第56片 文系少年と妖精少年の耳
みんなが固唾を飲んで見守る中俺はみんなの前にたつ。
「くっ・・・・こんなことって・・・・・」
山梨が驚愕と絶望を浮かべた顔をする。
まわりを見渡してみるとみんなだいたいそんな顔をしていた。
「これはこの物語で一番・・・一番恐ろしい話かもしれませんね・・・」
数夏が泣きそうな顔をしている。
小柄な体型なので泣きそうな顔がよく似合うというかなんというか。
正直言って幼稚園児みたいだった。
「・・・・・・・・・・・・晴天の霹靂」
緋色がさらにつぶやく。
そしてなんといって驚きなのはこの異常な自体にまさかあの柏部の部屋のドアが開いていた。
こっちの会話を聞くためなのか・・・普段はここまでしない。
そこまでこの現象に恐怖を覚えているというのか・・・。
「くそっ・・・みんな・・・そんなに怯えて・・・」
俺は悔しさに唇を噛み締める。
なんでだ・・・なんでだよっ!
「なんで・・・・・・・・・・・・・・・」
俺は震える。
そして前を見る。
前を見て息を吸う。
そして・・・・・・・・
「なんでお前ら俺が男友達連れてきただけでそんなに恐怖するんだよっ!」
大変失礼な住人たちでした。
〇
「いやー、驚きましたよ。七実さんがまさか男友達を連れてくるとは・・・」
数夏は俺の隣に座る男を見ながら俺に言う。
「うん、ことりんがね、今日部活だってことを相当悔やんでたよ」
「高松がそこまで思うほど俺の男友達って珍しいの!?」
若干へこむ。
日曜日。
あじさい荘一階のロビー&リビングをかねる部屋にて俺の友達紹介が始まっていた。
というか2人で遊ぶ予定だったのだが・・・。
「なんかすまんな、佐藤。みんな珍しがっちゃって」
「いやいや、いいっすよ。楽しいっす、賑やかで」
佐藤は笑顔を見せてくれる。
背丈が高くて髪が耳がかくれるぐらい長い男。
弓道部に所属している。
一応俺の友達である。
「佐藤・・・そんな普通の苗字の人を連れてくるなんて・・・」
「いえ、まだわかりませんよ。もしかしたらどこかおかしいところがあるかもしれません」
「・・・・・・・・・要注意」
なんか俺の女友達がひどく失礼だがまぁ、いちいち気にしてなどいられない。
とりあえず紹介しとくか。
「こいつはクラスメイトの佐藤だ」
「はじめましてっす」
『はじめましてー』
女性陣があいさつをかえす。
「びっくりするほど普通だね!」
「えぇ、これは普通ですね」
「・・・・・・・・プレーン」
くっ・・・緋色に至っては無味無臭とでも言いたいのか。
俺が欲しかったのはこういう普通な感じの人なんだよ!
「さぁ、自己紹介も終わったし、俺の部屋でゲームでもしようぜ」
「そうっすね」
そうして立ち上がるとき何かが佐藤から落ちた。
「ん?何か落ちたよ、佐藤君」
と山梨が言う。
それに気付いた佐藤はあわててそれを拾おうとかがむ。
「あぁ、ポケットに入っていた小銭みたいっす」
そしてその小銭をとった瞬間今まで耳を隠していた髪の毛がはらりと前に傾く。
そして・・・
『!?』
全員が固まる。
そこにあったのは耳だ。
ただの耳。
だが・・・・・・・・・・・
『(エ・・・・・エルフの耳だーーーーーーーーーーーーーーーーーー!)』
心の中の叫びが全員一致した。
「(え!?なんで!?なんでエルフ耳なの!?)」
俺は動揺をかくせない。
エルフ耳というのは耳の上、上部がとんがっている耳のことを言う。
ちなみにエルフとは妖精のようなものであり、もちろん現実にはいない。
「ん?どうかしたっすか?」
『い、いや・・・なんでも!』
全員でハモる。
なんだこれ。さっぱり分からない・・・。
友達を連れてくる→みんなに紹介→実はエルフ←new
状況を整理してみてもまるで無駄だった。
なにこれ。
まったくもってカオスな状況だった。
「・・・・・・七実さん・・・七実さんって意外と顔が広いんですね・・・」
「いやいや・・・エルフ界にまで進出した覚えはないんだがね!」
一応こそこそと話す。
「七実くんが人外萌えだったことは知っていたけれど・・・エルフとはなかなかだね」
「まず人外萌えじゃねぇよ!」
「・・・・・・・・・・・・未空・・・すごいね」
「待て、尊敬の眼差しで見られるのもなんか違う!というかなんでエルフって決まってるんだよ」
「え?だってあの耳が完璧に・・・」
「今だったら整形か何かでエルフ耳にできるところだってあるらしいんだから、別にエルフと決まったわけじゃ・・・・・・」
ちらりと佐藤を見る。
完璧なエルフ耳だった。
「あー・・・やっぱり人間界は少し息苦しいな・・・・・・」
『(えぇえええええええええええええええええええ!?)』
まさかの発言だった。
そしてそれを発したことに気づいてないらしくソファに再び座りまわりを見渡している。
佐藤はまだここで会話を楽しむと思っているのだろうな。
「七実さん!今、人間界って言いましたけれど!?」
「い、いや、ほらたまに地球のことを人間界っていうじゃん」
「どこの異世界人ですか!」
「これはまずいんじゃないかな・・・なんかこう・・・条約とかに引っかかるんじゃ・・・」
「エルフ保護条約かなんかですかね・・・」
「お、落ち着け!まだ・・・まだエルフでよかったと考えろ。もし悪魔族とかだったらやばかったぞ」
「七実さんが一番落ち着いてください」
あじさい荘に旋律が走っていた。
みんなエルフ耳から目がはなせなくなる。
その瞬間ゴトッという音が聞こえる。
『?』
全員それを見る。
そこにあったのは木でできた弓矢だった。
『(ほ、本物の狩猟道具だぁああああああああああああああああああ!!)』
そこでみんながまた騒然とする。
「あ、いっけね✩弓矢落としちったっす」
「いえ、あなたは他に大きないけないことをしていると私は思うのですが・・・」
「数夏、静かに!」
くそ!どういうことだ。俺は普通に友達と遊ぼうと思ったのに条約にひっかかるようなことにまでなってしまっている・・・いや、あきらめない!俺は人間説を諦めない!
もう普通な人というのは諦める。
だがこいつが電波さんならどうだ!
「いや、そんな自信満々な顔されても・・・」
ですよねー。
「ど、どうします?」
「いや、どうするって・・・とりあえずこれ以上悪化するのを防ぐために誰にも知られないように・・・」
「・・・・・・・・・・もう遅い」
「え?」
佐藤の方を見るとゴスロリ猫耳、猫しっぽ女子がものすごい勢いで食いついていた。
黒いしっぽが興奮のあまりすごい動いている。
あれ・・・どういう仕組みなんだろう・・・。
「っておい柏部!お前なにやって・・・・・」
「あ、あなたまさかエルフ族・・・・・・!?」
「柏部ぇええええええ!!!!!」
ば、ばれた!ばれたというかエルフ耳がバレたということがバレた!
でも柏部めっちゃ目キラキラさせてるよ!大好物そうだもんなこういうの!
「エルフ・・・・・・?」
おや?佐藤が困っている。じゃあやっぱり電波さんでけれどあんまり電波度が高くない電波さんなのかな?これで俺の人間説は・・・・・・・
「なぜそのことを知っているんすか・・・・!?」
『・・・・・・・・・・・・・・・』
今度訪れたのは沈黙だった。
「まさかあなたは闇族の・・・・・・・!?」
「ふふふ・・・そうよ、私は闇族のケイン・ベラリル家の末裔。エルフがいるときいて駆けつけたのだけれどあなたがエルフとはね・・・」
「いや・・・あの柏部、耳とんがってる人とその話するのか?」
「耳がとんがっているからって・・・種族差別っすか・・・・・・?」
「なんだよ種族差別って!」
「七実くん・・・これはやっかいなことになったね」
「・・・・・・・・あぁ・・・・・・・」
あいつがエルフかエルフじゃないかはもうどうでもいい。
よくないけれど。
けど柏部が出てきたのは残念すぎる・・・これは最終的に妄想の出し合いで収集つかなくなりそうなんだよね。
「あの・・・さ、佐藤」
「なんすか」
「と、とりあえず俺はこれから1人全裸スパゲティ祭りをやる予定なんだ。悪いが帰ってくれないかな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わ、わかったっす」
明らかにドン引いていた。
いや俺がここまでしないと大変なことになるんだって!
「七実美空・・・・・あなた純粋無垢なエルフにむかってなんてことを・・・・・」
「柏部、もう色々とツッコミが追いつかないんだよ。高松が居る時に呼ぶことにしよう」
「七実さん・・・・・なんかどっと疲れたんですけれど」
「俺もだよ・・・」
「じゃあ、また明日学校でっすー」
「あ、あぁ・・・・・・・・・・・・・」
バタンと扉が閉まる。
『あー・・・・・・・・・・・・・』
全員疲れが出る。
「なんでエルフを連れてくるんですか・・・」
「俺も初耳だったんだよ、エルフ耳なだけに」
「・・・・・・・・・・何も上手くないからドヤ顔をやめて」
「してねぇよ!」
「私、もう明日のために寝ようかな・・・」
「俺もそうしたいよ、宿題がなかったら・・・」
「七実さん、明日数学のワーク提出ですよ」
「いやぁあああああああああああああああああああああああ!!」
「いや、それは七実くんが悪いでしょう」
〇
翌日、教室にて。
「あーしまった弁当忘れたっす」
「おいおい、マジかよ・・・洒落にならんぞそれは」
「そうっすねー・・・」
すると教室のなかに誰か入ってくる。
「お兄ちゃん!お弁当、これ忘れてたよ!」
「あぁ!悪い、いちご」
佐藤の妹であるいちごちゃん。
話にきいてはいたが可愛い子だな。
みつあみをしているが髪の色は茶色で後ろ髪の方は結んでいない長髪。
小柄だがメリハリのついた体。
確か高校1年生だったか。同じ学校なんだよな。
「七実さん!箸のもち方が違うよ」
「あ、あぁ、すまん」
世話焼きというのも本当みたいだ。
しかし美少女に世話されて喜ばない男などいない。
「お兄ちゃんもエルフ耳が出てるよ」
「あぁ、すまんっす。人間界の空気に弱いのに俺としたことが」
「そうだぞ、佐藤。いちごちゃんに言われるまでもなく・・・・・・・・?」
あれ?
「家族公認なのかよ・・・・・・・・」
げんなりした。
久々の日常パートでこれはげんなりだよ。
とりあえず次回に続かない!
久々の日常パートは書いててたのしかったです。
次もよろしくお願いします。
では。