第70片 文系少年と雷瞬少女の買い物
ぴぴぴぴぴっていう目覚ましの音。
うるさいなぁと思いながら眠気眼をこすり、時計を見る。
こういう時、アナログよりデジタル時計の方がみやすいなぁとか関係ないことを思ったりするのは余裕があるからか。
「う、うぅ・・・」
まだ8時か・・・。
今日から体育祭の振り返り休日が始まる。
大した順位はとれなかったにしろ、運動不足の体にはかなりくるものがあるらしく、筋肉痛はすさまじいものになっている。
そんな休みの日になぜ目覚ましをかけているのか。
それは予定があるからだ。
「時間に余裕はあるけど・・・今から用意しておくか・・・」
今日は高松と買い物に行く日なのだ。
〇
待ち合わせというほどのことではないぐらいに、待ち合わせ場所はあじさい荘の玄関だった。
住んでいるところが同じなのでもうしょうがないのだが。
俺は普通にパーカーを来て、スクールバッグを持ち、玄関に行く。
「えーと・・・」
まだ高松は来ていないらしい。
まぁ、寮ということで共通のリビングのようなところで待たずとも、部屋の前にでもいればいいのだが、なんとなく急かしているような気分になるのでやめておく。
そして俺は今日、妙に緊張していた。
理由は簡単かつ明白で女の子と2人でこのようなことをしたことがなかったから。
香織さんに頼まれておつかいに行ったりはするが、こうして自発的に休みの日に買い物に行くっていうのは初めて。
「・・・・・・」
変に意識しているせいか、まったく落ち着かない。
玄関は寮生のことを考えているのか意外と広いつくりになっており、うろうろできるぐらいの広さがあるのだ。
なんというか・・・俺は馬鹿なのか。
なにを意識しているんだ。きっとむこうはケロっとした顔で来るのだろう。
そこで俺がこんな変にもじもじしていたらなんというかただの勘違い野郎だ。
今回の買い物だって荷物持ちのためだろうし、高松は優しいからきっと最近遊んでいないということを申し訳なく思っていたのだろう。
せっかくの学生で、せっかくの寮生。
遊ばなければ損である。
だから落ち着くんだ。
これはなんてことない、ただの買い物。
男友達と遊ぶような感覚で行けばいい。なんだ、そう考えると案外楽なものじゃないか。
まったく、俺は考えすぎなんだよな。
自意識過剰っつーかさ。
俺も何も考えず、今日を楽しめばいい。
はは、こんな気持ち小学校の時以来だ。あの頃は勉強もせず、ひたすら遊んでいたからなぁ。
小学生は小学生なりに嫌ではあったけれど、今考えてみるとなんて楽しそうで、楽なことか。
そう思ってしまうのも受験生になりそうだからか。
それとも。
俺はまだ理系を諦めていないからか。
そんな辛い状況だからだろうか。
数学とか、まだまだ新しいことを学びたいと思う。しかし3年生になると理系は先に進むが、文系は1、2年生の問題をひたすらやって受験に備えるだけ。
俺はどうしたいのだろう。
と、時計を見るともうそろそろ約束の時間だ。
そう思った矢先、高松が階段をおりて、玄関まで来た。
全体的にふわふわした印象の服。そういうのを森ガールっていうんだっけ?
スカートもふわふわしていてなんとも可愛らしい。
明るく薄い色を多めに使っているのはとても似合っている。
「ご、ごめんなさい・・・待ったよね・・・」
なんという決まり文句。
だがこれは天然ででたものだろう。
だから俺は返すべき返事を考えやすかった。普通にこれまた決まり文句で答えればいい。
さて、いっちょ言ってやるか。
「マッテナイヨ、サッキキタトコ」
最悪である。
外国人とかそういうレベルじゃない。言い間違えとも違う。
ただのアホである。
「そ、そうなんだ。じゃあ、いこっか」
「お、おう・・・」
そして俺らは玄関を出る。
〇
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
何にもしゃべれていなかった。
今は移動中。
近場にでかい遊び場があるので、そこへ向かっている途中。
遊び場と言ってもでかい買い物ができる場所という意味だが。
それはそれとして、緊張しすぎだ。
高松は普段から緊張しいというか恥ずかしがり屋な面があるので分かるが、俺は今まで普通に接してきた分気まずい。
だがここでこの空気を打ち砕くのが俺。
というかこの空気は耐えられない。
「あ、あれだな、あの・・・なんというか晴れてよかったな」
「う、うん・・・」
「・・・・・・・・・・・」
まぁ、そうだよね。
完璧に話す話題を間違えた。
間違えたっていうよりテンパりすぎて何がなんだか分からなくなってるだけだが。
「そ、それにしてもまだ少し暖かいよな。去年はもう少し寒かった気がするが」
どんだけ気候について話したいんだ、俺は。
もう嫌だ。こんな時に何も出てこない俺が嫌だ・・・。
「え、えーと・・・高松、今日の服可愛いな」
「え?・・・・・」
し、しまったぁあああああああああ!
余計気まずくなる・・・これは失敗か・・・。
「あ、ありがとう・・・七実くんもかっこいいよ」
「お、おう・・・ありがとう」
・・・・・・・どういうことだこれ。
好感触ではあるが、気まずくなったことには変わりない。
とりあえず買い物にまで行けばいい。
そうすればきっと話題やらなにやらが自然と出てくるのだろう。
で、出てくるよね・・・。
そんなわけで俺と高松の買い物が始まった。
とうとう70話までいきました。
これもみなさんのおかげです、ありがとうございます。
これからもよかったらよろしくお願いします。
では。