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11・計画的犯行

 そんな訳で始まりましたこの訓練という名の模擬戦闘ですが、そのルールは以下の通りである。


 一つ・お昼までに自分が捕まったら負け、逃げ切れば勝ち

 二つ・逃げる範囲は中庭、コロシアムと広い庭園だけ

 三つ・今得渡された『等身大姫様人形』を奪われたり傷つけられても自分の負け

 四つ・それ以外は訓練の範疇なら何をやってもいい。


 つまり変則鬼ごっこ的な? 圧倒的に鬼が有利な。

 ちなみに庭園の存在はこの説明を聞いてはじめて知った。

 そして同時に思ったね。『なんだ、逃げて隠れて時間過ごせばそれで良いのか。しかもなんだか近衛隊の皆さんはどこかへっぽこっぽい空気が漂ってるし……きっとエリート過ぎてコネとかで入った人たちのみで形成された部隊なんだな』と。 

 ……先に言っておこう。これは後で思い知る事になるのだが、そんな考えは甘かったのだ。すっごく、将来年金が満額もらえると思うのと同じくらい甘かったのだ。

 近衛隊ってやつはあれだ、ガチ勢だ。

 しかし始まった当初の自分はそんな事知るはずもなく、正直若干彼らを低く見ながら前述のような事を思いながら、余裕ぶっこいて逃げ出したのだ。

「それじゃあ皆さん、バーイ」

 余裕ぶっこいた笑顔で余裕ぶっこいたて手を振って、余裕ぶっこいて能力使って。

 F(ファンクション)12『バラエティ的ジャンプ』

 そしてその場でジャンプして、着地した時にはあら不思議。先程までより少しはなれた庭園の中草木の間。

 所詮瞬間移動した自分はやっぱりこの能力って凄いな、何でもできるじゃないか、と感心し慢心していた。

 もはや勝ち確、あとはこのままどうやって逃げようか。

 しかしこの時自分は知らないのだ。

「……消えちゃいましたね」

「いちいちこんなので驚かないのシルバ。相手は人間、非常識の塊よ。それにあんな風に消えるとは思わなかったけど逃げられたのは予定通り。最初の計画通りに動けばいいの。私達は近衛隊よ。いつも通り――敵を全力を持ってして狩るだけよ。例えそれが人間でも、ね」

 こんな会話が裏でなされていたと言う事を。




***




 そしてそれからおよそ一時間くらいが経った現在。

 自分は今、庭園の土の中に居る。もちろん姫様人形とともに。

 しかしあれだな、確か開始時間がだいたい八時くらいだったはずだ。そして終わるのはお昼、12時くらい。

 つまり残りは三時間位ということだ。

 ……長いよ。もーちょっと何とかならんかったのかね。

 いや、しかしまぁなんとかなるか。さすがに自分がこんな土の中にいるとは誰も考えないだろう。気分はアリかモグラかそこら辺。

 さて後の問題としてはこのまま3時間は中々に暇すぎるということだ。

「……しずか…よ……」

 土の中だと外がみえんよって暇で暇で。仕方がないからなにかゲームでもしながらまとうかな。

「……ここ……みんな」

 まったく、音だけは聞こえるけどそれだけ……なんだ? 何か話し声が聞えるぞ。

「……いい……わた……やるか……」

 あー、なんかいくつかの足音とミミリィ隊長の声が聞える気がする。きっと上にいるのだろう。

 さすがに見つかると言うことはないだろうが、一応息を潜め……ん? なぜ真上で足音が止まる?

 ……まてよ、確か隊長、狼さんよね。

 つまりイヌ科ってことは……ヤバッ!

「……いく……『侵食の沼(テイク・スワンプ)』」

「F12『瞬間移動』!!」

「……チッ、いなくなったか」

 テレポートをした自分はいま、さっきまで埋まってたとこの近くのなんかの木の上にいる。白い花の咲いた、綺麗な木だ。

 ……あっぶね、も少しでつかまるとこしった。うわ、えげつな。

 そう冷や汗かきながら先程まで自分がいたところを見ると、そこには泥と水とにまみれた小さな小さな『沼』ができていた。

 アレあのままいたら溺れるかなんかしてたぞ。自分泳げないしあのままいたら絶望しかないじゃん。

 しかし、アレで見つかるのは予想外、というか甘く見ていた。その種族特有の能力と特徴も考えないといけないのか。

 だとしたら警戒するべきは空を飛べそうなムー君と、耳が発達してそうなスゥ君だな。

 さて、それを踏まえて次はどこにかく――

「見付けた!」

 見つかった!?

 弾けるように木から飛び降りた。するとどうだ、自分のいたとこになんかカッカッカと鋭い矢が三本ほど飛んできた。

「ちっ!」

 舌打ちが聞こえた方を見ると、そこには木の上木の葉に紛れてこちらを伺うテトラ君だった。

 ……おいこれマジで(タマ)とりに来てない? つかなんでここにいるのがわかったんよ。

「……あ、なんでわかったかわからないって顔ですね。いいでしょう、教えましょう。

僕は妖精(フェアリー)は妖精でも花妖精(フラワーフェアリー)という、草花と会話出来る種族なんです。だから木から話を聞いて、『いきなり出てきた変な人』を見つけたんです。まぁ植物たちも気が向いたらしか話してくれませんがね」

 色々言いたい事はあるが、なんだそれずるいだろこれじゃあ庭園は君のフィールドじゃないかとか。でも一番言いたいのはそんな情報そうやすやすと教えていいのかと……まぁいい。

 あ、あと変な人って何だ燃やすぞこらとか、その教えてくれた木に君は矢を打ち込むのかとかやっぱり際限なく言いたい事は色々あるが……いやなんにしろ植物がみんな敵かよ。くっそ。

 どうしようこれ。

 ……とりあえず逃げよう。

「F12『透明人間』」

 言葉と共にモフンと消えた、というか見えなくなった。もちろん服も人形も全てが全て。

 さすがにこうなりゃわかるまい。あとは植物が敵なら草のないとこ歩けばいいよね。

 さて、それでば次に行くのは草のないとこ、つまりコロシアムにでも――

「見えてるよ! それ!!」

「は?」

 思わぬ言葉思わぬ声。後ろから聞えたその声に反応し振り返ると、そこには鈍く陽の光を反射させる――

「ほうぁ!?」

 カギ爪一閃。無理やり横に飛んでそれをかわす。死ぬかと思った。

 が、まだピンチは終わっていないようで今度は横から何かが風を切る音がする。

 それを自分はテンパりすぎて訳わかんなくなりすぎて、つい反射的に掴んでしまった。こう、がしっと。

「うっそ!?」

「おー、やる」

 テトラ君の驚愕する声とリム副隊長の感心した声。

 右手を見るとそこには二本の矢があった。なるほど、なぜ捕まえられた。

 しかしなぜ見つかったのだろうか。確かに今自分は透明に――あ!そうだ蛇ってサーモグラフィーみたいに体温で獲物の居場所を探知するんだったけ!!

 つまり今リム副隊長に自分は丸見えなのか。それは盲点。考えていなかった。

 ……そして、そしてだ。

 こうやってグズグズしている間に、足元が泥沼みたいにぬかるんでくると言う事も考えていなかったよ。

「捕まえた」

 捕まえられた。

 ごめんなさいミミリィ隊長、すーっかり忘れてました。

 しかしこれは、中々にヤバイんでないか?

 ミミリィ隊長に機動力削がれてテトラ君に遠距離攻撃されて、リム副隊長がカギ爪で責めてくる。

 透明に鳴っても旨みがないぞこの状況。というか足跡残るから意味がない。

 くっそテトラ君お前はこの沼に沈んでいく草たちの悲鳴でノイローゼになれこのやろう。

 そしてそんな事を考えながらいらなくなった能力を消去する。

 当然見えるようになった自分の姿。それと同時に自分の顔にかかるのは黒い影……ん?

 上を見る。目が合う。そこにいるのは槍を突き出し滑落滑空するムー君で――

「うおぉぉぉ!」

「む?」

 あ、危ない危ない危ない危ない!!

 なにこいつ全力で突っ込んでくるの!

 そしてどうして自分はこれを平然と片手で掴めるの!? しかも槍の穂先を!

 血も出てないしなんなのこれ!?

 あれか、無意識に能力使ったとかそういう――

「氷帝の槍『開放』」

 ムー君の言葉と共にカチカチと言う音と青白い氷が腕を伝う。

 あ、これってあれだ、凍る奴だ。ちべだい。

「ちっ!」

 とりあえず身の危険を感じ掴んだ槍をムー君ごと投げ捨てる。

 そのまま沼を転がって泥んこまみれになってろ! と言う思いも空しく彼はしっかりと着地した。こう、足元の沼を凍らせながら。

 おいおいおい、どんどん敵が増えてくぞ。どうすんだよこれ。

 やっぱりここはいったん離脱するのが一番……と簡単に行くはずもなく、今度は自分の目の前に、いや自分を囲うように浮かぶ小さな何かが目に留まる。

 それは小さく薄い、鋭利な刃物。宙に浮きフラフラとその切っ先をこちらに向ける。

 あー、これは、うん。展開が読めます。

 これ、こっち向かって飛んでくるね。

「あんがとムー! くらえ! 奇剣陣(トリックナイフ)!!」

「F12『蠢く収納影』!!」

 なにが来るかわかっていれば案外対処は易いもので、影を自分の周りに纏わりつかせてその中に飛んでくるナイフをとりけんでやる。

 ははは、儲け儲け。

 ……しかしついとはいえこう、能力名を叫ぶのは中々痛いものがあるな。

 いや、皆叫んでるからまぁこの世界的には問題ない行為なのかもしれんが、まぁやっぱりねぇ。と言うかこっちの魔法も中々に色々アレだね。

「……あ、あれ? 僕のナイフ」

「あ、ごめん全部回収した」

「え、えー……僕のナイフ……」

 いやしかしこうやって見るとやっぱり彼は女の子にしか――

「ふ、ふん! いいですよ! まだいっぱいあるし!!」

 涙目でそう言いながらこっちに向けて思いっきり袖を振ると、そのまま20はありそうなナイフが……おう!?

 あ、危ない危ない。そうか君はその服の下に大量にナイフを仕込んでるとかそういうタイプのキャラか。だから収納増やすためにそんなダボダボなのか。最終的には畳を練成……いやなんでもないです・

 ……しかし、これは本格的にヤバイな。敵勢力はいま前衛が二人、後衛が三人。しかもまだ手札が一枚、シルバちゃんが残ってる。

 対してこちらは植物も敵で機動力も削がれ、なおかつ『お人形を護る』という縛りがある。

 うーむ。なんかこれは、持たないわ。

 今はまだ囲まれてはいたが個別で攻撃してきたから何とかなったが、これが連携してきたら死ねる自信がある。

「では、さいなら!!」

 ともすれば逃げるが一番。『瞬間移動』でこの場を離脱。

 当初の目的の通り草も木もないスタート地点。コロシアムのど真ん中。

 なんか視界の隅でエリザがテンションあげながらこっちを見てるがこの際は気にしない。

 ……ふぅ。いやぁ、しかしなんだかんだ言ってあそこを無傷で逃げられたのは大きいね。

 敵の武器、能力、攻撃方法の一端でもわかれば対策は立てやすい。後はそれについて注意しながら逃げて隠れてをすれば――

「逆巻け逆巻け焔の渦、焼いて焦がして全てを燃やせ」

 かわいい声が聞えてくる。しかしその言葉は禍々しく、そして一言一言がひどく重く、言葉を発するごとに空気の熱が上昇しているようだ。

 いや、事実上昇しているのだろう。視界の端に、炎がちらつく。

 それはやっすい中二病みたいなセリフだなとか考える余裕も頭から飛んでしまうほどに大きく、まるで自分を逃がさないように渦巻き逆巻くように成長していく。

 そして足元には、コロシアムいっぱいの大きな大きな……魔法、陣?

 あ、これっー―!!

「全ての始まりである最初の火よ! 全てを焦がした最悪の火よ! ここに一切合切を焼き尽くせ! 『開闢の焔』!!」

 叫びと共に急激に熱気がこみ上げ自分を包む。

 逃げるとか止めるとか、そんな事を行う暇もなく、全てが、全てが――


 視界の全てがあたり一面が、爆炎に包まれた。


「また相変わらず派手ね」

「あ、隊長」

 先程まで呪文を唱え、現在進行形で自分を熱しているシルバちゃんのもとにミミリィ隊長がやってくる。彼女の前にはいまだ燃え盛りくすぶる炎の塊があるのだろう。

 いやミミリィ隊長だけではなく、その後ろには他の近衛隊のメンバーもそろっている。

 みんなが皆、この光景を見て驚くでもなく焦るでもなく、どこか気の抜けたかのような空気がある。

 まるで全てがうまくいき、何もかもが終わったかのようなそんな空気。

「作戦通りいきましたね」

「そうね、さすがにこれではそう無事ではないでしょう。……でも彼も強かったわよ、至近距離のリムの攻撃をかわしてテトラの矢を見ないで掴んでムーを槍ごと受け止めて凍りながら片手で放り投げて……」

「……す、凄いですね。でもこれなら大丈夫ですよね? あの炎、最大出力でやってますし」

「……それはそれで今度は彼が大丈夫じゃないと思うけど」


「ほんとによ! 死ぬかと思ったべさ!」


 その言葉の次の瞬間、近衛隊の面々は一斉にこちらを振り向いた。

「これもし自分が死んでたらどーしてくれんのさ! 怒るよ!!」

 そう言いながら炎の嵐から出てくるのは、説明するまでもなく自分である。

 心臓をバクバク鳴らし冷や汗を尋常じゃなくかきながら、混乱と怒りと焦りの余韻にまみれた顔で彼らを睨む。

「な、なんで……」

 誰かが言った。焦りのせいで誰かはわからんが女性の声だったと思う。スゥ君かも知れんが。

「がんばったから。ちなみにお姫様はこの通り」

 ケロリと、現在の心境を悟られないようにしながらなんでもないように答えつつ、影を動かしお人形の顔を出す。

 こう余裕ぶってはいるが正直、危なかったよ。あれだ、スゥ君にさっき攻撃されていなかったら負けていた。

 あそこで道具をつまりお人形を仕舞うことができると言う事を思い出さなかったらいまごろこのお姫様人形は黒こげに……あれ、何で自分生きてんだろ? というかなんで服とか燃えてないんだろう。

 まぁいいや。そんな訳で自分は絶対安全圏内にお姫様人形(デメリット)を押しやる事に成功したのだ。

 残り時間はあと……まだ殆ど経ってねぇや。

 さて、ここで一つ考え方の問題だが、勝負事において『勝つ』ためにはどうすればいいのだろうか?

 自分はこう考えるんだ。『勝利条件を満たす』ことと『敗北条件を排除』することの二通りの方法があると。

 で、この場合はどうするか。こちらの勝利条件は『時間いっぱい逃げ回れ』。しかし時間はまだ売るほど余っている。そんなに悠長に待つのは辛い、めんどい。

 対して敗北条件はどうだろう。『姫様人形』については対処済み、となれば残るは『自分が捕まる』ことが唯一の敗北条件だ。

 で、『捕まる』ということは当然『捕まえる』方の人物がいる訳で、それが今回は近衛隊な訳で。

 ほんで『捕まえる』方の人が居なくなったら当然『捕まる』事がなくなるという訳で。

 あとは、ねぇ? わかるでしょ?

 そんな訳で自分は何か武器を、そうだね、昨日も装備していた折りたたみスコップで行こう。

 影からズズズと生えてくるのは一つのスコップ。三つ折り可能で側面がノコギリ上になっている、一本のキャンプ用の短めスコップ。持ち手が三角で持ちやすく意外と丈夫、そしてお値段も1000円しないとリーズナブル。

 斬って叩いて突いて防いでできるこれは、誰が言ったか『突く事もできる斧』。自分はスコップこそ白兵戦最強の武器であると信仰している。

 それを片手に、敵を睨みつけ布告しよう。


「さぁ、反撃、開始だ」


 あれだ、うん。

 自分はちょっと、怒ってる。

 だって本気で矢を当てようとしたり槍で串刺しにしようとしたり顔面カギ爪で狙ったりナイフでみじん切ろうとしたり、なによりあの大爆発が『訓練の範疇』なんでしょう?

 それが彼らの仕事だともわかってるし、自分が丸コゲになってもフォローできる方法があるかもしれないし、そう考えるともしかしたらこれは逆切れ逆恨みのタイプかも知れない。

 けどね、だけどね、あはははははは。ほんとね、あれだよあれ。

 

 ぶっ飛ばすぞテメェら。


戦闘描写とか私に求めるのは無理だと思うの

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