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第87片 理系少女と文系少年の学校祭 3日目②

「し、下野さん・・・?」

「七実くん、どうしたの?こんなところで」

 やってしまった・・・。

 下野さんに学校祭で悲しく1人でいるところを見られてしまうとは色々と予想外である。

「い、いや、その・・・暇だったから」

「あっはは!暇だったんだ」

 なんという返しをしてしまったのだろうかと思ったのだが下野さんが意外にも笑顔で答えてくれた。

 というか顔も見れなければちゃんと話せもしない。

 これは照れる。

 というか私服が可愛すぎる。一般人も入れる学校祭なため俺らの服装もある程度ゆるくなるわけだ。

 もちろん制服なんて着るやつはいない。

 するとどうだろう、女子の至福が見放題なのである。

「下野さんは?」

「双葉は移動中。これから友達のところに行くんだ」

 下野さんにはどうやら友達が多いというのが俺の最近出した結果だ。

 というか俺が少なすぎるだけかもしれないんだけれど。それでも常に友達のところへ走ったりしているイメージがこの学校祭でさらについた。

 実は地味にこの学校祭中帰宅後下野さんにメールを送っていたりするのだがなんというかそれが恥ずかしさに拍車をかけている気がする。

「友達・・・。ってじゃあ急がなくていいの!?」

「ははは、大丈夫。双葉の友達は優しい人ばっかりだしねーたぶん許してくれるよ」

 そりゃあ下野さんの友達なんだ。悪い人なんかいないだろう。

「もちろん、七実くんも含めてね」

 と言った後、意地悪く笑う。

 本当はここであはは、そんなこと言ってーとか俺のこと忘れかけてたでしょーとか、上手いこと言うねとかそんなふざけたことを言うのだろう。

 言うのだろうと分かっていても口が動かなかった。

 俺は『友達』のくくりに入れられていることがそこまでショックだったらしい。

 それは当然のことなのに。

 なぜか少しだけがっかりする。

「俺も下野さんはすげーいい友達だと思ってる」

 と俺も意地悪く笑い、お互い様だねーというような感じを出す。

 少し反応に遅れてしまったが下野さんも特におかしいとは思わなかったみたいで「なんだか面白い返しだね」と笑ってくれた。

 本当にこの人はいい人なのだろう。

「おっとでは双葉はここで失礼」

「うん、またね」

「うん、また」

 そう言ってものすごいスピードで走り去る下野さん。

 足のはやさは健在でそこが廊下だろうがどこだろうがすさまじい速さで走っていく。

 ほんと、追いつけないなぁ。

 はやすぎて遠すぎる。

 それは少し、いや、かなり致命的。

 俺はたまに下野さんが芸能人のように思えてしまう。

 好きなのに届かなくて、遠くて、そして速い。好きだと、付き合いたいと思う反面俺なんかが付き合えるわけない、相手は遠い人なんだという気持ちも働く。

 それはまるで好きな芸能人に対するそれであり、うまくいくことなど微塵も考えていないそんな感情であった。

 それではダメなのだ。

 俺も速く、そして近くにいかなければ。どんどん離されてしまうのだから。

「お姉ちゃん、この人に聴いてみたらどう?」

「いや、妹。私はこの人は信用できないと判断するよ」

 と俺がうら若き高校生らしい悩みを抱えて考えているうちに俺の目の前には2人の子供がいた。

 どちらも無表情で少し怖い。

 しかしその無表情さは冷酷とした感じではなく一種の愛くるしさを感じさせるものであった。

 容姿が似ているのとお姉ちゃん、妹というやりとりから姉妹なんだということが分かる。

 双子ということではなさそうだが。

「・・・・・・」

 しかしそれにしても先ほどからすごく見てくる。

 俺の顔に何かついているのかとベタながらに確認してしまうぐらいには。

「あの・・・2人とも・・・何か用かな?」

「お姉ちゃん、私たちに話しかけてきているよ」

「そのようだね。この場合はどうすればいいんだっけ?ああ、そうだ。まずは自己紹介をしよう」

 なんだかどうにも緊張感が欠ける。

 いや、緊張する必要は全くないのだけれど、子供とはいえ、知らない人に話しかけられると割と警戒するものじゃないのだろうか。

「妹の名前は南」

「お姉ちゃんの名前は小麦」

 そう名乗ってから

「「私たちは山梨だ」」

 そう名乗りなおす。

 というかそれは自己紹介じゃなくて他人紹介のようなものなのだがそんなことはどうでもいい。

「山梨・・・?」

 なんかどこかで聞いたことのある苗字。

 そして小麦と南という名前・・・。

「あぁ、あの時の」

 あの時とは体育祭の時のことである。

 俺が生徒会主催の競技に参加したとき偶然入った病院で黒曜石にそっくりの山梨という苗字の人と出会った。

 その時、その人は確か2人の子供がいるとかなんとか。

 その名前が。

「小麦と南だったはず」

「お姉ちゃんいきなり呼び捨てだよ」

「妹よ、ここまで図々しいやつになってはいけないよ」

「・・・・・」

 とりあえずあの人に似ていないことは分かった。

「えっと、何か困り事があるのかな」

「あるといえばある、ないといばあるね、お姉ちゃん」

「そうだよ、あるにはあるんだ、妹」

「なんかややこしいな・・・。まぁ、いいや。俺に言ってみな。出来る限りのことはやるから」

「暇なのかなお姉ちゃん」

「暇なんだよ妹」

「うるせぇ」

 生意気である。

 本当に母親に似ていないな。

「お前ら母親に全然似てないよな」

「なぜあなたがお母さんを知っているの?お姉ちゃん」

「そこは俺に聞けよ」

「あぁ、もしかしてお母さんが言っていた面白い男の子とはこの人のことかな妹よ」

 なんだその評価。

 身に覚えのない評価というのは少し恥ずかしいのだがどうやらあの人は俺のことを覚えていてくれているらしい。

「なぜ、あのあとお見舞いにきてくれないの、お兄ちゃん」

「なんでだろうね、お兄ちゃん」

「・・・・・って俺か。ややこしいな、話し方。なんでって俺は他人じゃないか」

「じゃあ私たちの遊び相手になるという理由で来てよ、お兄ちゃん」

「私たちもお兄ちゃんの面白さを見てみたいな」

 俺は芸人なのだろうか。

 そこまで面白いことをした覚えはないのだが。

「まぁ、そうだな。そういうことならまた行こうかな」

「やったーって表面上だけでも喜んでおこう」

「私もそうするよお姉ちゃん」

「・・・・・」

 歓迎されているのかされていないのかどっちなんだ。

 ってことはまた桜浪病院に行かなければいけないのかぁ・・・。別に遠いわけでもないからいいんだけれどそんな時間があるかどうか。

 行けるとしたら休日かな。

 と、そこまでいつものように考えてから何かに気付く。

 違和感に気付いた。

「・・・・・・・」

 なんだ・・・?何がおかしい?

 この変な感じ、どうしようもなくひしひしと伝わる違和感。

 何か大事なことを忘れているような。

「お兄ちゃんどうしたの?」

「ん、あぁ、いや・・・なんでもない」

 そこで俺の思考は中断される。

 しかし考えても分からないのなら分かる時が来るまで待つとしよう。

 何に対しても受身でいればいい。

「お前らってどこに住んでるんだ?」

 という質問は軽い興味。

 お母さんが入院中ではあるし、お父さんと暮らしているのだろうがお父さんが仕事をしていたらこの時間帯は2人だけということになる。

 それは危ないし、寂しいだろう。

「最近引っ越してきたばかりなんだ、ね、お姉ちゃん」

「そうだよ。お母さんの手術のために引っ越してきたの。無事成功してあとは退院するだけなんだけどね」

「ふぅん・・・お前らも大変なんだな」

 そこでようやく本題に移る。

「で、お前らは何に困っているんだ?」

「いや、もう用事は済んだんだ」

「そうだよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんに会うことが私たちの用事だったんだから」

「へ?」

「お母さんから話を聞いて会ってみたかったの。ほら、お母さん引っ越してきたばかりだからまだこっちに友達いないしさ、それは私たちも同じなんだけど。唯一家族以外でお見舞いに来てくれた人なんだよね、お兄ちゃんは」

「だからお母さんも会いたがってたよ、ね、お姉ちゃん」

「・・・・・」

 それでわざわざ来てくれたわけか。

 なぜ俺がここの高校にいることが分かったのかっていうのはあの時のジャージ。

 学校のロゴが書いてあったからだろうな。

「お前ら偉いんだな」

「「お兄ちゃんよりは」」

「・・・・・」

 まぁ、とにかくそんなこんなで近々またお見舞いへ行くことが決定したのであった。

 家ま2人を送ろうとしたらお父さんが外で待っているとのこと。

 迎えに来てくれたらしい。というかお父さん休みならお父さんと一緒にこいよ。

 というようなことを言ったら「恥ずかしい」の一点張り。なんだか不憫だぞお父さん。

「さて・・・と」

 俺は最終日の学校祭を楽しもうと重い足を前へと進める。

 その後、クラス発表の結果発表でなんと学年2位を獲得した我ら2年2組は大騒ぎで明日に打ち上げをやろうという話になった。

 打ち上げというのは久々だ。この高揚感はなんなんだろうな。

 そのことを香織さんに話し、寝ようかなという時に柏部と会った。

「よ、お前学校祭来たか?」

「行こうと思ったけれどやめたわ。合わなさそうだし」

「そっか・・・ま、来年こそは一緒に行こうぜ」

「ふふ・・・いいわ。来年あなたがまだ12星座の呪いにかかって死ぬ間際でなければ」

「なんか不吉すぎないか、それ」

 星座に見捨てられるってどういうことだ。

「じゃあ、おやすみなさい」

「おやすみ、また一緒にゲームしようぜ」

「次も私が勝つわ、必ずね」

 そう言って各々の部屋に戻る。

 その次の日昼過ぎまで寝ていたことは言うまでもない。打ち上げが夜でよかった・・・。

学校祭終了です。


というわけで次から新展開!というようなほどのことではありませんが、新しい展開に入ります。


修学旅行・・・?それともはたまた・・・。


ではまた次回。

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