109・怪人
「小鳥さんや、こいつらは?」
「ま、魔獣の、三面のサライよ。さっき言っていた宝玉を守る魔獣の一人で、頭のおかしい魔獣よ」
『小鳥が捕まってる』
『ほんとだ。王女の奴隷が奴隷みたいになってる』
『役立たずがもっと役立たずになった』
「う、うるさいわね!」
うん。なんというか、うん。
面倒くさそうだな、いろんな意味で。
「先生、気を付けてください。言動はアレですが、こいつ――」
『女だ』
『女だ』
『女だ』
「ひぃ!?」
首が一斉にシルバちゃんの方を見る。
あ、展開読ーめた。
『犯していい?』
『犯していい』
『孕ませよう』
ほーらきた。さいってー。
さて、それではこいつにはこのまま一発かましてご退場を願おうか。
「うちの大事な娘さんをそういう目で見ないでいただけませんかねぇ?」
男らしくずいと前に出る。
さすがにこういう場でアクション起こさんかったら男が廃るわ。
『男だ』
『犯す?』
『殺す』
おいなんか真ん中の首がおぞましい事言うとったんだが気のせいか?
スッごく逃げたくなったんだが。
『男は殺す』
『女は犯す』
『小鳥も犯す』
おい。最後、おい。
なんとも、なんか、アレな連中、連中? だなぁ。
そう思ってると三面のなんたらはゆっくりとその腕を上げてこちらに向ける。
『男は宝玉に捧げよう』
『そうだ捧げよう』
『宝玉の贄にしよう』
そう三面が言うと、ふわりとどこからか三種類の玉が浮かび上がってきた。
宙にふよふよと浮かぶそれは、それぞれ金、銀、黒の色をしており、まるで彼を守るように漂っている。
『光の宝玉』
『闇の宝玉』
『無の宝玉』
「な、ほ、宝玉が……どういうこと! なんで宝玉が一か所にあるの!」
あ、そうかこれがさっき言ってた宝玉か。
展開早いなおい。
『チョウとカラスは人を殺しに行った』
『お留守番してる間あげるって言われた』
『留守番してたらニンゲンを追い詰めろって言われた』
……つまり護ってた三人のうち他二人がお姫様たちの方に入ってる間だけ預けられたってことかな? わかりにくいな。
「に、逃げましょう! 三つの宝玉が手元にある魔獣は、きっと計り知れない強さよ! 勝てないわよ!」
そうは言うけどね小鳥さん。
「せっかくお目当ての品デリバリーしてくれたんだ。受け取ってやらなかわいそうだべさ」
「まさかあなた! た、戦うつもりじゃないでしょうね!」
「無論だね」
ここでやっちゃえば敵も減る。宝玉もなんとかできる。いいことずくめじゃないか。
問題はこいつもカノンさんと同じく元人だった場合だが……まぁ、一週間くらい昏睡してもらえば問題ないだろう。
「シルバちゃん、下がってろよ?」
「はい。お気をつけて」
「ちょ! あなた達正気!? 一人でそんなの相手にするなんて無茶よ! ちゃんと私が抜け道から盗み出す方法教えるから!」
ピーチクうるさいのう。
「心配しないの。これでも――った」
「先生!」
「きゃぁぁぁぁ!」
自分の言葉を遮り、何かが頭にぶつかった。
いや、ぶつかったというより触ったといった方がいいだろうか。とにかく何かがおでこをなでた。
『あたった?』
『あたった』
『死なない』
何かされたようだ。
……そうね。戦隊ものの怪人じゃないんだからこちらの悠長待ってはくれられんよな。
しょうがないなぁ、もう。
沈め。
自分は駆け出し、敵に近付く。
一歩目と二歩目でスピードをつけ、三歩目でバランスを取り四歩目でまっすぐ跳躍。
そして足先をきれいに揃えて縮め、敵に当たるインパクトの瞬間に一気に、押し出す!
F12『一週間意識不明にするドロップキック』
『ぎゃ!?』
『ぎょ!?』
『ぴっ!?』
全体重、全スピード、そして謎な能力を乗せたそれを胸に食らった三面は、もちろんそのまま倒れ伏しもう立ち上がることは――
『なにがあった?』
『なにかあった』
立ち上がるね。うん。
あれー?
『寝てる?』
『寝てる』
しかしどうやら首の一本は無力化できたようで、だらりと力なくうなだれている。
うん。そうか、残機はあと二機か。またこういう、もう。
『あいつ強い』
『殺そう』
そう言って三面は、いや三面の周りを動く衛星がほんのりと光を放ち、スピードを上げて回りだす。
きっと何か奥義とか必殺技的なことをするんだろう……が、さすがにそれを待ってはやらんぞ。
F12『一週間意識不明にする肘打ち』
『ごっ!?』
『ぎっ!?』
一気に距離を詰めみぞおちめがけての肘鉄が綺麗に入る。
そのまま奴は後ろに吹き飛び、二回転ほどしてやっと止まった。
はい二人目。
そんで倒れた立ち上がろうとする残りの首に助走をつけて勢いよく――
「これでおしまい。とっぴんぱらりの」
F12『一週間意識不明にするストンピング』
「ぷぅ」
起き上がろうとする頭を踏みつける。
カーブ・ストンプ。かつてはピース・オブ・マインドとも呼ばれたフィニッシュ・ホールド。
全体重と勢いが首一つにかかって顔面叩きつけられるんだ。耐えられまいて。
さて、果たして奴は立ち上がることもなくその場で倒れ伏し、ウンともスンともいわなくなった。
……折り畳みスコップ腰につけてんの忘れてた。




