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127・ロリコン

 と、自分が悩んでいるとだ。

「しっ!」

 デビル君がその手に持ってる剣で自分に斬り上げ攻撃を――

「さすがに安直だべ」

「ちっ!」

 予想できる行動はさすに反応できるぞ。

 自分は剣を持つ彼の手首を掴みそれを阻止する。ちょっといい気分。

 ……あれ? こいつって攻撃を結晶で防いでいたはずよな? レーザーすら防いだのに、なんで掴めるんだろう?

「人間」

「おん?」

 なんね。

「俺を甘く見るなよ?」

 彼がそう言うと同時、彼を掴んでいた自分の腕は結晶に包まれ拘束される。そしてその直後、目の前に小さな火の玉が――あ。

「散れ」

 ボンッ! という音と共に光と、そして衝撃が顔面を包む。

 それに思わず手を放し顔を覆ってしまった。

 なお手を包んでいた結晶は手を動かした拍子に砕け散った。もろくない?

 そしてやっぱりこうなるのねこんちくしょう!

「先生!」

「きゃあ!」

「おい!」

「あれは、くそっ!」

 あぁ、後ろからシルバちゃんその他帝国女子ズの悲鳴が聞こえる。

 だが今近付かれるのはさすがにまずい。こっちきたらだめだ。自分はそういう意思を込めて彼女らに空いてる手を向け制止をかける……あれ?

 痛くない。普通に動ける。

「……化け物め」

「人の顔面消し飛ばそうとしておいてその言い草はないんでないかい?」

 言いながら覆っていた手で顔を確認する。

 鼻はある、目はある、口もある、全部ある。

 いまだに顔から小さく煙はでてるが、特に髪が焦げた匂いも感じない。

 なるほど、自分はいまだ健在のようだ。

 さてしかし、こうなったらこれは――

「……やめだ」

 おや?

 デビル君がそう言うとその場でのっそり立ち上がった。同時に持っていたはずの剣と自分の腕についた結晶が光の粒子となり宙で霧散し消えていく。

「交渉は成立した。互いに人質を交換した今これ以上争っても何の益もない。時間の無駄だ。俺もお前もな。それに今魔獣をどうにかする術を俺が持たない以上、お前たちも俺に用はないはずだ。俺たちは行かせてもらう」

 ……いや、どの口が言うか。

 と言うかそれならなんで攻撃をしたのか。最初っからそう言えよ。

「首謀者がよくもぬけぬけと」

 そうだぞ。お姫様の言う通りだ。

「ふん。勘違いしてもらっては困るが、首謀者はランドールの方だ。俺たちはただ手を貸しただけにすぎん。首謀者をどうにかしたいならそっちを捕まえることだ」

 そんな些細な違いどうだっていいわ。

 と、どうでもいい事は置いといて、この状況どうしよう。

 正直こいつらから魔獣同行の情報はもう聞けなさそうではあるが、このまま逃がすのもなんというか……。

「……キエラちゃん。ごしゅじんさまのいうそれがしゅぼーしゃってやつじゃないの?」

「だまってなさい」

 ……気が抜けるなぁ。

「……まぁ、そういうことだ」

 どういうことだ?

「とりあえず俺たちは逃げる」

「あ、うんお疲れ」

 ……うん? つい言ってしまったがこれ見送っていいのか?

 絶対だめだよね。

「……お前も大概だな」

 あ、自分敵にまで同情されてる。

「にんげんさん、いいひと」

 ちがうから。ただ口が滑っただけだから。

「まぁいい。いずれお前とはまた近いうちに会うだろう」

 待って! 撤収しようとしないで!

「待っ――」

「早く出ていけ。そして二度と姿を見せるな」

 自分が引き留めようとしたその瞬間、ベッドの上のお姫様がそう、憎々し気につぶやいた。

 え? 行かせていいの?

 ……マジで言ってる?

「今は見逃してやる。だからその物騒な術をさっさとひっこめろ」

 ……あー。それは、うん。自分は気づかんものな。

「ほう。愚かな割に勘がいいな」

 デビル君のこの余裕は、おそらくその『物騒な魔術』に裏付けされたものなのだろう。

 さすがに魔法は自分にはわからんし、それによる被害から皆を護れる自信もない。

 ここはおとなしくいかせた方がよさげだね。

「好きに言え」

「だが命乞いにしては態度がでかいな」

 ……。

「ずいぶん態度のでかい命乞いだね。君の術と自分の拳のどっちが早いか試してみるかい?」

 ちょっとムカついたのでそう言いながら拳を鳴らして一歩出る。

 どうせこの状況だったらあいつもなにかをかます気はないのだろう。何かしたところで確実に自分が一人は持ってくことになるし、互いにデメリットがでかいからね。

 で、するとデビル君はその表情を若干ひきつらせ視線を泳がせながら口を開いた。

「ふ、ふん。まぁいい。ではその言葉に甘えて出ていくとしよう。いくぞ」

 デビル君がそう号令をかけると、その後ろを二人の女性が――

「……ヘタレ」

 キエラの冷めた視線と辛辣な言葉よ。

「にんげんさんバイバーイ!」

 あ、はい。お疲れちびっこ。

「じゃね」

「ぷらんぷらん楽しかった! こんど遊ぼうね!」

「ほ、ほらいくわよ。人間をなんだと思ってるの」

「またあまいあまいちょうだいねー」

 手を大きく振ってこっちを向くちびっこメイドさんとそれをひっぱるキエラがデビル君の後を追う。

 ほんにあの子は――

「おい! マリー! そいつにかかわるな!」

 ……いやデビル君そんな、彼女が他の男に気をやってるのを見た彼氏みたいな反応は……まさかね?

「あぁ、そうだ人間」

 まだあなんかあるんか。さっさと行けよ。

「なんね」

「先に言っておく。今は引くが、マリーを辱めた代償はいつか払ってもらうぞ」

 ……。

「ロリコン」

「……どう言う意味だ?」

 うるさい。

 と言うかまさかさっき斬りかかってきた理由ってそれではないよな?

「いいから行けよもう」

 しっしと虫を払うよう手を振って彼らを送る。

 デビル君はそれを一瞥して、そして何事もなかったかのように部屋から出て――

『ウェンズリー・レイ及びその一派を確認。速やかに抹殺後セシリア・イヴ・フレイ・エンダルシアを確保し帰還する』

 おい。部屋の外になんかいるぞ。

 具体的にはさっき倒したはずの鎧ダルマが割れた鎧から黒い何かをうねうねさせながら立ってるぞ。


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