第63片 文系少年と理系少女の体育祭 3日目②
桜浪図書館。
桜浪高校から近く最大の大きさを誇る図書館だ。調べ物や読みたい本があれば大抵この図書館に揃っていると言っても過言ではない。
むしろここに来ないのが失礼にあたるかのよう。
そんな図書館に入ってすぐ玄関で俺は説明を求めようとする。
「えーっと津神坂先輩でしたっけ?」
「あれー?私の名前よく知ってるねー」
「というか自己紹介もまだ済んでない相手のことをよくもまぁここまで連れてきましたね・・・」
唖然である。
おかげで図書館についたと言えばまぁ、俺が感謝する方だと感じさせるが少々強引すぎるだろ・・・。
「だから君のことは生徒会長からきいているんだよ」
「・・・・・どんなことを知っているんですか?」
「んー?ロリコン?」
「最初から合ってねぇ!」
これもまた唖然としてしまう。
この人、本当に会長から俺のことをきいたのか?
「ははは、冗談だよ、そして嘘だー。ごめんね、わたしは嘘つきなんだ」
「嘘つきって今ここで嘘ついてもなんにもならないですよ」
「それでも、そんな状況でも嘘をつくのが嘘つきだよ」
無駄にいい顔をされた。
なんというかつっこみにくい顔としか言えないけれど。
「まぁ、でもー文系少女との話・・・って言えばわかってもらえるかな?」
「あぁーなるほど」
その話を知っているということは確かに俺を知ってはいるよな。
一方的にだけど。
「君、文系の席、けったらしいじゃないかー」
「ん?えぇ・・・まぁ」
文系少女と『話し合った』次の日。
俺は校長室に呼び出されて文系少女が文系の称号を俺に渡すと言った話を校長から聞かされた。
それを俺は断ったのだ。
今回は俺だけの力ではなく、みんなの力があったからとでも言いたいのだが本当のところはその称号をもらうのが少しだけ怖かった。
文系最高の地位につくことが怖かったのだ。
そして俺はそこにつくことで完全に理系、数学の道を閉ざされてしまうように思えた。
俺はもうすでに理系を諦めているけれど男=理系のようなイメージ、そして文系、理系でのクラス替えなどまだ俺を引っ張るようなものが多い。
俺は心のどこかでまだ数学を諦めていない。
理系を諦めていないのかもしれない。
できない、できるの話ではなく。
やりたい、やりたくないの話であるとしたらだが。
「でもいいのー?大学受験とかに有利なんだよー?」
「知ってますけど、俺はまだ行きたい大学もありませんし、目指している場所もないので」
「ふーん、まぁいいけれど、そんな生き方ってつまらなくない?」
「つまらない?」
「目標を持って行動しろという先輩からのアドバイスさー」
「・・・・・・・」
この人も会長同様なんかつかめない。
つかめないし、信用できない。
俺と話しているのにどこか違うところを見て話しているかのようだった。
「あ、係員の人たちじゃない?腕章つけてるしー」
「え?」
俺は思考を中断させ、津神坂先輩が指を指している方向を見る。
そこには『桜浪高校体育祭係員』とかかれた腕章をつけている生徒だった。
「あれは・・・風紀委員だね。下っ端みたいだけど、わたしだけじゃなくて風紀委員にも手伝ってもらっていたのかー」
「先輩、行きましょう」
「ん?なんで?」
「へ?」
「いやなんでかなー?って」
「いやいや、だってここでもう1回謎解きして帰らないとダメじゃないですか」
「・・・・・あぁ、そういえば言い忘れていたけれどわたしは参加者じゃないんだよねー」
「・・・・・・・・・・」
唖然3回目だった。
この人参加していないのにここまで俺を引っ張ってきたのかよ。
「んじゃ、頑張ってねー七実ー」
「・・・・・・・」
そう言って先輩は去っていった。
〇
「はい、どうぞー」
係員の生徒から謎が書かれた紙を渡される。
謎と言ってもどうせなぞなぞレベルのものなのだろうなーなんて思っていた。
軽く目を通してみようと思い、座って考える前に見てみようと紙を広げる。
小さな紙だな。
「え?」
何か書かれてはいた。
けれど意味が分からない。
なんだこの問題・・・・・。
『地を見ながら天を仰いだ主人公の心情を答えなさい』
そう短く書かれていた。
他には何もなし。
これじゃあ、まるで国語の問題みたいじゃないか。
ってことはこれは文章から抜き取った・・・?
その抜き取った文章がある本を探せということなのか?
しかしそれではその後、その本を読んで心情を考えるという行程もできる。
それはなぞなぞじゃない。
だったら何か秘密があるはずだ。
俺がやるべきものは問題じゃなくて謎解きなのだから。
「って言ったってこれはどうするんだ?」
図書館にヒントがあるのかもわからないが・・・これはボクシング部部長の言うとおり文系の問題っぽいな。
というか。
「地を見ながら天を仰げって矛盾してるよな」
正反対のことだ。
これを同時にできるものは顔が2つ以上ないと無理だろ。
もちろん顔が2つある主人公の話から抜き取ったと言われればそれまでなのだが。
図書館という場所が参加者を悩ませているのだろうな。無駄に膨大な情報があると人間は混乱する。
本からとった文章ならばそれはどんなファンタジーでも全てが本当のことだ。本に書かれている本当のことなのだ。
「ってことはやっぱり顔が2つあるものが出てくるもので絞らなきゃいけないというわけか」
顔が2つ・・・。
ケルベロスって確か頭が3つある犬のようなものだったような気がする。
まぁ、頭が2つ以上で思い浮かぶのはそれぐらい。
ケルベロスが出てくる話って言われてもなぁ。
「本を読まないわけじゃないけれど、ケルベロスが出るような本なんて読んだことない」
俺が考えながら図書館のなかを移動すると同じ体操服、というかジャージの生徒が数人いる。
この人たちとは同じ問題なのか・・・?
だがもし聞いて同じ問題だったとしてなんの解決にもならない。
さっきのボクシング部部長のように邪魔をするため情報のダミーを流すかもしれない。
そうされたらもう終わりだ。
「ん?」
すると俺はあるものを見つける。
それは漫画だった。
それも結構な数。
「新しいのもあれば古いものあるな」
漫画は結構読むので最近のものや有名なものはなんとなく分かる。
しかし。
「これは参ったな」
いままでなんとなくケルベロスという当てで探していたわけだが漫画があるとそれだけに絞れない。
もっと奇怪なものがでてきていてもおかしくない。
情報が増えた・・・くそっ!
この図書館の中から探すのかも分からない。
そんな中でこれは・・・。
「1冊1冊探すしかないのか・・・」
そこまで時間をかける問題を果たして生徒会が出すだろうか。
そしてこれは国語の問題、いや知識の問題であり謎解きじゃない・・・。
1冊1冊調べていくのは効率が悪いしできればしたくない。
だが、こうやって考えている時間こそ無駄だ。
「やるか・・・」
俺は漫画を手に取ろうと本棚に手を伸ばす。
・・・・・。
「あれ?」
今、俺の後ろを知った人間が通った気がする。
俺はその人を呼び止めようと本棚から離れた。
少し遅くなりました。
また少し次回は遅いかもしれませんがよろしくお願いします。
ではまた次回。