第78片 理系少女と文系少年の準備②
「・・・演技指導・・・?」
2年2組のメンバーは放課後教室に集まれとのことで集まってみるとそこにいたのは委員長である山田さんだった。
そして山田さんはさらりと「演技指導します」と俺らの前で言ってのけた。
「え、えぇと・・・なんで?」
と発言したのは文化委員の橘くん。普通ここを仕切るのは橘くんなのだが、橘くんも知らなかったのか、この演技指導・・・。
「なんでって私たちがやるのは何?」
「・・・ままごと喫茶です」
「でしょ?何の役をやるか、どんなままごとにするかは正直当日とかもっと本番になるまで分からない。途中参加とかだったら役がころころ変わりそうだし、今までやってた役じゃないかもしれない」
だから演技なんてみんな気にしないでお店らしさを出すためにテーブルやら椅子の調達を主に頑張ってきたわけなのだが。
「だからといって手を抜く理由にはならない。もし本番で違う役でもちゃんとその役を真っ当できるように練習をします。演技なんてあまりするものじゃないのだから、少し慣れておくだけで違うはずよ」
「ま、真面目だ・・・」
と加藤くん。この案お前が考えたんだろうに。
「と言っても私も経験者ではありません。演技指導なんてもってのほか。だからここは肩の力を抜いてわいわい楽しみましょう」
おぉ!なんかすごく楽しそうだ。
演技指導なんて言ったからカッチカチの演技指導かと思ったのだが、確かに楽しむのが1番だよな。
「でも狙うは学年1位、学校1位よ」
『おう!』
俺らは学校祭前に一致団結をした。
すると山田さんは黒板に大きく2文字を書く。
「はい、じゃあまずはありきたりな設定である『家族』からにしましょうか」
「家族・・・か・・・」
教室の机と椅子を全部後ろにさげ、でかいスペースを作る。そこで演技をするつもりなのだ。
そして次に山田さんは大まかな設定を決める。
家族。一番わかりやすいよな、ままごとの定番でもあるし。これは初心者でもある程度やりやすそうである。
「では配役ですが」
「はいはーい!」
と元気良く手を挙げたのは山梨だった。
「私、お母さん役やるー!」
「では山梨さん、お母さん役をよろしくお願いします」
「よっしゃー!」
すごい元気なお母さんになりそうなんだが。
「次はお父さんですが・・・文化委員の橘くん、やってみませんか?」
「えぇ!?俺・・・?」
と驚く橘くん。
「で、でも俺あんまり演技とか上手くないし・・・」
「それを今からどんどん上手くしていくんですよ、みんなスタートラインは同じなんだから」
「・・・・・・」
うん、なんか山田さんがすごく先生みたいになっていく。
橘くんもそこまで言われたらだんまりしかないだろう。
「次は娘役・・・岸島さん、お願いするわ」
「わ、私ですか!?」
「えー!?なんで数夏!?」
「いや、七実さんがどうしてそんなに驚くんですか・・・」
だってこいつとか演技すげぇ下手そう・・・。
本当に失礼なことを言うようで申し訳ないが、スタートラインから後方50メートルぐらいだぞ、こいつ。
「でも娘という役でここまでぴったりな人は他にいないわ」
「た、確かに・・・」
こいつ以上に子供役をやれる人間なんかいないと思う。
なんか悔しいが完敗だよ。
「なんかすごく不本意な決まり方なんですが・・・」
「息子役を加藤くん、そしてペットの犬役を七実くんでやってみましょう」
『おー!』
「いやいやいやいや!!!」
ちょっと待って!急にさらっと言い出したけれど、犬って何!?
「犬を知らないの?」
「そういうことじゃねぇよ!なんでままごとで犬がいるの!?どこで何をすればいいの!?」
「そんなの・・・程よい感じで吠えればいいんですよ」
「適当ー!いる!?この犬役いる!?」
俺は必死で抗議するも虚しく、結局俺の役は犬役で決定してしまう。
あぁ・・・もっとマシな役はなかったのか・・・。
「他のみんなは役を見つけ次第自由に入ってきてね。タイミングはいつでもいいわ。その役に合わせて既存の役も演技をすること。アドリブが効かないと意味ないわよ」
「なんだその自由空間・・・」
そんなこんなでおままごとが始まった。
高校生のおままごとが・・・。
〇
「では、テーマ家族。よーいスタート」
ここは一軒の普通の家。
いつもどおりに日常を過ごしている普通の家だ。今日も朝から騒がしい声が響く。
「あら?今日も数夏と明彦は寝坊?まったく・・・昨日も夜遅くまで起きていたんでしょうね、きっと」
「はっはっは、まぁ、そう言うな。今はなんでも興味のある年頃だからな。でもさすがにもうそろそろ起こしにいくか・・・」
『う、うめぇ・・・』
他のみんながざわめく。
なんだこいつら。なんでそんなにお母さんとお父さんが似合うんだ。
そこにタンタンタンと階段を降りる音がする。
「その必要はないみたいよ。起きてきたわ」
そこに現れたのは・・・。
「・・・・・」
無言で食卓に座る数夏の姿。
やっぱりこいつ・・・演技できないんじゃないのか・・・。
「また昨日も夜遅くまで起きてたんでしょ?だから寝坊するのよ」
「・・・・・・」
が、頑張れ!数夏、なんでもいい!なんか言え!お前だったら小学生でも通用するから、頑張ってぽいセリフを言うんだ!
「・・・・・て、てゆーかぁ・・・マジうざいんだけどぉー」
『いつの時代の女子高生!?』
お前よりによって女子高生かよ!たぶんみんな中学生、小学生を期待していたんだと・・・思う・・・ぞ・・・と思ったら山田さんすごく満足げだ!なんか成功した!
「まーた、親にそんな口きいて」
「はっはっは。まぁ、いいじゃないか」
「うっさい、ハゲ」
「ハゲとはなんだ、ハゲとはぁああ!!!!」
お父さん落ち着いて!今までの温厚キャラが台無しだよ!と言いたくても言えない。
今はツッコミができない状況にある、犬だからな!
あと数夏の敬語を使わない話し方がなにげに新鮮だな。
「お父さん落ち着いて。またこの子はそんな口を・・・」
するとタンタンタンとまた階段を降りる音。
「朝っぱらからうるせぇな!こっちはまだ寝てるんだよ!」
と叫んだのは息子役の加藤くんである。
なんでこの家にはこんな柄悪いやつしかいないんだよ。
「あら、起きたのね、太一」
「起こされたんだよ、誰かさんの大声でな。ったく飯はどこだ?」
「今用意するからね・・・っとはい」
「けっ!ったく・・・はやく渡せよ」
「はい、オイル」
「オイル!?」
完全に山梨の悪ふざけが出始めた。
加藤くん驚きの表情である。しかしこのままごとはアドリブをすることが目的。ここで引き下がることはできないんだろうな。
「お・・・おぉ・・・そうだよ。このオイルがないと、どうも体の滑りが悪くなってな・・・」
『な、なんかロボット設定だしてきたー!』
な、なんだこれは・・・。
「う、ウィーンガシャン、ウィーンガシャン」
なんか思い出したかのようにロボットっぽさを出してくる。
加藤くん・・・ナイス。
「ウィーンガシャンってうるさいんだけどぉー」
「あ?何か文句あんのか?火炎放射で焼くぞ、コラ」
「今時ロボットってありえなくなくなくなくない?マジダサいっていうかぁー」
「ほう、妹だろうと容赦はしねぇぞ」
「こらこらこら、何をケンカしているんだ。落ち着きなさい」
「うっせぇハゲ。頭にある少量の髪の毛全部焼くぞ」
「ハゲとはなんだぁああああああ!」
『・・・・・・・・な、なにこれ・・・』
意味が分からなくなっている・・・。
もう最初の普通の家っていう設定がまるで意味をなしてない。
「お待ちください、御両人」
「え?」
「ほえ?」
とそこにいたのは今時の女の子である森下さんだ。
これはまさか・・・自分で役を見つけたというのか、この意味の分からない家で。
「喧嘩は後にしたほうがよろしいかと。もう学校の時間でございます。このメイド、遅刻しないようにするのがつとめ。お急ぎください」
『め、メイド・・・?』
ここでメイド登場。
一体どうなる、一応次回に続く!
久々に次回に続きます。
ではまた次回。