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World chronicle  作者: 葵鏡
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調べ物をしよう

 約束の時間が近付くにつれ、落ち着かない様子を見せる薫を光がなだめる。

 どうやら薫は、クラウンフォックスの幼生の事が気になっているようだ。


「薫ちゃん、待ち合わせの時間までまだあるんだから、ちょっとは落ち着こうよ」


「言われなくても解ってるわよ! でも、気になってしょうがないんだから!」


「二人とも、喧嘩してないで、ちょっと早いけど、ログインする前に晩ご飯を済ませましょう」


 杏子の言葉に二人は言い合いを止めると、晩ご飯の支度を手伝うためにキッチンへと向かう。

 言い争いをしてみても、その実は兄妹仲の良い二人の息のあった行動に、杏子は表情を綻ばせる。


「お父さん達はログインしないの?」


 晩ご飯を食べる手を止めて薫が洋一と杏子に訊ねると、二人は少し遅れてからログインすると答える。

 どうやら、自分達のクエストを終了させる事と、杏子が受けた特殊クエストの報告を済ませるだけらしい。

 杏子が自分の達のことは気にせず、アリスと楽しんできなさいと薫と光に言うと、二人は元気良く返事を返してご飯を食べ終えると、ログインするためゲーム専用部屋へと移動する。





 PCを起動させ二人は生体端末認証機に自身の生体端末を接続すると、アプリケーションを起動させる。

 ゲームが起動すると同時に二人の意識がゲーム世界へと接続され、見慣れた景色が広がっていく。


『お帰り、マスター』


 ちょこんと座った姿勢で、ログインしてきた二人を見上げたミーシャが声を掛けてくる。


「ただいま、ミーシャ」


 出迎えてくれたミーシャにミツが答えると、一つ頷きを返したミーシャがピョンと跳び上がってミツの肩へと移動する。

 ミーシャを肩に乗せたミツがカヲルと待ち合わせ場所へと移動すると、先に到着していたアリスが二人に気付いて駆け寄って来た。


「今晩は、ミツ君、カヲルちゃん」


 アリスの挨拶に二人もそれぞれ挨拶を返すと、ミツはアリスに抱っこされているクラウンフォックスの幼生にも声を掛ける。


「あっ! ミツ、抜け駆けするなんてズルイ!!」


 そう言ってカヲルもクラウンフォックスの幼生に声を掛けようとする。


「そう言えば……ね、アリス。この子の名前は決めたの?」


「この子の名前はね、【リシェス】って言うの」


 カヲルの質問にアリスは笑顔で答える。


「そっか、リシェスっていうんだ。改めて、あたしはカヲル。これからよろしくね、リシェス!」


 カヲルの挨拶にクラウンフォックスの幼生、リシェスは前脚をちょこんと持ち上げた姿勢で一声、鳴き声を返す。

 その愛らしい姿にカヲルは『可愛い!』と、黄色い歓声上げる。


『マスター。挨拶はその辺にして、そろそろ書庫に向かってはどうかの?』


 それまで黙っていたミーシャがミツ達に声を掛けると、本来の目的を思い出した三人はそれもそうだと冒険者ギルドの書庫へと向かう。

 道すがら、カヲルがアリスにログアウトしてからの事を訊ねると、アリスは兄と一緒に自分用のHMDを選んだことや自分用のPCを購入した事を話す。


「え? アリスって自分用のPCを持ってなかったの?」


 今の時代、PCの普及率は一家に一台ではなく一人に一台と携帯端末並に普及している。

 カヲルとミツも、それぞれ自分用のPCを所有しているが、これは勉強用でゲームなどは家の方針で、ゲーム専用部屋に置いてあるPCを使っている。


「ううん。一応、持ってはいるのだけど、スペックが足りないから新調しろってお兄ちゃんが」


 なんでも、アリスはオンラインではなくオフラインでPCを使う事が主であった為、これまで使っていたPCだと通信速度が追いつかないのだそうだ。

 その為、アリスの兄が中学進級の祝いにHMDと一緒にPCも新調してくれたと二人に説明する。


「優しいお兄さんなんだね」


「うん。たまにイジワルをしてくるけど、私の事をいつも気に掛けてくれているよ」


 ミツの言葉にアリスがはにかんだ笑みを見せて答える。

 他愛ない話を続ける内に冒険者ギルドへと到着した三人は、そのまま冒険者ギルドの中へと入る。


「あら、カヲル君とミツちゃんじゃない。そちらの可愛い子は、二人の新しい仲間?」


 三人の姿に気付いたクレセアがそう言いながら傍にやってくる。


「今晩は、クレセアさん。彼女はアリスちゃん、今日、友達になったんです」


 クレセアへとミツが説明すると、満面の笑みを浮かべたクレセアがアリスに自己紹介をする。

 冒険者ギルドで人事を任されていると説明するクレセアに、アリスは抱っこしているリシェスと一緒に自身も自己紹介を済ませると、カヲルとミツの時と同じく嬉しそうにアリスを抱きしめる。

 二人の時との違いはアリスが抱っこしているリシェスの存在で、クレセアはリシェスを圧迫しないように気を使いながらアリスを抱きしめる。


「可愛らしい子供達が増えるのは良いわね。ところで今日はクエストを見に来たの? それとも、ギルドカードの更新?」


 聞き慣れない言葉に三人が首を傾げると、クレセアは『そう言えば説明がまだだったかしら?』と、前お置きしてからギルドカードの更新について三人に説明する。

 ギルドカードは一定の条件を満たす事によって、持ち主に様々な利益をもたらす事が出来るようになっており、条件を満たす毎に更新する必要があるのだそうだ。



 その中の一つに、転移の神殿間の転送というものがある。

 これは、世界各地に七つ存在する転移の神殿間を瞬時に移動するもので、レベルが10になると利用が可能となる。

 とは言え、最初に移動できるのは鉱山都市【ディアラスタ】、海洋都市【シースティア】、森林都市【フェスティール】の三カ所だけで、他の転移の神殿への移動は更にレベルを上げる必要がある。

 レベルを上げる以外の方法も存在しており、こちらの条件は自身が転移の神殿へと直接、訪れる方法だ。

 ただし、各地には適正レベルが設定されており、それ以下のレベルでその地を移動するには、万全の準備を整える必要がある。

 上手く立ち回る事が出来れば適正レベル以下で各地点の移動が可能となるが、あまり現実的ではないとクレセアは話す。


「クレセアさん、あまり現実的ではないって言われましたけど、誰か出来た人が居るんですか?」


 説明に引っ掛かりを覚えたミツが訊ねると、クレセアはディアラスタに登録されている冒険者で一人だけ、為し得た人物が居ると答える。


「まぁ、あの()は色々な意味で変わった子だったからねぇ……」


 何ともいえない表情で話すクレセアの言葉に、ミツ達は顔を見合わせる。

 そんなミツ達にクレセアは彼女の有名なエピソードの一つを話す。

 なんでも、その人物はただの一度もモンスターを倒した事がないのだという。

 にわかには信じられない内容に、ミツとカヲルは呆気に取られた表情を見せる。


「久しぶりにギルドに顔を見せていたから、機会があれば会う事が出来ると思うわよ」


 そう言って唖然としているミツ達を残し、クレセアは仕事へと戻っていく。


「モンスターを一度も倒した事がないって……そんな事が出来るの?」


「……僕に聞かれても困るよ、カヲルちゃん」


「モンスターを倒した事がないのが、そんなに不思議な事なの?」


 カヲルとミツのやりとりにアリスが不思議そうに訊ねる。


「えっとね、さっきクレセアさんが転移の神殿へ自力で到達するのは現実的じゃないって教えてくれたでしょ」


「えぇ、適正レベル以下だと難しいと言ってたね」


「でも、それをやり遂げた人が居て、その人は一度もモンスターを倒した事がない。それって、どう考えても適正レベル以下って事だよね?」


 ミツとカヲルの説明を聞いて、ようやく話の内容が異常である事に気付いたアリスが驚きの表情を見せる。

 適正レベルであるのなら、わざわざ各地に存在する転移の神殿に自力で到達する必要がない。

 ひょっとすると、自力で地図を埋める事が趣味な人という可能性もあるが、モンスターを一度も倒した事が無いという事は、目的地に到達するまでの戦闘を、全て回避したとしか思えない。

 そんな、途方もない事を成し遂げた人物に興味はあるが、クレセアの言葉を信じるならば出会う機会もあるだろう。


(きっと、その人はテストプレイヤーの一人だと思うけど……)


 正式稼働して二日目である事実を考えて、ミツはその人物がテストプレイヤーの一人であると確信する。

 どんな人物なのか気になるところだが、本来の目的を思い出し、ミツ達は書庫へと移動する。





 書庫は以前に来た時と同じく、司書席でグラスウェルが書物を読んでいる。

 ミツ達以外には利用者はおらず、静まり返った書庫内は読書をするには最適な環境ともいえる。


「こんにちは、グラスウェルさん。クラウンフォックスに付いて調べたいのですが……」


「……お前達か。クラウンフォックスとは、随分と珍しい名前が出たな」


『マスターの仲間がクラウンフォックスの幼生を保護しての。育てる為に知識が必要になったのじゃよ』


 ミツに答えるグラスウェルの前に、ミーシャがどこからともなく現れると、そう言ってグラスウェルに『久しいの』と、言葉を続ける。


「今日はやけに懐かしい顔を見る日だな。以前と違って随分と可愛らしい姿になったようだが、相変わらずの様だな」


『吾輩と違い、主は随分と老け込んだようじゃがのう』


 グラスウェルにそう返すミーシャの様子は楽しげで、気心が知れた仲である事が見て取れる。


「二人は知り合いなの?」


 ミツの疑問に、ミーシャは以前の(マスター)の旧知だと説明する。

 ミーシャがミツに説明している間に、グラスウェルが書庫の奥から古めかしい一冊の書物を持ってくる。


「幻獣の項目の五番目だ。読み終わったら、儂のところに持ってこい」


 そう言ってグラスウェルは以前と同じく、再び読み掛けの書物に目を通す。

 ミツ達はこの間と同じ場所へと移動すると、グラスウェルに言われた通り、クラウンフォックスの項を開く。

 書物を開くと同時に、アリスに抱っこされていたリシェスが抜けだし、書物の手前に着地して開かれた項をじっと見つめている。


「リシェス?」


 突然の行動にアリスが驚きの声を上げると、その声に反応したリシェスが尻尾をパタパタ振りながら、アリス達を見上げて小首を傾げている。

 その様子はまるで、『読まないの?』と言っているようだ。


『クラウンフォックスの幼生は好奇心が旺盛だからの。早く読んだ方が良いじゃろう』


 ミーシャの言葉に、ミツが書物に書かれた内容を読み上げていく。



【クラウンフォックス】


 特徴的な王冠を思わせる角を持つ事から名付けられた、幻獣種のモンスター。

 性質は極めて大人しく、自ら襲い掛かってくる事はない。

 ただし、自身や自らの仔が危険に晒された場合に限り、激しい攻撃性を見せる。

 危険を感知すると、瞳の色が鮮やかな翠から深紅へと変化する。


 別名、【子供を守護する者】とも呼ばれ、森で迷った子供を人里まで連れてきたと言う逸話がある。

 その事から、とても母性が強いと見られるが、森の奥から滅多に姿を現さない為、詳しい事は未だ謎のままである。

 生態はよく解っていないが、遭遇した者や保護された子供からの話を聞く限り、果物などを好むと思われる。


 その素材は稀少であるため密猟者が後を絶たないが、上記にある通り滅多に人前に現れないため、市場に出回る事は希である。



 ミツが読み終えると、クラウンフォックスとの戦闘を思い出したのか、アリスが悲しそうな表情になる。

 その変化に気付いたカヲルがアリスを気遣う。

 自身を気遣うカヲル達に、アリスはクラウンフォックスが戦闘で自身を庇って攻撃をその身に受けた事を話す。

 書物に書かれている内容から察するに、子供に対して強い母性を持つクラウンフォックスが、危険に晒されたアリスを守る為にその身を盾にした事が解る。

 もし、自分が傷付いたクラウンフォックスを庇わなかったら、ひょっとしたらロイドの攻撃を躱していたかも知れない。

 その思いがアリスの心に影を落とす。


「私のせいでリシェスはママを失ったんだ……」


 そう呟くアリスに、オーシャン達から事の経緯を聞いていたミツ達がそんな事はないと否定する。

 アリスが行動を起こさなくても、クラウンフォックスは倒されていただろう。

 そして、アリスがその場にいなかったら、リシェスは母親を亡くして独りぼっちになっていた事だろう。

 そうなると、リシェスが独りで生きていけるとは限らず、リシェスも命を落としていたかも知れない。


「それに、リシェスのママはアリスちゃんなんだから、そんな表情をしていたら、リシェスが心配するよ」


 ミツの言葉通り、アリスがリシェスに視線を向けると心配そうな様子で、リシェスが慰めようとアリスの手に顔を擦り寄せる。

 リシェスの行動にアリスは、改めて自分がリシェスのママなのだと自覚する。


「心配かけてごめんね、リシェス。もう、大丈夫だから」


 そう言ってアリスが微笑みかけると、リシェスが嬉しそうな様子で甘えた声を上げる。

 アリスはリシェスを抱っこすると、カヲルとミツにも大丈夫だと言い、心配をかけた事を謝る。


【システムアナウンス:レベルが5になりました。これにより、クラスチェンジとサブクラス【テイマー】の使用が可能となります】


【システムアナウンス:レベルが5になりました。これにより、クラスチェンジとサブクラス【サマナー(召喚士)】の使用が可能となります】


【システムアナウンス:レベルが5になりました。これにより、クラスチェンジとサブクラス【ツインブレーダー】の使用が可能となります】


『えっ!?』


 アラーム音がなり、それぞれのレベルが5に上がり、サブクラスの使用が可能となった旨のシステムアナウンスが三人に告げられる。


『ふむ、どうやら吾輩と正式に契約が結べるようになったようじゃの、マスター』


 驚く三人に、ミーシャが嬉しそうな様子で声を掛ける。





2013年05月31日 初投稿

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