ララ
小さな教会で育てられた少女がいた。
孤児として引き取られ、育てられた少女。
覚えておいて欲しい。
彼女が存在したということを。
彼女の名は
――ララ=セレンティウム
*
「キールっ」
ララは9歳。
ふわふわとしたロングの金髪。
灰色の瞳。
透き通るように肌は白く、その身体はすらりとしている。
人形のような少女。
ララ=セレンティウム。
「どうした?ララ?」
キールは14歳。
茶色の短い髪。
黒い瞳。
男にしては白い肌、ごく普通の体型。
普通の少年。
キール=セレンティウム。
「髪飾りが見当たらないの」
「どんなやつ?」
「…キールがくれたの」
「あぁ、あれか」
キールはポリポリと頭をかいた。
そして、きょろきょろと辺りを見回すと、あっ、と何か気付いたように口を開いた。
「昨日俺が父様に渡したよ」
「なんでお父様に?」
「あれに付いてる宝石には神に通じる力があるんだ」
キールの父、ララの父は教会の神父だ。
孤児であるララを引き取り、1人でララとキールを育ててきた。
その妻は神のお力及ばず、亡くなった。
優しい面持ちで、村人からの信頼も厚い神父
ヘレン=セレンティウム。
「言ってくれればいいのに。黙って持ち出すなんて」
「え?昨日ちゃんと言ったじゃん。父様に渡してくるって」
「…そうだったかしら」
キールの表情が曇った。
ここのところ、ララはどこかの記憶が飛んでいる。
全てが飛んでるわけじゃない。
一部だけ、気まぐれに飛んでいるのだ。
「昨日、何したか覚えてるか?」
「昨日…?昨日は19日…だから…」
「…」
キールはララがいう昨日の話をただ黙って聞いていた。
だがその話は昨日じゃない。
ララの昨日の記憶はなく、一昨日の記憶が、ララの昨日の記憶となっていた。
「父様」
「どうしたんだい?キール」
その夜、キールは父、ヘレンの部屋に行った。
静かに揺れるろうそくの火だけが部屋を明るく照らしている。
「ララは…」
「あぁ、ララのことか…」
「ララのこと…父様知ってる?」
「…知ってるさ。記憶が飛んでることだろう?」
キールは黙ってうなずく。
ヘレンは机に肘をつき、手を組んで、なんとなく浮かない表情をしていた。
2人の間にしばらくの沈黙が漂う。
次につなぐ言葉が見つからなかった。
「…ララは大丈夫だよな?ちゃんと医者に診てもらえば治るんだよな?」
先に口を開いたのはキールだった。
ヘレンはその言葉から、キールの気持ちを静かに察した。
本当は、キールだって心の中のどこかで分かっているはずだ。
「キール分かっているんなら、辛くなるようなことは言わない方がいい。
これは私たちでは…私たち人間ではどうしようも出来ないのだ」
「…そんな…でも……」
「私だって認めたくはない。しかし、これが真実だ」
再び訪れる沈黙。
キールが拳を固く握りしめる。
悔しくて、しょうがなかった。
ララがどうなるか分かっているからこそ、何も出来ないのが辛かった。
「キール。理解しなければならないんだ。
早く天命が尽きるということは、早く、神がその人を必要としているということなんだ」
「そんなっ、神は、じゃぁ、死神と一緒じゃないか…!神が、ララを奪いに来る…っ!!」
「バカを言うんじゃない!」
ヘレンの声が小さな部屋に響いた。
キールは我に返ったように、はっと息をのみうなだれた。
「神を…侮辱してはいけない。神は我々の創造主だ」
「…ごめんなさい…つい、気持ちを抑えきれなくて…」
「とにかく、ララはもう…無理だ。だから…せめて、静かに見守ってやろう」
「…うん、分かった。…神にお休み」
キールは目からあふれ出す涙を必死に腕でぬぐいながら、部屋を後にした。
キールが出て行った後、ヘレンは目頭を押さえた。
どんなことを言っていても、悲しさは、押さえきれなかった。
――数日が経ち。
ララは元気なさげに教会の長いすに座ってステンドグラスを見上げていた。
良く晴れた日は、ここから差し込む光が幻想的で、美しい。
「ララ」
キールが後ろから呼びかける。
後ろを振り向いたララはにっこりと微笑む。
「キール?」
歩いてくるキールを見て、ララも近寄ろうと立ち上がる。
「ララっ!!!」
立ち上がった瞬間。
ララは体勢を崩し床に倒れた。
ララはそのまま起きあがることができないままだ。
キールが走り寄り、ララを抱き起こす。
ララの顔からは血の気が引き、白い肌がより一層白くなっていた。
ぽつぽつと、途切れる息でララが喋りかける。
「キール、私ね、知ってたの…自分の記憶がなくなってい…ってること。
自分がしたはっ…ずのないことが、気が付いたら起きてる。
病気なの。だからっ、だから…私は…死ぬのね」
「大丈夫、ララは死なないよ」
キールは微笑んでララの髪をなでる。
ふわふわとした髪が、キールの手に心地よかった。
しかし、それがよけいにキールを哀しくさせるのだった。
ララも、力無く笑い返す。
「キール、今までありがとう。うん、私は死なないよ…
神様のっ所に…キールより先に行くだけ…神様に会えるんだよ?羨ま…しいでしょ?」
「うん、羨ましい…」
ララがキールの頬に手を伸ばす。
それにはっ、と息をのむキール。
ララの白い手にはほとんど生気が無く、冷たかった。
今になって、やっと、彼女の完全な死を悟る。
受け入れるざるを得なくなったのである。
「…キール…、私を……忘れ…な、いで…」
がくりとララの腕がキールの頬から離れ、落ちる。
静寂がその場を包む。
キールが抱いているララは、本当に人形のようで、どこか、ゼンマイを回せばまた動き出しそうだった。
ぽたり、とララの頬に涙が落ちる。
ひとつ、またひとつと、ララの頬に涙が落ちる。
止めどもなく、涙はキールの目からこぼれ落ちる。
ただ泣くことしか出来ず、がむしゃらに、ただ泣いた。
――ララ、また、会おう…。君の存在は、ちゃんと心の中に…
ララは、キールの腕の中で、静かに息を引き取った。
私の小説、第1作目です。
はい、全然まとまりせいのない話でした。
死にネタです…。書きやすいんです。。。
長々とすみません。(しかも駄文で。。。)
おそまつさまでした。○| ̄|_