもしれないな」

 おいなによからぬこと考えてんだお姫様。

 とっても嫌な予感が――

「だがそれならいっそナルミを近衛隊の指南役として全員を弟子入りさせようではないか」

 ほらきた!!

「ちょ! ちょいまてちょいまて! なんでそうなる!!」

「ん? 何か問題でもあるのか?」

「大ありじゃ! そんなの自分に出来るはずなかろうて!!」

「それは誰かに教えると言う事をやったことがないから自信がないだけではないか?」

「それ以前の問題じゃ! 自分みたいなザコの素人に本職の――」

「嘘付け。ザコの素人に近衛隊が倒されてたまるか」

「いやしかし……」

「至近距離の斬撃をかわ死角からの矢を捕まえ全体重を乗せた槍を片手で掴む。しかも6対1で平然と立ち回り傷らしい傷も負うこともなく圧勝する。どこが素人だ」

 それだけ聞くと自分、まるで化物だな。

「とにかくこれは決定事項。お前は今から『近衛隊新入隊員』ではなく『近衛隊指南役』となるのだ」

「……自分の意見は?」

「ない」

 やったー初日で下っ端からの大出世だー。くそこいつそのツインテールを固結びしてやろうか。

 泣いていいよねこれ。

 あ、そうだゼノア、助けて! お願い比較的マトモな君なら助けてくれると信じている!

 するとゼノアはそれを感じ取ったのか、自分の肩に手を置いた。

 そして言ったのは――

「大丈夫、ナルミならできるさ。むしろ俺も教えて貰いたいくらいだ」

 ……うわ、笑顔が痛い。しにてぇ。

「まぁとりあえず、ナルミは指南役として迎え入れる。10日後には王都に向かうから、怪我の無いように指導を頼むぞ」

 そう言いお姫様は横にいるシルバちゃんをいたわり始め……ちょいまて。

「ちょいとまて、お姫様や。王都ってなに、ここでないの?」

「ん?ここは王都ではないぞ。王都はもっと西にある、馬車で四日はかかるぞ。言ってなかったか?」

えぇ、聞いておりませんよ。

「ちなみに、ナルミの事は父様、つまり現魔王に紹介するからそれなりに準備しとくように」

 なんだよそれそれこそ聞いてねぇ!!


 かくして、この世界の王様とご対面フラグが立ったのである。

 ……誰かかわってください。


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