キャラクターを作ろう
偶然出会った浅倉の計らいで、“World chronicle”をプレイする事が出来るようになった薫と光。
二人は現在、World chronicleのテスト筐体の中で涼子からの説明を受けながら、自分達の分身となるキャラクターの作成に取り掛かっていた。
『まず最初にキャラクターの外見だけど、デフォルトはプレイヤー当人の外見が反映されるわ』
涼子の説明によると、ゲーム内で行動する際に違和感を無くすための処置らしい。
モニターに映るデフォルト状態のキャラクターの姿。
キャラクターの隣に表示されている項目一覧から、自分好みにカスタムが出来るようだ。
「すぐに遊びたいから、このままで良いよね、光?」
「僕はそれで構わないよ」
『解ったわ。それじゃ、確認キーを押して初期クラスを選びましょう。一番初めに選べるクラスは、剣士か法士の二種類よ』
初めに選べる職業は、武器全般を扱える剣士と攻撃や回復魔法を使う法士の二種類だけで、そこから派生させていくそうだ。
薫は迷うことなく剣士を選び、光は少し考えて法士を選択する。
『そうそう。クラスは便宜上で、剣士でも汎用魔法なら使えるし、法士も全ての武器を使うことが出来るわよ』
World chronicleでは装備に関する制限が厳密ではないらしい。
近接武器を持った法士や魔法を扱う剣士など、プレイヤーの好みで色々と組み合わせが可能で、組み合わせのバリエーションはかなりの数になりそうだ。
もっとも、キャラクターメイクの段階では武器はダガーしか選べず、防具は簡素なレザーアーマーかローブのみである。
防具のみキャラクターメイキング時点で好きな色を選ぶ事が出来る。
薫はレザーアーマーを選択し、色は白色、光はローブを選び深い蒼色を選択する。
『選択できた? それじゃ、次はキャラクターの成長傾向を決めるわよ。確認キーを押して次の画面に移って頂戴』
指示に従い、次にモニターに映し出されたのは体力、筋力、精神力、知力、技量、敏捷力、運の七つの項目が書かれたグラフだった。
これらの項目に合計21ポイントを振り分ける事で、キャラクターが成長する際に能力の伸びやすさの傾向を決定するそうだ。
平均なら3ポイントだが、多くポイントを掛けた能力と比較すると見劣りする欠点がある。
同様に、多くポイントを振り分けるとそれだけ成長が著しくなるが、低く設定した能力は伸び悩む事になる。
薫は筋力と技量、敏捷力に4ポイントを振り分け、残りは体力と運に3ポイント、精神力に2ポイント、知力に1ポイントを振り分けた。
光は一度、均等に3ポイントを振り分けてから体力と筋力を2ポイントに下げ、運を5ポイントに上げて成長傾向を決定する。
(面白い振り分け方をするわね)
薫が攻撃型に偏った振り分け方をするのに対して、光はなるべく平均的に振り分けている。
双子だと聞いているが、こうも性格に違いが出るのかと、涼子は感心する。
(いや、どちらかというと、光君が薫ちゃんに振り回されているからかも知れないわね)
二人のやりとりを見ていると、主導権は薫が握っているように見える。
光はそんな薫が無茶をしないように、気を配っているのだろう。
それが、控えめな性格となって表れているのだろうと涼子は推測する。
『それじゃ二人とも、最後にキャラクターの名前を決定してゲームを開始するわよ』
キャラクターの性別は生体データを読み込んだ時に自動的に決定されているので、この項目に関してはそのままで二人は名前を決める。
二人は特に悩まず、それぞれ自分の名前を入力する。
『カヲルとミツね、それじゃ二人とも、HMDを装着して楽にしてね』
涼子の指示に従い、二人はHMDを装着してシートにゆったりと身を預ける。
筐体内に気分を落ち着かせるアロマの香りが漂い、二人の意識がゆっくりと落ちていく。
二人が目覚めると、そこは壮麗な大聖堂を思わせる場所で、自分達の背後には虹色に煌めく水晶が置かれている。
「ようこそ、World chronicleへ」
そう言って二人に声を掛けてきたのは、青みがかった灰色のロングコートを艶消ししたレザーアーマーの上から纏った長身の男性キャラだ。
どこか眠そうな表情をしたそのキャラクターは、先ほど自分達をこのゲームで遊べるように手配してくれた浅倉の面影がある。
「浅倉さん、ですか?」
「うん、そう。こっちじゃ“アーク”って読んでくれると嬉しいな、“カヲル”ちゃん」
「……え? 僕、カヲルちゃんじゃなくて“ミツ”ですけど?」
その答えに浅倉ことアークは唖然とした表情になり、二人に指をさして確認を取ってくる。
その様子に、どうかしたのかと二人が互いに顔を見合わせると、アークが唖然とした理由がすぐに判った。
「ミツ、何であんたのキャラが女の子になっているのよ?」
「そう言うカヲルちゃんだって、男の子の姿になってるよ?」
『涼子ちゃん、これってどういう事?』
アークはプライベート回線を繋げると、涼子に確認を取る。
その様子をモニターしていた涼子もすぐにキーボードを操作して、原因を調べるためにデータをチェックする。
ほどなくして、涼子は二人の性別が入れ替わった原因を突き止めた。
『浅倉さん、原因が解りました。この子達が双子で、読み込んだ生体データをゲーム内に転送する際に混線したようです』
『……なるほどね。こりゃ、まだまだ改良の余地があるなぁ』
原因を聞いたアークがその事を二人に説明する。
「二人の性別を戻す事は取り敢えずは可能だけど、キャラをいったん削除しないと駄目だから、再メイクするのに一週間ほど時間が掛かるね」
「そんな!? 一週間も待てませんよ!」
アークの説明にカヲルが反論する。
ミツはそんなカヲルを宥めると、このままの姿でプレイする事は可能なのかをアークに確認する。
「原則としては、プレイヤー本来の性別でプレイしてもらいたい所なんだけど、こっちの手落ちだからね。その辺は問題はないよ」
「だったら、このままで良い!」
アークの言葉にカヲルが身を乗り出して、このまま続けたいと申し出る。
反対にミツは、このままの姿でプレイする事に抵抗があるようだ。
「カヲルちゃん、僕このままの姿でおかしくない? 気持ち悪くとかない?」
上目遣いでカヲルに話し掛けるミツの姿に、アークは内心、『どこから見ても女の子だな』と唖然としている。
「大丈夫! お父さん達も言ってたじゃない。『二人の性別を入れ替えたら丁度良かったのに』って」
その言葉に、アークは初めて二人に出会ったときの様子を思い出すと、確かにそうだなと妙に納得してしまう。
「うん、だったら僕もこのままで良いよ」
「心配しないで、可愛いミツはお姉ちゃんが守ってあげるから!」
「僕の方がお兄ちゃんなのに……」
「違うでしょ! ミツの方が弟なの! って、ゲームの中だと妹だよね? うん、決めた。ゲームの中ではあたしがお兄ちゃんだからね!」
カヲルの発言にミツが慌てて抗議するも、カヲルはそれを聞き入れる気はなく、ミツの手を引くとアークの方へと向き直る。
「アークさん。これからよろしくお願いします!」
「……お願いします」
元気よくカヲルがアークに挨拶すると、ミツも慌ててアークに頭を下げる。
そんな二人の様子に、思わず微笑ましい気持ちになったアークは、朗らかな笑みを浮かべて『こちらこそ宜しく』と、二人に返す。
「それじゃ、まずは二人の装備を揃えるのと、ギルドに登録をしに行こうか」
そう言うと、アークは二人の前に立って出口へと二人を案内する。
二人はアークに付いていくと、いよいよゲームを本格的に始められるんだと、期待に胸を高鳴らせるのだった。
2012年07月23日 初投稿