108・ステージ3
「とりあえず進もうか」
この言葉何度目だろう。
「はい。どこへ向かいましょう?」
まぁそういう質問が来るわな。
どこへ、ねぇ……うん。うん。
なんか今ふと、変な考えが浮かんでしまった。
「正直に言っていい?」
「はい、何でしょう」
「しょーじきなところね、正面からカチコミかましたいんだよね」
「……え?」
「はっきり言って人質使われる前に全員伸したら解決するんじゃないかなって」
「それは……」
困惑顔のシルバちゃん。
そらそうだ。自分はいま割合あほなこと言ってるのだからね。
でも、しかしこれって割とありなんじゃないかなって思うの。使われる前に速攻かましたらどんなカードも無意味になるものなのだ。ゲームセット後にはターンは回ってこないのだ。
そしてその速攻を仕掛けることが自分には可能だ。何せ謎な能力がある。
が、もちろん問題もある。
「……可能であるなら、確かにそれが一番いいかもしれません。しかし失敗した時のリスクも格段に跳ね上がります」
「そこよね。事実自分の攻撃何度も防がれてるし」
「ですね。やはり慎重を期して行動した方がよいかと」
だよなぁ……正味な話、シルバちゃんがいなかったら特攻かけてもいいかなって考えてた。
護るものがある男はつらいですな。
「うーむ。となると……とりあえず王様たち助けたいな、と思ってるから彼らが捕まってそうなところを探したいんだけど……思いつくのは地下牢くらいかね」
「あ、それでしたらこの国の王女の捕らわれてるとの事ですので、そこへ向かいましょうか」
なぬ?
「知ってるの?」
「はい。彼女は西の塔の一番上に幽閉されているとのことです」
ほーん、そうなんだ。渡りに船だね。
「なるほろね。じゃ、そこを目指そう」
「はい」
という事で自分たちは敵に見つからないよう慎重にお城の内部へと歩みを進める。
「しかしいつの間に、どこでその情報仕入れたん?」
「え? アニスさまより伺いましたが……」
「……ん?」
え? あいつ?
「それホント?」
「え? そう、ですが……何か不審な点でも?」
いや、うん。不審というかなんというかそーいやお姫様云々言うとったけども……。
「……というより、先生はこの話を伺っていらっしゃらないのですか?」
「そうなんだよねぇ……普通真っ先に言うとは思うけど」
「……なるほろ」
うん? なした嬢ちゃん、納得顔をして。
「なんか思い当たる節でも?」
「いえ、ただ少し、彼女なりにも考えがあるのではないかと思いまして」
「と言うと?」
「先生はおそらく、そのことを知ったら王女を救出に向かうでしょう。しかしそれでは今回の計画の本質に逸れることとなります。恐らくアニスさまはそれを嫌った。私たちに与し、国を守ろうとする彼女なりの、覚悟を持った沈黙とでも言いましょうか」
……無駄な気遣いを。
「変な気ぃ回しおって」
「……お気持ちはわかりますが、彼女を責めるのは些か酷かと。彼女もきっと、つらい決断をして沈黙を貫いたのだと思います」
いや、責めるつもりはないさ。ただぼやいただけよ。
「責めたりはせんよ。むしろ今必要な時に情報が転がって来たんだ、このままサプライズで彼女を喜ばせたるのも一興だろうて」
「そう、ですね」
しかし、気を回してもらったところ悪いが自分はいったいなにか仕事をできてたのか――いや、考えないどこ。
「まぁなんにせよ急ごう」
「はい。方角的に西はこちらです。塔とも距離はそんなに離れておりませんので、すぐにつくかと」
「でも塔は、姫の部屋はいま封印を施されてるわよ? 侵入するには隠された扉を見つけ、鍵を開けさらに奥にいる門番を倒した上で封印された扉を開かなければならないわ」
「うぁ!?」
シルバちゃんが素っ頓狂な悲鳴を上げる。それは白い、純白の小鳥が彼女の頭に乗ったが故だ。思わず二人そろって足が止まる。
そのよくわからん闖入者ははどこか自信ありげな甲高い声で流暢に言葉をしゃべり、仲間面してそこにいるのだ。
「扉の方は私がいるからいいとしても、問題は封印と門番よ。どう? あなたたちはっきゃ!?」
「なんですかこいつ」
シルバちゃん躊躇ないね。彼女が小鳥を鷲掴むと、とたん小鳥は苦しそうな声を上げるのだ。
「ちょ、く、くるし……」
「あなた、何者?」
容赦なく尋問される小鳥ちゃんかわいそう。
……本当にかわいそう。割と力入れてないかい君。
「も少し弱めてあげなさい」
「しかしこの状況、こいつが敵ではないといいきれる証拠がありません。もしかしたら敵の送り出した手先かもしれません」
それはそうだけども……。
「ちょ! ちがががが!」
「質問への回答以外の発言を許した覚えはありませんが?」
これ以上放置はいろいろヤバそうだね。えぇっと、虫かご虫かご……あった。大昔に使っていた緑色のがっさいの。
自分はそれの蓋を開けて意気揚々と彼女に向ける。
「シルバちゃん、ほれ」
「おぉ、用意周到ですね」
どうやら意図は伝わったようで、彼女は戸惑いの様子もなくその小鳥をぽいとかごに放り入れた。
もちろん、即座にふたは閉める。
「きゃ!? ちょ! 何よこの扱い!」
まぁ、気持ちはわかるがこっちもこっちで真剣なんだ。不安要素が排除されるまでおとなしくしていてもらいたい。悪いね。
「私は! あなた達の味方よ! どーせ何も情報ない状態なんでしょ! いろいろ教えてあげに来たの!」
叫び暴れる小鳥さん。ガッコンガッコンとぶつかる音が痛そうだ。
「ちょ! 何よこれ固い! 痛い! この! この私を閉じ込めるなんてどんな魔法具なのよ!」
ただのプラスチックの虫かごです。
「先生」
「うん?」
「そちら、私に預けていただけますか?」
「いいけども」
どしたんだろ。
とりあえず渡してやると、彼女は虫かごについているひもをたすき掛けに装備する。
「よし。ではこれの処遇は任せてください」
あぁ、預かるってそういう。
「何か不穏な行動があれば、即座に捻りつぶします」
物騒な。
「ちょ、嫌よ私まだ何も悪いことしてないわよ!」
「まだ、ですか」
「そう言う意味じゃなーい!」
……なんかかわいく見えてきた。
というかあまりいじめるなよ? さっきこいつ中々に聞き捨てならない情報いってたからな。
「まぁまぁ、そんなことよりさ彼女、さっき塔には封印やら門番やら言うてた気がするんだが、そこらへん詳しく教えてな」
「そ、そう! あなたは話が分かるじゃない! この暴力主義の小さい悪魔とは大ちがあぁぁぁぁ!」
虫かご振るなって。
「誰が! 小さい! ですか!」
しかもそこかよ。
「はいはい、やめやめ。茶番やってる時間ないんだから、サクサク進めようか」
「……むぅ」
むくれんなってちびっこ。
「うあぁ……め、目が、おえっ……」
同情はしよう。
「で、情報ちょーだい」
「うぅ……あ、あのね、私は、王女様の使い魔なの。それで、あなた達をお手伝いするように言われて、ここに来たのよ。だれか、この状況を打破できる者を探して来いって」
「王女様に?」
「そうよ。私はいろいろ知ってるの。お城の間取りも、どこに誰かいるのかも。そしてもちろんどの魔獣がどこで何を護っているか、とかもね」
なるほろねー。
「王女様のいるお部屋に行くには封印された扉を開けなければならないの。そしてその扉の鍵は今あの裏切り者のランドールが手にしているわ」
……うっわ。めんどくせぇ。
「でもそれ以外にも封印を破る方法があるわ! 塔を中心に配備された三つの宝玉よ! ここらの魔獣の力の源でもあるその宝玉を破壊すれば、封印を維持する力もなくなる! そしてなによりここらいったいの魔獣の力が大きく制限されるの!」
ふぅむ。つまりその話を信用するなら、まさしく今自分がなすべきことはそれを破壊することではないか。
「ふむ」
「わかってくれた!? でももちろんその宝玉を――」
「その封印された塔にいる王女様からどうやって命を受けてあなたはここにいるのですか?」
……うむ? シルバちゃんそれどゆ意味?
「どう言う事?」
「あなたが塔から脱出してここにいるなら、それは王女様ももちろん脱出できるでしょう? なぜ王女様は脱出せず、あなたをよこしたの? もっと言えばどうやって私たちの情報を知り得たの?」
「あぁ、そう言う事。答えは二つ。一つは塔ではさっき言っていた宝玉の封印の影響で魔術の類が使えない。私はこの通り難なく飛べるけど、王女様たちは翼を持たないから窓からは逃げられないの。そしてもう一つ。王女様は今呪いに侵されていて、身動きが取れない。だから私が来た。情報は基本的に私がいろいろ嗅ぎまわって伝えていたわ。これで納得してくれる?」
あーそれは、確かに逃げらんないな。うん。
ただでさえ外壁にはカニがいた……あれ? そういやすっかり忘れとったが天井落とした時窓の方のカニはどうしたんだろう?
目に入る範囲には、なにもおらんしなぁ。
まっさか、援軍呼びに行ったとかないよねぇ?
……ありうるな。
「……まぁ、いいでしょう」
ま、それは今は警戒するにとどめて置いといて。どうやらシルバちゃんも納得したようで。
「話を戻すわ。宝玉について、番人が三人いるの。皆魔獣で、彼らを倒さなければ――」
うん? どした?
話を続けようぜ?
うん? シルバちゃんも何驚愕顔で、というか顔色が青いというか――
「先生! 後ろ!」
「はえ?」
後ろ? うん、まぁとりあえずそう焦った声出されたら見ないわけにも―――
『ニンゲンだ』
『ニンゲンだね』
『うん、ニンゲン』
そこには、顔があった。
それは三人の男性の顔で、皆無表情に血の気を失った色をした死体のようなそれが一人分の人の身体から、しかし明らかに通常の人のそれより大きな身体から、まるでさも当然であるかのように生えており、じっとりとこちらを濁った眼で眺めている。
そしてその瞳は一面紫色に変色しており、白目も黒目もなく皆、不気味な光沢を放っている。
……うん、そんなものがなんか、五歩先くらいにいて、うん。なんか正気度削れそう。
というかビビりすぎて声でなかったわ。
「さ、三面のサライ……なんでこんなところに」
小鳥さんが戦慄したような声でつぶやく。
なんねその、なんというか、ステージ3のボスかな? こんなところ、ってことはここは三面ではなく二面だったりして。はっはっは。
しかしこいつは、こういう種族の人……ってわけとは違うようだね。
『こいつ殺せば褒められる?』
『こいつ殺せば褒められる』
『褒められるからこいつ殺そう』
まぁ物騒。やっぱりこれも魔獣ってやつ?
フラグ回収早いわ。




