第42片 理系少女と文系少年の休憩
「そういえば七実さんの文系少年って自称ですか?」
「文系少年?あぁ、自称だね」
俺は数夏からのいきなりの質問に対して冷静にこたえる。というか俺は文系文系言ってるけど数学とか理科よりは得意というだけで別に国語ですげー点数とってますよ!というわけではないのだ。そう自称まさに自分の中だけで付けられてる悔しさから生まれた悲しい名前。
「この学校って文系、理系っていう名前で先生に認められると大学進学とかに有利なんですよね?」
「そうだなぁ、確か。俺はどうせ自分は関係ないと思ってたから聞いてなかったけど、就職にも有利らしいぞ」
「そんなすごいことがあるんですね・・・」
「まぁ実質学年1位みたいなもんだしな。いや、先生に認められるということはそれ以上かもな。ただでさえうちの高校は桜浪高校つって桜で有名なんだから」
「桜・・・ですか」
「そう、普通春にならないと咲かない桜が2月ぐらいに咲いたりすんの。異常としか思えないだろ。でもそれが桜浪高校たるゆえんなんだよね」
この前夏の暑さでだらだらしていたグダグダな話とは大違い。というのもここはでかいデパートの休憩所である。すなわち冷房がきいているのだ。この休憩所にはたいして人はいない。しかし数人ジュースを飲んだりしている人が見受けられる。
「とまぁ、ここまで語ってみたけれど全部先生とか高松からの受け売りなんだよな」
「小鳥さんすごく真面目にきいてそうですよね」
「ていうかお前もきいとけよ。理系の称号はお前のものだろうに」
「いえ・・・私はまだ進路に迷ってまして」
「迷うっていうか2年生の夏・・・か・・・。俺もまったく考えてないな」
と思いつつ立ち上がり自動販売機へ行く。とその前に数夏の分もいるかどうか聞こうとしたら目をキラキラさせてこっちを見ていた。なんとまぁ分かりやすい。餌を欲しがる犬みたいだった。というか同級生相手に俺は失礼な例え方を。
「さて・・・と」
俺はお金を入れて適当に飲料を買い元のベンチに戻る。数夏にジュースを渡す。しかし俺は内心焦っていた。進路についてだ。微塵も行きたい大学もまったく決まっていない俺はまわりより遅れているんじゃないかと焦り出す。
「ジュース、それでよかったか?」
「はい」
ゴキュゴキュと子供のように飲む数夏。それを見るとまだいいのかななんて考えてしまう。それはダメなことなのだろうけれどこの冷房で涼しい場所の中少しだけゆるくなってもいいと思ってしまうのは人間として普通のことなんじゃないかななんて思える。
「あら?なになに?2人でデート?」
「香織さん・・・」
俺らがジュースを飲んでいると買い物袋をかかえた香織さんが俺らのもとにきた。デートっていうかさぁ・・・。
「香織さんが買い物袋を持ってほしいからって呼んだんじゃないですか」
「そうだったわね。でもまさか数夏ちゃんもきてくれるなんて嬉しいわ」
「いえ、私はただ涼みに来ただけなのですが、この流れだと荷物持ち確定ですね・・・」
俺はとりあえず香織さんの荷物を持ち、店から出ようとする。しかし俺はふと思い出した。
「香織さんって高校に通ってたんですか?」
「・・・・・何よ、いきなり」
「いえ、進路の参考にしたいから・・・」
「参考になんてならないと思うけど。高校には通ってた。大学には行ってないけど」
「大学に行ってない?じゃあすぐにこの職業に?」
「職業っていうかなんというか。そうね、高校卒業して、1、2年自分で勉強して寮母になったわ」
意外というのも俺が他人らしさなんて決めれないので言うべきではないのかもしれないが、大学には通っていると思っていた。
「じゃあ、高校はどこに?」
数夏もくいついてきた。てかお前その荷物絶対もてねぇだろ。俺は数夏から荷物をひったくり、話の続きを待つ。
「桜浪よ」
「さくらなみ?って俺らが通ってる?」
「えぇ、他にどこがあるの。自分の母校の寮母になりたいって思っても当然だと思うけど」
俺らのあじさい荘は学校の用意したものだったりする。だからある程度豪華で広い。少なくとも普通の寮よりは広いと思う。それは学校側がお金を出している個人で開いた寮じゃないからだ。
「と言ってもあのころは桜浪って感じじゃなかったけどね」
「?」
「桜は咲かなかった。というか桜自体あそこにはなかったのよ」
「は?だって俺はあそこに桜が咲いていたから近くに学校を建てて桜浪っていう名前にしたって・・・」
「それは先生からきいたの?」
「えーと・・・噂で?」
「でしょ。私が3年生のころかなぁ・・・桜が咲き始めたのは。ほんと、最初は驚いたわ。まだ2月なのに桜が咲いて・・・しかも満開で綺麗。雪だってまだあったのに・・・」
「ふーん・・・」
意外な事実。こういうふうに色々なことを知っていて母さんのようなあたたかさで迎えてくれるから俺はここまでこの人に安心しているのかもしれない。
「ていうかあなたたち水着あるの?」
「水着?」
いきなり話がふっとんだため返事ができない。
「だって海行くんでしょ。私も数夏ちゃんからチケットもらったけど」
「え・・・でもまだまだ先の話・・・・・」
「明後日だけど・・・」
時間の経過すらも忘れてたとでもいうのだろうか。でも水着なんてわざわざ買わなくても中学のころ使ってたのでいいような気がする。
「私は買いました」
「へぇ、どんなのだ?」
「ふふふ、当日までの秘密です」
「まぁ、どうせあれだろ。スクール水着みたいなさ」
「完璧になめているようですね。私のEカップを・・・」
「E!?お前のどこにそんなもんがあるんだよ!」
「こら、女の子にそういうこと言わないの」
「いえ、でもここでつっこまないと勘違いされてしまうような気がして!」
「誰によ?」
「・・・・・・・・・・・・・読者?」
「何を言っているのあなたは・・・」
「そうですよ。七実さん。読者ってなんですか?」
「いや、いいやなんでもない。楽しみに待ってるぜ、お前のEをな」
「望むところです」
俺は夏らしくない店内で夏らしいかどうか分からない話をしてそれで1日が過ぎていくことを無駄とは思えなかった。ただ店の外は死ぬかと思ったけどな。ほんとにとける。俺が。
どうもお久しぶりです。
GW前から書いていたのにここまで遅くなってしまいました。
ではまた次回。