128・メイド式
「……チッ。殺しきれてなかったか」
憎々し気にそう呟くのはデビル君だ。
てめぇトドメ担当したのお前だろどうすんだこれ。
と、思うが早いが彼は即座に結晶の剣を召喚し十字を描くようにそれを振る。
「もっかい死んどけ」
するとそれは刃の軌道を宙に残し、幻想的な結晶のようなよくわからない十字になった何かができたと思うと、そのまままっすぐ魔獣のもとへと飛んでいく。いや、本当に何と形容したらいいか。
自分のつたない表現だと伝わらないかもだが、要は斬撃が結晶となって射出されたのだ。
きらきら輝く残像を残しながら飛んでいくそれは、中々に美しいものである。
『がっ!』
あ、当たった。
鎧の腹部にあいた穴に吸い込まれるように斬撃がぶつかり、黒いうねうねを切り刻む。
なるほどなかなかダメージはあるようだ・
「滅びろ」
かっこつけてるところ悪いがねデビル君。しかし魔獣は倒れていないぞ。
よろめきはすれどぴんぴんしてる。
と言うかむしろ切った端から再生してるように見えるんだが。
『……ご、が……我に、宿るは悪意ある命なり。我の内にある罪人共の怨嗟と命が尽きぬ限り我を斃すことは不可能。諦めるがいいウェンズリー・レイ。任務を遂行する』
「チッ、全部斃したつもりだったんだがな。面倒だ。おい、人間。もう一度共闘といこうか」
……まぁこいつがどいう設定かはわからんがこれだけはわかる。
これ、時間かかるタイプだ。
……リュックはシルバちゃんが背負っているし、剣はお姫様が今もしっかり握っている。つまり必要なものはすべてそろってる。
逃げちゃえ。
「シルバちゃん」
「はい」
跳びかかる用意しなくていい。いや、むしろ違う、跳びかかるのはあっちじゃなくてだ。
「自分の背中におぶされ」
「え?」
「逃げんだよ」
その言葉を聞いて彼女は即座に自分の背中に飛び乗った。
察しが良い子は好きだよ。
「うお!?」
「きゃ!?」
その瞬間、自分は駆け出しお姫様とグレイさんを左右それぞれの小脇に抱え、そう。窓を、蹴破る!
F12『回し蹴り』
渾身の回し蹴り。ただの回し蹴り。特に名前を付ける必要もないだろうと思えるほどに普通なそれによって窓は砕かれ、ガシャーン! と言う盛大な音があたりに響く。なんで名前つけたんだろう。
そして、まぁ大丈夫だとは思うが、万一ガラス片の中を突っ込むことになったら三人の乙女の柔肌を傷つけることになりかねないので、それらが落ちるのを待つため窓枠に足をかけて少し待つ。
あとあれだ、ムカつくあいつを煽ってから行きたい。
そんな訳で彼等の方を見ると、今まさに音に気付いたデビル君たちが自分の方を見て焦ったように叫ぶところであった。
「あ! てめ人間!」
「そいつの相手は任せた。自分は美女に囲まれながらのランデヴーをしてくるよん。そんじゃ、アデュー!」
後ろで何かが騒ぐのは気にせず、自分はそのまま窓枠を蹴り外へと飛び出す。
「ちょ! 待ちなさいよ!」
ごめん小鳥さん。すっかり忘れてた。
でも君は飛べるから大丈夫よね?
と、そうだ。飛ばないと。このまま落ちるとかギャグにもならんぞ。
えっと、そう。
F12『忍法空駆けの術』
これで何段ジャンプだろうが空中ダッシュだろうがお手のものよ。
なんだろう。影縫いから引っ張られてるのかな?
ま、んなこたさておき、後はこのまま敵陣を抜け自陣まで――
……目の前を、大きなものが横切った。
それはイエローアイコのような鮮やかな黄色い鱗をまとった巨大な飛龍の胴。でっぷりと大きな竜の腹が、目の前を通過していったのだ。
自分はただ通り過ぎるその巨体を呆然と見ながら、しかし空を駆けることも忘れずに前進していく。
あっぶね。あれ、サイズ的に自分らまとめて一口で……おい。あの竜なんかこっち戻ってきてるぞ。
しかもあれ、あれは竜じゃねぇ。
自分の知ってる竜はもっとトカゲチックなものだ。決して、決してあんな崩れた人面みたいなくっそ不気味な顔面はしていない。
潰れた目、曲がった鼻、そして溶けた頬と裂けてゆがんだ大きな口をした、竜の身体とボロボロに破けた翼を持つそれはまさしく今自分たちを食らおうとその大きな口を開いて飛んできている。
つまりこのまま行ったらみんな仲良くご飯になってしまうという訳だ。
……させるかぁ!
自分は宙を蹴り、また一つ高く飛び上がる。
そしてそのまま、そう、さっき見たあれだ。
ちびっこメイドさんが自分に仕掛けたように、身体を回転させ、勢いと全体重を乗せて、かかとを落とす!
「らっしゃらぁ!」
F12『ちびっこメイド式踵落とし』
『ごぁ!?』
見事、変な竜の禿げた頭に自分のかかとは直撃し、そのまますごい勢いで落ちていった。
「……あの巨大な魔獣を叩き落したぞ」
お姫様が引き気味に言う。
「まさか、いえ、なるほど……」
対してグレイさんが感嘆交じりに言葉を吐く。
「人間さんだからねぇ」
小鳥さんうるさい。




