第84片 理系少女と文系少年の学校祭 2日目
「え?」
「いや・・・だからね・・・その・・・人数が足りなくなっちゃったのよ」
学校祭2日目。
今日は俺こと七実未空がままごと喫茶の当番だったわけだが・・・。
いきなり委員長に問題があると言われてしまったわけだ。
「人数が足りないって・・・え?」
「バンドとかの時間と被っちゃった人がいて・・・でも大丈夫人数の都合はなんとかつけたわ」
「なら問題ないはずじゃ・・・」
「えぇ、でも演じる役がぐちゃぐちゃに・・・」
「えぇ!?」
確かに役がどれになるかはわからないと言われてはいたが、実はそうそう変わることはないと思っていたのだ。
それに俺は2日目の朝である一番最初からいるため自由に役を選べるはずだったんだが・・・。
これは参ったな。
「俺は簡単な役しかやってないからなぁ・・・難しい役はできないぞ」
「そうよね・・・メイドの役もいなくなってしまったし」
「・・・・・・」
さらっと俺にメイドの役をさせようとしてなかったか、こいつ。
メイドの役ねぇ・・・。
「ははははは!七実さん、諦めてメイド役をやったらどうですか」
「なに高笑いしてんだよ」
「岸島さんも役変わっちゃうけど・・・」
「えぇ!?」
「ははははは!ざまぁみろ!」
「で、七実くん・・・メイド役なんだけど」
「いやいやいや!俺は絶対にやらん!考えてもみろ、最近女装男子やら男の娘とかって流行ってるかもしれないけれどあれは創作とかだから許せてるんだぞ!結構身近な人間がやったらドン引きするに決まってんだろうが!」
「いえいえ、引きませんよ。七実さん哀れだなぁと思うだけで」
「引いてんじゃねぇか!」
「でも人数が足りないのも事実なのよ」
人数人数ってメイドなんかいなくたって大丈夫だろ・・・と思ったところで俺はあることを思い出した。そうだ、俺の身近で一番メイドが似合う奴がいた。
「おい、ちょっと待っててくれ」
俺は2人にそう言い残し、男子トイレの個室に入る。
ここなら誰にも見られないだろう。
「おい、おい、黒曜石、聞いてるか」
「聞いてるもなにも、七実未空の妄想なのですからすでに聞いてますよ・・・ってここどこですか!?男子トイレじゃないですか!」
「あぁ、誰にも見られないしさ」
「黒曜石一応女の子なのですが・・・」
「で、そんなことはいいんだよ」
そんなことって結構重要ですよ、そこらへん。と言いながら話は聞いてくれるようだ。
俺は先に男子トイレを出てまわりに誰もいないことを確認してから黒曜石をトイレから出す。
「なんか七実未空に何かされた後みたいですね、黒曜石」
「人聞きの悪いことを言うな。俺はそんなことしない。で、メイド役引き受けてくれるか?」
「まぁ、確かに受けることはやぶさかではないですね。七実未空に恩も売れますし」
「それなりに感謝するとは思うけれど・・・」
「問題は黒曜石はまだあなたにしか見えないということです」
「あー・・・」
忘れてた。
こいつ意外と存在感が強いというかなんというか普通の人間と間違えることもしばしばなのだが、俺の作り出せる妄想はまだまだ弱いんだった。
「じゃあ、山梨にでも頼んで」
「それはやめたほうがいいです」
「え?」
今までのおふざけモードから一転して急に真面目な声を出す黒曜石。
「苦しむのはあなたではないかもしれませんが、あなたは確実に後悔しますよ」
「・・・・・・なんだか分からないけれど、やめろというならやめるよ」
しかし問題は全く解決していない。
「って、俺がみんなに見えるほど鮮明な妄想を作り出せば解決するじゃん」
「はぁ・・・黒曜石はがっかりですよ。山梨戸張のように才能で妄想を作り出せるのは別として、あなたのように努力で作り出すっていうのはかなりの鍛錬がいります。そこらへんは分かっていると思ったのですが・・・やはり七実未空は馬鹿なのですか」
「お前ってたまに辛辣だよな。鍛錬ってどのぐらい?」
「妄想力っていうのはイコール国語力ですからね。普通に国語を勉強して身につく時間と同じぐらいです。まぁ、古文や漢文と違って単語暗記や文法暗記で身につくものでもないんですけどね。現代文の問題ってどういう風に勉強したらいいのか分からないってことがあるでしょう。あれと同じです。現代文の勉強をして点数を伸ばすのと同じ感じなのですよ。ただその勉強方法は数を重ねたり、地道にやっていく他ありませんが」
「なかなか難しそうだな・・・」
「いえ、だから難しいとかじゃなくてそれ以前の・・・」
「こんな感じか?」
「え?」
俺は黒曜石の肩に軽く手をおく。
「いえいえ、あなたには見えてるんですから触れられるのも当然・・・」
「あ、七実くん!その人がメイド役を引き受けてくれるのね」
「お、委員長」
俺らが男子トイレ前で話しているとおそらく水をくみにきたのであろう委員長とばったり会った。
委員長、忙しいのに雑用もやってるのかよ。
「委員長雑用なら俺らがやるから」
「ううん、いいの。忙しいから特別扱いってなんか嫌だしね」
さすが委員長たる所以だな。
真面目すぎるぐらいに真面目だ。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
と声を張り上げたのは黒曜石である。
黒曜石は委員長の方を向き、ある質問を口にした。
「あなた・・・黒曜石が見えるのですか?」
「へ?どういうこと?あなたって黒曜石っていう名前なの?変わった名前ね」
「声も聞こえてる・・・」
「どうしたんだよ、黒曜石。はやく教室に行くぞ」
「え、えぇ。はい・・・。この男・・・本当にこの短い時間で妄想を現実にした・・・?文系少年。なるほどそう呼ばれるだけのことはありますね・・・」
「何をぶつくさ言ってんだ。不満なのか?」
「いえ、なんでもございません、ご主人様」
「ノリノリだな・・・」
〇
「ふんふんふーん」
鈴木大和こと俺は廊下を上機嫌で歩いていた。
何がそんなに嬉しいんだっていうと昨日メアドを交換したからだ。やはり岸島さんメールも可愛い。なんだあの絵文字。ほんと悶えるかと思ったわ。
「ま、浮かれる気持ちはわかるけどね、鈴木。だが先輩として注意しておくとあんまり自分の脳内をだだ漏らしにしないほうがいいんじゃないかな。自分にとっても他人にとっても」
「おぉ!?」
急に声をかけられて驚く俺。
だ、誰だ?
「って津神坂先輩じゃないですか・・・」
「そうだよ、どこでもここでもあそこでもいつでも君の隣に現れる無限次元を超えて愛されるような存在である津神坂だ」
「なんですかそのキャッチコピー・・・」
「いやね、君は少しばかり浮かれていたようだから。そういう時に事故にあったりするんだよね、衝突事故とかさ。だから先輩として注意したわけだ」
「はぁ・・・どうもありがとうございます」
いくら浮かれていてもうわの空なわけじゃない。
事故になんか合うわけないし、ここは校内だ。まず事故にあう車もないだろう。
「じゃ、俺はまた店の当番があるんで」
「ちょっと待った。君、なぜわたしが君の気持ちを知っているのか聞かないのかい?」
「え?気持ちって?」
「今更誤魔化そうと思っても無駄だよ。君が岸島のことを好きだということだ」
「・・・・・なんで知ってるんですか!?」
「君は馬鹿なのかな。まぁ、いいけれど。わたしは後輩に優しい先輩だからいつでも相談にのるよ。恋愛相談恋バナなんでもござれだ」
「じゃあ、機会があったらお願いします」
「つれないなぁ・・・でもま、本当に事故には気をつけてよ」
「もうなんなんすかさっきから。ここは校内ですよ、事故にあいませんし心配無用です。逆に事故にあう事故にあうって言われたほうがフラグっぽく聞こえてしまうでしょう」
「だから、そのフラグ。わたしが今、立てたってことさ。ほぉら」
「は?・・・・・いてっ」
ぼふっと何かが腹にあたる感触。
前を見ても何もない。下を見るとそこには頭があった。なるほど身長差があるからか。
まさかこれが衝突事故じゃねぇだろうな・・・。だとしたらあの先輩なぜ俺がこんな事故にあうなんて分かったんだ?
「もふもふー!」
「ん?あぁ、悪い」
腹にぶつかっていた頭をなんとかはがす。おぉ・・・なかなかに可愛い子である。ツインテールが特徴なのとリュックサックが目立つな。
小学生か?身長で言うと岸島さんより少し小さいぐらいだな。
「あ、あの・・・ごめんなさい!」
丁寧だ。
「いや、こっちも不注意だったし、大丈夫か。お嬢さん」
「ほぁ・・・」
なんかすごく輝かしい目で見てくる。
なんだこれ。
「ふ、不良さんですか!」
「いや、金髪だけど別に不良ってわけじゃ・・・」
「か、かっこいい!」
「は?」
「あ、あの不良さん・・・。あたし人を探していて・・・」
「人?」
不良とかはまるまるスルーして要所だけ答える。
「どれ。俺も一緒に探してやる」
「ほ、ほんとですか!にししっ!ありがとうございます」
なんか無邪気な子だなぁ。
元気もあるみたいだし。
「で、誰を探しているんだ?」
「はい、七実未空っていう男の人です」
「え?」
2日目突入ということで、まだ学校祭編です。
今回もシリアスはまったくないような感じになりましたが、どうでしょうか。
でも少しずつ話は進んでいるので最後まで見てもらえたら嬉しいです。
新作の1話をあげていくというのは1日1回投稿でそれが何日間か続く予定です。
全て書き終わってはいるので他の作品の投稿の妨げにならないとは思います。
1話じゃ話を掴みきれないのであとがきには軽めの説明を加えさせていただこうかなと思います。
あげた作品の感想などなど待ってます。
新作週間が始まる頃にはこの作品のあとがきかどこかでお知らせしたいと思いますのでよろしくお願いします。
ではまた次回。