126・正しい選択
「……頭沸いてんのか? 今更俺たちがお前と交渉する余地があると思ってんのか? 俺たちはあとは逃げるだけだ。今見た通り一応これでもランドールを裏切ったことになるからな。魔獣もすべて敵に回っている。無駄な消費もしたくねぇしおまえとの交渉をする時間はないんだよ」
そのご意見はごもっとも。君の立場から言えばそうだよね。
でもそう言う相手を己のフィールドに引きずり込むのが交渉なのですよ。
「うん、そだね。でもさぁ聞くけど、君は今ここから逃げられるのかなぁ? もっと言えば歩けるかなぁ?」
「あ? 何を言って……てめぇ」
デビル君はその場を動こうとするも、その足は床にへばりつき動かず、いやそれどころか体の一切が微動だにしない。
そらそうだ。今彼は自分の能力で動きを封じられてるのだから。
「これぞ忍法影縫いの術でござる。ニンニン」
「そうかよ……さっきのはこれが目的か」
指を組みふざける自分に対し、唇ひくひくとひくつかせながらの半笑いを浮かべるデビル君。
逃がすわきゃねーべさ。
「え? な、何があったの?」
「ごしゅじんさま? どうしたの?」
ちびっことキエラは状況が呑み込めていないのか、ただ戸惑って呆然と突っ立っている。
「……体が動かん。からくりはわからんが肉体のコントロールを奪われた」
「そゆこと」
さぁ、これでゆっくり――
「先生、許可を」
「畳みかけましょう」
「援護は任せろ」
……君たち血の気が多いね。
「だーめ。気持ちはわかるがここは彼らを倒すよりも実を取りましょう。という訳で交渉のお時間だ」
「……なんだ」
お、意外と素直。
「その悪魔とやらの降臨の阻止、および全魔獣の無力化。これを行ってくれるなら自分たちは喜んで君の事を解放しよう」
ふっふっふ。自画自賛だがなかなかいい案だとおもうよ。
できないことをやってもらう。これすなわち交渉の基本だよきほ――
「それはできない相談だ」
にゃぬ?
「訳を聞こう」
「魔獣の主導権は俺にはないし、何より悪魔の降臨は、この流れはもはや誰にも止められない」
……えー。
「それにさっき言ったように俺たちはすでに裏切り者だ。もはや何の権限も持ってはいない。もしなんとかできるのなら、なぜさっき襲われたのかという話になるぜ」
あー、そうか。
くっそ、目論見が外れた。
これこうなったら素直に逃がした方がよかったかな。こうやって時間を無駄にすればそれだけ前線に負担が――
「あと、一つアドバイスをしようか」
おん?
「こういう場合はそう言う平和的な交渉よりも、そいつらが言ったように畳みかける方が正しい選択だ」
彼がそう言うや否や、姿勢を低くしたちびっこメイドさんがものすごい速さで自分に駆けて……いやまて!
あ! こいつ竹串抜きやがった!
「シッ!」
跳躍からの顔面目がけて回し蹴り。まぁかわいい竜の顔のあしらわれた毛糸パンツ。
じゃなくって!
「ほっ」
とっさに腕でガードする。想像以上に重いんですが。そしてこいつどんだけ跳躍力あるん――
「ハッ!」
しかもそこから身体を縦回転にシフトしてかかと落としを繰り出すという。
こんな動きができるなんて、どういう身体構造してるんだろう。
「ほい」
しかし悲しきかな、自分はなぜか反応できてしまって受け止めてしまった。
彼女は回転そのままに、掴まれた足首を支点としてくるりんと周り逆さに吊るされる結果になった。
「わっ!?」
……丁寧に後ろには竜のしっぽの……んなこたどうでもいいんだよ!
「マリー!」
あ、動けるようになったデビル君がいつの間にやら結晶でできた剣をもってやがる。
そんでこっちに駆け寄ってきている。
が、そうは問屋が卸さない。
「あなたの相手はこっちよ!」
「ちぃ!」
自分と彼の間にシルバちゃんが立ちふさがり、その拳で彼に殴りかかったからだ。
だが当然、その拳は結晶でもって防がれる。先程から何度も見ていた光景だ。
しかし先程までのそれとは違うのは、彼女が特殊な装備をしているということだ。
自分が彼女からもらい、そして返したあのグローブから容赦のない溶岩があふれ出し、彼の結晶を覆っていく。
「この! 竜装備か!」
「ご明察!」
そう口を開きもう一撃、シルバちゃんが拳を握ろうとしたその時だ。
「ごしゅじんさま!」
逆さづりになっていたちびっこメイドさんが叫び、何かを投げた。
……あ。
「くっ! 身体が……」
このメイドさん、竹串使いこなしてやがる。なぜそこまで完璧に使い方がわかるのか。
「ごめんごしゅじんさま! にんげんさんつかまえられなかった! このひとかげがない!」
あ、そういえばそうだったね。今お姫様のところだ。
まぁそれは置いといて、これは、うむ。
「いや、上出来だ。ひとまずはおとなしくしてろ。おい人間、交渉と行こうか」
……やらかしたな。
正直書き溜めがだんだん減っていってつらいの




