第62片 文系少年と理系少女の体育祭 3日目
「七実さん、結局生徒会主催の競技に出ることにしたんですね」
「うん、まぁな。そういうお前もだろ?」
「はい」
体育祭3日目。今日からは生徒会主催の競技がスタートする。他にもサッカーとかバスケの準々決勝とか色々とあるけれどうちのクラスどれもは負けてしまっているので応援するものもない。
だから俺らは全力でこの競技に挑めるということだ。
他のクラスはこれ終わっても競技があったりするのでこの行事ラッシュを生き抜くために体力の計算が大変そうだなぁ、とか他人事のように思ったり。
「で、スタートはこのグラウンドでいいんですよね」
「あぁ。ここでもう少ししたら競技の内容の説明があるらしいけれど」
当日まで競技内容は秘密。しかも去年とか一昨年とかとかぶったことがないので予想も不可能。
なんか簡単なリレーとかがいいなぁ。
『ではこれから生徒会主催競技の説明をしたいと思います』
とグラウンド全体に響くような音量でアナウンスが入る。
てかこの声、生徒会長か・・・。
『内容は謎解きリレーです』
「謎解き・・・?」
『指定される場所に行ってそこにある謎を解いてくる。そしてグラウンドにはやく戻ってきた順に順位をつけたいと思います。あとは時間制。順位と時間で決めます』
なるほど。校内オリエンテーションみたいな感じか。小学生の頃、校内の教室の場所を覚えさせるためにやらされた記憶があるなぁ。
『ちなみに範囲は学区内です』
「え?」
今、参加者全員で綺麗に揃ったようにえ?を言った気がする。
学区内ってかなりの広さがあるんですけれど、というかもはや学校関係なくなってるよ・・・。
『あと、指定される場所っていうのはみんなバラバラだから人についていこうとかずるい手を使っても意味ないからね』
まぁ、それは当然だろうな。みんな同じだったらまったく楽しくない。
というかついていくことがずるい・・・?でも指定された場所へ行くことはみんな同じなんだからついていったって何も変わらないんじゃ・・・?
『指定する場所がどこかっていうのも謎解きだからね』
・・・・・・・・・・・そこまで徹底してると逆にやる気をなくすよ・・・。
『指定する場所には係の生徒が目印を持って待っているのでその人に話しかけてあげてください。あと1日1つの場所というように全部で5つの場所に向かってもらうので』
「あぁ・・・そうか」
忘れていたけれど、これ5日間に渡ってやるものだったな。
『では生徒会役員が君たちに紙を渡すのでさっそく目的地までの謎解きをしてしまってください。5日間の合計点で最終順位が高い人ほどポイントを上げます。一発逆転目指して頑張ってください。説明終わり』
そう言ってアナウンスが切れる。
「数夏・・・すごくこれ大変そうなんだが・・・」
「えぇ・・・私もちょっと引いてきました」
生徒会役員が紙を渡してくる。
それを数夏とお互いに見せ合う。協力がダメとは一言も言っていなかったし、今年の参加人数は生徒の過半数をこえるらしいから絶対に目的地が誰かとかぶるはず。
しかし数夏とはまったく別のものだった。
「俺は・・・クロスワードか」
たて、よこという質問があり、それに合わせて言葉を入れるもの。しかし内容は一般的なもので解くのに時間はいらなさそう。高校生の常識を試す程度なんだな、やっぱり。
「私はなんですかこれ?た・・・ぬき?」
これもまた簡単。たぬき。すなわち書いてあるものから「た」を抜けば読めるというもの。ただ恐ろしく文章が長いのでなにげに時間がかかりそうだが。
「お互いに簡単なものだったな」
「はい。でもここで難しい問題を出したらみんなのやる気が削がれるんじゃないかと」
「はー。生徒会も考えるなぁ・・・」
感心しつつもみんながもう解き始めてるのを見て俺らも解くことを始める。
なるほどなるほど。なんかこれテストやってるみたいだな。
「あの七実さん」
「ん?」
「これってどうやって解くんですか?」
「なんでさっき分かったようなそぶりを見せたんだよ!」
お互い簡単だったなって言ったとき「はい」って言ったよね!?
というかそれ分からないってどういうことだよ!
あからさまに文章に「た」が多いだろうが!
「えぇーっと、これはここにたぬきの絵が描いてあるだろ」
「はい」
俺はとりあえず人より時間がかかりそうだった。
〇
よくよく考えてみれば体育祭なのに頭を使うというよく分からない内容だな。
ただ現在は体を動かしている最中である。
数夏に解き方を教えて(数夏の反応は小学生のようですごいすごいと連呼していた。というかお前敬語キャラなのに敬語忘れてるぞ)そして自分のクロスワードを解いたわけだ。
クロスワードの答えは「としょかん」。
学区内で図書館といえばここらへんに1つしかなくたまに活用しているので迷うほどのものでもない。
というか数夏が激しく心配である。
「あー、意外と・・・疲れるな・・・・・・」
もちろん走っているわけだが疲れる。
これは疲れる。
謎解きに気を取られすぎていたけれど運動としてこれは結構キツイんじゃないだろうか。
というか何人か同じ体操服のやつが見える。図書館に行くのはやはり俺だけではないようだ。
「おーっとストップ」
とそこでその内の1人が俺たちにストップをかける。
「お前、急になんだよ」
他のやつもそれに対して反応する。
というか俺はなんとなくだが嫌な予感がするんだ。
「ここを通りたければ俺を倒してからいけってな」
「?」
「生徒会長はルールに他の参加者の邪魔をするなとは言ってなかったはず。だから俺はここでお前らを足止めする」
「お前、そんなことしたらお前のゴールも遅くなるぞ」
「それについては平気だ。俺らの目指す場所っていうのは図書館だろ?」
やっぱりそうか。
「図書館で出る謎解きといったら文章系の文系問題に決まっている。俺は理系だから明日以降に賭ける。そしてまわりのやつも一緒に遅れれば俺が後日順位を上げやすくなる」
なるほど。
合計点が順位となるこの種目では「捨てる」ということも大事になってくるわけか。
だが・・・。
「だけど文系の問題が出るとはわからないだろ」
その通り。
「あぁ、そうだが。俺は他の参加者に行き先を教えてもらったんだが、図書館、あとはここらにある大学の実験室、数学教室など理系、文系に関係あるものばかりだった。だから問題はそれにそったものになると判断できる」
でもそれも予想の範囲。
「予想の範囲だがもし違ったら明日からやればいい。俺は体力に自信があるからな。お前らの時間を稼がせてもらうぜ」
「だがお前1人対俺らってのは少しばかり無理じゃないか」
「いいよ。かかってこい」
・・・・・あいつの自信は少しおかしい。
俺はとりあえず見学というようにしよう。
狭い道なためバレないで通ることも不可能だし。しかし何人かは遠回りするために戻っていった。ここらへんの判断も大事だが、遠回りはすごく時間がかかる。
どうするか。
「じゃあ、いくぞ」
俺以外の残った奴が一斉に1人に襲いかかる。
しかしその数秒後全員がその場に倒れてしまう。1人を除いて。
そう勝負をしかけてきたやつだ。
「俺は2年ボクシング部部長、芳賀喇嘛喧噪。覚えておけ」
その自信、ボクシング部の部長だったからか。
それなら体力もそうとうなものだろう。
「で、お前はやらないのか?」
「ん?」
俺のことか。
なんとかここを通りたいんだけどな。
どうする・・・。
「おー芳賀喇嘛ー」
「げっ!?津神坂先輩!」
ん?なんだ?
女の子。というか芳賀喇嘛とやらが先輩と言っているんだから俺にしても先輩である女の子がきた。
なんかゆるーい感じがする子。
髪は後ろで1つにまとめている。
「げって失礼だなー、傷ついたー」
「あ、いえ、すんません」
「冗談で嘘だよ。全然傷ついていないー。てかー最初っから飛ばすねー芳賀喇嘛」
「うす!先輩だろうとここは通しません」
「わたしを殴るのー?」
「ここを通るのならそうなるでしょう。でもあなたは帰宅部のはず。ちょくちょくボクシング部にちょっかい入れていたのはあれですが・・・。だからなるべくならここを通らない方がいいです」
「じゃあ、わたしがー格闘技のプロだとしてもー?」
「嘘ですね」
「確かに私は嘘つきだけれどーでもでも、こんなこともできるんだな」
すると津神坂先輩とやらは近くにあったコンクリート制の塀を思いっきり殴る。
しかしコンクリート制の塀は殴られた部分に穴があいていた。
ポカーンである。
「な、なな、な、津神坂先輩・・・・!」
「なーにー?さて次は君の番だね」
「い、いえいえ、お通りください!」
「なーんだ。最初からそうしてよー、じゃあ行くよ、七実ー」
「え、はい」
ん?
「いやいやいやいや!なんで俺の名前知ってるんですか!思わずスルーしちゃうところでしたよ!」
「いい反応ー。七実も通らせていいよねー」
「も、もちろんです」
「ほらー行こうー」
「いや、先輩が誰なのか俺にはさっぱり分からないんですけれど、って無理やり引っ張らないで!」
「ほらほら、走って走って。後で説明するけど七実のことは生徒会長からきいたんだー」
「そ、そうですか」
「ん?あぁーさっきの怪力ね。あれは嘘だよ。最初からあの塀には穴が空いていてね、そこに発泡スチロールを入れておいたのさ。だから拳でくり抜いたかのようになったわけ」
そこまでしますか・・・?
というかそこまで予想がついたってどういうことだよ。
「ほら、わたしーって基本嘘つきだからーあんまり信用しないほうがいいよー」
「は、はぁ・・・」
なんか分からないけれどこれで図書館まですぐだな。
本当に分からないけれど。
どういう状況だよ、これ。
とりあえず3日目を。
次回も3日目ですがよろしくお願いします。
ではまた次回。