115・圧力
さてさて。そんな必殺のエアハンマーを受けた剛力さんは見事に地面に突っ伏し倒れましたとさ。
しかしいまだ倒し切れてはいないようで、プルプル震えながらも立ち上がろうとして四つん這い……腕が四つだから六つん這い? まぁとりあえずそんな形になっている。
……まだ圧かけてるはずなんだが、硬いなこいつ。
『ぐ、ひ、卑怯な……死合いの前に、不意打ちなど』
「だーまらっしゃい。勝ちゃいいんだよ勝ちゃ。こちとら娯楽でやってんのとは違うんでな」
『き、さま、は……誇りというものがないのか』
……はっ。
「それでごはん食べれんの?」
はい圧力二倍。指パッチンしながらやるとより必殺技っぽくてかっこいいと個人的には思うの。
……できなかったけどな。ペチンって気の抜けた音しかしない。
格好よく決めたいんだけどなぁ。
『ぐぁ!?』
まぁそんなどーでもいいものへの憧れは今は置いといて、とりあえず効いてるっぽいね。よかったよかった。
あ、そうだ。ついでに床が抜けないように。F12『圧力分散カーペット』っと。
……ん? 別に圧追加しなくても蹴り飛ばしてしばらく昏睡してもらえればそれでいいか。
『く、そ……きた、ないぞ……』
「褒め言葉どうも」
好きな漫画に似たシチュエーションのやり取りができてちょっと満足。でもできれば卑怯者と言ってほしかったけどね。
とか思いながら自分は駆け寄り、四つん這いになっている剛力さんの顔面目がけて蹴りを放つ。
F12『一週間昏睡するキック』
所詮練習も何もしていないただの粗雑なキックであるが、しかしこれが当たれば一週間の昏睡は間違いない危険な……あれ?
自分はまだ気合を入れてこの人に圧をかけている。
そしてそのままこの人に蹴りを当てたら、自分の脚にもそのままかかってる圧が乗って大変恥ずかしい自滅をしてしまうのでは……。
F12『キャンセル!』
自分は蹴りを放った瞬間、と言うよりも蹴り上げようと脚を振り上げた直後、それとは反対の脚でもって後ろへと飛びのく。
すると先程まで自分がいたところへ、一つの大きな鉄塊のような剣が横なぎに、重たい風の音と共に通り過ぎる。恐らく移動していなかったらジャストミートしていただろう。
紙一重。まさにそう言う絶妙のタイミングでの回避であった。ロマンチックにゲージ半分使った気分だぜ。
あっぶねー。あのまま行ってたら直撃だったぜ。しかもカウンターでヒット貰ってただろうからなおさら……うん?
……。
あっぶねぇ!
これ、え、ちょ、えぇ!?
これは、幸運に幸運が重なって神がかり的な、予期せぬ回避をしてしまったということか?
まってテンパりすぎて日本語が幼稚になってる!
ちょ、えぇ!?
洒落になりませんよ旦那!
『ぐ……避ける、だと……』
「ちょ、ちょっとあの人、あれどうして避けれたの? この位置からでも速すぎて何も見えなかったのに……」
「あの魔獣は気配を察知し動きを読むのでしょう? しかしそれは決して人にできない業ではないわ。ならば先生がそれを使えて、何の問題がありますか?」
待って変な解釈しないで。
「ちょっとね――」
『ぬ、ぐぅ! この程度の、力! 打ち破られずになにが剛力かぁ! 父より受けたこの力! 舐めるでないわぁ!』
あ、剛力さんちょっと立ち上がるの待って!
えーい! 圧力四倍!
『ごげっ!?』
よ、よし倒れた。
えっと、そう。頭にだけ圧力かけるのやめて、っと。
『き、さまは、闘志もなく力を使い、魔力もなく術を施行する。さらには気配も人のそれではない、貴様、は、何者だ!?』
頭への圧解除した途端元気に長文話しだしたよこの人。
まぁ真面目にこたえる義理はないけれどもね。
「さぁ? なんなんだろうね」
そんなわけで改めて。
F12『一週間昏睡するキック』
『ごがっ!?』
えーい! サッカーボールキーック!
これを顔面に食らった剛力さんは、見事そのまま放物線を描き壁に激突し……まだ圧かけたまんまだったのに飛んでったぞ。力入れ過ぎたか?
……ま、まぁ何にせよ勝ったんだしいいや。




