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第69片 文系少年と理系少女の体育祭 7日目

『では表彰式の方に移らせていただきたいと思います』

 体育祭7日目。

 もうそれも終わり、表彰式が始まろうとしている。

 グラウンドで地べたに座って行われる表彰式。

 うちのクラスはもう最初も最初に負けているため表彰されることはまずないだろう。

 そして俺も参加した生徒会競技もまぁ、1位やら2位になれるわけもなく、普通に中間ぐらいの順位をうろうろする感じ。

 こんなもんだろうなっていうのが感想だ。

「でも・・・」

 でもいざ終わりってなると少し寂しくなるな。文化祭というか学校祭はまだ少し後だがなんというか祭りの終わった静けさっていうのは苦手だ。

 無意味に寂しく。

 無意味に儚い。

 そして無意味に泣きたくなる。

 そこに理由はない。

 みんなと別れるわけでも、ましてや誰かが死んだわけでもないのに。

 なのに。

 どうしてこう悲しいのか。

『サッカーの3位は2年3組、2位3年8組、1位3年9組!』

 どうやらサッカーの結果発表らしい。

 あちこちで表彰されたと思わしきクラスが盛り上がりをみせる。

 うおぉおおおおおお!という声があちこちで響き渡る。

 というか・・・。

「2年・・・3組・・・3位・・・?」

 え?マジで?

 下野さん達3位?

 いつも3年生でいっぱいの表彰に2年生が割り込むってすげぇなぁ。

 そんな人たちに負けたっていうのは少し誇らしい。

 悔しかったけれど悔いはない。なんていうのは矛盾しているだろうか。

「七実さん、七実さん。3組すごいですね」

 知らず知らずのうちに近くにいた数夏がとなりに座っていた。

「ほんとう、すごいよなぁ。そんなチームと戦ったということに誇ってもいいのかもしれない」

「まーたそんな弱っちいこと言ってー、七実くん。負け癖がついているよ、もっと悔しがらないと」

 とこれまた近くにいた山梨が隣に座っていた。

「でも2年生で表彰されるってすごいよね・・・」

 そう思った矢先、俺の前には高松が。

「・・・・・・・・・数夏」

「う、うわぁ!?緋色さん!?」

 数夏の隣には緋色がいた。

 いや、いやいやいや。

 お前ら出すぎだろ。

 最近出てなかった緋色や高松はわかるが、山梨に数夏。お前はもう体育祭十分目立っただろうが。

「負け癖って・・・まぁ、確かに。だが悔しくないわけじゃないんだ」

「ふーん・・・でも地獄の行事三連続のうち1つが終わった感想はどう?」

「悪くない。疲れたけどね」

「ほんっと疲れましたよ・・・ねー・・・!」

「・・・・・・・・・・数夏」

「数夏。緋色を拒みながらもわざわざ会話に入ってきてくれるのは嬉しいが大変なら無理をするなよ」

「あの・・・じゃあ・・・助けて欲しいんですけれど・・・!」

 それは無視する。

 なんとなくめんどうなことになりそうだし。

「七実くん・・・あの・・・あの約束・・・」

「ん?あぁ、あれな」

 高松が申し訳なさそうに話しかけてくる。

 高松はいつも下の方で2つに結んでいる髪型ではなくポニーテールになっている。

 女子の髪型のちょっとした変化や冬服から夏服、夏服から冬服への変化が好きな俺にとってはまさに嬉しいサービスといったところだ。

「あ、あの・・・な、何かな?」

「え?」

 俺は無意識のうちにジロジロと高松を見てしまっていたようで顔を赤くしてうつむいてしまっている。

 しまった。なんてデリカシーがないというか細かいことに気づかない男なんだ俺は。

 高松は人から見られるのが苦手なうえに苦手じゃない人間でもジロジロ見られたら気分がいいはずない。

 後悔しても遅いが。

「なんでもないよ。あの約束って買い物だろ。荷物持ちだろうがなんだろうが任せとけ」

「う、うん・・・ありがとう」

「おやおやー?七実くんにことりん、買い物に行くのー?」

「え?あ・・・・・あの・・・・・」

「あぁ、そうだよ」

「ことりん、七実くんに襲われないように気をつけてね」

「おい!お前なんて言い草・・・。襲うわけがないだろうが」

「なんで?」

「なんで!?」

 そんな質問があるか!

 なんでって聞く場面じゃないだろ!

「ことりんって可愛いから普通男なら・・・ねぇ」

「いや、お前の普通は明らかに常軌を逸している」

「・・・・・・・・」

 高松がとうとう顔が地面に埋まる勢いで下をみている。

 あああああ、さっきのがあるのに山梨、お前があんなこと言うから・・・。

 と思うと高松が俺の体操服、ジャージの袖を軽く掴んで、上目遣いで俺を見てきた。

「よ、よろしくお願いします」

「え、えーっと・・・何に対する・・・?」

 今、普通に可愛いとか思っていたけれど、よろしくお願いしますって何?

 買い物をっていうこと?

 それともまさか襲う・・・・・・。

「なんか七実さんの顔がえっちなんですけれど」

「・・・・・・モザイクが必要」

「七実くん・・・気持ち悪いよ」

「う、うるせぇ・・・」

 顔に出ていたようだ。

 妄想とはいえ、気をつけることにしよう。

 というか数夏と緋色はなぜこういう時だけ息ぴったりなんだよ。

「仲いいんだね、みんな」

「え?」

 俺の後ろから話しかけてきたのは津神坂先輩だった。

「わたしはあまりそういう友達がいないから羨ましいや」

「いや、そんなことは」

「でもね、七実」

 津神坂先輩は急に真剣な表情をする。

 会長のようにヘラヘラ笑っている津神坂先輩が。

 誰よりも分かりにくかった人が途端に分かりやすく感じる。

「完全に綺麗な友情なんて生まれない。純度が100%の友情なんてものはない。どこかで必ず濁っているんだ。まぁ、純度100%の友情っていうのも気持ち悪くて嫌ではあるけれど、その濁りがいつ君達を蝕むか分からない。もしかしたら明日にでも君達の友情が終わってしまうかもしれないぜ」

「・・・・・」

 俺も含め、あじさい荘の住人が黙る。

「なんてね」

 とまた急に表情が変わり、ヘラヘラする。

「友達がいないやつの僻みだよ。嫉妬嫉妬。だから気にしないでね」

「え、えーと」

『では七実未空くん、前へ出て』

「え?」

「ほらほら、七実。はやく行けよ」

「え?いや、何がですか?」

「表彰だよ表彰」

「え?なんの?」









『えー、皆さん、こ、こんにちは』

 となぜか俺は壇上に上がっていた。なんだこれ。

『本日は晴天で・・・・・・・・』

 とくどくどと話を始める。

 壇上に上がる前にこれを読めと言われて紙を渡されそれを読んでいる最中なのだが・・・。

 完璧にこれ次の競技の表彰式の原稿なんだけれど、雑用を押し付けられたのか!







「どうして七実さんを司会に?」

「うん、どうしてなんですか、会長」

「んー、いや、簡単な話だよ。あの子は文系少年の称号を断ったが、文系少女に勝った男だ。言葉を使って右に出る者はいない。だから次の競技の表彰の司会をね」

「・・・・・・・そう」

「で、君たちも見たかっただろ。自分たちを守ってきてくれたあの文系少年の頑張りがこうやっていろんな人に認識されているところを」

「・・・・」

「あそこの壇上にたてるのはなんやかんやで功績を残した人だけなんだ。だから文系少年のスピーチというか司会を見ているみんなは何かしらあの人は功績を残したんだなぁって思われてるよ」

「・・・・・・」

「余計なお世話だったのかもしれないけれど、ま、年上の先輩のお世話は今のうちに受けておいたほうがいい。来年は君たちが先輩で後輩しかいないんだから」

「後輩しか・・・か・・・」







 秋風が吹き、そして学校祭の準備も始まる。

 長い秋はまだまだ続く。

 

また遅くなってしまいました。


次はもう少しはやくを目標に。


体育祭が今回で終わりです。次はもうすでに決まっております。


では。

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