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第90片 妄想少女と文系少年の妄想

「おやおや、七実くん、どこへいくのー?」

「ん?あぁ」

 日曜日。

 休みの日だからだらだらしたい体を無理やり起こし、普通だったら寝ているはずの午前10時。

 辛いがそれよりも何よりも大事なことがあるのだ。

「遊びに行ってくるよ」

「七実くん・・・遊ぶ友達が私たち以外にいたんだ・・・」

「おい、山梨。普通に失礼だ」

「・・・・・・・・意外」

「緋色?」

 こんな時間に起きるとは珍しいな。

 玄関にひょこっと顔を出したのは山梨だけではなく、緋色もだった。

 こいつは普段平日でもギリギリ寝ているような人間なのだが・・・それを言うと山梨もこんな時間に起きるとは珍しい。

「・・・・・・いってらっしゃい」

「いってらっしゃーい」

「おう」

 俺は靴を履きドアを開けて外の世界に飛び出した。








 というわけで俺がどこに来たのか。

 もちろん遊びに来たわけだが、それは同年代の友達ではない。ある意味山梨の失礼発言は正しかったということだろう。

 俺は今、病院に来ている。

 もちろん桜浪病院であり、そこに入院している患者さんのところへだ。

「よー、久しぶり」

「あ、お兄ちゃん」

「お兄ちゃんだ」

 表情の変わらない姉妹。

 ほんといつ見ても素晴らしいぐらいの真顔具合だな。

「お久しぶりです」

「えぇ、久しぶりって言っても1週間ぶりですけどね」

 そしてもう1人。

 黒曜石にそっくりの山梨さん。そういやぁ、下の名前は知らないな。この部屋の入口のところに患者さんの名前が書いてあるはずなんだが毎回見ようとして忘れる。

 実はあれから何度か遊びに来ている。

 この子供2人は顔からは全く想像つかないが遊ぶことが大好きらしい。

 じゃあせめて少し笑ってはくれないだろうか。お前たちのお母さんは常に笑顔だぞ。

「最近学校はどうですか?」

「え、えーと・・・」

 山梨さんは学校について聞いてくることが多い。

 俺の話しやすい内容を選んでくれているのだろう。しかし親以外の大人にこういう風に質問されると少しだけ気恥ずかしい。

「いや、楽しいですよ。学校は割と騒がしいですけど、学ぶことも多いので」

「ふふふ。何かに気をつかってるんですか?そんなに真面目に答えて」

「・・・・・・」

 しかも何か見透かされている感じがするんだよなぁ。

 というかこの人パッと見、同い年だし、下手したら彼氏かと思われて旦那さんにバコーン!っていう未来を心配したのだがまるでそんなことはなかった。

 それどころか旦那さんは泣いて喜んだらしい。遊び相手ができてよかったなぁと。

 なんだそりゃ。

 でも悪い人ではなさそうである。

 というかじゃあこの2人は母親に似たのか父親に似たのかさっぱりわからないな。

「お兄ちゃん、今日はおままごとやろうよ」

「ままごとか。懐かしいな」

「お兄ちゃんもやったことあるの?」

「まぁ、幼稚園ぐらいまでは。今も割とお前たちとそう変わらないやつと毎日遊んでるから懐かしい気持ちも思ったよりしないけどな」

 数夏のことだとは言うまでもあるまい。

「というか最近学校祭でなぁ・・・」

「じゃあお兄ちゃんは犬役ね」

「・・・・・・・俺って犬に似ているのか・・・」

 なんでみんなして犬役を俺に押し付けるんだ。

「私は子供役やるね」

「じゃあ私は子供」

「では私も子供役をやりましょうか」

「あれ!?」

 なんか1人多くね?

 まずこのままじゃ子供3人に犬という意味の分からないことになるんじゃないのかとかツッコミたいことはたくさんある。

 でもまず1つ。

「あ、あなたもやるんですか・・・?」

「え?えぇ、だって遊び相手に来てくれたんですよね」

「・・・・・・」

 それは子供たちであってあなたではないような・・・。旦那さんが泣いて喜んだのは果たしてどっちのことなのだろうか。

 たぶんこの人のことなんだろうな。

「せめて大人の役をしてくださいよ!」

「でもおままごとってなんというか自分とかけ離れたものをやりたくないですか?」

「いや、そうですけれども」

 それはやる人が子供だったらであっておままごとというのは大人がするということを全く考えていないものなんですが。

「じゃ、じゃあいいですけど。これどうやって話を進めるんですか?」

「お兄ちゃん、話なんてないんだよ」

「そうだよ、お兄ちゃん。日常というこの毎日がすでに自分だけの物語なんだから」

「なんでいきなり締めようとした?」

 まだ終わらないよ。このままじゃ短いし、内容的にも最悪なことになるぞ。

「今、終わりを決めてあげたのに。お兄ちゃん毎回締め方を決めるのに悩んでるみたいだし」

「なぜお前がそれを知っている」

「お兄ちゃん前来たとき言ってたよ」

「・・・・・・」

 もうペラペラ話す癖はやめよう。

「あーもう、いいからはやく設定を話してくれよ」

「えーとですね・・・」

「あんたじゃなぁあああああああああい!」








「七実さん、疲れてますね」

「あぁ、まぁ・・・」

 夕方。帰宅した俺はヘトヘトだった。

 正直子供3人のお守りをしたようなものだ。それなりには疲れている。

 しかし楽しかったな。病院なので騒ぐのも限度があるがかなり楽しめたと思う。

「ほんと、そんなんなるまでどこで遊んできたんですか」

「数夏。病院だよ、桜浪病院」

「病院ってそんなに疲れるような場所でしたっけ?」

「おっかえりー」

「お、山梨、ただいま」

「どしたのどしたの?七実くんなんか疲れてない?」

「ほどほどには」

「病院行ってきたらしいですよ」

「病院・・・?なんでそんなに疲れてるの・・・?」

 確かに不思議だがそんなに露骨に嫌そうな顔をするな。

 しょうがないだろ。

「てか病院で遊んできたの?」

「・・・・・・・・・」

 うん、まぁ。

 すごく話しにくいけれど。

「どうせ移動で疲れたんじゃない?全く七実くんは運動不足だなー」

「お前も全く運動しないよな、放課後とか。それに移動ではそんな疲れねぇよ、近いんだから」

「近いってどこさ」

「桜浪病院だよ、桜浪病院」

「桜浪病院・・・?」

 すると山梨はすごく怪訝な顔をする。

 なんだ何が言いたい。あれか?病院が友達なの?的な解釈でドン引きってことか?どんなボケやいじりがこようが対処するぞ、俺は。

「七実くん・・・何言ってんの・・・?」

 ほらきた。予想通りだ。さて俺の臨機応変さなめんなよ。

 どんなつっこみを返してやろうかなぁ。

「七実くん、大丈夫?」

「何がだ?」

 自信満々に何がだ?と聞いてみる。

「桜浪ってうちの学校の桜が早く咲くからついた名前でしょ?地名とかじゃないのになんで病院にその名前がついているの?」

「え・・・?」

 山梨からきた言葉はあまりにも単純でアドリブも効くぐらい簡単なものだった。

 そう、一般人にとっては。

 しかし俺は違った。

「そんな・・・」

 信じられないがそれでつながった。

 俺がその名前を聞くたびに感じる違和感の正体が。

「桜浪病院なんて病院は・・・ない・・・?」

 その正体はあまりにも残酷だった。

 

というわけで少しずつではありますが進んでいます。


次はまたいつになるか分かりませんがよろしくお願いします。


ではまた次回。

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