第66片 文系少年と理系少女の体育祭 4日目
4日目も終了。
謎を解く場所がうちの高校の数学教室だと分かったとき、俺は絶望した。だからといって3日目のボクシング部のように人の邪魔をして諦めるのもどうかと思ったので行くには行ったのだが。
暗算だった。
16桁のたし算。
死ぬ気でやったね。筆算でひたすらやり続けたね。暗算勝負という名目らしいけれどなりふり構わず普通に紙に書いて計算した。というかこれ謎解きじゃねぇ。
なんて思い、同じ謎があたった数夏にそれを言うと「いえいえ、数学の問題も解くって言うじゃないですか。答えが謎の問題を解く。まさに『謎解き』!」とドヤ顔で返してきた。
完璧なるへ理屈である。
その数夏はといえば5秒で解くというありさま。
こいつ・・・問題そのものをやったことがあるとかなんとか・・・・・暗記してんのかよ!
お前日本史の点数低いくせになぜそれだけ!
まぁ、そんなこんながあり。
そして、今。体育祭も半分を過ぎたということで夜にキャンプファイヤーをしていた。
半分過ぎた記念みたいな軽いノリでグラウンドの真ん中にある火を囲んでいる。
これ、色々と大丈夫なのだろうか。
まわりの人からの苦情とか危険度とか。まぁ、花火をあげる学校もあるらしいしいいのかもしれないな。
夜というより午後6時なのだがもう日も短く、真っ暗である。ただ気温の方は暑いぐらいだが。
「あー・・・なんかカップルばっかりだなぁ・・・」
「そうですねぇ・・・・・」
そんな中俺と数夏は火に近くとも遠いともいえない微妙な位置にある創作椅子に座っていた。
「なんというかこういうのは悲しみを感じる」
「カップルのふりをします?」
「それは余計に悲しさを感じないだろうか・・・」
イチャイチャイチャイチャイチャしているカップルは火のまわりを囲んで話をしたりしている。
・・・・・きついなぁ。
「これあいつらキスとかしだすんじゃね?」
「キス・・・・・?」
「いや、だってすごいいいムードじゃないか」
「いえ、でもさすがに人前でキスは無理じゃないですか。どうやってキスするのかも分かりませんし」
「あいつらは分かってるんだよ、きっと」
「やっぱりこれが私たちとの差ですか・・・・・」
「む・・・」
待て待て待て。
私たちってなんか俺も入ってないか?
おいおい、心外だなぁ、これは。
「数夏よ」
「なんで急に仙人みたいな口調なんですか」
「俺はキスのやり方ぐらい知っているぞ」
「へ?見栄・・・ですね」
「違うわ!」
こいつ・・・やっぱりなめてるな。
「なんでもきいていいぞ」
「・・・・・・・じゃあ、鼻ってどうするんですか?」
「鼻?」
「キスって要するに唇と唇がくっつくことですよね」
「・・・・・・」
なんというかお前のキスの解釈可愛すぎないか?
小学生じゃないんだから。
「唇よりも鼻の方が前についているんですから邪魔じゃないんですか?」
「う・・・」
た、確かに。
すげー邪魔そう。
「鼻を押しのけるんじゃないのか?」
「押しのける・・・?」
「ぐりぐりぐりーって」
「・・・・・・・」
すごい顔で数夏が見てきた。
うん、まぁそうなるよね。
なんかごめんね。ボケるにしても中途半端だしね。
「それだと鼻血がでると思うんですけれど」
よかったー!俺より馬鹿でよかったー!
「あれじゃね?顔をななめにずらすんじゃない?それこそお前の得意な数学の角度のように」
「・・・・・・」
当然ですよねー。
またまたすごい顔で見てくる。なんかごめん・・・。
「あなたは天才ですか」
よかったー!こいつが馬鹿でよかったー!
「それなら私の得意分野です。これで私もキスマスターですね」
「いや、その称号は若干不名誉な気がする・・・」
というか俺らは一体何を話しているんだろうか。
「おや、文系少年と理系少女じゃないか」
「え?」
「はい?」
そこには生徒会長、津神坂先輩、そして風紀委員長と・・・確か・・・伊藤という書記の人だったような気がする。
「一体なにをラブラブ話しているんだい?」
「いや、津神坂先輩ラブラブはしてないです」
「えっと・・・七実さん、この人たちは新しいハーレムのメンバーですか?」
「ちげぇよ!ていうか半分男だろうが!」
そこまで無節操じゃない。
「この人は津神坂先輩。なんか競技中に会ったんだよ」
「よろしくね、理系少女・・・って呼ぶと会長や伊藤と被るから、岸島でいいかいー?」
「あ、はい」
「で、何を話していたんだ?」
と伊藤くん。
うーん・・・正直言いたくないな。
「え・・・と・・・」
「キスについてです」
「おい馬鹿!」
恥ずかしいだろうが!
「キス・・・ね・・・」
「!?」
伊藤くんが遠い目をしている。
なんだ・・・何かあったのか・・・。
「いや・・・すまん。なんでもないんだ。ただなかなか付き合っている彼女がキスをさせてくれないんだよ」
「おやおや?伊藤、彼女なんていたのー?」
「えぇまぁ。好きとは言ってくれるんですが・・・」
・・・・・・。
まぁ・・・なんも答えられませんわ。
経験が少なすぎますよね、はい。
「難しいですね・・・」
「あぁ・・・」
「はー・・・せめて」
「せめて?」
「せめて画面から出てきてくれれば・・・」
『・・・・・・』
全員だんまりだった。
え?
リアルじゃないのかよ!
「何を言っている。僕の彼女はリアルだ」
「それは伊藤書記の世界観だよね」
そう生徒会長に言われると伊藤くんは悲しげにどこかに去っていった。
なんか「あれは現実あれは現実。そのうち出てくるそのうち出てくる」って呟いていったんだけれど・・・大丈夫かあいつ。
「ははは、伊藤は相変わらず面白いなー」
「津神坂、この後からかうのはやめてくれよ」
「うん、いいよー。でもわたしは嘘つきだからいつからかうか分からないよー」
「んで、キスの話だっけ?」
「いや、もうそれはどうでもいいというか」
「会長はしたことあるのー?」
「いや、ないよ。だってほら、子供が出来るじゃないか」
「ん?」
「へ?」
俺と津神坂先輩がぽかーんとする。
ちなみに数夏は小首をかしげている。
「津神坂先輩」
「いや、さすがのわたしもここまでとは想像以上だよ」
「・・・・・・」
会長、純情すぎだった。
というか数夏も会長も保健体育で何を習ってきたんだよ。
「うーん、ここはきちんと教えたほうがいいのだろうかー」
「いや、数夏にはまだはやい・・・」
「・・・・・なんというか七実って過保護だよね」
過保護?
いやいやいや、俺は数夏の親じゃないし、過保護のつもりはまったくない。
「はははーそんなに謙遜しなくていいよー」
「・・・・・」
まったく意見が通らなかった。
たぶんすることはないだろうが口喧嘩で勝てる気がしない。
・・・・・マジな喧嘩でも・・・。
「うーん、だけれどこのカップルの多さは他の人に肩身の狭い思いをさせてしまいそうだよー」
「いやいや、こちらの妬みだけでそこまで縛る必要はないかと・・・」
「はははー嘘だよー」
「・・・・・・」
「七実さん、七実さん」
「え?どうした?」
「もうそろそろ火消すみたいですよ」
「もうそんな時間なのか」
「じゃあ、わたしと会長はもう行くねー」
「伊藤書記も拾わないといけないしね」
「ああ・・・・・・」
「じゃあねー、七実、岸島」
そう言って去っていく先輩たち。
一体なんだったのだろうか・・・。
というか何しに来たのだろう。
「七実さん、ひとつ思い出したんですけれど」
「ん?」
「明日が体育祭5日目ですけれど、あと3日もあるんですね」
「逆になんで今までそれを忘れていたんだよ・・・」
しかし本当にキツいな・・・。
もうこのあとには文化祭も残っている。
「ま、楽しんだもん勝ちだろ」
「そうですよね」
俺らはもう少しで消えそうな炎を見ながらこれから先のことに思いを馳せていた。
少し遅れましたが更新です。
ではまた次回。