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World chronicle  作者: 葵鏡
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クエストを終えて

 グレイウルフとの戦闘は、アークの援護に助けられて何とか形になっていた。

 カヲルがブロードソードで斬りかかり、グレイウルフがそれを避けた所にミツの初期攻撃魔法、魔力の矢(ボルツ)がグレイウルフを捕らえる。

 意識の外からの攻撃に、グレイウルフの攻撃目標がミツへと移り、ミツに向かって襲い掛かろうとすると、今度はカヲルが背後から斬りかかる。

 再び攻撃目標がカヲルへと移り、至近距離のカヲルへと噛み付こうとした所で、機先を制したアークの矢が鼻先を掠めて攻撃が不発に終わる。


「このっ、いい加減に倒れなさいよねっ!!」


「カヲルちゃん、焦っちゃ駄目だよ! 少しずつでも確実に攻撃を当てに行って!!」


 長引く戦闘に苛立つカヲルに、ミツが声を掛ける。

 言葉を交わしながらもグレイウルフから注意を逸らす事なく、互いの位置取りに気を配りながら交互に攻撃を加えていく。

 戦闘開始時には俊敏に動き回っていたグレイウルフも、徐々に体力を削られその動きに陰りを見せ始める。

 二人は油断することなく、確実にグレイウルフを倒すために攻撃を続ける。



 やがて、二人の攻撃に力尽きたグレイウルフがその場に倒れると、その姿を消滅させる。

 グレイウルフが消滅した場所に、アイテムが二つ落ちている。

 カヲルがアイテムを拾い確認すると、【魔獣の牙】と【魔獣の爪】と言う素材系のアイテムだった。

 何に利用できるか解らないので、取り敢えずカヲルが両方とも所持する事にする。


「ね、カヲルちゃん。襲われたマイニングラビット達なんだけど、あのままにしておけないよね」


 ミツの言葉にカヲルが確かにと思う。

 これまで二人が遊んだゲームでは、力尽きたモンスターなどは暫くしたら消滅するはずなのだが、このゲームではそうでは無いらしい。

 一向に消える気配が無く、無惨な姿を晒しているマイニングラビット達の姿に、二人は憐憫の情を抱いたようだ。


(本来なら、こういった状況にはならない筈なのだが……原因はやはりこの二人なんだろうな)


 ゲームの仕様を知るアークは、内心でそう思いながらも表情は変えずに、二人にどうしたいのかを訊ねる。

 アークの質問に、二人は弔ってあげたい旨を伝えると、アークと共に巣の傍にある開けた場所を捜すことにする。

 目的の場所はそれほど時間を掛けずに見付けることが出来た。



 二人はアークから素材探索用に使うシャベルを借りて埋葬するための穴を掘り、アークがマイニングラビットの亡骸を集める。

 ゲームとは言え、食い散らかされた亡骸を二人に見せるのは刺激が強すぎると判断したからだ。

 二人から準備が出来たと声を掛けられたアークが、マイニングラビットの亡骸を埋葬する。

 その間に、二人は周囲から捜してきた比較的大きくて綺麗な石と花々を供える。


「後は報告をすればクエストはクリアだよ」


 アークがそう説明すると、カヲルが報告に行こうと提案するも、ミツは気になる事があるのか思案顔を見せている。


「ミツ? 何か気になる事があるの?」


「うん、ちょっとね。アークさん、魔獣って魔力の吹き溜まりにある条件が加わると、現れるんですよね?」


「ん? 確かにそうだけど、条件は様々だから特定するのは難しいね」


 アークの答えにミツは一つ頷くと、アークに魔力の吹き溜まりは探せるのかを訊ねる。

 その質問にミツの意図を悟ったアークは、『正直に言うと、難しいね』と答える。


「ミツ、あんた魔獣の発生源をどうにかしたいの?」


 二人のやりとりに、カヲルもミツの意図に気付く。

 確かに、魔力の吹き溜まりをどうにか出来れば、魔獣が再び現れる心配もなくなるだろう。

 そうすれば、マイニングラビット達が住処を追われる事もなくなり、人里近くに現れる心配もなくなる事になる。



 問題は、魔力の吹き溜まりの場所を特定する事なのだが、今の三人はそれを知る術がない。

 三人が問題を解決する方法がないか思案していると、一羽のマイニングラビットが現れた。


「……? ねぇ、ミツ。この子ってマイニングラビット、だよね?」


 現れたマイニングラビットの姿に、カヲルがミツに困惑気味に訊ねる。

 カヲル同様、ミツも困惑した様子を見せながらも、『そのはずだと思うよ』と、自信なげに答える。

 二人が戸惑うのも道理で、現れたマイニングラビットの姿が通常のマイニングラビットとはかけ離れていた。

 調べた書物に書いてあったように白い毛並みではあるが、その毛並みは艶やかな純白だ。

 そして、一番の差異は額に当たる部分に、深紅のルビーを思わせる宝玉が見て取れる事だった。


「何だか、いかにも特別って感じがするよね」


 現れた純白のマイニングラビットは、三人の様子を窺うようにちょこんと座っている。

 その様子に、ミツが何かのフラグが立ったのかと考え、純白のマイニングラビットに話し掛ける。


「僕達に、何か用かな?」


 ミツに話し掛けられたマイニングラビットは後ろ足で立ち上がると、前足を手招くように揺らしてから森の方へと移動する。

 そのまま森の中に入るわけでなく、ミツ達の方に振り返ると付いて来てといった様子で三人を見ている。


「ひょっとしたら、僕達を魔力の吹き溜まりの場所まで案内してくれるのかな?」


 ミツの言葉にカヲルは否定が出来ず戸惑った様子を見せている。

 それとは対照的に、アークは興味深く純白のマイニングラビットの様子を見ており、どうするかはミツの判断に任せる気のようだ。

 判断を任されたミツは迷うことなく、純白のマイニングラビットに付いていく事にする。

 こちらの考えが解っているのか、純白のマイニングラビットは時折ミツ達の方へと振り返り、ちゃんと付いてきているのかを確認する。


「頭のいい子だね」


 カヲルの感想にミツは同意する。

 純白のマイニングラビットは、ミツ達が通りやすい場所を選んで案内しており、はぐれないように終始ミツ達へ気を配っている。

 ミツ達が案内されて辿り着いた場所は、山沿いの日当たりの悪い場所だった。

 山肌に不自然な窪みが出来ており、その窪みの周囲に目に見えて魔力が淀んでいる様が見て取れた。


「……これが、魔力の吹き溜まり?」


 異様な光景に、カヲルが呟く。

 窪みの中で暗褐色と緑色の魔力と思われる光が渦を巻いており、今にも新たな魔獣が生まれてきそうな様子だ。

 カヲルの呟きにアークが肯定すると、魔力の吹き溜まりについて、二人に説明をしてくれた。



 魔力の吹き溜まりとは、その名の通り魔力が吹き溜まっている場所の事なのだが、場所事に溜まっている魔力の質が違うらしい。

 いわゆる無属性と呼ばれる純魔力を含め、地、水、火、風、光、闇と場所によって様々な属性を帯びているそうだ。



 それに加え、反属性の魔力は同時に存在する事は出来ないのだが、魔力の吹き溜まりに限っては複合するという。

 複合した魔力の吹き溜まりから生まれた魔獣は総じて強力な個体となるらしく、今回のグレイウルフはその強力な個体に属するそうだ。


「強力な個体と言っても、今回のは、このエリアに対してって意味だからね」


 アークの言葉に二人が頷く。

 確かにグレイウルフは、レベル1のクエストに出てくるようなレベルでは無かった。

 カヲルとミツは、アークという高レベルのキャラクターによるサポートがあったから苦戦する事なく戦えたが、二人だけならどうなった事か。

 改めて、二人は随分と無茶をやったのだなと理解する。

 とは言え、それを後悔するつもりは二人には無く、困っている人とマイニングラビット達を助けられて良かったと思っている。


「そう言えば、魔力の吹き溜まりって、どうやれば消す事が出来るんですか?」


「この規模なら、ミツ君のボルツを撃ち込めば消滅するはずだよ」


 本来の目的を思い出したミツがアークに訊ねると、そんな返答が返ってきた。

 ミツはアークに言われたとおり、魔力の吹き溜まりに向けてボルツを放つ。

 魔力の吹き溜まりにボルツが命中した瞬間、眩い光が発されて辺りを真っ白に染め上げる。

 光の眩さにミツ達は目を閉じるが、光が発されたのはほんの一瞬の事だった。



 魔力の吹き溜まりだった窪みを見てみると、握り拳大の丸い物体が落ちていた。

 アークの説明によると、その丸い物体は魔力の吹き溜まりを消滅させたときに入手できる【魔水晶】と呼ばれる魔力の結晶との事。

 魔水晶は様々な用途に使えるアイテムで、消耗した精神力(MP)を回復させたり、調合や装備に属性を付与する事が出来るらしい。


「魔力の吹き溜まりを見付けたら、可能ならば消滅させた方が良いよ」


 アークが二人にそうアドバイスする。


『ありがとうございました、小さな救世主達』


 どこからともなく聞こえてきた女性の声に、カヲルとミツは驚いて辺りを見渡す。

 どうやら声の発生元は、ここまで道案内をしてくれた純白のマイニングラビットで、ちょこんと座った状態で二人にお辞儀をする。

 その愛らしい姿にカヲルが『可愛い!』と黄色い声を上げるが、ミツは落ち着いた様子で純白のマイニングラビットに話し掛ける。


「君は、一体?」


『私はマイニングラビットの総体意志にして守護精霊です。この度は私共の為にご尽力いただき誠にありがとうございました』


 ミツの質問に答えた純白のマイニングラビットは、再び二人にお辞儀をする。

 純白のマイニングラビットは二人に話す。

 グレイウルフに住処を追われたマイニングラビット達は空腹に抗えず、人里の作物に手を出した結果、狩られる対象となった事。

 このままでは狩り尽くされて種の存亡に関わる所まで追いつめられたところで、カヲルとミツという救世主が現れた事。

 二人のおかげでグレイウルフは倒され、魔力の吹き溜まりも消滅させてくれた事で滅亡の危機から救われた事。


『あなた方のおかげで、私共は安心して元の場所で暮らしていく事が出来ます。本当にありがとうございました』


 そう言って、純白のマイニングラビットは二人に、薄茶色の八角形のメダルのようなモノを渡す。


【システムアナウンス:鉱山ウサギの友誼を獲得しました】


 メダルのようなモノを受け取った直後、ポーンというアラームが鳴り、二人の脳裏にアナウンスが聞こえる。

 突然の事に唖然とする二人に、純白のマイニングラビットは言葉を続ける。


『それは私共マイニングラビットの友情の証でございます。私共にお手伝い出来る事がありましたら、お声をおかけ下さい』


 そう言って、純白のマイニングラビットは二人に自身の名前を教える。


【ラヴィニア】


 それが純白のマイニングラビットの名前だ。

 精霊達の名前は特別で、精霊に認められた者にしか、その名を呼ぶ資格が無いという。

 その上、資格のない者には、精霊達の名前を聞き取る事が出来ないようになっているという徹底ぶりで、その事実に二人は驚く。

 自分達を認めてくれたラヴィニアに二人はお礼を述べると、遊びに来る事を約束する。


『それでは、再びお会いできるその時を楽しみにお待ちしておりますね』


 そう言って、純白のマイニングラビット、ラヴィニアは去っていった。


「それじゃ、報告に戻ろうか?」


 アークの言葉に二人は頷く。


「あれ? そう言えば、アークさんの分のメダルは貰えなかったよね?」


「あぁ、それか。僕は貰う必要が無いからね」


 カヲルがそんな疑問を述べると、アークは笑って先ほど二人が貰った物と同じ物を見せる。


『あっ!?』


「僕は二人とは違った状況でこれを貰ったんだよ。だから、先ほど彼女は僕にメダルを渡さなかったのさ」


 驚く二人に、アークは笑いながら種明かしをする。

 ミツはアークが既に鉱山ウサギの友誼を得ていた事に安堵の表情を浮かべる。

 グレイウルフを倒せたのは、アークの助力があったからで、そのアークがこんな重要なアイテムを貰えなかった事を気にしていたらしい。


「ミツ君は優しいね」


 アークのお礼にミツは照れた反応を返すと、カヲルが顔を赤くして自分も心配していたと抗議する。

 そんなカヲルの年相応な反応に、アークは内心で微笑ましいと思うも、表情には出さずに二人にそろそろ戻ろうと言葉を掛ける。



 辺りはそろそろ夕暮れ時になっており、日が暮れると強力なモンスターが現れるのだそうだ。

 それに加え、そろそろゲームの制限時間が近付いているので、クエストを未クリアで終了するのは心残りになるだろうとの判断だ。

 アークの言葉に二人は慌てると、ブランに報告するために急いで戻る事にする。





 二人から事の顛末を聞かされたブランは腕を組んで難しい表情を見せていた。


「なるほど……そんな事情があったのか。魔獣の問題まで解決してくれたとあっては、報酬が割に合わんな」


 そう言ってブランは、200Gの報酬金を500Gへと引き上げ、鉱山ウサギの毛皮×5に加えて回復薬5個を報酬として手渡してくれた。

 ブランは今後も何かあったときは宜しく頼むと言うと、組合で今回の件を話し合い、今後は魔獣に対する対策も検討する必要があると話す。

 カヲル達はブランに挨拶すると、ディアラスタへと戻る事にする。


「そろそろ制限時間になるから、今日はログアウトした方が良さそうだね」


 ステータス画面のシステム欄でプレイ時間を確認したミツがカヲルに話し掛ける。

 カヲルもシステム欄を確認すると残り時間が後10分を切っていた。


「そうだね。今回の報酬で買い物とかするにしても時間が足りないから、続きはまた次だね」


「なら、転移の神殿へ戻ってログアウトしようか」


 二人の言葉にアークがそう提案して転移の神殿へと移動する。

 転移の神殿へと向かう中、同じようにログアウトする他のプレイヤー達の姿を目にする。

 その中には、装備品が二人の物よりも数段上と思われる物を装備しているキャラの姿を何人か見掛けた。


「早い人だと、レベルは幾つなんだろうね?」


 クエストをクリアした事で二人のレベルは2に上がったが、真新しい装備に身を包んだプレイヤー達は何レベルになっているのだろうか?

 カヲルがそんな素朴な疑問を口にすると、ミツはあまり気にした風でなく、急いでレベルを上げる必要はないと思うと感想を述べる。


「今回のクエストで解ったけど、このゲームは急いで先に進める類じゃ無いと思うよ」


「どういう事?」


 カヲルの質問にミツは、クエストの解決方法が一つで無いのなら、色々と試行錯誤した方がより楽しめると思うと答える。

 最速でクリアするのも楽しみ方の一つだが、色々と隠された事を捜す方がミツとしては楽しいようだ。

 その考え方は、推理小説を色々と推理しながら読み進めるのと似ているのだろう。


「ミツにはピッタリのゲームって事よね」


 カヲルは笑ってそう話すと、そう言った楽しみ方が出来るWorld chronicleでの、自分達のプレイスタイルが見えてきた事を感じていた。





2011年08月21日 初投稿

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