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114・エアハンマー

 隠し通路を抜け地下の倉庫へと躍り出た自分たちは、そのまま小鳥さんの指示に従い上へ上へと歩みを進める。

 途中窓の向こうで見える光景は、あいも変わらず飛竜が飛び交いよくわからん映画のワンシーンみたいなものだった。

 なんか、うちらの軍勢このお城に近付いてる気配がないのは気のせいか?

 ……まぁ、今は気にしても仕方がない。

 それはさりとて今はこっちのお姫様だ。

 彼女を助けて味方に引き入れる。そしたらもう後は自分が一人突貫してあのよくわからん四人衆やっつけて大団円よ。

 ……あー、でもあのちびっこメイドさんは、うん。

 これとっ捕まえちゃったらことが事だからみんな首さんチョンパッパよね。それはさすがに……うん。まぁ今は考えないどこ。

 さて、そんなこんなで気が付けば相当な高さまで登ってきていたようで、窓の向こうの戦闘もまるでミニチュア人形劇のように遠い世界だ。

 そして自分たちは今歩みを止め、次の部屋へと続く大きな扉の前に立っている。

「いい? 魔獣は、剛力のガーグはこの扉のすぐむこうよ」

 シルバちゃんの肩にとまった小鳥さんが言う。

 そう、つまりはボス戦前なのだ。

 ちゃんとこうやって小休止をとれるスペースがあって助かるよ。ここら辺は今も昔も変わらないRPGの、もとい魔法世界のお約束なのかしらね。

「この部屋の向こうの階段を上がれば王女様の居室へとたどり着けるわ。でもそのためにはあの屈強な魔獣を斃さなければならない。隠れようとか考えてはだめ。あいつは気配を感じ隠密を見破ることができるの。今まで何人も、奴の目をかいくぐって王女様を助け出そうとした人たちがそれで……みんな、私がお願したから、王女様を助けてって、言ったから……」

「……悲しまないで。あなたはできることをしようとした。今はそれでいいの。いまはまだ、後悔する時ではないわ」

「……うん。ごめんなさい」

 ……あの、そこの二人――いいや。小鳥さんの数え方も人で――そんでそこの二人さ、なんか今好感度アップのプチイベント起こしてるみたいだけどさ。なんか、自分大変アレなことに気付いてしまった感があるのですが。

 ……うん。ごめんね小鳥さん。水差すようで。

「小鳥さんや。その魔獣とやらは気配を感知する、と言ったね?」

「ええ。奴は魔法こそ得意ではないけれどその鋼よりも硬い屈強な肉体と四本の剛腕からなる連撃、そしてあらゆる気配を見破り行動を先読みする術を持った魔獣よ。またその巨体からは想像もつかないほどに素早い動きにも気を付けて」

 ……うん。まぁ、うん。

「……そんだらさ、そこまで気配を読むことができる達人なら、もうこんな扉の前でうだうだやってる自分らの気配も察知してるん違う?」

『気配以前の問題だ戯け者めらが。そんなところで騒いでいたら嫌でも何かいるのはわかるわい。さっさと入って来い』

 扉の向こうから重厚な声が響いてくる。

 なるほど、たしかに彼の言う通りだ。あれだけイベント起こしておいて気付かないのはそれこそRPGの中だけだ。

「だってさ。まぁばれてるなら仕方がないね。入ろうか」

「う、うん……その、頼むわよ。私もお手伝いはするから」

「覚悟は、できてます」

 まぁ気合の入ってることで。

 そんなわけで自分が扉を開けて中に入ると、そこは……きったね。

 何この散乱とした部屋。

 一応部屋の中央だけはきれいになってはいるが、それもただごみを端っこにのけただけ。部屋の隅には家具の壊れたようなのが大量に散らばっいて見るも無残な光景が広がっている。

 あーあ。壁紙もカーペットもいいものだろうに。こうもゴミだらけなら見る影もねぇや。

 しかも変な染みまででかでかと……パーティで誰か酔っぱらって暴れたか?

 あと臭い。冷蔵庫の奥で変な汁流して緑色になった豚肉と似たようなにおいがする。

「うっ……」

 後ろでシルバちゃんがひるんだような声を出す。

 ちらりと見ると、彼女は臭いで鼻をやられたのだろうか、呼吸器官を手で押さえて青い顔をしている。

 が、どうにも今は彼女に言葉をかけてやる余裕はなさそうだ。

 何せ目の前にいる変なのが、こちらをじぃっとみつめているからだ。

 でも心配なので少し手で制して彼女を後ろに下げさせる。

 またなんかあったら事だからね。下がっててくれた方がありがたい。

『ようこそ勇ましき者共よ』

 汚い部屋の真ん中で、威風堂々と仁王立ちしている大きな影。

 自分よりもはるかに大きく巨大なそれは土色の肌をした四本腕の巨人であり、上半身裸の筋骨隆々とした変態だ。

 というか腰巻しかつけてねぇじゃねぇかこいつ。

 あ、あと四本の肉厚な剣を持ってる。たぶんこれ刃渡りだけでシルバちゃんよりもでかいわ。

 そして究極にどうでもいいんだがこのハゲ、顔がすごく長い。

 たぶんこいつの顎が肩、いや胸までくらいの長さがある。キモい。顎が長くて太くて四角い。下見れないんじゃないの?

『我が名は剛力のガーグ。この塔を守護する者なり』

「はぁ、ご親切にどうも」

 塔を守るんならこんなとこでなく入り口の方に立っててもらえませんかね、そしたらスルーできたのに。という思いは置いといて、これ見てくれは別として話せばわかってくれない? 話が通じるんならできなくは――

『して、我が糧となるのはどちらだ?』

 ぎろりと、赤一色に染まった眼が自分を睨む。

 あ、ダメだ話通じないバーサーカータイプだ。

『何なら二人同時に相手するのでもかまわんが』

「今に見ていなさい! この人たちは絶対にあなたを斃すわ! 今までのようにはいかないんだから!」

 あ、こら小鳥さん。

『期待しているぞ。小鳥の差し金でありながら正面から向かってきたのはそういない。よほど自信があると見える。それにその風貌。なるほど、貴様がニンゲンというやつか』

「そうよ! この人たちはサライも斃したし宝玉だって壊したのよ! あんたなんてすぐにけちょんけちょんにしてくれるんだから!」

『ほう、宝玉が敗れたか。どうりで、あいつの力を感じないわけだ。相当数の同胞はこれで力が使えないであろう』

「そうよ! あなた達の力の源はもうとっくに破壊したわ! そして特に人間さんは! この黒い人なんか強いんだからね! 後悔しても遅いんだから!」

 君の発言、割合他力本願すぎやしません?

 ……まぁしかし、結局やるのは自分だから間違っちゃいないといえばそうなのだがね。

 という訳で、気合を入れて。

 F12『気合のサイコキネシス』

『勘違いするな。玉のえごばっ!?』

「話が長い」

 真上から地面へと、圧のこもった空気で押しつぶす。

 そう、ちょうど空気の塊を念力で固めて叩きつけるハンマーのようなもの。

 よし、この技は今後『エアハンマー』と名付けよう。


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