表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
World chronicle  作者: 葵鏡
11/23

カウンタークエスト

 オーシャンが助け起こした小柄な人物は、年の頃は十歳くらいの男の子だった。

 カイルと名乗った男の子は、オーシャン達に姉を助けてくれと繰り返す。

 事情が見えないオーシャン達はカイルを宥めて理由を訊ねたところ、突如現れた冒険者達に姉が攫われそうになっていると言う。

 カイルの姉は必死に抵抗を続けているが多勢に無勢、冒険者達に連れ攫われてしまうだろう。

 事情を聞いたオーシャン達はカイルの助けに応じ、彼の案内で姉の元へと向かう。


「いい加減に諦めて、俺達と来いって!」


「嫌ですっ!! 期日までまだ時間があるのに、そちらの要求を呑む事は出来ません!!」


 カイルに連れられてやって来たオーシャン達の目の前で、三人の冒険者に囲まれた少女がその内の一人に腕を掴まれてた。

 嫌がる少女の姿を見たカイルが『お姉ちゃんをいじめるな!』と咄嗟に飛び出し冒険者達に立ち向かう。


「うっせえんだよ、ガキ!」


 そんなカイルに対し、短く叫んだ冒険者の一人が手加減無しで蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされ、地面を転げるカイルをアプリコットが助け起こす。

 遅れてアリスもカイルの元へと駆け寄ると、アプリコットがカイルを回復するようにアリスへと指示を出す。

 アプリコットの指示にアリスはシステム画面を開くと、使える呪文の一覧から初級回復魔法の治癒(キュア)を選択する。

 アリスの持つ白杖に填め込まれた宝玉が柔らかい光を放ち、カイルの怪我を癒していく。


「小さな子供を手加減無しで蹴り飛ばすとは、ちょっと大人気ないんじゃないかな?」


 そう言って、オーシャンがアプリコット達と冒険者達の間に割って入る。


「なんだ、てめえ。俺達のクエスト(依頼)を邪魔すんな」


 三人の冒険者の内、漆黒のローブを纏った男がそう言ってオーシャンに掴み掛かろうとする。

 しかし、その手は空を切り、反対にその手をオーシャンに取られて後手に拘束されてしまう。

 仲間の姿に、少女を拘束していない残りの一人が自身の武器に手を掛ける。


「はい、そこまで」


 それよりも早く武器を引き抜いたアプリコットが、男の首筋に剣先を突きつけて行動を制する。

 あっという間に仲間二人を無力化され、少女を拘束する冒険者が苦々しい表情になる。


「別に君達のクエストを邪魔する気は無いのだがね、こちらも彼から『お姉ちゃんを助けて欲しい』と、依頼を受けているんだ」


「まさか……カウンタークエスト(対抗依頼)?」


 オーシャンの言葉に、先ほどまで苦々しい表情だった男が唖然とした表情になる。

 昔から様々なMMOが作られては廃れていく中、プレイヤー同士が競い合うカウンタークエストを採用するゲームが増えてきた。

 カウンタークエストとはその名の通り、特定のクエストに対して妨害、もしくは対立する構図のクエストだ。



 これによりクエストの攻略法が固定化されず、プレイヤー同士が互いに知恵を絞りクリアを目指す事になる。

 どうやらWorld chronicleにも、このクエストシステムが採用されているようだ。

 カイルの訴えからオーシャンがその可能性に気付いていたが、これまでのカウンタークエストとは、状況が少し違うらしい。

 おそらく、眼前の冒険者達が穏便に自分達のクエストを進めていたら、カウンタークエストは発生しなかっただろう。

 強硬手段に訴えた結果、家族の危機に対する為、カウンタークエストが発生したのだとオーシャンは推測する。

 自身の推測をオーシャンが説明すると、リーダー格だったらしい少女を拘束していた冒険者が少女の拘束を解く。


「……ちくしょう。せっかく特殊クエストが発生したと思ったら、こんな落とし穴が在ったのかよ」


 そう言ってリーダー格の冒険者が自身の状況をオーシャンに説明する。

 全員が同じクエスト傾向を選ぶと、上のランクのクエストが発生するかどうかの検証の為に、見知らぬ者同士でPTを組んだ事。

 その結果かどうかは今の段階では判断が出来ないが、特殊クエストが発生し、クエストランクが適正よりも上だった事。

 このクエストをクリアして、更に適正レベルより上のクエストが発生するかを検証する為に強硬手段に打って出た事。

 それらの事をオーシャン達へ説明する。


「事情は理解したけど、だからといって誘拐紛いの事をしたり、子供に手荒な真似をするのは感心しないわね」


 そう言って説明を聞き終えたアプリコットが、カイルを蹴り飛ばした冒険者へ非難する視線を向ける。


「は? 何言ってる。どうせゲームのキャラだろう? どうせこのクエが終わったら、消える存在じゃねえか」


 アプリコットに非難の視線を向けられた冒険者がそう吐き捨てる。

 その言葉にアリスが目尻に涙を溜め、カイルが蹴り飛ばされた結果、怪我をして苦しんだ事を挙げる。

 プレイヤーであるアリスを泣かしてしまった事に多少の罪悪感を感じたのか、カイルを蹴り飛ばした冒険者が気まずそうな表情になる。


「……君は、公式TOPの一文を覚えているかい?」


 オーシャンの言葉に、リーダー格の冒険者とローブを纏った冒険者がオーシャンの言わんとする内容に気付き、驚いた表情になる。


「確か、『これはもう一つの現実世界』だったか。それが何だって言うんだよ?」


 ただ一人、その事に気付かない冒険者がふて腐れた様子で答える。


「そう。謳い文句の通り、この世界の住人は全て生きているんだよ。当然、危害を加えられたら反発するのは、当然だと思わないかい?」


 オーシャンの説明に、ようやく事態を認識した冒険者が自分の失態に歯噛みする。

 ゲームの中の出来事だと考えていた彼にとって、オーシャンの指摘は自身の行動の問題を浮き彫りにする結果となった。

 AIによる完全制御された世界初のゲーム。

 その意味を深く考えなかった自身の迂闊さに冷や汗が流れる。


「俺は、取り返しのつかない失敗をしたのか……?」


「いいえ、まだ大丈夫よ。自身が間違っていたと気付いたのなら、やり直す事が出来るはずよ」


 茫然自失となった冒険者を、アプリコットが諭す。

 その言葉に唖然となる冒険者に、カイルにちゃんと謝罪してやり直す事も出来るはずだとオーシャンが告げる。

 二人の言葉に、冒険者はカイルへと視線を向けると、自身を見て怯えるカイルに頭を下げる。


「坊主。痛い思いをさせて、本当に悪かった」


 そう謝罪する冒険者に、カイルはおずおずと姉に対してもう乱暴はしないかと訊ねると、冒険者は決してしないと誓う。

 彼だけでなく、仲間の二人もカイルと少女に対してこれまでの非礼を詫び、許しを請う。

 カイルと少女はそれならばと、三人を許す事にする。


「このクエストはリタイヤするしかないな……」


 気落ちした様子でクエストを諦めようとする三人に対し、オーシャンが支障がなければクエストの内容を教えて欲しいと話し掛ける。

 オーシャンの質問に怪訝そうな表情を見せるも、リーダー格の冒険者が受けたクエストの内容を説明する。


「俺達の依頼主は、薬を扱う商人の一人なんだ」


 少女とカイルの姉弟は、その商人に薬を卸す薬師の子供で、腕が良いと評判の人物らしい。

 最近、店に卸す薬の数が減ってきた為、安定した数の納品を望む商人が、薬師に安定した数を納品させる為に彼らへ依頼をしたそうだ。

 クエストに書かれた説明には『手段を問わず』とあった為、彼らは短絡的に少女の身柄と引き替えに、納品を急がせようとしたらしい。

 その説明にオーシャンとアプリコットの表情が険しくなるも、よくよく事情を聞くと、商人がそう示唆した事が伺えた。


「つまり、その商人に良いように利用されて犯罪紛いの事を行ったと?」


 アプリコットの言葉に、冒険者達が気まずそうな様子を見せる。

 カイルを蹴り飛ばした冒険者ほどではないにしろ、彼らもまたゲームだからと考えていた節が見受けられる。

 その事については彼らも充分に反省をしているようなので、これ以上は追及はしないが、それとは別の危険性については注意する。


「この事が自警団や役所に知られたら、君達は大変な目に遭っていたかも知れないよ」


 オーシャンの指摘に、冒険者達が不思議そうな表情になる。

 そんな彼らに、オーシャンは強硬な手段に訴えた彼らに全ての罪をなすりつけて、商人に切り捨てられた可能性を指摘する。

 彼らに犯罪紛いの事を示唆したのは商人であれ、その証拠が無い以上、罪を問われるのは彼ら三人だ。

 商人は知らぬ存ぜぬを通せば良いだけで、この町で商人を続けているというのなら、彼ら冒険者よりも信用は高いだろう。



 クエストに隠された致命的な落とし穴に、冒険者達の顔が青ざめる。

 彼らの説明を聞く限り、このクエストはなるほど、適正レベルが上のクエストだ。

 聞けば報酬も多く、得られるアイテムも希少なモノらしいので、クエストに隠されたリスクの高さも頷ける。

 とはいえ、このクエストをそのまま放置する訳にはいかないなと、オーシャンは考える。



 彼らがクエストをリタイヤしたとしても、自分達が受けたクエストを真にクリアするには、禍根を残す訳にはいかない。

 問題の商人を何とかしなければ、第二第三の彼らが現れる事になる。

 それに、意気消沈した彼らにも、クエストをクリアして欲しい。

 子供達から聞かされたクエストの派生。

 おそらくは、彼らのクエストにも、自分達のクエスト同様に派生する部分があるはずだ。



 クエストをクリアした上で、問題の商人をどうにかする事が出来る解決法。

 オーシャンは頭の中でその方法を模索する。

 どちらにせよ、その為には眼前でクエストをリタイヤする事を検討する彼らの協力が必要だ。

 オーシャンは思考を一時中断すると、彼らに向かい、別のやり方でそれぞれのクエストをクリアする事に協力しないかと話を持ちかける。

 突然の提案に冒険者達が訝しげな様子を見せる。

 そんな彼らにオーシャンは、クエストの解決方法が複数ある事と自分達の受けたクエストが、それに類するものである可能性を告げる。

 クエストに派生がある事を知らなかった冒険者達は、懐疑的な様子を見せるも、クリアできるのならばと提案を受ける事にする。


「まずは二人の親御さんに会って、薬の納品数が少なくなった訳を訊ねる事から始めないと」


 商人から受けたクエストの元となる問題。

 まずはそこから知る必要があると判断したオーシャンがそう呟く。

 初めてのクエストが、やり甲斐のあるクエストである事にオーシャンは内心で、どうクリアしようかと楽しそうに考えを巡らせる。

 それはオーシャンだけでなく、アプリコットもまた同様のようで、彼女の表情にもやる気の高さが見て取れる。

 少女とカイルに薬師の元へと案内して貰うよう頼み、それぞれ別のクエストだが、協力関係を結んだ六人は薬師の元へと向かう。





2012年11月22日 初投稿

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ