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105・湿り気


In side


「くっそがぁ! 担がれたぁ!!」

 とりあえず適当な部屋にに逃げ込んだ直後、デビル君の咆哮が開いてる窓から入ってくる。どうやらまんまと騙されたことに今更ながら気付いたようだ。

 たぶんキエラがぶち破った窓から音が漏れたんだろうが……声量すごいわね。腹から声を出す方法を知っている人の声だ。

「元気なこって」

 窓を見やりながら何となしにつぶやく。このまま疲れてダウンしてくれたら嬉しいんだけどねぇ。

 ま、そううまくもいかないか。とりあえず窓は閉めといて、と。念には念を入れて窓と扉に、F12『強固な壁』っと。これで開かないし壊れないはずだ。

 ま、そんなことより今はこっちのやることだ。

「ここならだれか人が来る感じもないし、ひとまずは安全でしょう。ほれ、もう動いて大丈夫よ」

 自分は抱えていたお姫様姿のシルバちゃんをとりあえず適当な椅子へと降ろし座らせる。

「あ、の、ありがとう、ござい、ます」

 すると彼女はそのまま素直に椅子へと腰を落ち着け……服、掴んだまんまやね。

 ……まぁ、不安なのはわかるけどね。怖かったのも理解している。普通に生きていたら誘拐の憂き目なんて遭うこたないだろうしね。

「体調おかしいとこととか、ない?」

「え? あ、はい……」

 うーん。やっぱりどこかたどたどしいな。

「本当に大丈夫?」

「はい、だいじょととと」

「おっと」

 立ち上がりふらつく彼女をとっさに支える。

 全然大丈夫じゃないじゃないのさ。

「こりゃ回復待ちだね」

「……すみません」

 そんな暗い顔せんと。気持ちはわかるが、しかたないんだしさ。

 ……そだ。

「シルバちゃんさ、おなか空いてない?」

「え?」

「ほれ。血ぃ吸い」

 襟を開き首筋を見せる。

 ……井戸で流されかけながらも入念に洗った、もとい流されたし、大量にファブりもした。大丈夫なはずだ。

「そんな、でも、先生だって――」

「朝も吸ってないんでしょ? 気にしなくていい。それに今ダウンされたら困るしね」

 まぁ、あんな事件の後なのでこれ以上無理強いはしないけどさ。

 一応首筋にはかかっていない、はず。

「……わかりました。それでは、いただきます」

「ん」

 彼女に近付き首を差し出す。

 細い腕が後ろに回り、あたたかな口と鋭い牙が皮膚に触れる。

 まぁいつもの感覚ですわ。もはや色気もへったくれもない。もう慣れたしコメントすることもない。

「……臭くない?」

 しかしこれだけは聞いてしまう。

「んっ、はっ……良い匂いがします。それに、あたたかくて、おいしい」

 口を離し、そう言うと再び血を飲むことに集中する。

 よかった。なんか安心した。冷静に考えればこの状態で『臭いです』なんて言えないだろうなとは思うが、なんか安心した。

 ……さて、シルバちゃんに吸われながらか考える。しかし今後どうしようか。

 まずは彼女の扱いだ。いくら彼女が強いとて、この状況じゃどうだろうか。

 パッと見いつもの大剣は装備しておらず、しかも現在もちょっとふらふら状態だ。

 確かにかつて彼女は魔獣を一撃必殺する魔法を撃ちはしたが、結果その後満身創痍。最終的には守られる側へとなってしまった。

 正直、魔獣を一掃できる可能性があるのはいいが、その後のリカバリーが問題なのよな。

 はっきり言って魔力使い果たした彼女を抱えて目的達成できるかといったら、自信はない。

 でもだからと言って彼女を置いていくというのもできないし、お姫様たちのところに押し付ける……あっちの状況が分からん状態では何とも言えんな。ここはシルバちゃんに要相談だね。

 あと残る選択肢は……危険だが、やはり彼女にも一緒に戦ってもらう、か。

 捕らわれてる人の捜索、魔石の破壊、そして彼女を無傷で帰す。やることいっぱいだね。

 ……そう言えば当初は自分と彼女の二人で侵入する案が出ていたんだっけ。

 結局そうなっちゃったなぁ。

「……はぅ、ん。ごちそうさまでした」

「おそまつさま」

 そうこう考えてるうちに彼女の食事も終わったようで、首がひんやりと風にさらされる。

「んっ」

 あ、よかったちゃんと拭いてくれた。

 でもドレスの袖で拭くのはどうかと思うの。

「ありがとうございました。おかげで元気になりました」

「そうか。本当に大丈夫? ちゃんと立てる?」

「はい」

 そう言って彼女はぴょんこと立ち上がり、しっかりとした足で床を踏む。

 ふむ。これなら大丈夫そうだね。

「よかった」

「先生のおかげです」

 そう? 弁当冥利に尽きるね。

 ……ん? あぁ、まだこの子人の服掴んでる。

「……やっぱり大丈夫?」

「え? な、なにかありました」

 おい。無意識か。

「服、掴んでるよ。やっぱりまだ怖い?」

「ふく? ……あ! す、すみません」

 おうおうかわいい声出しちゃって。

 不安なら無理せんでもいいんだよ。

 さすがに敵の本拠地ど真ん中だから安全とは言い難いが、それでも多少落ち着くくらいの時間はあるはずだ。

 というかここで彼女のケアを万全にしとかないと、変なところで止まったりされたら困るからね。

「別にいいさ。不安だったのも怖かったこともわかってるつもりだし、責めるつもりはないよ。むしろ君は頑張ったとも思っている。でも不安なら不安で、ちゃんとその気持ちと向き合わなきゃ。無理に押し込めようとして変な形で澱になったら、それこそ事だ」

 よしよしと頭をなでる。

 ちょっと子ども扱いしすぎな気もあるが、不安な時はこれが一番だと思う。

 するとどうだ、彼女は若干うつむいて、少しだけ肩を震わせた。

「……は、ははは。やっぱり、わかりますか? ほんとうは、怖かったんです。あの時の光景を何度も繰り返して、わたしこのまま消えちゃうのかなって……」

 あぁ、一番思い出したくない思い出ってやつか。まぁ深くは聞かんさ。

「そっか」

「でも、もう大丈夫です。先生が助けてくれましたから」

 顔をあげ、明るい笑顔を向けてくれる。

 うれしいこと言うね。女の子にそう言われると、自分調子のっちゃうよん?

「それはよかった。でも何かあったらすぐに言ってよね。自分がいつでも慰めてやろう。ほーらお兄ちゃんの胸でお泣き。ギュッてしてやろう」

 はははと笑いながら冗談めかして腕を広げると、彼女は一瞬目を見開いてすぐに顔を伏せってしまった。

 う、うーむ……さすがに調子乗りすぎたか?

 こういう、何かを乗り越えたあとみたいな信教のときはなるだけおどけてあげた方がいいんじゃないかって思ったんだが。

 怒られ反省したた後とかの親戚の子は大体これで自分に飛びつく、もといタックルしてくるんだがこれは彼女にドン引き――

「……なんで」

「う?」

「なんであなたは、そんなに私の求めていることをしてくれるんですか?」

 ……え?

「護ってくれて、叱ってくれて、おんぶしてくれて、血を分けてくれて、私が私だと見抜いてくれて……なんでそんなに優しいの!? なんで、そんなに私の欲しかったことがわかるの!? なんで私がしてほしい事をしてくれるの!?」

 ……うん?

「……胸」

「え?」

「先生の胸で、泣いてもいいですか? ギュッて、してくれますか?」

 ……。

「頭よしよしもしてやろう」

 ばっちこい。自分がそう言って再び腕を広げると、彼女はみるみると目尻に涙を蓄える。

 そして、大きな泣き声とともにとびついてきた。

「うっ、ぐずっ、ひっぐ……ぬあー!」

 あー、うん。あの、言うた手前止めろとは言わんがね、その、顔ぐりぐりされると……服に鼻水が。

「ごわがっだ! ざびしがっだ! もうだめだどおもっだ! ずっど、ずっとあのとぎをくりがえじで! ごわがっだの! でもぜんぜえが、だずげてくれで! うれしがっだ! もうひどりじゃないっで、ごどくじゃないっでおもえで! あっだががっだの! うれしがっだの!」

 そうかそうか。どの時を繰り返してたかはわからんが、相当怖かったのだろう。

 存分に、泣くがよい。

「いっづもぜんぜいはわたしをみでくれで! うれじぐで! あきらめでたごどおもいだじで! ひぐっ! わたじをわたじとしてみてぐれて! じんぱいじてくれで! あぁぁぁぁ!」

 ……もう止まらんなこれ。

 よしこうなったらもう思うがままにその気持ちを吐露してくれたまえ。

 でも顔をグリグリやられるたびに湿り気が増すのは――

「きゅしゅん! ぶびっ!」

 なんか爆発しよった。

 ははは……こりゃもっかいお着替えかな。

 まぁ、これで彼女が満足するなら安いもんよ。

 ……しかしなぁこれは、うん。

 彼女の頭を撫でながら自分はやはりと思うのだ。

 これさ、もしかしなくてもさ、やっぱりさ、確実にさ、ここまできたらこの娘自分に惚れとるわよね。


「あぁぁぁん! おにぃざま! おにいざま! わだじ! わだじはぁ! ぬおー!」

 やっぱ気のせいかも。


自分の好きなこと・やりたい内容を気兼ねなく書くと楽しいけど冗長になりやすいのが悩み。

かいてる本人は楽しいんだけどね。

まぁ、そう言う趣味ですよ。

あとどうでもいいけどイカが楽しい。


ミウラさんがかわいすぎてかわいい。


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