124・なにごと?
「……狂人め」
忌々し気なお姫様の表情が何とも心苦しい。
が、調子乗って笑ってその結果咽るというコメディを目の前で演じられたこの現状では、なんというか、いきなりシリアスに持ってこられるとちょっと困る。
……しかし悪魔ねぇ。
またわけわからん設定生えてきおってからに。
しかも状況がさらにわけわからんと言う……まぁ、今は踊らされてるようで癪だが悪魔とやらの対策を考えよう。
「シルバちゃん。悪魔とやらを倒す方法、知ってる?」
「悪魔の弱点は、ここだ」
質問したのとは別の方向、デビル君がトントンと、おのれの胸を拳で叩きながらそう答える。
「奴らはを斃すなら心臓を破壊すればいい。それか、頭だな。確実なのはそれくらいだが、まぁ奴らもこちらに来たらこちらの理に縛られる。できるかはともかく、普通に殺すことも可能だろうぜ」
「ずいぶん親切に教えてくれるね」
「なぁに。俺としてはどちらが生き残ろうと知ったことではないのでな。せいぜい頑張ってくれよ、人間」
……ふぅん。
「あくまはねー、たぶんあたまかしんぞうバーンってすればやっつけられるよ?」
……あ、うん。いきなりどしたちびっこちゃん。
というかそれ、たった今聞いたぜ。
「それでね、こんどの悪魔はね、すごくおっきくて、魔獣だって食べちゃうの! だから、魔獣もあくまをたおそうとするの! たぶん!」
「……魔獣を食べちゃう」
小鳥ちゃん少し黙ろうか。
「だからね! 悪魔をたおすなら魔獣をりゆう? すればいいんだよ!」
「利用、ね」
おいキエラ。何そっちの方向にフォロー入れてるんだ。
いや、まぁ自分らにとっては情報が入っていいけどもさ。君らにとっては大きな損失なんじゃないの?
「それでねそれでね! 私たちね、悪魔たおせるんだよ! とっても強いんだよ! たおして、つかまえるの!」
……手を体を大きく動かしてその、なんだ。彼女は己の持つ情報を自分たちに伝えてくれようとしている。
本当に大丈夫? これ、君らにとっては自分たちに知られたら本気でいかれない内容なんでない?
「ま、そういうことだ」
どういうことだ?
「今回出てくるのは『破壊』を司る悪魔のひとつだ。奴を斃さない限り、この街は、いや、この国は丸ごと消えてなくなるだろう。そしてそれが出てくれば、魔獣どもは奴を狙う。まぁうまく利用して戦うなり逃げるなりするがいい。時間稼ぎ程度にはなるだろうよ。せいぜい抗って、俺たちを楽しませてくれよ?」
実に楽しそうだねデビル君。
……しっかしこいつらの意図がわからん。
何が目的でこんなことを自分に教えてくれるのか。
ちびっこちゃんが口滑らせた、と言うだけにしては語りすぎてる感があるし、それが理由ではない気がするんだよねぇ。
と言うかむしろこれは――
「……外道が。魔獣で人々を蹂躙し、悪魔を呼び出す餌として、そのうえさらにすべてを破壊しそれを楽しもうとする……どこまであなたは腐ってるの?」
あ、珍しい。シルバちゃんがどストレートな暴言を吐くなんて……いや、違うな。
自分の気が抜けてるというか、危機感がないだけだ。
どーにもいまだピンと来ないのよね。平和ボケに頭までつかりすぎてたからかはわからないが、この状況に危機感を覚えない。
なんというか仲間たちはなんか主人公補正がある気がするからどうやっても死にそうにないと思うし、自分はと言うとそもそも、ねぇ?
というかそうだったね。自分あの偉そうな人が魔獣生み出したと思ってたけど、考えてみたら彼も魔獣に関係してたね。
悪魔云々でそこすっぽ抜けてた。
「ふん。好きに言うがいい」
「貴様、このまま何事もなく逃げられるとは思うなよ」
お姫様が視線だけで人を殺せそうな顔をしている。
が、デビル君はいたって涼しい表情だ。
「ふん。お前たちに何ができる? この俺に傷の一つもつけられなかったお前たちに」
「くっ……」
「お前たちは俺たちが去るのを指を咥えて見ていることしかできないという事だ。ほら、それより急がねぇと悪魔が来るぜ」
挑発するねぇデビル君。
しかしまぁ何にせよ、シルバちゃんをいじめたことはしっかり覚えてるのでこのまま逃がす気はない……あ、いい事思いついたでやんす。
この手にしたまま忘れていた竹串に、F12『影縫いの串』っと。
よし、これであとはこのデビル君を――
「気づいたか人間」
「え?」
ど、どうしたのかなデビル君。
気付いたって何? 自分はまだ何もしていないぞ。
「来るぞ」
だからなにが?
と、質問を行うよりも先に勢いよく扉が、その周囲の壁ごと爆ぜ散った。
そして見えるのは鈍色の金属の塊……あ、これ鎧だ。
全体的に丸く大きな金属製の鎧が、巨大な斧でもって扉を吹き飛ばしたのだ。
なおお姫様たちの方にはグレイさんが防護壁を張ったようなので破片でけがをした、などはないようです。
……え、なにごと?




