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127・イーブン

「この娘を返してほしければ、マリーを返せ」

「くっ……触るな!」

 彼は実にいやらしい笑顔を浮かべながらシルバちゃんの首筋を指でなぞる。

 これだけ見ると変態チックな行動だが、要は何かあれば彼女に手をかける、と言う意思表示だろう。

 ぜぇったい反故にされるけど。

「お前たちもだぞセシリア・イヴ・フレイ・エンダルシア、シャルル・グレイ。キエラへの攻撃の中止及び術式の解除を早急に行わなければ。わかってるよな?」

「チッ。わかってる」

「できれば精神干渉が厄介なので潰しておきたかったですが、命拾いしましたね」

「た、助かった……」

 デビル君の言葉に従いキエラと接敵していたグレイさんはお姫様のもとへと下がり、お姫様はお姫様で両手を覆う緑色の何かを霧散させた。

 そうか、キエラはグレイさんが相手していたのか。

 グレイさんが接近を挑みお姫様は再び魔術を使おうとしていた……あ、いやなんか壁にめっちゃ切り傷あるな。何回か魔法打ってたのかな?

 そう考えるとなかなかにキエラの置かれていた状況はえぐいものがあるな。

「……ぷらーん、ぷらーん」

 ……エンジョイしてるな嬢ちゃん。

 だが揺れてくれるな。持ってる方は中々つらいのよ?

 あとすこしくらい羞恥心を持とうか。スカート思いッくそひっくり返っておへそ見えてんぞ。

「さぁどうだ? 人質の交換といこうではないか」

 ……さて、そしてこの得意げな顔のデビル君ですが。

 ホントに人質を取ってるつもりなのですかね?

 君と自分との最大の違いは、人質を直接拘束してるかしていないかというものだと思うのよ。

 そんな訳でF12『サイコキネシス』

 自分は気合を入れて竹串を念で抜き、抜き――

「さすがにそれは読めてるぜ」

 む……抜けない。

「空間を固定させてもらった。これでもうこの針は抜けねぇよ」

 なるほど……今更ながら空間固定の魔法については今後しっかり勉強しないといかれなさそうだな。

 なんかピンチになる度これが絡んでる気がする。

 ま、それは置いといて、現状を分析するとアレだな。自分と彼との違いはもう一つある。

「さて、どうやら人間はこの娘の命が惜しくないようだ」

「んなわけねーべさ」

「先生、私に構わないで!」

 構うに決まっとろーが。

 そんなわけで自分はデビル君目がけて、それ! 必殺の『エアハンマー・横』だ!

「ぐっ! てんめぇ!」

 あ……結晶に阻まれた。

 結晶ごと少し押し込めはしたが、ほぼほぼ動いてくれない。

 ちっ。こうなったら最後の手段だ。

「お前人間、本当にこの娘の命が――」

「惜しいに決まってるでしょ変質者!」

 それ! くらえちびっこメイドさん投擲アタック!

「おおおおおおお!」

 ちびっこメイドさんを勢いよくデビル君にぶん投げる。そしてそれと同時に自分も後を追うように駆け出した。

 その狙い違わず、彼女は見事に回転しながら一直線にデビル君へ向かっていった。

 ……しかしメイドさんの悲鳴の気の抜けること抜けること。

「んなっ! この! マリー!」

 さて、そして大切なメイドさんを放り投げられたデビル君はそれを受け止めようと前に出る。それはすなわちシルバちゃんから意識を逸らし、離れるという事だ。

 これこそがまさに狙い通り。このまま目指すはまずシルバちゃんを護れる位置に行くことを第一に、できればデビル君に一発かますことができればいいな、と言う思いを込めて駆け抜ける。

 そしてデビル君がメイドさんを受け止めるのとほぼ同時に、自分はシルバちゃんと彼との間に立ちふさがる。

 竹串はいい。抜けない可能性があるから今は触れない。

 まぁ結局追撃かます余裕はなかったが、結果護れる位置にこれたので良しとしよう。

「舐めたマネしやがって」

「明らかに約束破る気満々の人がまともに対応されると思わない方がいいわよ」

 さて、距離をとったとはいえ彼との距離は目測1メートル弱の至近距離。

 片やちびっこメイドさんを抱えて青筋立てながら剣を向けるデビル君。片やシルバちゃんを背に今にもつかみかかろうと手をワキワキしている自分。

 身軽さで言えば自分が有利だが、シルバちゃんが固定されてる現状そうもいかんか。へたすりゃこっちのが不利かもわからん。距離的に竹串引っこ抜く隙も作り辛い。

 ……出方次第だな。

 互いに互いを睨みながら、相手の動きに注視する。

 こういうのをまさしく一触即発と言うのだろ――

「ごしゅじんさまは約束やぶったりしないよ?」

 ……君は空気をぶっ壊すの得意ねホント。

 あとコンマ数秒でも発言遅かったら、たぶんその前に剣と拳とが交差してたかもだったんだぜ?

 それくらい緊張感があった空気を君ときたら。

「マリー、離れてろ。頼んだぞ」

「うん」

 あら優しいねデビル君。

 彼の言葉の直後ちびっこメイドさんはコクリと頷いてそのままするりと腕を抜ける。ほとんど一瞬の早業だ。

 でもデビル君の真後ろにくっついていたらあまり意味ないと思うぜ。

「……さて人間、これで条件は対等になったわけだ」

 そう睨むなって。

 あれ? そう言えばこれ竹串の能力解除すりゃシルバちゃん動けるんじゃね?

 ……解除。

「はわっ!?」

 自分の背中に何かがぶつかる。恐らく急に動けるようになったシルバちゃんがバランスを崩したのだろう。

「つつ……くっ!」

 まぁ何て賢い娘さんなんでしょ。何も言わず自発的にどっかいってくれました。

 さて、これで自分の足枷もなくなった。

「そだね。まさしくイーブンだ」

 再び流れる緊張感とわずかな沈黙。

 ……これどうしよう。


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