抵抗しよう
カヲルと別れ、リシェスとの契約方法を調べるために冒険者ギルドへと向かうミツとアリスに向かって、見知らぬ人物が声を掛けてきた。
「お~い、そこの君達! ちょっと聞きたい事があるんだが、良いかな?」
二人に声を掛けてきたのは、見た事のない装備品を纏った男性PCで、その背後に彼の仲間と思わしき三人の男女が控えていた。
突然声を掛けてきた人物にミツとアリスが身構えると、声を掛けてきた男性が二人に驚かせてしまった事を謝罪する。
「俺達はフェスティールから転移の神殿を使って移動してきてね、見慣れないMOBを連れている彼女に、そのMOBに付いて教えて欲しいことがあるんだ」
そう言うと、男性は自分と仲間の女性PCがテイマーである事を二人に告げる。
予期せぬテイマーPCとの邂逅に、僅かに人見知りをしたのかアリスがミツのローブの袖を掴む。
「僕達で答えられる事でしたらお教えできますが、変わりに使役獣との契約について教えて頂けませんか?」
「契約の仕方って……クラスチェンジする時にNPCからチュートリアルを受けなかったのか?」
ミツからの申し出に、話し掛けてきた男性PCが怪訝そうな表情で聞き返すと、ミツが簡単な経緯を説明する。
「なるほどな。特殊クエで偶然テイマーの条件を満たしたと。それで、そのMOBとまだ契約をしてないって訳か……」
ミツの説明に男性PCは納得した様子を見せ、仲間達の方へと振り返る。
『どうやら俺達はツイてるようだぜ』
『さっき言ったとおり、私が貰うからね』
『ココじゃ人目に付くからフィールドに移動しようぜ』
『そうですね、わざわざMOBを捜す手間も省けて、本当に我々はツイている』
パーティチャットで互いにやりとりを済ませると、男性PCはミツ達へと向き直り情報を教えてくれたお礼に契約について教える事を了承する。
「ま、ココだとちょっと問題があるからフィールドに出ないか? 移動の間に簡単な説明もするよ」
その言葉にミツはアリスへと視線を向けると、アリスは頷いて彼らと一緒にフィールドに出る事に同意を示す。
フィールドへと移動する中、男性PCから二人はテイマーについての簡単なレクチャーを受ける。
テイマーが契約するには契約石というアイテムが必要で、サマナーの契約石とはまた別のモノであるらしい。
それを用いて、戦闘で捕獲したMOBやテイマーギルドで販売されているMOBと契約を結ぶそうだ。
契約は、対象となるMOBに契約石を用いて名前を付ける事で完了し、契約が完了すると契約石は召喚石という別のアイテムへと変化する。
それを用いて、任意に契約したMOBを呼び出す事で、テイマーは戦闘や探索にMOBを同行させる事が可能となる。
「今のところレアなMOBを入手するには、戦闘で捕獲するしか手段が無いけど、捕獲するのもかなり難しいから、最初はギルドで販売してるのを購入するか、その辺りの低レベルのMOBを適当に捕まえるのが無難だな」
基本的には自身とのレベル差が判定基準と見なされているようで、MOBとのレベル差が5もあれば大体は使役獣にする事が可能だと男性PC、イグニスが説明する。
「契約石は消費アイテムだから、契約するMOBの数だけ用意する必要があるわよ」
そう言って、女性PCのケイナがイグニスの説明を継ぎ二人に契約石を見せる。
契約石は複数の種類があるらしく、対象となるMOBのレベルに合わせて使用する契約石は違うらしい。
ケイナが持っているのは10レベルまでのMOBと契約する事が出来る灰褐色の丸い球体と、11レベルから20レベルまでのMOBと契約することが出来る六角柱の琥珀色をした水晶の二種類だ。
アリスとミツは初めて見た契約石に、興味深そうな視線を向ける。
ミーシャとの契約で得た召喚石とはまた違った見た目に、ミツは契約石や召喚石にも様々な種類があるのだなと感心する。
「後は実際にMOBを捕まえて実践していくしか無いな。最初の内は契約できる数は一体だけだが、レベルが上がるにつれて契約できるMOBの数が増えていくし」
イグニス達の説明が終わる頃になって、ミツ達はディアラスタ東部の森の入り口近くに到着する。
この辺りは特に採取する薬草とかがある訳でもないため、ミツ達以外の人気はない。
「……この辺りまで来れば良いか」
辺りに、自分達以外の人気が無い事を確認したイグニスがそう呟く。
「契約は簡単で、対象となるMOBに契約石を当てて名前を付ければそれで完了だ。例えば……こんな風にな!」
そう言って、イグニスはアリスが抱えるリシェスを取り上げると、身動きが出来ないように両手でリシェスの躯を押さえ込む。
リシェスを奪われたアリスが抗議するよりも早く、金属鎧を纏った男性PCがアリスを背後から拘束し、ミツも同様に赤暗色のローブを纏った男性PCに拘束される。
「これは何の真似ですか!?」
そう抗議するミツに、イグニスが底意地の悪い笑みを向ける。
「何って? 契約するところを実演してやるんだよ」
「ごめんね、お嬢ちゃん達。お嬢ちゃん達にはこんなレアMOBは勿体ないから、私が有効利用してあげるわね」
先ほど二人に見せた契約石を手に、ケイナがリシェスへと近付く。
イグニスに抑え付けられたリシェスは瞳を深紅に輝かせて抵抗するも、四肢をガッシリと押さえつけられて逃げ出す事が出来ずにいる。
「やめてっ! リシェスに酷い事をしないで!!」
背後から両肩を押さえつけられたアリスが必死に抗議するも、イグニス達は嘲笑するだけで全く取り合おうとしない。
アリスと同じく拘束されているミツは反対に、どうにかして拘束を解く事は出来ないかと冷静に思考を巡らせる。
『マスター、吾輩がマスター達を抑えている相手の注意を引くから、その隙にリシェスを救い出すと良い』
ミツの脳裏に、いつの間にか姿を消していたミーシャの声が響く。
(ミーシャ!? 今どこに居るの?)
『二人のすぐ傍におるよ。連中がリシェスに気を取られている内に、急いで行動するが良い』
ミーシャに促されたミツはシステム画面を開くと、自身が使える攻撃魔法の一覧を表示する。
今現在、ミツが使える攻撃魔法は魔力の矢と魔力の連矢、そして炎の矢の三個。
その中で発動時間が一番早いのは初期魔法であるボルツだ。
(……えっ!?)
ミツがボルツをいつでも使用できるように意識を向けた瞬間、ミツの視界に赤く光る軌道が表示される。
どうやらクラスチェンジをした事が原因なのか、自動ではなく任意で魔法の命中先を指定できるようになったようだ。
ミツはリシェスを拘束しているイグニスの鼻先を掠めるようにボルツの軌道を調整すると、いつでも発動できるように意識を集中する。
「アンタの名前はフォルス、今から私がアンタのご主人様だよ!」
ケイナが声高らかにリシェスに契約石を使う。
契約石はケイナの意志に反応して、青白い光を放つと、リシェスへとその光を向ける。
光に照らされたリシェスは激しく抵抗するが、イグニスに抑え付けられているため、光から逃れることが出来ない。
「これで、このMOBは私の物よ!」
リシェスに向けられた光が消えると同時に、ケイナが嬉しそうに叫ぶ。
しかし、その喜びも束の間、ケイナの持つ契約石が召喚石に転じる事なく砕け散る。
『なっ!?』
見た事のない現象に、ケイナだけではなくイグニス達も驚愕の表情を顕わにする。
ケイナは慌てて、もう一度リシェスと契約するために契約石を使用するが、先ほどと同じく契約石は召喚石に変わる事なく砕け散る。
「おいっ、これはどういう事だ!?」
「そんなの、私にも解んないわよ!!」
予想外の事態に、イグニス達が取り乱す。
その隙を逃さず、ミツがミーシャに指示を出す。
(ミーシャ!!)
『任せよ!』
ミツの指示に従い、今まで姿を隠していたミーシャがミツの頭上にその姿を現すと、ミツを拘束する男性PCの顔面へと飛び掛かり、その顔を素早く引っ掻く。
「なんだ! コイツ!?」
ミーシャの不意打ちに、驚いた男性PCが拘束の手を緩めると同時にミツがその場から駆け出す。
『それ以上、吾輩の主達を薄汚い手で触るな! 下郎!!』
奇襲を成功させたミーシャは攻撃した男性PCの顔面を踏み台にすると、そのままアリスを拘束する男性PCへと飛び掛かり、電撃魔法を顔面へと放つ。
「アリスちゃん、リシェスを!!」
ミツの時と同じく、顔面へと攻撃を受けた男性PCがアリスの拘束を解くのを確認したミツがイグニスの鼻先にボルツを放つ。
自身の鼻先を掠めたボルツに驚いたイグニスが、リシェスを放り出す。
解放されたリシェスが地面に落ちるよりも早く、アリスがその躯を優しく抱きとめると、その場に座り込む。
「リシェス、怖い思いをさせて本当にごめんね!!」
腕の中で怯えるリシェスに、アリスが謝る。
リシェスの母親になるのだと誓ったのに、守る事が出来なかった自身を悔いながらも、アリスはリシェスを落ち着かせるために、優しく撫で続ける。
「ッ!? この……小娘達が!」
ミツにしてやられたイグニスが顔を憎悪に歪めると、近くにいるアリスを蹴り飛ばそうとする。
リシェスを抱きしめて座り込んでいるため、回避が間に合わないアリスはリシェスだけでも守ろうと身体を丸める。
「やめろぉぉぉぉっ!!」
イグニスの行動に気付いたミツは叫びながら、アリスを蹴ろうとするイグニスの軸足に向かって体当たりをする。
小柄ながらも、必死の体当たりにイグニスが体勢を崩してその場に倒れる。
「……ふ……ざけんなッ!!」
体勢を崩された事に更なる怒りを募らせたイグニスが、倒れた体勢のままミツを踏みつけるように蹴り飛ばす。
防御も出来ず蹴り飛ばされたミツは、勢い良く近くの木に叩きつけられるも、アリスとリシェスを守るために立ち上がろうとする。
そんなミツの元へとアリスが駆けつけると、ヒールを使いミツの怪我を癒しながら、ミツの安否を気遣う。
【システムアナウンス:セーフティレベルのPCに対する攻撃を確認。ペナルティが発生します】
突然のシステムアナウンスに、イグニスが怒りを忘れて唖然とした表情になる。
慌ててシステム画面を確認すると、ペナルティの項目が新たに表示されていた。
内容は、一定時間の自身が受けるダメージの増大。それに加え、自身に対するあらゆるステータス上昇効果の無効。
これだけでも相当の痛手だが、自身のステータスも減少する処置が施されていた。
「……何だよ、このふざけた処置は!?」
ペナルティの内容を確認したイグニスが、再び怒り心頭状態になる。
イグニスから少し遅れて、ケイナ達にも同様の内容のシステムアナウンスがあったようで、全員がその内容に対して不平不満の声を上げる。
彼らの会話から、自分達に危害を加える事によって不利益を被った事を察したミツが、アリスの肩を借りて立ち上がる。
「……これ以上、互いに益するところが無いので、手を引いてくれませんか?」
「ふざけんな! 誰のせいで俺達がこんな目に遭ってると思ってんだよ!!」
ミツの言葉に逆上したイグニスが、今にも殴りかからんばかりに叫ぶと、それよりも大きな声でミツがその言葉を遮る。
「全部、あなた達自身の身勝手が招いた結果でしょう!! その責任を僕達に押し付けるなっ!!」
ミツの正論に一瞬、イグニスは沈黙するも、すぐに怒りで顔を真っ赤にして自身の得物に手を掛ける。
「この、ガキ……ペナルティなんて知った事か! 今ここでそのふざけた口を利けなくしてやる!!」
逆上するイグニスからアリスを守ろうと、ミツが一歩前に出る。
その瞳は理不尽に決して屈しないと強い意志を宿し、イグニスの瞳から真っ直ぐ視線を逸らさず見据える。
『そんなガキ相手にふざけた真似してんじゃねぇよ、雑魚が!』
どこからともなくそんな声が響くと、ミツとイグニスの間を遮るように、青く輝く衝撃波が地面を抉りながら通り過ぎる。
突然の出来事に、ミツとイグニスが衝撃波が飛んできた方向へと視線を向けると、そこには白く輝くブロードソードを無造作に構える金髪の男性PCの姿があった。
身に纏う装備は急所のみを護る軽装備で、身軽さを重視しているようだ。
「何だよ、テメェは。このガキの仲間か!?」
「はぁ? 仲間? 寝言は寐てから言え。まぁ、片方は顔見知りではあるけどな」
その言葉にミツは、金髪の男性PCが【シュウ】と呼ばれていた人物である事を思い出す。
「騒がしいから何事かと思って来てみたけれど、君達のやっている事は強奪だと理解しているのかい?」
そう言って、シュウの後から黒髪の黒い法衣を纏った男性PCが姿を現す。
「レイジ、こんな人気のないところにガキ共を連れ出すようなヤツらだぜ? 当然、承知の上だろうよ」
二人の会話に、イグニス達がバツの悪そうな表情を見せる。
「こちらとしても、事を荒立てたくないのだけれど、その子の提案を受けて手を引いてくれないかな?」
その様子から、多少なりとも後ろめたさを感じている事を察したレイジが、イグニス達にそう提案を持ちかけた。
2013年10月12日 初投稿




