第50片 文系少年と文系少女の言葉②
「あなたは面白いですね。私にケンカを挑むなんて本当に驚きです。あなたのことだから部下を使ってくるものかとばかり」
「はっ!ふざけるのもいいかげんにしろ。私はお前を許すことができなさそうだ」
「あなたが許さなくてもいいんですよ。私は私をすでに『許している』」
私はメリケンサックをつけた一世代前の不良のような装備で【色花】に挑む。
何度も何度も拳をふるう。
しかし。
けれど。
一撃も当たらない。
すべては彼女の言葉に弾かれるのだ。
「私には何をしようと『触れることができない』んですよ」
「くっ!」
両手につけたメリケンサックを握りしめる。
右手左手と順に彼女に叩きつけるようにふるう。
しかしどんなに力を入れようとも。
まったく彼女には届かない。
体が自ら拒否するかのように届かない。
「私は必然だらけのこの世の中に飽きました。恋の話。自分に気があると思うと告白し、なさそうなら告白しない。ならば必然的に結果は決まり切っている。告白する奴は大抵成功し、告白しないのだから成功はしない。なんでしょうか?これは。つまらないじゃないですか、そんな世の中」
くっ!話す余裕もこいつにはあるのか。
「はぁあああああああああ!」
ガッガッガ!
殴る殴る殴る。
けれどそれでも届かない。
先生は生徒会より彼女を信用してるぐらいだ。風紀委員長でも意味がない。
ならば私が彼女を変える!
しかし今思いっきり殴れるのは彼女に攻撃が通用しないと思っているから。
私は私の行動を私自身で否定しているのだ。
その気持ちと想いの矛盾が私自身の心を弱くする。
私は負ける。
それぐらい占い師や預言者を頼らなくても分かる。
私は負ける。
でもその前に。
少しだけでも。
抵抗を。
「はっ、お前も不幸だな。そんな能力を持ったせいで探究心に身体がのっとられてる。世の中がつまらない?違うよ、つまらないのはあんただ。殴れなくても伝わってくる、お前の気持ちの悪い言葉がな」
「負け惜しみ。というやつですか?私がつまらないという表現はあながち間違いではないでしょうね。あなたは文系なのでしょうか?いえ、そんなことはどうでもいいですね」
すると【色花】は両手を広げる。
何も起こらない。
というより、やつがいつも持っている扇子が手にはもうなかった。
こいつ・・・普段から扇子で口を隠してるのは能力をおさえるためか?
「私はこの世界を変えたい。なんてことは思っていません。しかし私は私の目が届く範囲の縮小世界を変えたいとは思っています。つまらない私が見たつまらない世界をね」
「お前の目の届く範囲だと・・・それはすなわちお前の全て・・・世界じゃないか」
「それは私の主観でしょう?客観的に見るとその世界はひどく小さく狭い。世界の一部というのもおこがましいようなもの」
一旦距離をとり、態勢を立て直す。
「縮小された世界。その世界の改変こそが私の目的。必然だけであふれたつまらない世界を偶然で塗り替える。なんとも面白そうだとは思いませんか?」
「私には何を言っているか分からないな。お前のわがままにしか聞こえない」
「実際その通りなんですよ。私の自己満足のためです」
「そのためにお前は他の人を傷つけたのか」
「そこなんですよ」
彼女の口元には笑みが広がっていた。
・・・・・なるほど。扇子はやはりあったほうがいいな。
しかし私の反論は本当に意味がない。
私にもわかってる。彼女がなぜその自己満足を続行できるのか。
「確かに私を怨んでいる人も多いでしょう。恨み妬み嫉みという感情は恐ろしいですからね。しかし私に相談しにきた約7割は私に感謝している」
主に恋愛相談。
彼女に相談しにくる人たちの相談内容だ。
その相談を聞いた彼女は彼女の『言葉』を使い相手に言い聞かせる。
例えば「好きな人に告白したいけど勇気がない」そんな内容だとする。
それを彼女は言葉を使い『成功する確率が高いわけじゃない』『けれど』『あなたはそのままでいいのですか?』『動かないと見れないものだってあるものですよ』
それを聞いた相談してきた相手はその気になり告白をする。
普通この程度の言葉ですぐ行動する人などいない。しかし。
彼女の『言葉』は少し違う。
少し違うだけでものすごい効果を発揮する。
その告白が成功するとあそこに相談するといいというような噂が流れ、失敗すると偶然を見れるのだ。
もとから成功するならそれは偶然ではなく必然。
しかし失敗した場合。彼女は偶然を見ることになる。
普通告白する予定のなかったことに言葉で無理矢理告白を促せ偶然を見つける。
それが彼女の生きがいであり、彼女の部活の存在意義でもある。
「私は何1つ悪いことはしていないんですよ」
「あぁ、確かにそうかもな。女子同士で励まし合って告白まで持っていくのは珍しくはない。しかし相談にのる理由に悪意、そしてお前しか使えない特別な『言葉』を使うのはおかしいと思わないか?」
「思いませんね」
こいつ・・・はっきりと・・・。
「言った通り私の自己満足ですので。あなたに介入する余地はありません」
「でも私は風紀委員長でね。学校の風紀が乱されているんだ。動かないわけにはいかない」
「風紀?何がですか?私は励まし合ってるだけじゃないですか」
「いいや、『変な占いを学校内で流行らせ、勉学を怠る』ことがだよ」
「言葉の照準・・・成程。やはりあなたも文系でしたか」
「お前ほどの力はでないがね」
「さて、」
彼女は仕切りなおす。
「少し話しすぎましたね。もうそろそろ終わりにしましょう」
「はっ!こっちのセリフだよ。大馬鹿野郎」
〇
あっつー・・・。思わず地の文で思うほどうなだれていた。
「いやいや、夏休みが終わっても暑さに休みはないってか、この野郎!」
「いや、七実くんは一体なににキレてるの・・・?」
現在俺は登校中である。
数夏が日直らしくはやく出ていったわけだが俺が出ようしたときに山梨も出ようとしていたため今日は山梨との登校になる。
「いやーごめんね。登校相手が私で」
「なぜ謝る・・・」
「数夏ちゃんと登校したいのかと思ってね」
「いや、俺としては1人が一番落ち着くんだけど」
「そんな生涯ぼっち宣言してないでさ!」
「してねぇよ!やめろよ!ちょっとマジであんま友達いねぇんだから!」
「・・・・・・・」
「だんまり!?」
「あぁ、七実くん。そういえば一時間目の授業なんだっけ?」
「いらない!そんな無理矢理な話の方向転換なんていらない!」
「七実くんのために酸素を読もうかと」
「惜しいよ!窒素と二酸化炭素も読んでほしい!」
「あ、たんぽぽだー」
「なに!?急にラリったの!?あぁ、もう、朝なんだから静かにしてくれよ・・・」
「七実くんのツッコミもなかなかのうるささだと思うんだけど・・・」
まぁ、元をただせば私のせいか。とどこか自分で納得して秋とは思えない暑い中登校していく。
「そういえば山梨・・・・・・っと」
俺はなぜいつも俺より登校するのがはやいお前が俺と同じ時間に登校しようとしたのかを聞こうとすると何かが俺にぶつかった。
「?」
あたりを見回してみると誰もいない。いや、いる。ちょっと頭が見える。
あぁ、なるほど。数夏ぐらいの大きさの背丈・・・いやちょっと大きいかもな。そうぶつかってきたのは見覚えのある、しかし1、2度しか見たことのない女の子だった。
「うわっと・・・あ・・・ごめん!まわりをあんまり見てなかったよー」
「あ、あぁ、いや。別にいいよ」
「ほんとごめんね」
そう言いながら走り去る。
なぜだろうか・・・背が低いのに揺れるぐらい胸がある・・・それに他にも数夏と違う点があるとすれば髪の毛だろう。
ショートカットだった。まさに運動部に入っています!というような髪型。
短すぎるわけではなく、ショートカットの中でも長い部類だと思う。
背は低いが足の速さは半端なかった。
「大丈夫?七実くん」
「・・・・・・・えーと今の人って誰?」
「確か・・・隣のクラスの下野さんだったと思うけど」
「下野さん・・・・・・?」
「あっれー?どうしたの?もしかしてラブコメ的展開?これは浮気じゃないの?数夏ちゃんに怒られるよ!あぁ、でも気になるよねーなんてね」
「・・・・・・・・」
「な、七実くん・・・?」
「ん?あ、あぁ、どうした?」
「いや、なんでもないけど・・・」
「そうか」
山梨の様子がおかしい?何かあったのだろうか?
〇
「・・・・・・・といわけで気をつけるように」
そこで朝のホームルーム終了のチャイムがなる。
先生の話はちょうどいいところで終わり、みんな次の授業の準備へ入る。
しかしみんなが気になってることは1つだった。授業ではなく、別の物。
「生徒会長と風紀委員長の人、今、怪我で休んでるんでしょ?」
「階段から落ちたってあやしくない?そんなベタな原因がある?」
「でもベタってことはよくあったからベタなんでしょ」
「いやいや、違うって。なんかやばいときにいい訳として使うこと多いからベタなんだよ」
とまわりの女子が何か言っている。が、しかし。
私はまた別のことを考えていた。
「山梨さん次移動教室だよ?」と友達に言われ、準備をしながら考えていた。
朝の七実くんについて。
うーん・・・なんだろうかあの感じは・・・嫌な予感がするんだけど・・・。
まさかね。いやいや・・・ないない。それはない。
と、私は自己完結して移動を始める。
〇
「さぁて・・・ふふふ。文系少年とやらはどこにいるのでしょうか?楽しみですね。どんな人なんでしょうか・・・放課後が楽しみです・・・」
不気味な笑いは近づく。言葉を使って。巧みに目的を目指しながら。
かなり遅れてしまいました・・・。
内容を忘れてしまっているかもしれませんがよろしくお願いします。
たまにでいいんで前の話も見てくれると嬉しいです。
では。